だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

348.ある転生者の追憶3

 あー嫌だ。そうやってすぐ泣いてさ……こっちだって泣きたいっつの。転生しても結局こんなのばっか相手にしなくちゃいけないんだから。
 正直な気持ちを伝えたら『最低!』だの『イケメンだからって何でも許されると思わないでよ!』と罵られ、仕方無く嘘偽りで取り繕ってやったら『真剣に答えて』だの『騙したの!?』とヒス起こして騒ぎやがる。
 イケメンだからどうのって言うけどさ。お前等も女だからって泣き喚けば何でも許されると思うなよ。自分の事は棚上げで騒ぐところとかマジで目障りだし耳障りだ。

 そもそも告白の呼び出しなんてものに付き合ってやっただけ感謝して欲しいレベルなのに。その場で手紙破り捨てたかったけど、そうしたら『なんで呼び出したのに来てくれなかったの? ずっと待ってたのに』とか言われるんだよなぁ。
 俺にだって都合ってものがあるのに、人の都合ガン無視で勝手に放課後の何時にここで待つとか言われてもさ、行く訳ねぇだろ。その時点で元々無い好感度はだだ下がり。バッドエンド直行だっつの。
 俺には俺の予定があるから、呼び出しを無視する事も多かった。口約束ですらない一方的な呼び出しなんて、そもそも俺に応じる義務はなかったしな。

 それで呼び出しに応じなかったら、次の日の朝また知らねぇ女共に囲まれて集団で責められる。
 どうしても告白したいなら今ここですればいいだろ、俺だって忙しいんだよ。って言ったらアイツ等、『何でそんなデリカシー無いの?』って言うんだぜ?
 マジで意味わかんねぇ、ほんとに同じ人間?
 ……つぅか、告白させていただく側の癖に相手の都合ガン無視でわざわざ相手に足運ばせるとか何様なの? 菓子折り持って自分から出向くぐらいしろよ何楽しようとしてんだクソが。

「……はっきり言わねぇと分からないみたいだから言うが、俺は誰のものにもならない。お前等みたいな女相手なら尚更な」

 ため息を一つ零し、頭を切り替える。
 さっさとこの女を追い出したい。この女の所為で思い出したくもないもの──女への嫌悪と共に、俺という人間の一生を思い出してしまったから。
 決して、アミレスのような綺麗な奴には教えられないような……穂積瑠夏(前世の俺)の醜穢な一生を。
 お陰様で気分が悪くて仕方無い。恨みのままに一発ぶん殴ってやりたいぐらいだ。

「さっさと帰れ。そして二度と俺の前にその顔見せんじゃねぇぞ、ファフィリーノ」

 人のベッドの上で汚く涙を流し続けるカイルの妹を適当に転移させる。多分、城のどこかに飛ばされた事だろう。
 汚されたシーツを引っ剥がして適当に燃やし、シーツを剥がしたベッドに腰かけ、ふぅ……と一息つく。
 疲れたから一眠りしただけなのに、まさかこんな事になるとは。前々からカイルの妹は嫌いだったが、今回の件を経てもう顔も見たくなくなったな。
 次あの雌の顔を見たら何を言うかも分からない。前世よりも力を持ち、考え方も変わってしまった今なら、反射的にぶん殴る可能性だってある。だからもう二度と会わない事を祈ろう。

『──兄さん達を追い詰めただけに留まらず、ファフィリーノまで傷つけるなんて。お前は本当に身内に厳しいな』

 ……悪かったな。ご存知の通り、家族とやらにいい思い出が全く無いんでね。

『でもキールステン兄さんと母さんは別だろ?』

 まあな。でも、母さんと顔合わせて今まで通りに接する自信がねぇよ。母さんは違うって分かってても、母親って存在は俺にとってそれ程のトラウマなんだ。

『確かにそうみたいだ。俺も今、お前の記憶が流れて来たけど……あれはトラウマにもなる。寧ろ、まだ女性と接する事が出来るだけでも凄いと思うよ』

 だろ? 自分に言い聞かせたりしてさ。これでも結構頑張ってんだぜ、俺。
 ニッと笑い、俺は自分の頑張りを思い返す。
 ──頭の中に響く、本物のカイルの声。実は以前、ゲームの強制力らしき何かに干渉された時。俺は精神世界でカイルと対面して、色々と話し合った。
 俺達のこれからの方針とか、その他諸々の事。
 カイルの主張は、『国と国民を守りたい』というもので、俺の主張は『目指せハッピーエンド』だった。
 ハミルディーヒ王国を守る事が俺の目指すハッピーエンドに繋がるんじゃないか。とカイルとの話し合いに結論付けて、俺達はお互いの目的を果たす為に協力体制を敷いた。
 カイルは俺のやり方に文句こそ言えど、何かを強制したり否定したりはしなかった。俺の記憶を見て、何やら同情しているらしい。

 それからはこうして、カイルが起きている時は頭の中で会話したりしている。
 カイル曰く、無意識下から浮上出来る時と出来ない時があるらしく、浮上出来た時をカイルは起きていると表現していた。
 起きている時は俺と一緒に世界を見て、感じて。そしてこうしてお小言を言い始めるのだ。
 まあ、俺とカイルって割と正反対の性格してっからなぁ……共通点と言えば、身内にろくでもないのがいるのと、何かと天に恵まれてしまった事ぐらいか。
 なので意見が衝突する事も多いのだが、この通り案外上手くやっている。
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