だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「……あまり、想像がつかないのですが。旅行やピクニックというものをしてみたいです。以前読んだ本に、仲良しきょうだ──っごほん、家族とはそういう事をするものだと書いてあったので」
「旅行やピクニックですか。いいですね、とても楽しそうです。では、いつの日かそれが実現するように(わたし)も頑張ってみましょうか!」
「何故、ケイリオル卿が頑張るのですか?」
「えっ? あー……まぁ、そうですね。ただ、(わたし)がそうしたいからでしょうか。陛下にも、フリードル皇太子殿下にも、王女殿下にも、可能な限り幸せになって欲しいんですよね」

 そよ風に揺れるケイリオルの顔につけられた布。どこか遠くの景色を夢見ているかのような彼の語り口調に、フリードルがその横顔を見上げた時。
 それまでよりも強い風が吹き込み、書類が何枚か机から舞い落ちた。だがそれよりも、フリードルの目を奪うものがあったのだ。

(……──父上と、同じ色)

 ほんの一瞬の出来事だった。風に揺れた僅かな布の隙間から、とても見覚えのある青紫の瞳が見えた気がしたのだ。

「書類、落ちましたよ。しかし……この様子では議論もままなりませんね。今日はこの辺りが潮時では?」
「っええ、そうですね」

 ありがとうございます。と言ってケイリオルから書類を受け取りつつ、フリードルは議会を終わらせるべく立ち上がった。

「──諸君。本日の議会はこれにて解散とする。各自、己の役目を全うするように」
『はっ!!』

 突然の解散ではあったが、貴族達は張り切って議会場を後にした。様々な問題への対応に加え、祭りやパーティー開催の為にこれから奔走しては嬉しい悲鳴をあげる事になるというのにだ。
 それ程に、帝国民にとって祭りというものの存在がとても大きい事が分かる。

「では、(わたし)も仕事に戻りますね」
「お疲れ様です、頑張って下さい」
「はい」

 貴族達のほとんどが退場し、しんと静かになった議会場。そこで軽く一礼し、ケイリオルは歩き出した。しかし扉に手をかけようとした時、くるりと踵を返してフリードルの元に早足で戻り、

「本来の目的を忘れておりました。こちらでも改めて魔物の行進(イースター)について調べ、専門家の意見を仰いだところ──……近いうちに、確実に魔物の行進(イースター)は発生するそうです」
「──っ!」

 背を曲げて耳打ちする。万が一にも、誰にもこれが聞かれないようにという配慮であった。
 これを聞き、フリードルは目を見開いた。

「既にディジェル領及び南部の各領には早馬でこの旨を通達し、魔物の行進(イースター)に備えるよう促しております。他にも、以前より魔物の出現報告のあった地域では魔物の動きが活性化する恐れもある為、南部の各領と諸地域へ帝都より兵団や騎士団を派遣する運びとなっております」

 しかしケイリオルは既に動き始めていた。それを聞き、フリードルも少し肩を撫で下ろす。
 それも束の間。フリードルは真剣な面持ちで顎に手を当てて思い悩む。

「雪花宮の移動は魔物の行進(イースター)の前に早々に済ませた方がいいでしょうね。魔導師達も魔物の行進(イースター)の対応に回したいので」
「そうですね。早く済ませるに越した事はないでしょう。魔物の行進(イースター)の具体的な日時については現在進行形で調査し、予測をいくらか立てておりますが……早くても一ヶ月以内、遅くても三ヶ月以内ではと。最悪の場合、国際交流舞踏会までに解決しない可能性すらもあります」
「……せめて具体的な日時が分かればいいんですが、こればかりはどうしようもないか。魔物の軍勢はこちらの都合など考えてくれないですし」
「ははは。魔物がこちらの都合を考えてくれるのなら、そもそも侵攻などして来ないでしょう。本当に傍迷惑な話ですよねぇ」

 二人の重いため息が重なる。
 この国の未来を背負う者と現在この国を背負う者として、フリードルとケイリオルは目先の危機に頭を抱えるのであった……。
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