だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
370.闇裂くは晴天
積み上がる死体。それは、人も魔物も混ざりに混ざった肉塊の山。
魔物の行進が発生しているものの、彼等は魔物に襲われた被害者という訳ではない。彼等は全て、この数日で僕が殺した人間達だった。
魔物の死体は、そこらじゅうで暴れていて五月蝿かったので、鬱陶しさのあまりついでに殺しただけのものです。
「あれだけの魔物をものの一瞬で……」
「返り血一つ浴びずにあの数の人間を……?」
「あれが、無情の皇帝の側近──」
「お、おい。あの人、魔法使ってなかったよな? 魔法も使わず、純粋な剣術だけであんな事が可能なのか?」
「化け物だ……っ」
この領地の者達が、僕を見てはひそひそと話す。その全てがちゃんと聞こえているんだが……どうでもいいか。
長さの違う二本の剣についた血を振り落とし、腕を交差させて腰から提げた鞘に収める。
こうして戦うのは十数年振りだけど、案外まだまだいけるものだ。どいつもこいつも箸にも棒にもかからないような連中だったし。
何より、僕は元々対人戦の方が得意ですからね。
「け、ケイリオル卿! 確かに領主やその協力者達は不正を働いておりましたが、この場で殺す必要などあったのですか……? 法の裁きを下す程度に済ませてやれば……」
領主の不正にも気づけなかった愚鈍な召使いが、何を偉そうな事を言っているのだろうか。
「何故、そのような手間をかける必要が? 彼等は陛下に背いた罪人です。そのような存在に、我々役人の貴重な時間を多く費やすなど業腹ではありませんか。であれば、こうして特殊審判権を持つ僕が出向きその場で罪人の首を落とした方がずっと早い。ね、簡単な話でしょう?」
「え……と、その……」
「ああ、もしや……罪人達の断罪に来たのが僕一人だったから、処罰も軽いものだと思われましたか? ふふ、逆ですよ、逆。貴方達のようなたかが罪人風情の移送に騎士を動員するなど無駄の極み。僕がその場で殺してしまった方が色んな手間が省けますからね」
顔を青くして顎を震えさせる男に詰め寄り、布の下でにこりと笑ってみる。どうせ、誰にも見られないのだから問題はない。
「分かりますか? 僕しか来なかったのではなく、僕一人で充分だったのです。いくつもの首を落とす事も、目に付いた魔物を殲滅する事も……わざわざ騎士を派遣してやる必要の無い、些事なんですよ」
懇切丁寧に説明してさしあげると、何度も何度も首を縦に振り、男は真っ青な顔のまま一目散に逃げ出した。
「さて、どうしましょうかね。罪人への粛清はあらかた済んでしまいましたし、帝都に戻りましょうか」
そう呟き踵を返した時。僕の仕事着の裾をギュッと掴み、引き止める者がいた。
「おやおや、君はもしや……領主のご子息ですか?」
涙をボロボロと流し、怒りと混乱を蓄えた瞳でこちらを見上げる幼子。やけに身なりがいい事と、目の色が罪人と同じである事からそう判断した。
「っそうだ! なんで、なんでとうさまを殺したんだ! とうさまはなにも悪いことをしてないだろ!!」
大きな声を上げて、子供は僕の足を殴った。善悪の区別がまだつかない幼子だからこそ、このような行動に出られるのだろう。
しかし……たかが父親が亡くなった程度の事で、よくこんなに喚くなあ。
「君は、まだ幼いから何が悪くて何が善い事なのかも分からないのでしょう。君の父親が犯した罪も、そして君自身が犯している愚行も……まだ理解が及ばないのですね」
「──とうさまがおかした、罪?」
子供の握り拳を手袋越しに包み込み、優しく語りかけた。すると子供はようやく大人しくなり、攻撃の意思が無くなりつつあるように見えましたので、膝を折って目線を合わせてあげた。
目線を合わせたと言っても、僕にしかそれは分かりませんけどね。
「えぇ。君の父親は、あろう事か陛下に背くという罪を犯しました。それはこの国で最も許されざる罪。万死に値するものです」
「で、でも……だからってあんな、首を切るなんて……っ」
「あれはまだ慈悲ある殺害方法ですよ? 本当なら、もっと時間をかけてゆっくりとじっくりと、陛下に背いた罪を償わせるべく苦痛の伴う処刑方法を取ったのですが……生憎と、今は僕も忙しくて。なので仕方無く、一撃で死なせてやったんですよ」
そう。彼に背を向けた罪をたかが斬首程度の罰で済ませてやっているだけ喜んで欲しいぐらいだ。
時間があれば、自ら死を切望したくなるような苦しみを味合わせて嬲り殺してやるのに。
なんの痛みも苦しみもない斬首で一瞬で終わらせてやったんだ。遺族として……父親の安楽死をもっと喜んでやってはいかがですか?
魔物の行進が発生しているものの、彼等は魔物に襲われた被害者という訳ではない。彼等は全て、この数日で僕が殺した人間達だった。
魔物の死体は、そこらじゅうで暴れていて五月蝿かったので、鬱陶しさのあまりついでに殺しただけのものです。
「あれだけの魔物をものの一瞬で……」
「返り血一つ浴びずにあの数の人間を……?」
「あれが、無情の皇帝の側近──」
「お、おい。あの人、魔法使ってなかったよな? 魔法も使わず、純粋な剣術だけであんな事が可能なのか?」
「化け物だ……っ」
この領地の者達が、僕を見てはひそひそと話す。その全てがちゃんと聞こえているんだが……どうでもいいか。
長さの違う二本の剣についた血を振り落とし、腕を交差させて腰から提げた鞘に収める。
こうして戦うのは十数年振りだけど、案外まだまだいけるものだ。どいつもこいつも箸にも棒にもかからないような連中だったし。
何より、僕は元々対人戦の方が得意ですからね。
「け、ケイリオル卿! 確かに領主やその協力者達は不正を働いておりましたが、この場で殺す必要などあったのですか……? 法の裁きを下す程度に済ませてやれば……」
領主の不正にも気づけなかった愚鈍な召使いが、何を偉そうな事を言っているのだろうか。
「何故、そのような手間をかける必要が? 彼等は陛下に背いた罪人です。そのような存在に、我々役人の貴重な時間を多く費やすなど業腹ではありませんか。であれば、こうして特殊審判権を持つ僕が出向きその場で罪人の首を落とした方がずっと早い。ね、簡単な話でしょう?」
「え……と、その……」
「ああ、もしや……罪人達の断罪に来たのが僕一人だったから、処罰も軽いものだと思われましたか? ふふ、逆ですよ、逆。貴方達のようなたかが罪人風情の移送に騎士を動員するなど無駄の極み。僕がその場で殺してしまった方が色んな手間が省けますからね」
顔を青くして顎を震えさせる男に詰め寄り、布の下でにこりと笑ってみる。どうせ、誰にも見られないのだから問題はない。
「分かりますか? 僕しか来なかったのではなく、僕一人で充分だったのです。いくつもの首を落とす事も、目に付いた魔物を殲滅する事も……わざわざ騎士を派遣してやる必要の無い、些事なんですよ」
懇切丁寧に説明してさしあげると、何度も何度も首を縦に振り、男は真っ青な顔のまま一目散に逃げ出した。
「さて、どうしましょうかね。罪人への粛清はあらかた済んでしまいましたし、帝都に戻りましょうか」
そう呟き踵を返した時。僕の仕事着の裾をギュッと掴み、引き止める者がいた。
「おやおや、君はもしや……領主のご子息ですか?」
涙をボロボロと流し、怒りと混乱を蓄えた瞳でこちらを見上げる幼子。やけに身なりがいい事と、目の色が罪人と同じである事からそう判断した。
「っそうだ! なんで、なんでとうさまを殺したんだ! とうさまはなにも悪いことをしてないだろ!!」
大きな声を上げて、子供は僕の足を殴った。善悪の区別がまだつかない幼子だからこそ、このような行動に出られるのだろう。
しかし……たかが父親が亡くなった程度の事で、よくこんなに喚くなあ。
「君は、まだ幼いから何が悪くて何が善い事なのかも分からないのでしょう。君の父親が犯した罪も、そして君自身が犯している愚行も……まだ理解が及ばないのですね」
「──とうさまがおかした、罪?」
子供の握り拳を手袋越しに包み込み、優しく語りかけた。すると子供はようやく大人しくなり、攻撃の意思が無くなりつつあるように見えましたので、膝を折って目線を合わせてあげた。
目線を合わせたと言っても、僕にしかそれは分かりませんけどね。
「えぇ。君の父親は、あろう事か陛下に背くという罪を犯しました。それはこの国で最も許されざる罪。万死に値するものです」
「で、でも……だからってあんな、首を切るなんて……っ」
「あれはまだ慈悲ある殺害方法ですよ? 本当なら、もっと時間をかけてゆっくりとじっくりと、陛下に背いた罪を償わせるべく苦痛の伴う処刑方法を取ったのですが……生憎と、今は僕も忙しくて。なので仕方無く、一撃で死なせてやったんですよ」
そう。彼に背を向けた罪をたかが斬首程度の罰で済ませてやっているだけ喜んで欲しいぐらいだ。
時間があれば、自ら死を切望したくなるような苦しみを味合わせて嬲り殺してやるのに。
なんの痛みも苦しみもない斬首で一瞬で終わらせてやったんだ。遺族として……父親の安楽死をもっと喜んでやってはいかがですか?