だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「待たせてしまってごめんなさい! それじゃあ帰りましょうか」

 メイシアとリードさんの元に戻り、私達はようやく帰路につく。
 しかしその途中で、私は背後に何者かの気配を感じた。この感じは子供だろうか……もしかして誰か誤って付いてきてしまったとか? とりあえず誰なのかを確認しよう。
 そう思いバッと振り向くと、それと同時に誰かが飛びついてきて……。

「この、感じは……」
「ぼくだよ!」

 真夜中にも関わらず随分と元気な声が聞こえてくる。それは私の予想通り、シュヴァルツだった。
 シュヴァルツは私の両手を掴みながら、えらく楽しそうに飛び跳ねている。
 そんなシュヴァルツの登場にリードさんはあんぐりとしていた。

「ねぇシュヴァルツ、どうしてここにいるの? ディオさん達が皆を家に送ってくれるって話だったけど……」
「あのね、ぼく、この世界のどこにも帰る家が無いの」

 えっ。と私は驚嘆の声をもらしかけた。シュヴァルツはあっけらかんと語るが、それは私達から言葉を奪うには十分なものだった。
 ……なんて事だ、サラっと地雷を踏んでしまったかもしれない。物凄くデリケートな話題じゃないか。

「んーっとね、別に帰る家が無いのはどうだっていいんだぁ。だからそんなに気にしなくていいよー」

 シュヴァルツがそうやって追い打ちをかけてくる。私達は更に押し黙る事となった。
 子供にこんな事言わせてしまうなんて……っ! と私の心に後悔と自責の雨が降り注ぐ。その雨が止む事はしばらく無く、せめて雨宿りをと思い、提案した。

「……うちにおいで、シュヴァルツ。私の助手とか弟子とか言えば、多分、大丈夫だから」

 私の気休めにしかならない提案だったが、シュヴァルツ的には全然アリだったようで、

「ほんと? やったーっ! これからよろしくねぇ、スミレ……うーん、お世話になるならもっとちゃんとした他の呼び方の方がいいかなぁ、あっ、そうだ!」

 と無邪気な笑顔ではしゃいでいる。……他の呼び方? 呼び方を変えるのだろうか。

「──おねぇちゃん、とかどうかなっ?」

 シュヴァルツのキラキラした瞳が私を貫く。私はそれに首肯する事しか出来なかった。
 ……私が首を縦に振った時、一瞬だけ、シュヴァルツの顔が妙に意味深な笑みに見えた気がしたけど……気のせいだろう。
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