だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
371.闇裂くは晴天2
♢♢
「ぜぇ……はぁ……あー、オニイサマー、そっちはどうですかー」
「はぁ……こちらは問題無い。お前こそどうなんだ、息がだいぶあがっているが」
「き、気の所為ですよ。まだまだ全然余裕だし。戦えるし」
「…………身の程を弁えておいた方が身の為だぞ」
「は?」
魔物の血と死骸とで埋め尽くされた平原。そこで剣を地面に突き立てて、私は自分の体力の無さを呪っていた。
ローズが常に回復し続けてくれているとはいえ、流石に疲れる。どうやらローズの歌の治癒は精神的疲労や蓄積したそれを癒す事は出来ないようで、私は蓄積された全身の疲労と精神的疲労、そして体力の少なさに足を引っ張られていた。
私の体力が例えばバケツ一杯分だとして……ローズが、中身の水が無くなったそばから新たに水を入れてくれたとしても、その内容量は変わらず。
寧ろほぼノンストップで戦い続け、蓄積された疲労からか水の減る勢いがどんどん激しくなっていっている。
簡単に言えば──私が貧弱な癖に無理に戦い続けているからか、ローズの治癒が追いつかなくなりつつあるのだ。
そのくせ、フリードルの奴はまだまだ余裕っぽい。何あの言い方超むかつく。
夜になったら一旦仕事する為に戻って早朝にまた来るような生活してて、なんでそんなに戦えるのよ。
私だって一応夜は休んでるのに。それなのに何故こんなにも差が……!
むかつく、超むかつく! 私だって凄く頑張ってるのに、何でこんな余裕綽々な奴に馬鹿にされなきゃいけないのよ!
「ご忠告どうも痛み入りますぅ! でも兄様に身の程を弁えろとか言われる筋合いはございませんー!」
べーっ、と威嚇してぷいっとそっぽを向く。
相も変わらず増え続ける一方の魔物を倒すべく、私はまた剣を構えたのだ。
「なっ……いや、違っ…………」
何か後ろから、フリードルの不本意極まりないとでも言いたげな声が聞こえて来たが無視無視。
……気分としてはまだ戦えるんだけど、どうにも体の限界が近づいてきている。
ローズがいなければ、もっと早く限界がきていたから彼女がいてくれて良かった。お陰で、ほぼぶっ続けで二日間も戦い続けられた。
「あー……しんど……」
本当はもうとっくに動かなくなっていたであろう、私の手足。それを見て、無意識のうちにそんな言葉が漏れ出ていた。
一応、毎晩治癒効果のある湯に浸かってはみているのだけど……今のところ効果を感じられない。
ローズがいてくれて本当に良かったと、しみじみ思うわ。
「うわぁああッ!?」
すぐ近くから兵士の悲鳴が上がる。
その声に引っ張られるように顔を向けると、どう考えてもこんな所にいる筈のない強大な魔物が兵士の前にいた。
あれは──何だったかしら……そう、岩石竜! 竜の系譜に連なる混ざりもののドラゴン。本来、空気中の魔力が濃い洞窟の奥深くなどに生息するという存在が、なんでこんな地上に!?
これも魔物の行進の影響だって言うの?
「っ、間に合え!!」
魔物の死骸を踏みしめ、全速力で疾走する。
岩石竜の出現に完全に腰を抜かしてしまった兵士を「危ないから退いて!」と言って蹴り飛ばし、剣を構える。
万全の状態ならまだしも、今のこの体力で果たして岩石竜と戦えるのか?
不安だけど、イリオーデもアルベルトもそれぞれ何かやばそうな魔物と出くわして交戦してるみたいだし、一人で何とかするしかないか。
そう、覚悟を決めた時。
「離れろ、危ないぞ」
空から聞き慣れた声が聞こえて来た。
その直後、ビリビリと響く轟音と共に晴天から雷が降り注いだ。
それは岩石竜を貫き、かの魔物の動きを封じてみせた。その衝撃波と静電気のようなものは少し離れた場所にいた私にまで及ぶ。
何事かと、誰もがこちらに意識を向けた時。激しい音を鳴らす帯電した黒い剣を手に──上空から、マクベスタが落ちて来た。
だがそれは自由落下などではなく。
何度も体を回転させる事で剣にかかる力を増幅させ、その勢いも加速度的に増す。まるで曇天を雷が走るような雷霆の如きその一閃は、岩石竜の固い体をいとも容易く打ち砕いてしまった。
「怪我はないか、アミレス。遅れてしまってすまない」
ボロボロと。まるでケーキかのように呆気なく崩れ去る岩石竜に背を向けて、鮮やかに着地したマクベスタはこちらの心配をして来た。
どこからともなく黒に金の装飾が施された鞘を取り出し、それに剣を収めながら。
あまりにも予想外すぎる事態の連続に……開いた口が塞がらないでいると、
「……アミレス? どうしたんだ、まさか感電したりして──っ」
マクベスタが一気に顔を青ざめさせた。
咄嗟の事に反応出来ず呆然としていたから、マクベスタに心配をかけてしまったらしい。
「あっ、えと、大丈夫だよ! ただ……マクベスタが上から落ちて来てびっくりして……というか、貴方がどうしてここに?」
だってマクベスタは、オセロマイトの王子じゃない。なんでうちの国の防衛戦線に貴方が……。
「本当はもっと早くお前の手伝いをするつもりだったんだが、親善の為の使節という建前が存外邪魔でな。父上に手紙を出してオセロマイトの現状を聞きつつ、オレがフォーロイト帝国の為に戦う事を許してもらったんだ」
丁度許可証を持っているからと、マクベスタは懐から一通の封筒を出して見せてくれた。
本当にオセロマイト王からの許可の旨が記されている。この二週間でそんな事してたの? と戸惑いつつマクベスタを見上げる。
そこで見てしまった。何体もの魔物がマクベスタへと襲いかかろうとしては、晴天から降り注いだ雷によって刹那のうちに炭へと変えられた様を。
だがマクベスタはそんな事全く気にもとめず、にこやかに話を続けた。
「その許可証を持って司法部とかを訪ねて、今しがたようやく帝国からも戦っていいと許可をもらえて。だから城から直接飛んで来たんだ」
「え、飛んで来た!?」
「ああ。よく分からないが、雷の魔力を使えば空を飛べるみたいなんだ。オレも以前窓から飛び降り──……落ちた時に初めて知ったよ」
「どっ……どういう事?!」
マクベスタが言うには、あの黒い剣は地面に落としても何故か落ちず直前で宙に浮くらしい。それは私も実際に見せてもらった。
そして。以前たまたま、その剣を持った状態で窓から落ちたマクベスタ。
持ち主の危険に呼応したのかは分からないが……その時剣に蓄えられていた雷の魔力が膨れ上がり、マクベスタが地面に落ちる前に剣が空中に浮かびその命を救ったらしいのだ。
その時の事を思い出したマクベスタは、『じゃあ剣にたくさん魔力を込めたら飛べるんじゃないか?』と思ったらしく。
実際にやってみたところ何故か成功。原理はよく分からないが、飛べるならまあいいか。と納得し、雷の魔力の込めようによっては移動出来る事まで判明したとかで……それで、城からここまで直接飛んで来たらしい。
ファンタジー世界だからか、空を飛ぶ事なんて私が思っているよりも簡単らしい。
──いやいや。だとしても、一体何をしているんだこの子は。マクベスタがどんどんカイルみたいなチャレンジャーな思考回路になってきていて、ちょっぴり不安になるわ……。
「ぜぇ……はぁ……あー、オニイサマー、そっちはどうですかー」
「はぁ……こちらは問題無い。お前こそどうなんだ、息がだいぶあがっているが」
「き、気の所為ですよ。まだまだ全然余裕だし。戦えるし」
「…………身の程を弁えておいた方が身の為だぞ」
「は?」
魔物の血と死骸とで埋め尽くされた平原。そこで剣を地面に突き立てて、私は自分の体力の無さを呪っていた。
ローズが常に回復し続けてくれているとはいえ、流石に疲れる。どうやらローズの歌の治癒は精神的疲労や蓄積したそれを癒す事は出来ないようで、私は蓄積された全身の疲労と精神的疲労、そして体力の少なさに足を引っ張られていた。
私の体力が例えばバケツ一杯分だとして……ローズが、中身の水が無くなったそばから新たに水を入れてくれたとしても、その内容量は変わらず。
寧ろほぼノンストップで戦い続け、蓄積された疲労からか水の減る勢いがどんどん激しくなっていっている。
簡単に言えば──私が貧弱な癖に無理に戦い続けているからか、ローズの治癒が追いつかなくなりつつあるのだ。
そのくせ、フリードルの奴はまだまだ余裕っぽい。何あの言い方超むかつく。
夜になったら一旦仕事する為に戻って早朝にまた来るような生活してて、なんでそんなに戦えるのよ。
私だって一応夜は休んでるのに。それなのに何故こんなにも差が……!
むかつく、超むかつく! 私だって凄く頑張ってるのに、何でこんな余裕綽々な奴に馬鹿にされなきゃいけないのよ!
「ご忠告どうも痛み入りますぅ! でも兄様に身の程を弁えろとか言われる筋合いはございませんー!」
べーっ、と威嚇してぷいっとそっぽを向く。
相も変わらず増え続ける一方の魔物を倒すべく、私はまた剣を構えたのだ。
「なっ……いや、違っ…………」
何か後ろから、フリードルの不本意極まりないとでも言いたげな声が聞こえて来たが無視無視。
……気分としてはまだ戦えるんだけど、どうにも体の限界が近づいてきている。
ローズがいなければ、もっと早く限界がきていたから彼女がいてくれて良かった。お陰で、ほぼぶっ続けで二日間も戦い続けられた。
「あー……しんど……」
本当はもうとっくに動かなくなっていたであろう、私の手足。それを見て、無意識のうちにそんな言葉が漏れ出ていた。
一応、毎晩治癒効果のある湯に浸かってはみているのだけど……今のところ効果を感じられない。
ローズがいてくれて本当に良かったと、しみじみ思うわ。
「うわぁああッ!?」
すぐ近くから兵士の悲鳴が上がる。
その声に引っ張られるように顔を向けると、どう考えてもこんな所にいる筈のない強大な魔物が兵士の前にいた。
あれは──何だったかしら……そう、岩石竜! 竜の系譜に連なる混ざりもののドラゴン。本来、空気中の魔力が濃い洞窟の奥深くなどに生息するという存在が、なんでこんな地上に!?
これも魔物の行進の影響だって言うの?
「っ、間に合え!!」
魔物の死骸を踏みしめ、全速力で疾走する。
岩石竜の出現に完全に腰を抜かしてしまった兵士を「危ないから退いて!」と言って蹴り飛ばし、剣を構える。
万全の状態ならまだしも、今のこの体力で果たして岩石竜と戦えるのか?
不安だけど、イリオーデもアルベルトもそれぞれ何かやばそうな魔物と出くわして交戦してるみたいだし、一人で何とかするしかないか。
そう、覚悟を決めた時。
「離れろ、危ないぞ」
空から聞き慣れた声が聞こえて来た。
その直後、ビリビリと響く轟音と共に晴天から雷が降り注いだ。
それは岩石竜を貫き、かの魔物の動きを封じてみせた。その衝撃波と静電気のようなものは少し離れた場所にいた私にまで及ぶ。
何事かと、誰もがこちらに意識を向けた時。激しい音を鳴らす帯電した黒い剣を手に──上空から、マクベスタが落ちて来た。
だがそれは自由落下などではなく。
何度も体を回転させる事で剣にかかる力を増幅させ、その勢いも加速度的に増す。まるで曇天を雷が走るような雷霆の如きその一閃は、岩石竜の固い体をいとも容易く打ち砕いてしまった。
「怪我はないか、アミレス。遅れてしまってすまない」
ボロボロと。まるでケーキかのように呆気なく崩れ去る岩石竜に背を向けて、鮮やかに着地したマクベスタはこちらの心配をして来た。
どこからともなく黒に金の装飾が施された鞘を取り出し、それに剣を収めながら。
あまりにも予想外すぎる事態の連続に……開いた口が塞がらないでいると、
「……アミレス? どうしたんだ、まさか感電したりして──っ」
マクベスタが一気に顔を青ざめさせた。
咄嗟の事に反応出来ず呆然としていたから、マクベスタに心配をかけてしまったらしい。
「あっ、えと、大丈夫だよ! ただ……マクベスタが上から落ちて来てびっくりして……というか、貴方がどうしてここに?」
だってマクベスタは、オセロマイトの王子じゃない。なんでうちの国の防衛戦線に貴方が……。
「本当はもっと早くお前の手伝いをするつもりだったんだが、親善の為の使節という建前が存外邪魔でな。父上に手紙を出してオセロマイトの現状を聞きつつ、オレがフォーロイト帝国の為に戦う事を許してもらったんだ」
丁度許可証を持っているからと、マクベスタは懐から一通の封筒を出して見せてくれた。
本当にオセロマイト王からの許可の旨が記されている。この二週間でそんな事してたの? と戸惑いつつマクベスタを見上げる。
そこで見てしまった。何体もの魔物がマクベスタへと襲いかかろうとしては、晴天から降り注いだ雷によって刹那のうちに炭へと変えられた様を。
だがマクベスタはそんな事全く気にもとめず、にこやかに話を続けた。
「その許可証を持って司法部とかを訪ねて、今しがたようやく帝国からも戦っていいと許可をもらえて。だから城から直接飛んで来たんだ」
「え、飛んで来た!?」
「ああ。よく分からないが、雷の魔力を使えば空を飛べるみたいなんだ。オレも以前窓から飛び降り──……落ちた時に初めて知ったよ」
「どっ……どういう事?!」
マクベスタが言うには、あの黒い剣は地面に落としても何故か落ちず直前で宙に浮くらしい。それは私も実際に見せてもらった。
そして。以前たまたま、その剣を持った状態で窓から落ちたマクベスタ。
持ち主の危険に呼応したのかは分からないが……その時剣に蓄えられていた雷の魔力が膨れ上がり、マクベスタが地面に落ちる前に剣が空中に浮かびその命を救ったらしいのだ。
その時の事を思い出したマクベスタは、『じゃあ剣にたくさん魔力を込めたら飛べるんじゃないか?』と思ったらしく。
実際にやってみたところ何故か成功。原理はよく分からないが、飛べるならまあいいか。と納得し、雷の魔力の込めようによっては移動出来る事まで判明したとかで……それで、城からここまで直接飛んで来たらしい。
ファンタジー世界だからか、空を飛ぶ事なんて私が思っているよりも簡単らしい。
──いやいや。だとしても、一体何をしているんだこの子は。マクベスタがどんどんカイルみたいなチャレンジャーな思考回路になってきていて、ちょっぴり不安になるわ……。