だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「お言葉ですが、王女殿下は我々私兵団の事をお忘れなのですか?」

 その言葉に、私は唖然としてしまった。

「私は王女殿下の騎士ですが……同時に、あの私兵団の一員でもあります。ですので私兵団を代表して、進言させていただきたく思います」
「進言……?」
「我々は、貴女様の兵となったあの日からずっと──貴女様の命で戦う覚悟は出来ております。ですのでどうか、我々をお使い下さい。ただ一言、貴女様に『魔物と戦え』と命じられたならば……我々は喜んでその命令を遂行致します」

 イリオーデは堂々とした口調で言い切った。
 私兵団の皆が、イリオーデのような変わった人じゃない事ぐらい私だって知っている。本当は戦いなんて得意じゃない人がいる事だって分かっている。
 それなのに。イリオーデはそうする事が当然かのように、私兵団全員で危険を冒すと言った。
 私よりもずっと長い間、彼等と共に暮らして来たイリオーデが。私よりも遥かに彼等を理解しているイリオーデが。
 彼の強い意思の篭った凛々しい瞳が、それがまるで私兵団の総意かのように錯覚させてくる。

「……分かった。帝都を守る為に、私兵団の皆にも戦って貰いましょう」

 アルベルトとイリオーデがどこかホッとしたような表情になる。
 だがここで私は、でも、と言葉を続けた。

「私も出るわ。この国の王女として、私は民を守らないといけないもの」

 ここまでハッキリと、これ以上は私も引き下がらないと主張したからか、二人はここで押し黙り静かに首肯した。
 善は急げと言う。
 早速、以前体の成長に合わせて新調したシャンパー商会製の特注軍服(オーダーメイド)に着替え、フォーロイト家の紋章が入ったマント──皇族専用のマントを羽織る。
 侍女達に頼み、邪魔にならない程度に王女らしい髪型にセットして貰った。何故なら私は、これから『帝国の王女』として戦場に立つから。
 愛剣白夜を腰に帯び、新たに貰った短剣(ナイフ)を懐にしまう。
 準備を終え、うっとりするような表情の侍女達に見送られながら私は部屋を出た。

 ミシェルちゃんの村が心配だが、多分その辺はカイルが何とかしてくれている事だろう。そもそも、今はそんな他所の事を心配している余裕なんて無いし。
 とにかく私は、この国を守る為に私に出来る限りの事をしなければ。

「──だーかーらァッ! お前が魔界の扉を閉めれば全部丸く収まる話だっつってんだろ!? お前の不始末でこうなってるんだからお前が責任持ってなんとかしろよ!!」
「ぎゃあぎゃあうるさいなぁ。さっきから言ってるけど無理なものは無理。だいたい、誰かさんの呪いの所為で力を根こそぎ持っていかれたから、今の僕には魔界の扉に干渉するだけの力なんて残ってないし。もう一度干渉するにはあと百年はかかるんじゃないかな」
「はぁあああああああっ!? マジでふざけんなよお前!!」

 玄関へと向かう途中の事だった。シュヴァルツとクロノが唾を飛ばす勢いで言い争っているのを私達は目撃した。
 シュヴァルツがなんだか凄く荒れ狂っているわ。
 なんとなく、実はかなり口が悪いのを私達の前では抑えてるんだろうなとは思っていたけれど……想像以上に悪かったわ。

「責任云々と僕に問うならまず君が自分の役割を果たせよ、穀潰し」
「アァン? 何だとこのクソ野郎」
「あにうえー。シュヴァルツー。やかましいぞー」

 シュヴァルツを見下すクロノと、頬を引き攣らせてクロノを睨むシュヴァルツ。そんな二人を少し離れた所から退屈そうに眺めるナトラ。
 その光景に呆気に取られていると、

「む、アミレス──その格好はなんなのじゃ?」

 こちらに気づいたナトラが駆け寄って来る。
 留守番を言いつけられた幼子のような表情で見上げてくるナトラに、思わず心臓がキュッと締め付けられた。
 きっと、私の心配をしてくれているのだろう。
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