だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 そんな、傍から見ればまあまあの優良物件な俺に目をつける女は大勢いた。中にはカイルの妹のように逆レ……襲ってくるような奴までいた。
 毎日気色悪い声で擦り寄って来て、頼んでもない手作り弁当やら菓子やらを持って来て、痴女みたいに肌を出したり押し付けたりして来た。
 母や姉のような雌の顔した女ばかりで、俺はあまりの気持ち悪さに何度も学校のトイレで吐いた。
 鼻を貫く香水の匂いも、無駄に甘ったるいシャンプーだかの匂いも、俺の顔に向けられるあの視線も、運命だ何だと騒ぎ立てる高い声も……全部が全部気持ち悪かった。

「女は自分の気持ちを察しろとか偉そうな口叩く癖に、お前等は他人の気持ちを察するなんて殊勝な真似出来ねぇじゃん。何で自分に出来ないような事を他人に強要すんだよ、分を弁えろよ。何でちゃんと口にしてる俺のクソ迷惑だって気持ちが分からないくせに、被害者面して泣き喚くだけの奴の気持ちが俺に分かると思ったんだよ」

 カイルの妹を押し退けて、俺はベッドから降りた。突然俺の態度や雰囲気が豹変したからか、カイルの妹は困惑した面持ちでこちらを呆然と見上げる。
 一般的に見れば可愛い部類に入るのだろうが、生憎と俺は全く可愛いとは感じない。半分とはいえ血の繋がる兄に言い寄るような異母妹なんて、ただ気色悪くて仕方無い。

 だからこそ、俺はアミレスの事を普通の妹(ファンタジー)として認識したがってるんだろうな。そうでもしないとアイツまで嫌悪の対象になってしまいそうで、それが本当に嫌だった。
 せっかく出来た普通の友達なのに。趣味や嗜好を分かち合える数少ない同志なのに。ただ性別が違うというだけで、その関係が崩れる可能性が芽生えた事が酷く恐ろしい。
 また、仲間を失ってしまうかもしれない事が恐ろしいのだ。

「……何でお前等は俺の事をそんな風にしか見てくれないんだよ。何で俺自身を見てくれないんだよ。嘘でも俺の事が好きだとか言うなら、俺の気持ちを少しは考えてくれよ」

 何も難しい事は言ってない。ただ、少しだけでも俺自身を見て俺の気持ちも考えて欲しい。それだけしかお前等には望んでないのに…………それすらも、女共は聞き届けてくれないのだ。
 アイツ等にとって大事なのは俺の心や気持ちじゃなくて、俺の体だから。俺がどう思っていようと、女共からすればどうでもいい事。
 俺という人間を傍に置き、俺の恋人として周囲の羨望を独り占めし、あわよくば抱かれる事に価値を見出すような連中だから。
 性行為なんて所詮ただの性欲の発散に過ぎない。相手への好意の有無なんて、その行為を成り立たせる条件にも満たない。

 何だってそうだ。女は夢見がちすぎるんだよ。何でキスもセックスも何もかもが互いへの好意があって初めて成り立つものと思ってるのやら。
 だから、もし男が女を愛してなくても、女は自分が好きな男に抱かれてるだけで幸せや愛されているという錯覚を得られる。
 便利な話だよなぁ。俺もそれぐらい馬鹿だったら、もっと生きやすかったのかな。

 まあでも……仮に互いへの好意が無かったとして。男が性欲を発散したくて、女が愛されている錯覚に溺れたいのなら、利害の一致だとは思うがな。
 でも俺は生粋のハッピーエンド厨なので、両想いとかそういうの意外ぶっちゃけ嫌なんだよ。片想いも、いずれ確実に結ばれる前提じゃなきゃ嫌だ。
 だからこそ──自分さえ幸せならそれでいい。って考えばっかりな女共の、自分勝手で独り善がりな暴走が大嫌いだった。

「結局、お前が欲しいのは自分の性欲(アイ)を満たしてくれる相手でしかなくて、それは俺じゃなくてもいい筈だ。だってお前、俺の事なんにも知らないだろ? お前が好きだって思い込んでるのは俺の顔で、俺自身じゃない。俺と同じかそれ以上の美形がお前の前に現れて、ソイツがお前が望むままにその性欲(アイ)を満たしてくれるような男だったら、すぐそっちに靡くだろうよ」

 カイルの妹の顔が硬直する。図星だったのか?

「っそんな……! ひどい! アタシは、本当に昔からカイルさまの事が好きだったのに!!」
「あっそ。俺は嫌いだけど、お前の事。実の兄の寝込みを襲ってくる発情期の獣畜生みたいな妹の事、心底軽蔑しない方がおかしいだろ」
「──っ!!」

 個人的ド正論をぶちかましてやる。すると妹の顔がどんどんしわくちゃになり、その目からはぶわっと汚く涙が溢れ出した。
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