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第四節・魔物の行進編 後編

365.魔物の行進

 魔物の行進(イースター)発生から、早くも二週間が過ぎた。
 既に世界各地でその被害が出ており、人々は眠れぬ夜を繰り返していた。
 それは、白の山脈と隣接した地である程明確であった。我がフォーロイト帝国のように軍事力に優れた国ならいざ知らず、その他の軍事力では劣る国々にとってこれは紛う事なき災害。

 その為、友好国からはどうか兵士を派遣して欲しいという要請がいくらか届き、驚くべき事にフリードルはその要請全てに応えた。
 帝国騎士団及び帝国兵団の人員合わせて三割程を国に残し、残りの七割から実力者ばかりの遠征隊をいくつも編成し、救援を要請して来た各国へと空間魔法を使って送り込んだ。

 我が帝国には帝国の盾(テンディジェル)率いる妖精に祝福された者達がいるし、帝国の剣(ランディグランジュ)率いる新たな騎士団偃月騎士団だっている。
 それに、近衛騎士団や各家門の私兵だって国に残っている。
 加えて──何故か皇帝自らがディジェル領に向かい、白の山脈から出てきた魔物で血の海を作り上げているそうだ。
 だからこそ、我が国は白の山脈と大きく面した国であるにも関わらず、他国に戦力を割く余裕があるのだ。
 皇帝から統帥権を委任されたフリードルは、まず初めに魔物の出現報告の多い地域を重点に、近衛騎士団や国に残った騎士を派遣した。
 そして、救助や避難や簡易住居の用意などの為にシャンパー商会と手を組み、各地へと物資を継続的に送る算段を立てたらしい。

 シャンパー商会を動かす為に、フリードルは有力貴族達──ララルス侯爵家とオリベラウズ侯爵家とフューラゼ侯爵家と協力して、帝国議会で保身に走る者達を黙らせ国庫をも解放させる事に成功した。
 魔物の行進(イースター)の被害を被った国民を救済すべく、目が眩みそうになる大金をシャンパー商会に約束し、シャンパー商会の倉庫を解放させたらしいのだ。

 シャンパー商会が膨大な物資の保管された倉庫を解放し、必要な物を必要な場所に提供すると宣言して実際に行動に移したからか、依然として戦う者達の士気も高いまま。
 海からの脅威に関してはアルブロイト公爵家の私兵、白雨(はくう)騎士団と港町ルーシェを根城とする組織スコーピオンが抑え込んでいるらしい。

 そのお陰なのか、まだ二週間程しか経ってないからなのか……どちらなのかは分からないが、今のところフォーロイト帝国内の被害はかなり抑えられている。
 これらは全て、皇帝から統帥権を与えられたフリードルの采配だった。

 正直、いやかなり、驚いた。
 まさかフリードルがここまで国民の為に動くなんて。と開いた口が塞がらなかった程だ。
 国民達から徴収して来た血税をきちんと国民達へと還元するなんて、本当に予想外だった。
 まだ二週間程しか経ってないが、既に巷ではあのフリードルが良き統治者とかなんとか呼ばれているぐらいだ。
 ……私が変わったように、フリードルも変わってきてるって事なのかな。本当にそうだったらいいのにね、と自分の胸に──精神世界の奥底に眠るアミレスへと語りかける。

「主君、ご報告が。帝都近郊の魔物討伐には諜報部の者達があたっていたのですが、一週間程前から妙に魔物の数が倍増しているらしく、流石に応援が欲しいなどと嘆いておりました。尻を叩いて来ましょうか?」

 様子見から戻って報告に来たかと思えば……元同僚相手になんて事言うの、この子は。

「そんな事しちゃ駄目よ。でも、そうね……応援が必要なら私が出ようかしら。どうせそのうち戦いに行かされるのなら、早いうちから行っておけば被害も減らせるでしょうし」
「っ、なりません! 主君が前線に出るなど……!!」
「でも戦える人が前線に出た方が良くない?」
「何が起きるやも分からぬ状況で、もし万が一御身に何かあればどうなさるのですか?」
「でも、貴方達がいるじゃない。私だって死にたくはないし、ほどほどに気をつけるわよ」
「ですからそういう問題では──!」

 アルベルトと軽い言い合いになる。相変わらず心配性だなあと思っていたら、傍に控えていたイリオーデが珍しく会話に割って入ってきて。
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