だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
♢♢


 魔物と戦いはじめてから、どれくらい経っただろうか。
 次から次へと押し寄せてくる魔物達。今のところは、どれも取るに足らない弱さだから大抵一撃で倒せるのだけど……何せ数が凄まじい。
 兵士達や諜報部の人達に私兵団の皆、更には私達も戦っているというのに、魔物は増え続ける一方。
 一体何がどうなってるんだと思いつつ、ローズの支援やレオの采配に助けられながらずっと剣を振り続けていた。

 魔物の返り血を全身に浴びて、血なまぐさくなってきた頃。
 これまでの魔物達とは毛色の違う、明らかに強そうな魔物が虚空に突如として(・・・・・)出現した。
 それに気づいた時、私は別の魔物を刺したばかりだった。だが、そのような私の事情を魔物が考えてくれる筈もなく。
 魔物は迷いなく私目掛けて攻撃を放って来た──が、しかし。その攻撃は、私の目の前で瞬く間に氷と化して砕け散った。
 私、まだ何もしてないのに。一体何が……。

「戦場で何を呑気に立ち尽くしているんだ、お前は」

 フリードル……!?
 白い息を吐きながら、フリードルが悠然とこちらに向かって歩いて来る。
 どうやら、先程のあれはフリードルによるものだったらしい。だがしかし、この男は皇帝から統帥権を与えられて机に縛り付けられている筈……何でこんな場所に?

「……別に立ち尽くしてなんていません」

 フリードルの登場に少し動揺しつつも、魔物から白夜を抜いて剣についた血を振り落とす。

「まあ、なんでもいい。そのマントを羽織っているという事は──お前も、皇族としての役割を果たしに来たのだな」
「そうですが、何か問題でも?」
「ふ、逆だ。たまにはこういった戦闘も面白いかもしれないと思ってな」

 フリードルが意味不明な事を口走り、気味悪く微笑を浮かべている。
 この男が何を考えているのか分からない。
 懐疑的な目でじっとフリードルを睨んでいた時、ふと背後にいくつもの魔物の気配を感じた。だがそれらはフリードルによって氷塊へと変えられ死に絶える。
 少しばかり後ろを振り向き、予備動作無しに全てを凍結させる氷の魔力の恐ろしさに唖然としていたのだが……そんな私の肩にフリードルが冷たい手を置いた。
 何事かと体を飛び跳ねさせ、慌てて距離を取る。
するとフリードルはぽかんとした顔で固まり、

「ふっ、はは……何だ? 猫か何かなのか、お前は」

 何故か笑い出す。
 暫く、冷酷な魔王かのような笑い声をその場に響かせて、フリードルがようやく落ち着きを取り戻したかと思えば、

「アミレス・ヘル・フォーロイト。僕に背中を預けろとは言わない──ただ、この国を守るべく共に戦うぞ」

 この男はまた理解不能な事を宣った。
 フリードルの変化についていけないのだが……その言葉には激しく同意する。この国を守る為には、確かにフリードルと力を合わせて共に戦った方がいいだろう。
 でもまさかそれを、フリードルの方から提案されるとは…………本当に変わったんだな、フリードルも。

「分かりました。ああそうだ。兄様、私の足を引っ張らないで下さいね」
「ほぅ、言うようになったな。お前こそ僕の邪魔にはならないでくれよ」

 まさか、こんな日が来るなんて。
 フリードルの隣に立って、剣を構えて、同じ方向を見て共通の敵に立ち向かう。そんな──……ゲームの最後の方にあったイベントのような状況が、私達に訪れるなんて。
 八年前の私に言っても、きっと信じてもらえないんだろうな。
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