だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

361.嵐は突然訪れる

「シルフサンとエンヴィーから、姫君の置かれている状況については色々と伺っております。これまでシルフサンは、我々精霊の存在が貴女の立場を悪くすると思い、表に出ないようにしてらっしゃいました。しかし近頃状況が変わって来ましたので……いっそ姫君が精霊士であり、シルフサンとエンヴィーが契約している精霊だという事にした方が良いと具申した事が、ことの始まりなのです」

 相槌を打つ暇もなく、フィンは捲し立てる。
 その時人間達は、まるで暴風に真正面から吹かれているかのように、目を細めて圧倒されていた。

「えっと、それで……その理由とは?」

 何とかフィンの言葉をゆっくりと咀嚼して、アミレスは本題へと話を進めさせた。

「制約に抵触しますので、詳細を話す事は叶わないのですが……近頃、どうにも人間界の運命率が狂い始めていて。本来一定値より上下してはならないそれが狂い始めた為、その皺寄せとしてこの世界で何か(・・)が起きる可能性が生じました」
「その運命率の狂いの所為で、人間界の管理をしているボク達が奔走する羽目になったんだよね。せっかくアミィに会えるようになったってのにさぁ…………」
「シルフさん、気持ちは分かるけど一旦黙っときません?」

 精霊達は時にわちゃわちゃとしながら話すものだから、あまり大事な話をしているように思えない。
 それに、フィンの話は──……正直なところ、人間達にとっては少しばかり難しい内容で。

 ───運命率って何だ?

 アミレス達四人はその頭に疑問符を浮かべていた。ぽかんとした顔で、初めて聞く単語に眉を顰めている。
 それに気づいたナトラが、「兄上、運命率ってあれじゃよな?」とクロノの侍女服を引っ張る。それにクロノは「多分あれの事だろうね」と頷いた。
 ナトラの目が『我、あんまり覚えてないから兄上から説明してやってくれぬか?』と物語るものだから、クロノは仕方無いとばかりにため息を零して、口を切った。

「──運命率とは、人間界に終末が訪れないように作られた世界の防衛機能……【世界樹】の枝が折れないようにする添え木のようなものだ。その確率が上下してしまい、添え木が強くなり過ぎたり脆くなり過ぎたりすると枝が歪んだり折れたりしてしまう。そうすればこの世界では大災害が起きるし、枝が折れた日には人間界は終末を迎えるだろう」

 この話を聞いて、アミレスには思うところがあったらしい。おもむろに顎に手を当てて、彼女は考え込む姿勢に入った。

(運命率はこの世界の存続を保証するもので、今はその確率が狂ってるから精霊さん達も忙しくしていたと。なるほどなるほど……だとしても、何でそれが私を精霊士にしたて上げる事に繋がるんだ?)

 うーん。と小さく唸るアミレスを見て、今度はシュヴァルツが軽く説明を始めた。

「簡単に話をまとめると……運命率が狂った事でこれから先この世界で大災害が起きる可能性が発生した。それがどんなものかは分からないけれど、おねぇちゃんを精霊士っていう珍しい存在にしておけば──少なくとも、どんな大災害が起きても無駄死にさせられるような事にはならないだろう。って事かな」
「無駄死に…………戦場に送られるかもしれないって事?」
「うん。まあ徴兵には確実に巻き込まれるだろうけど、それでも特攻とかはさせられないだろうね。精霊士って今の人間界だとかなり珍しいらしいし、どんな馬鹿な人間でも貴重な人材を無駄にするような事はしないでしょぉ〜〜」

 シュヴァルツの憶測により、アミレスの頭の中では点と点とが繋がる。彼の話に納得したように頷いて、その視線をフィンへと戻した。

「ええと、つまりあなた達は私の立場を確立する為に、精霊士にするという手段を取ったんですか?」
「そうなりますね。とは言えども、我々には制約がありますのであまり対した役には立てないのですが……我々には、貴女の身を護る加護を与える程度の事しか出来ませんし」
「そうなんですか……」
(──精霊の加護、って何だかミシェルちゃんの持ってる神々の加護(セフィロス)と似てるわね。それを与えられたら加護属性(ギフト)を発現しちゃったりして。はは、そんな事ある訳ないか)

 あるんだな、これが。
 中々に鋭い考察をしたものの、何も知らないアミレスはアハハ〜〜と軽く笑い飛ばしてしまった。
 まあ……シルフが全身全霊で隠蔽して来た以上、アミレスが数年前にかけられた星王の加護(ステラ)とそれにより発現した星の加護属性(ギフト)について気づける筈もないのだが。
 精霊どころではなく、精霊王直々に加護を与えられていたなんて──……今のアミレスには知る由もない事だった。

「そーゆー事なんで、これからは人間達から姫さんを守れるよう俺達も出来る限り傍にいるんで。災害をどうにかする事は出来なくても、もしもの時姫さんの盾になるぐらいは出来るでしょうし」

 エンヴィーがニッと笑いながら宣言すると、

「と、いう訳ですので。これからはシルフサンとエンヴィーが貴女をお守りします」
「か、重ね重ねどうもありがとうございます」
「姫君の御身の為ですから。俺は当然の事をしただけに過ぎません」

 補足するかのように、フィンから精霊がアミレスの守護に回る旨を伝えられる。
 その一連のやり取りを眺めていたシュヴァルツは、ここでふと「あ」と言葉を漏らした。咄嗟の事でついつい大きくなったその声に引っ張られて、その場の全員の視線がシュヴァルツに集中した時。
 彼の口から、衝撃の言葉が飛び出す。

「……──魔物の行進(イースター)が、始まった」

 それを聞いて人間達は酷く狼狽する。歴史上でしか目にした事の無いその単語、その最悪の事態に……開いた口が塞がらなかったのだ。
 だがしかし、アミレスだけはすぐさま反応を見せた。

「何で、どうしてもう魔物の行進(イースター)が発生するの……!?」
(──だってそれは、ゲーム二作目の本編開始時にミシェルちゃんが持つ天の加護属性(ギフト)を覚醒させる為のイベントよ? ゲーム開始時期は春から夏にかけてなのに、なんでもう魔物の行進(イースター)が発生するのよ?!)

 この中で唯一世界の命運を知るアミレスは、明らかに狂ってしまったシナリオに戸惑いを隠せなかった。
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