だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
349.鈍色の兄妹と王女
冬は解け、春は過ぎ、夏が暮れ、そして秋が来た。
色々と不穏な気配も這い寄る中、まるで家出でもするのかと問いたくなるような大荷物を準備し、俺達はずっと待ち望んでいた日を迎えた。
近頃魔物が活性化しつつある事を踏まえると、どう考えてもこちらに割く訳にはいかないような重大戦力を護衛隊として宛てがわれ、皇帝陛下の旅路かのように馬車を二つも三つも縦に並べて走らせた。
ちなみに、ほかの馬車に乗っているのはローズの侍女や俺の世話を昔からしてくれていた執事などだ。別に向こうで新たに使用人を雇ってもよかったのだが、もし信頼出来ぬ者を内部に雇い入れローズの身に何かあってはならない。
なので、うちから使用人を連れて行く形になったのだ。
一応、帝都の邸の整備をお爺様の代から仕えてるって人がずっとしてくれていたのと、うちの使用人が前乗りという事で一ヶ月程前から何人も邸に向かい、色々用意してくれてるとの事なので……使用人問題は多分、大丈夫だろう。
それにしても本当に護衛が凄い。我が領の重要戦力の一つ、紅獅子騎士団の団長クラスが護衛隊に編成されるなんて本当に信じられなかった。
だがまあ、これでも俺は次期大公で、ローズはうちの歌姫だもんな。仕方無いと言えば仕方無い。
そう自分を納得させ、俺達は出来る限り帝都への道を急いだ。
紅獅子騎士団の団長を始めとした精鋭による護衛隊の存在もあって、特に問題のない旅路だった。初めての領地の外の世界にはしゃぐローズを見守りながら、長い旅路を往く。
夏から秋に移り変わる頃という事もあって、以前帝都に向かった時よりもずっと楽だった。あの時は真冬だったからなぁ……すぐ吹雪で足止めされてたなぁ。
そんな事も考えながら、出発から一ヶ月程が経った。帝国は北上すればする程冬が身近になると聞くが……中部の中でも北部寄りの帝都では、既に秋の訪れを感じさせる少し冷たい風が吹いていた。
「わあっ! 見て下さいお兄様、帝都の外壁が見えますよ! それにお城も!!」
「うん、そうだね」
「私達の家よりもずっと大きいお城です……まるで物語に出てくるような……」
「噂によると、『リリエの魔導書』や『灰被りのお姫さま』に出てくる城は氷の城がモチーフになったらしいよ。あくまで噂だけどね」
「そうなんですか!? わぁあああっ、これが聖地巡礼……っ!」
ついに見えてきた帝都に、頬を染めて興奮するローズ。それを微笑ましく思いながら、俺は二度目となる帝都の門をくぐり抜けた。
テンディジェル家の家紋があしらわれた馬車。それに追従するのは、紅い獅子と剣をモチーフにした騎士団の紋章があしらわれた旗を掲げ、紅い騎士団服を着て馬に跨る騎士達。
それはこの一行がテンディジェル家の者であると、何よりも雄弁に語っていた。なので、周囲の民衆からは野蛮な田舎者と名高いディジェル人がわざわざ帝都に何の用だ──とでも思われているだろう。
べっつにー? 俺達が帝都に来て何しようが俺達の勝手じゃないー?
心の中では悪態をつきつつ。外を見ようとするローズに、「あんまり外を見続けてたら後の楽しみがなくなっちゃうだろ?」とやんわり告げる。
するとローズはハッとした顔になり、「そうですわ……お兄様と帝都を見て回る時の楽しみがなくなってしまいますもの、一旦我慢します!」と大人しく言う事を聞いてくれた。
これでよし。社交界デビューもまだのローズを、偏見で凝り固まった見方しか出来ない愚鈍な連中の前にみすみす出す訳にはいかないからね。
街を見て回る時も、少しでも顔を隠せるように何か帽子でも渡そうかな。ローズの侍女が、その辺気を利かせて準備してくれてるだろうし。
「ところでお兄様、アミレスちゃんにはいつ会えるのでしょうか?」
「とりあえず、俺達も帝都に来ましたよーって手紙と謁見の申し出を送って……その上で王女殿下の都合がよろしい時になるんじゃないかな」
「そんなの絶対、ずっと先じゃないですかぁ……」
「彼女は凄くお忙しい身分だからね」
「はぁ……早く会いたいなぁ」
「フ、それは俺も同じだよ」
しゅんと落ち込むローズの隣に座り、その頭を撫でてあげる。
彼女は現帝国唯一の王女殿下──……それはもう、とても、多忙な方なのだ。あの時はああして皇宮に招待するとか色々提案して下さったが、公務やご自身で始められた慈善事業などの運営で多忙を極めており、そのような時間を取る事も難しい筈。
そんな王女殿下と個人的な要件でお会いしたいなどと、俺のような一臣民、いちヘタレには無理な話だ。
なのでどのタイミングでお会いするかは王女殿下にお任せすべきなのである。
……そりゃあ、俺だって叶うならすぐにでも会いたいよ。
貴女があの時、俺にも才能があるって言ってくれたから、俺は自分に自信が持てるようになれた。俺にだって人に誇れるものがあるんだって、半端者の俺も胸を張って生きてていいんだって思えるようになった。
そのお陰か、今は次期大公という明確な目標も得て毎日がとても楽しい。ローズも前より笑顔でいる事が増えて、その歌声もより磨きがかかっている。
こんなにも生きる事が楽しく思えたのは、初めてだった。
だからその感謝を改めてお伝えしたかった。貴女にきっと似合うと思って、貴女を思いながら職人に作らせたネックレスも渡したい。
ディジェル領のとある洞窟内で年間通して少量しか採取出来ない美しい水晶を贅沢に加工した、七色に煌めくネックレス。
ローズのお墨付きのこれならば、きっと、世界で一番可憐で麗しい貴女の美貌に適う筈。
だから、早く会いたい。会って贈り物を渡して、感謝を告げ、あわよくばまた名前を呼んで貰いたい。
ちょっと冷たいけれど、でもじんわりと温かさが滲むあの心地よい声で、『レオ』と微笑みながら俺の名前を呼んで欲しい。
そんな欲望に駆られては、すぐに会えない事実に落胆する。結局、邸に着くまで兄妹揃って肩を落す事となってしまった。
……兄妹と言えば。フリードル殿下にも挨拶した方がいいのかな。
でもわざわざ俺の方から挨拶しに行く必要もなくない? だって俺と殿下の関係なんて、何度か話した程度だよ? わざわざ自分から率先して会いに行く必要なんてないよね……??
色々と不穏な気配も這い寄る中、まるで家出でもするのかと問いたくなるような大荷物を準備し、俺達はずっと待ち望んでいた日を迎えた。
近頃魔物が活性化しつつある事を踏まえると、どう考えてもこちらに割く訳にはいかないような重大戦力を護衛隊として宛てがわれ、皇帝陛下の旅路かのように馬車を二つも三つも縦に並べて走らせた。
ちなみに、ほかの馬車に乗っているのはローズの侍女や俺の世話を昔からしてくれていた執事などだ。別に向こうで新たに使用人を雇ってもよかったのだが、もし信頼出来ぬ者を内部に雇い入れローズの身に何かあってはならない。
なので、うちから使用人を連れて行く形になったのだ。
一応、帝都の邸の整備をお爺様の代から仕えてるって人がずっとしてくれていたのと、うちの使用人が前乗りという事で一ヶ月程前から何人も邸に向かい、色々用意してくれてるとの事なので……使用人問題は多分、大丈夫だろう。
それにしても本当に護衛が凄い。我が領の重要戦力の一つ、紅獅子騎士団の団長クラスが護衛隊に編成されるなんて本当に信じられなかった。
だがまあ、これでも俺は次期大公で、ローズはうちの歌姫だもんな。仕方無いと言えば仕方無い。
そう自分を納得させ、俺達は出来る限り帝都への道を急いだ。
紅獅子騎士団の団長を始めとした精鋭による護衛隊の存在もあって、特に問題のない旅路だった。初めての領地の外の世界にはしゃぐローズを見守りながら、長い旅路を往く。
夏から秋に移り変わる頃という事もあって、以前帝都に向かった時よりもずっと楽だった。あの時は真冬だったからなぁ……すぐ吹雪で足止めされてたなぁ。
そんな事も考えながら、出発から一ヶ月程が経った。帝国は北上すればする程冬が身近になると聞くが……中部の中でも北部寄りの帝都では、既に秋の訪れを感じさせる少し冷たい風が吹いていた。
「わあっ! 見て下さいお兄様、帝都の外壁が見えますよ! それにお城も!!」
「うん、そうだね」
「私達の家よりもずっと大きいお城です……まるで物語に出てくるような……」
「噂によると、『リリエの魔導書』や『灰被りのお姫さま』に出てくる城は氷の城がモチーフになったらしいよ。あくまで噂だけどね」
「そうなんですか!? わぁあああっ、これが聖地巡礼……っ!」
ついに見えてきた帝都に、頬を染めて興奮するローズ。それを微笑ましく思いながら、俺は二度目となる帝都の門をくぐり抜けた。
テンディジェル家の家紋があしらわれた馬車。それに追従するのは、紅い獅子と剣をモチーフにした騎士団の紋章があしらわれた旗を掲げ、紅い騎士団服を着て馬に跨る騎士達。
それはこの一行がテンディジェル家の者であると、何よりも雄弁に語っていた。なので、周囲の民衆からは野蛮な田舎者と名高いディジェル人がわざわざ帝都に何の用だ──とでも思われているだろう。
べっつにー? 俺達が帝都に来て何しようが俺達の勝手じゃないー?
心の中では悪態をつきつつ。外を見ようとするローズに、「あんまり外を見続けてたら後の楽しみがなくなっちゃうだろ?」とやんわり告げる。
するとローズはハッとした顔になり、「そうですわ……お兄様と帝都を見て回る時の楽しみがなくなってしまいますもの、一旦我慢します!」と大人しく言う事を聞いてくれた。
これでよし。社交界デビューもまだのローズを、偏見で凝り固まった見方しか出来ない愚鈍な連中の前にみすみす出す訳にはいかないからね。
街を見て回る時も、少しでも顔を隠せるように何か帽子でも渡そうかな。ローズの侍女が、その辺気を利かせて準備してくれてるだろうし。
「ところでお兄様、アミレスちゃんにはいつ会えるのでしょうか?」
「とりあえず、俺達も帝都に来ましたよーって手紙と謁見の申し出を送って……その上で王女殿下の都合がよろしい時になるんじゃないかな」
「そんなの絶対、ずっと先じゃないですかぁ……」
「彼女は凄くお忙しい身分だからね」
「はぁ……早く会いたいなぁ」
「フ、それは俺も同じだよ」
しゅんと落ち込むローズの隣に座り、その頭を撫でてあげる。
彼女は現帝国唯一の王女殿下──……それはもう、とても、多忙な方なのだ。あの時はああして皇宮に招待するとか色々提案して下さったが、公務やご自身で始められた慈善事業などの運営で多忙を極めており、そのような時間を取る事も難しい筈。
そんな王女殿下と個人的な要件でお会いしたいなどと、俺のような一臣民、いちヘタレには無理な話だ。
なのでどのタイミングでお会いするかは王女殿下にお任せすべきなのである。
……そりゃあ、俺だって叶うならすぐにでも会いたいよ。
貴女があの時、俺にも才能があるって言ってくれたから、俺は自分に自信が持てるようになれた。俺にだって人に誇れるものがあるんだって、半端者の俺も胸を張って生きてていいんだって思えるようになった。
そのお陰か、今は次期大公という明確な目標も得て毎日がとても楽しい。ローズも前より笑顔でいる事が増えて、その歌声もより磨きがかかっている。
こんなにも生きる事が楽しく思えたのは、初めてだった。
だからその感謝を改めてお伝えしたかった。貴女にきっと似合うと思って、貴女を思いながら職人に作らせたネックレスも渡したい。
ディジェル領のとある洞窟内で年間通して少量しか採取出来ない美しい水晶を贅沢に加工した、七色に煌めくネックレス。
ローズのお墨付きのこれならば、きっと、世界で一番可憐で麗しい貴女の美貌に適う筈。
だから、早く会いたい。会って贈り物を渡して、感謝を告げ、あわよくばまた名前を呼んで貰いたい。
ちょっと冷たいけれど、でもじんわりと温かさが滲むあの心地よい声で、『レオ』と微笑みながら俺の名前を呼んで欲しい。
そんな欲望に駆られては、すぐに会えない事実に落胆する。結局、邸に着くまで兄妹揃って肩を落す事となってしまった。
……兄妹と言えば。フリードル殿下にも挨拶した方がいいのかな。
でもわざわざ俺の方から挨拶しに行く必要もなくない? だって俺と殿下の関係なんて、何度か話した程度だよ? わざわざ自分から率先して会いに行く必要なんてないよね……??