だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
341.ある聖職者と竜
たくさんの古代書を読むと、数百年前から続いていた竜種との確執を読み解く事が出来た。
幸いにも、我が聖堂の大書庫はその手の伝承やら手記やらを多く所蔵しており、情報収集には事欠かない。ジスガランドに帰って来てからというものの、私は修行や祈祷の合間に、密かに純血の竜種について調べていた。
彼女が保護した緑の竜の事もあるが、竜種の件については私も個人的な興味があったのだ。
───かつて竜達は人間と対立する事を避けようとしていた。何故なら竜は人間を愛していたから。しかし時が経つにつれ人間は竜を恐れ、一方的に竜を攻撃するようになった。
最初こそ竜達は反撃しなかったものの、やがて反撃に出るようになった。黒も、白も、赤も、青も、緑の竜を守るために人類との決別を選んだ──……か。
「その結果、赤と青は人類の総力を上げて討伐。白は殺せなかったから封印。緑と黒は行方不明……ふふ、これはまた人類のエゴが凄まじいね」
最近ようやく入れるようになった禁書庫で、数百年続いた竜と人間との戦い──それにまつわる記述を見つけた。
特に白の竜のそれを見つけた時、私は自分の口角が鋭くつり上がった事を強く感じた。
そこに記されていたのは白の竜が封印された場所と、その封印を施した人間。それを知った時……思わず笑い声が漏れてしまったぐらいだ。
それから二週間。私は一枚のメモを持ち、地方の教会巡回と称して出かけていた。目的地はジスガランドの南方にある大陸東側で一二を争う規模の湖、アリョスーシ湖。
例の本によるとその湖の中心部だけ、地面が抜け落ちたように水深が深く、そこに水底神殿があるというのだ。そしてその神殿に白の竜が封印されているらしい。
中々に眉唾物ではあるが……これしか白の竜の封印場所についての手がかりが見つからなかったのだから、これを信じるしかない。
「……話には聞いていたけど、実際に見るのは初めてだな。本当にとても大きい湖だ」
この時の為に作らせた箒型魔導具で湖の中央部上空までやって来た。湖を見下ろすと、確かに一部分だけ明らかに不自然だった。
そこだけ全く底が見えない。はてさてどうやって水底神殿まで行ったものか。
迷った末に私は──光魔法で人工太陽を作り出して、それを思い切り湖に投げ入れた。
するとどうだろう。湖の水が次々と瞬く間に蒸発し、上空には凄まじい衝撃波が。しかし無事に水底神殿には辿り着けそうだ。
箒に乗って急降下する。ある程度不自然な大穴を降ると、それらしき建造物が見えた。それは確かに、神殿と呼ぶべき厳かな空気を纏う建物だった。
長年水に晒されていたからか扉が動く気配はなく、仕方ないので付与魔法で体を強化して殴って扉を破壊した。
瓦礫を踏みしめ、中に入る。暫し歩くと、大きな空間に出た。そして、私は思わず息を呑む。
私が探していた銀白色の鱗を持つ美しい竜──白の竜が、確かにそこにいた。
その竜の体は、杭を打たれているかのように何十本もの鎖に繋がれていた。その鎖は周囲の壁や天井に繋がっており、白の竜が封印されている事を物語っている。
「これが聖人の施した封印、か」
何とも忌々しい。憎い程に完璧で、恐ろしい程に強力な封印。流石は人類最強の聖人様だなぁ。白の竜を封印出来るなんて、本当に凄いなぁ。
本当に──……あの男が鬱陶しくて仕方無い。
『まさか、ここに人間が来るとは思いませんでしたわ』
静謐な声と共に白の竜の目が開かれる。
『聞き覚えのある言葉も耳に届きましたし……ようやく私を殺す手段を見つけたのかしら?』
「違うよ。私は君を殺しに来たのではない。少し君に用があってね、ここまで来させていただいたのさ」
『……人間が、今更私になんの用でしょうか』
封印されている割に元気そうな白の竜に近づき、私はその黄金の瞳を見て続ける。
「君と、取引をしたいんだ」
『取引? 人間が、私と?』
「ああそうだ。私はどうしても力が欲しくてね、君に私の仲間になって欲しいんだ。純血の竜種たる君には失礼かもしれないが……仲間として対等な立場になりたい」
『…………それは、何故?』
「──どうしても超えたい人間がいる。私の望みの為に、この手で打ち倒さなければならない男がいるんだ。私一人の力では追いつく事が出来ようとも、超える事が出来ない。だから、君の力を私に貸して欲しい」
竜種相手にこんな取引を持ちかけるなんて、私も随分と焼きが回ったな。……だけど、手段は選んでられない。あの男を超え、彼女をあの男の毒牙から守る為ならば、私は何だってすると決めたのだから。
『仮に私があなたに協力したとして、私になんの得がありますの? そもそも、私はこの通り封印されてますし……協力なんて出来ないと思いますけれど』
「それに関しても、この取引に絡めさせて貰おう。取引に応じてくれるならば、私は君の封印を解いてある程度の自由と安全を保証する。後は……緑の竜の現状も少しなら話せるよ」
『ッ! 緑の事を何故あなたが……!?』
「話せば長くなるから、細かい話は取引が成立してからで。それで、どうかな? 君は私が望む時に私の仲間として力を貸してくれるだけでいい。それ以外の時は、君の好きにしてくれて構わない」
緑の竜を大事にしていたらしい白の竜の事だから、ナトラを引き合いに出せば少しは取引について考えて貰えるかと思ったのだが……想像以上に反応がいいな。
だけど、流石にこれでいけるとは私も思っていない。当然、他にも色々と交渉の為のカードは用意して来ているとも。
幸いにも、我が聖堂の大書庫はその手の伝承やら手記やらを多く所蔵しており、情報収集には事欠かない。ジスガランドに帰って来てからというものの、私は修行や祈祷の合間に、密かに純血の竜種について調べていた。
彼女が保護した緑の竜の事もあるが、竜種の件については私も個人的な興味があったのだ。
───かつて竜達は人間と対立する事を避けようとしていた。何故なら竜は人間を愛していたから。しかし時が経つにつれ人間は竜を恐れ、一方的に竜を攻撃するようになった。
最初こそ竜達は反撃しなかったものの、やがて反撃に出るようになった。黒も、白も、赤も、青も、緑の竜を守るために人類との決別を選んだ──……か。
「その結果、赤と青は人類の総力を上げて討伐。白は殺せなかったから封印。緑と黒は行方不明……ふふ、これはまた人類のエゴが凄まじいね」
最近ようやく入れるようになった禁書庫で、数百年続いた竜と人間との戦い──それにまつわる記述を見つけた。
特に白の竜のそれを見つけた時、私は自分の口角が鋭くつり上がった事を強く感じた。
そこに記されていたのは白の竜が封印された場所と、その封印を施した人間。それを知った時……思わず笑い声が漏れてしまったぐらいだ。
それから二週間。私は一枚のメモを持ち、地方の教会巡回と称して出かけていた。目的地はジスガランドの南方にある大陸東側で一二を争う規模の湖、アリョスーシ湖。
例の本によるとその湖の中心部だけ、地面が抜け落ちたように水深が深く、そこに水底神殿があるというのだ。そしてその神殿に白の竜が封印されているらしい。
中々に眉唾物ではあるが……これしか白の竜の封印場所についての手がかりが見つからなかったのだから、これを信じるしかない。
「……話には聞いていたけど、実際に見るのは初めてだな。本当にとても大きい湖だ」
この時の為に作らせた箒型魔導具で湖の中央部上空までやって来た。湖を見下ろすと、確かに一部分だけ明らかに不自然だった。
そこだけ全く底が見えない。はてさてどうやって水底神殿まで行ったものか。
迷った末に私は──光魔法で人工太陽を作り出して、それを思い切り湖に投げ入れた。
するとどうだろう。湖の水が次々と瞬く間に蒸発し、上空には凄まじい衝撃波が。しかし無事に水底神殿には辿り着けそうだ。
箒に乗って急降下する。ある程度不自然な大穴を降ると、それらしき建造物が見えた。それは確かに、神殿と呼ぶべき厳かな空気を纏う建物だった。
長年水に晒されていたからか扉が動く気配はなく、仕方ないので付与魔法で体を強化して殴って扉を破壊した。
瓦礫を踏みしめ、中に入る。暫し歩くと、大きな空間に出た。そして、私は思わず息を呑む。
私が探していた銀白色の鱗を持つ美しい竜──白の竜が、確かにそこにいた。
その竜の体は、杭を打たれているかのように何十本もの鎖に繋がれていた。その鎖は周囲の壁や天井に繋がっており、白の竜が封印されている事を物語っている。
「これが聖人の施した封印、か」
何とも忌々しい。憎い程に完璧で、恐ろしい程に強力な封印。流石は人類最強の聖人様だなぁ。白の竜を封印出来るなんて、本当に凄いなぁ。
本当に──……あの男が鬱陶しくて仕方無い。
『まさか、ここに人間が来るとは思いませんでしたわ』
静謐な声と共に白の竜の目が開かれる。
『聞き覚えのある言葉も耳に届きましたし……ようやく私を殺す手段を見つけたのかしら?』
「違うよ。私は君を殺しに来たのではない。少し君に用があってね、ここまで来させていただいたのさ」
『……人間が、今更私になんの用でしょうか』
封印されている割に元気そうな白の竜に近づき、私はその黄金の瞳を見て続ける。
「君と、取引をしたいんだ」
『取引? 人間が、私と?』
「ああそうだ。私はどうしても力が欲しくてね、君に私の仲間になって欲しいんだ。純血の竜種たる君には失礼かもしれないが……仲間として対等な立場になりたい」
『…………それは、何故?』
「──どうしても超えたい人間がいる。私の望みの為に、この手で打ち倒さなければならない男がいるんだ。私一人の力では追いつく事が出来ようとも、超える事が出来ない。だから、君の力を私に貸して欲しい」
竜種相手にこんな取引を持ちかけるなんて、私も随分と焼きが回ったな。……だけど、手段は選んでられない。あの男を超え、彼女をあの男の毒牙から守る為ならば、私は何だってすると決めたのだから。
『仮に私があなたに協力したとして、私になんの得がありますの? そもそも、私はこの通り封印されてますし……協力なんて出来ないと思いますけれど』
「それに関しても、この取引に絡めさせて貰おう。取引に応じてくれるならば、私は君の封印を解いてある程度の自由と安全を保証する。後は……緑の竜の現状も少しなら話せるよ」
『ッ! 緑の事を何故あなたが……!?』
「話せば長くなるから、細かい話は取引が成立してからで。それで、どうかな? 君は私が望む時に私の仲間として力を貸してくれるだけでいい。それ以外の時は、君の好きにしてくれて構わない」
緑の竜を大事にしていたらしい白の竜の事だから、ナトラを引き合いに出せば少しは取引について考えて貰えるかと思ったのだが……想像以上に反応がいいな。
だけど、流石にこれでいけるとは私も思っていない。当然、他にも色々と交渉の為のカードは用意して来ているとも。