だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……──あ。そーだ。オレサマの正体は他言無用で頼むぜ?」
「君の事なんてどうでもいいし、別にいいけど」
「一言余計だがまァ良し。これからもよろしくな、クロノ」
「……よろしく」

 軽く挨拶を交し、仕事に戻ろうとした時。クロノがオレサマを引き止めた。

「あの娘は、狂ってるのか?」
「なんで急にそんな事を聞くんだ?」
「……僕はこれまで人間共の浅はかな欲や、醜穢な本音を多く目にしてきた。だがその中でも、あの娘は一際異常なんだ。普通の人間が様々な色が混ざる濁ったオーラを纏っているとすれば、あの娘は……黒一色か白一色なんだ。その時々でオーラの色が変わるなんて珍しい事ではないけれど、だとしても、あれは極端すぎる」

 コイツの言うオーラってのは恐らく魂の事だろう。そして、普通なら何かしら色がある筈の人間の魂が……アミレスの場合は黒か白にしかならないと。
 その事には薄々気がついていた。アイツの魂が他と比べてかなり異常なものである事ぐらい、初めてアイツを見た時から気づいていた。
 契約も無しに精霊を従える人間。何かと面白そうで、あの時一目見てアミレスに付いていく事に決めたぐらいだ。
 アイツの異常っぷりは、流石の黒の竜もスルー出来ない程のものらしい。ま、その原因はオレサマにも精霊のにも分からねェんだけどな。

「……まァそうだな。アイツは何もかもが異常なんだよ。だからオレサマも、ナトラも気に入ってるんだ」
「それは何となく分かる気がする。あの娘と一緒にいると、退屈する事は無さそうだったし」
「ハハハッ、退屈が大嫌いなオレサマ達からすれば、最高の存在だろ?」
「そうだな。それに……あの娘なら、本当に僕達を裏切らないかもしれない。なんて、考えてしまった」
「へー、だからアイツの提案に乗ったのか。まァ……オレサマ達の期待は裏切り続けるけどな、アイツ。そこがまた面白ェのよ」
「…………趣味わっるいなあ」
「うるせェ」

 神々相手なら別に怖くないと意味不明な事を言って立ち上がった事といい、クロノ相手に人類を生殺しにする事を提案した事といい。アイツは本当に狂ってやがる。
 だからこそ、オレサマ達の退屈な日々に素晴らしい刺激を与えてくれる。こんな中毒性の高い人間、数千年生きてるが初めて会った。
 面白くて、おかしくて。気がつけばアイツの事ばっか考えてるし、ついつい目で追っちまう。コロコロ変わる表情とかあのイカれた考え方が癖になって───。

「……──それじゃあ、ぼくはそろそろ仕事に戻るから。ばいばーい」

 今、何考えてた? 何だ、この違和感。今まで感じた事のないこの悪寒。まるで見てしまったが最後、二度と目を逸らす事なんて出来ないような、酷い悪夢が這い寄ってくるかのよう。
 腹の底から湧き上がる悪寒を捨て去りたくて、急いで会話を切り上げた。仕事でもすれば、この悪寒だって消え去ると思ったんだ。

 本来の分担は二階東側通路の掃き掃除なんだが……なんとなくアミレスに会いたい気分だしアミレスの部屋の掃除でもするか。
 アイツの傍にいると、ほんっと退屈だけはしない。
 そうだ……オレサマ達のような長命種が喉から手が出る程求めるもの──退屈を紛らわす刺激になるから、オレサマはアイツの傍にいようとしているのだ。
 きっとアミレスの傍にいれば、二度と、オレサマは退屈を覚えたりしない筈。あんな死よりも辛く恐ろしい空虚な時間に、震えなくていい筈なんだ…………。
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