だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
351.鈍色の兄妹と王女3
「……って、あれ? 今シャンパージュって聞こえたような」
「奇遇だね、ローズ。俺もそう聞こえたよ」
ははは、と乾いた笑いを零しながら、俺達は先程聞こえた名を頭の中で反芻する。
シャンパージュ伯爵家と言えば、その影響力と権力だけで見れば我がテンディジェル大公家や帝国唯一のアルブロイト公爵家にも匹敵するような、皇室に次ぐ帝国有数の大富豪。
帝国市場を支配する大商会の運営元であり、かくいう我が領もかの商会にはたいへん世話になっている。
そんな、シャンパージュ伯爵家がパーティーを開いて、かつそれに王女殿下とローズが参加すると。
というか待って。それ以前に──、
「友達って……王女殿下、シャンパージュ伯爵令嬢と仲良いんですか?!」
「お人形のように可愛らしく気難しいと有名な、あの薔薇姫と!?」
「薔薇姫……っていうのは知らないけど、メイシアとは凄く仲良いわよ。それはもう、すっごく仲良しなんだから」
誰が相手だろうが決して態度を変えず交渉し、幼いながらに既にいくつもの功績を残すシャンパージュ伯爵家の業火の魔女。
その人形のような可愛らしい容姿からは想像もつかないような、天賦の商才と弁の立つ口。
綺麗な薔薇には棘がある──……そんな言葉と、赤い薔薇のように美しい紅の瞳から『薔薇姫』とも呼ばれるようになった、次期シャンパージュ伯爵。
その業火の魔女はある特定の人物に執心しており、もし彼女の前でその人物を貶すような愚行を犯せば、業火の魔女の怒りにその身を焼かれる事になる……。
これは、シャンパー商会と取引をする者達の間で近頃言い伝えられている文言だった。
つまりシャンパージュ伯爵令嬢はめちゃくちゃ怖い人なのだ。俺は会った事ないんだけど……噂だと、かなり可愛らしい顔立ちなのに、その表情や纏う空気に凄みがあるらしいのだ。
まさかそんな令嬢とも仲がいいなんて。王女殿下って本当に凄い方だなあ。
「凄い……流石アミレスちゃん……!」
「何が流石なのかは分からないけど、まあいいか。それで、伯爵家のパーティーは四日後の昼からなんだけど……予定とかは大丈夫そう?」
「今のところ、まだ特に予定はないので大丈夫です」
「そう。それじゃあ、四日後の昼前にまた迎えに来るわ。せっかくだからレオも一緒に行きましょうね。ああそうだ、また改めて東宮にも招待するから、その時は是非遊びに来てちょうだいな。セツも元気にしてるし」
そう捲し立てるも、それを全く感じさせない流麗な語り口調。そして、その後花のように微笑む王女殿下。
……この人、本当に俺達を皇宮に招待するつもりだったのか。こんなお茶しようみたいな感じで。何か、本当に色々と凄い人だなあ。
「本当はまだ話していたいのだけれど、今ちょっと城の方が立て込んでて……そろそろ戻らないと怖い皇太子様に呼び出されそうだから、この辺りでお暇するわね」
どこか遠い目で語り、王女殿下は立ち上がった。
もう帰ってしまうのか。と寂しく思ったものの、そもそも彼女はお忙しい身分の方。俺達のようないち臣民が引き留めてはならない存在なのだ。
「そうですか…またお会い出来る日を心待ちにしておりますね、王女殿下」
「またね、アミレスちゃん。お仕事頑張ってください!」
俺達も俊敏に立ち上がり、王女殿下のお見送りをと玄関まで共に行く。そこで俺はふと疑問を抱いた。
おかしい。皇室の馬車がどこにもない。まさか御者がどこかでサボってるのか? キッと眉を吊り上げて辺りをキョロキョロと見渡すも、見つけられるのは日光浴をする毛並みのいい馬だけで。
「あの、王女殿下……馬車はどこに?」
ルティさんからローブを受け取りそれを羽織る王女殿下に、それとなく聞いてみる。すると彼女はケロッとした顔で答えた。
「馬車は無いわよ? だって私達、ここには馬で来たもの」
ヒヒーーンッ! と、ものすごくタイミング良く馬の嘶きが響く。すると、のんびり日光浴をしていた馬のうち一頭が王女殿下に駆け寄り、その顔を彼女に擦り付けていた。
とても綺麗な金色の毛並み。あんな美しい馬がいたなんて……って、なんか頭から小さい角が生えてないか? 何あれ、え? 俺の気の所為??
「一角獣……?」
だよねローズ! あれって一角獣だよね?! 後はもう翼さえ生えてたら完璧に一角獣だよね?!
一角獣がこんな人間の街にいる事ある?! 人間嫌いと有名なあの一角獣が!!
というかもし仮にあれが本当に一角獣だとして、なんで王女殿下はあんなに手懐けてるの、やっぱり妖精のお姫様か何かなの!?
「昔からの友達からこの間貰った子なの。可愛いでしょ、名前はプラチナっていうの」
いや、そうやって楽しそうに馬の紹介してる貴女の方が百倍可愛いです。
「とても人懐っこいのよ」
「ブルァッッ」
めっちゃ威嚇されてるな、俺。
「あれ、いつもは人懐っこいんだけどな……なんでだろ……」
「主君。そろそろ時間が」
「あっそうよね、早く戻らないと」
懐中時計と手綱を手にルティさんが進言すると、王女殿下はハッとなり、
「それじゃあまたね。レオ、ローズ!」
ドレスのまま鮮やかに一角獣に跨り、手を振って帰っていかれた。その後ろで、ルティさんとイリオーデさんが追いかけるように馬を走らせる。
なんというか、凄いものを見た。それはローズも同じだったのだろう。俺達はあの冬の日のように、暫く王女殿下が去っていった方向をじっと眺めていた。
そして、おもむろに口を開くのだ。
「……王女殿下、馬も乗れるとか完璧なの? 物語の主人公じゃないか」
「アミレスちゃんのあまりの凛々しさと絵画のごとき美しさに言葉を失ってました……」
何となく察しはついていたが──……我等が初恋の君は、何でも出来るパーフェクトなプリンセスだったらしい。
「奇遇だね、ローズ。俺もそう聞こえたよ」
ははは、と乾いた笑いを零しながら、俺達は先程聞こえた名を頭の中で反芻する。
シャンパージュ伯爵家と言えば、その影響力と権力だけで見れば我がテンディジェル大公家や帝国唯一のアルブロイト公爵家にも匹敵するような、皇室に次ぐ帝国有数の大富豪。
帝国市場を支配する大商会の運営元であり、かくいう我が領もかの商会にはたいへん世話になっている。
そんな、シャンパージュ伯爵家がパーティーを開いて、かつそれに王女殿下とローズが参加すると。
というか待って。それ以前に──、
「友達って……王女殿下、シャンパージュ伯爵令嬢と仲良いんですか?!」
「お人形のように可愛らしく気難しいと有名な、あの薔薇姫と!?」
「薔薇姫……っていうのは知らないけど、メイシアとは凄く仲良いわよ。それはもう、すっごく仲良しなんだから」
誰が相手だろうが決して態度を変えず交渉し、幼いながらに既にいくつもの功績を残すシャンパージュ伯爵家の業火の魔女。
その人形のような可愛らしい容姿からは想像もつかないような、天賦の商才と弁の立つ口。
綺麗な薔薇には棘がある──……そんな言葉と、赤い薔薇のように美しい紅の瞳から『薔薇姫』とも呼ばれるようになった、次期シャンパージュ伯爵。
その業火の魔女はある特定の人物に執心しており、もし彼女の前でその人物を貶すような愚行を犯せば、業火の魔女の怒りにその身を焼かれる事になる……。
これは、シャンパー商会と取引をする者達の間で近頃言い伝えられている文言だった。
つまりシャンパージュ伯爵令嬢はめちゃくちゃ怖い人なのだ。俺は会った事ないんだけど……噂だと、かなり可愛らしい顔立ちなのに、その表情や纏う空気に凄みがあるらしいのだ。
まさかそんな令嬢とも仲がいいなんて。王女殿下って本当に凄い方だなあ。
「凄い……流石アミレスちゃん……!」
「何が流石なのかは分からないけど、まあいいか。それで、伯爵家のパーティーは四日後の昼からなんだけど……予定とかは大丈夫そう?」
「今のところ、まだ特に予定はないので大丈夫です」
「そう。それじゃあ、四日後の昼前にまた迎えに来るわ。せっかくだからレオも一緒に行きましょうね。ああそうだ、また改めて東宮にも招待するから、その時は是非遊びに来てちょうだいな。セツも元気にしてるし」
そう捲し立てるも、それを全く感じさせない流麗な語り口調。そして、その後花のように微笑む王女殿下。
……この人、本当に俺達を皇宮に招待するつもりだったのか。こんなお茶しようみたいな感じで。何か、本当に色々と凄い人だなあ。
「本当はまだ話していたいのだけれど、今ちょっと城の方が立て込んでて……そろそろ戻らないと怖い皇太子様に呼び出されそうだから、この辺りでお暇するわね」
どこか遠い目で語り、王女殿下は立ち上がった。
もう帰ってしまうのか。と寂しく思ったものの、そもそも彼女はお忙しい身分の方。俺達のようないち臣民が引き留めてはならない存在なのだ。
「そうですか…またお会い出来る日を心待ちにしておりますね、王女殿下」
「またね、アミレスちゃん。お仕事頑張ってください!」
俺達も俊敏に立ち上がり、王女殿下のお見送りをと玄関まで共に行く。そこで俺はふと疑問を抱いた。
おかしい。皇室の馬車がどこにもない。まさか御者がどこかでサボってるのか? キッと眉を吊り上げて辺りをキョロキョロと見渡すも、見つけられるのは日光浴をする毛並みのいい馬だけで。
「あの、王女殿下……馬車はどこに?」
ルティさんからローブを受け取りそれを羽織る王女殿下に、それとなく聞いてみる。すると彼女はケロッとした顔で答えた。
「馬車は無いわよ? だって私達、ここには馬で来たもの」
ヒヒーーンッ! と、ものすごくタイミング良く馬の嘶きが響く。すると、のんびり日光浴をしていた馬のうち一頭が王女殿下に駆け寄り、その顔を彼女に擦り付けていた。
とても綺麗な金色の毛並み。あんな美しい馬がいたなんて……って、なんか頭から小さい角が生えてないか? 何あれ、え? 俺の気の所為??
「一角獣……?」
だよねローズ! あれって一角獣だよね?! 後はもう翼さえ生えてたら完璧に一角獣だよね?!
一角獣がこんな人間の街にいる事ある?! 人間嫌いと有名なあの一角獣が!!
というかもし仮にあれが本当に一角獣だとして、なんで王女殿下はあんなに手懐けてるの、やっぱり妖精のお姫様か何かなの!?
「昔からの友達からこの間貰った子なの。可愛いでしょ、名前はプラチナっていうの」
いや、そうやって楽しそうに馬の紹介してる貴女の方が百倍可愛いです。
「とても人懐っこいのよ」
「ブルァッッ」
めっちゃ威嚇されてるな、俺。
「あれ、いつもは人懐っこいんだけどな……なんでだろ……」
「主君。そろそろ時間が」
「あっそうよね、早く戻らないと」
懐中時計と手綱を手にルティさんが進言すると、王女殿下はハッとなり、
「それじゃあまたね。レオ、ローズ!」
ドレスのまま鮮やかに一角獣に跨り、手を振って帰っていかれた。その後ろで、ルティさんとイリオーデさんが追いかけるように馬を走らせる。
なんというか、凄いものを見た。それはローズも同じだったのだろう。俺達はあの冬の日のように、暫く王女殿下が去っていった方向をじっと眺めていた。
そして、おもむろに口を開くのだ。
「……王女殿下、馬も乗れるとか完璧なの? 物語の主人公じゃないか」
「アミレスちゃんのあまりの凛々しさと絵画のごとき美しさに言葉を失ってました……」
何となく察しはついていたが──……我等が初恋の君は、何でも出来るパーフェクトなプリンセスだったらしい。