だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「わたしが所持している魔眼は延焼の魔眼と、爆裂の魔眼の二つ。一目視れば全てを燃やし尽くせる延焼の魔眼と、火の魔力さえあれば全てを爆破出来る爆裂の魔眼……それが、わたしの持つ魔眼の能力です。これらがあれば、護衛など不要ですわ」

 ばくれつのまがん? 何それ、初耳なんだけど。

「二つも魔眼を所持しているだと……? そんな事が有り得るのか」
「現にわたしが二つの魔眼を所持しているのですから、有り得ない事ではないのでしょう」

 ゲームよろしく険悪な空気を醸し出す二人を見て私がおろおろとしていたら、ゾワッ……と全身が粟立つかのような、底知れない悪寒が私達に襲いかかった。
 首を締められたかのような息苦しさと、吐き気を催す程に濃厚でどす黒い魔力。それらは、ある一点(・・・・)から溢れ出していた。

「……──なに、あれ」

 その平原にいた誰もが、空を見上げていた。
 嵐の前の静けさかのように青々と広がる晴天。その光景の真ん中に、明らかに異質な(ひず)みがある。
 黒くて、暗くて。
 大公領でアルベルトが使った魔法のような───いや、それよりもずっと恐ろしい……この世の闇全てを濃縮したかのような、見ているだけで恐怖感を覚えさせる謎の穴。
 そこから、まるで液体が溢れ出すかのように、瘴気のような魔力がドロドロと地面に零れ落ちていく。

 開いた口が塞がらず、立ち尽くしていた。するとその穴を起点に、空に亀裂が走る。
 大きな目が開かれたかのように空がボロボロと崩れだし、その直後そこから夥しい量の魔物が飛び出して来た。
 それらの中には、これまで相手をしてきた魔物とは比べ物にならないぐらい強大な魔物も散見される。何が起きているのかさっぱり分からないが、この状況が非常に不味いという事だけは確かだった。

「──ッ! イリオーデ、今すぐ私兵団と兵士達を下がらせて!! ルティは拠点を守って!!」

 咄嗟に大声で指示を飛ばす。私に出せる限りの声を出したからか、イリオーデとアルベルトにも無事にこの声は届いたらしく、二人はすぐさま動き出した。
 魔物と戦っていた私兵団の皆と兵士達を拠点へ誘導し、アルベルトが拠点を覆うように結界を張る。これで被害は減らせるだろう。
 クロノと対峙した時に近しい恐怖──……ううん、神様に近い存在でもなんでもない、本能のままに生きる魔物達の方が理性あるクロノよりもずっと怖い。
 だが、そんな恐怖に震えている暇はない。
 これこそが魔物の行進(イースター)という名の災害の本領だと言うのなら。私達人類は、どうにかしてこの危機を乗り越えるしかないのだ。
 出し惜しみなんて、していられるか。

「……お願い、シルフ。力を貸して」

 迫り来る恐怖を前に足が竦む。だけど、怯えて立ち止まる訳にはいかない。

「──いいよ。ボクの魔力、心ゆくまで使っておくれ」

 私の呼び声に応えるかのように光の粒子を纏い姿を見せたシルフは、どこか物悲しい表情で私の額に口付ける。
 体中から力が溢れる。これならば、魔法を乱発しても魔力欠乏で死んだりはしないだろう。

「精霊……」

 すると、フリードルの呟きが聞こえてきた。
 少し後ろを振り向いて、私は冷や汗の浮かぶ頬に無理やり笑みを貼り付けた。

「私は戦いますけど、兄様はどうなさいますか?」
「……──は。当然、敵を滅ぼすべく戦うまでだ」
「そうですか…………せいぜい死なないように気をつけて下さい」

 そう呟きながら、踵を返す。
 白夜を構え魔物の群れに向かって地面を蹴り、それと同時に魔法を使った。
 以前、威力がいまいちだから実用性はあまり……と考えていた槍雨(やりさめ)。これを少し改良して、降り注いだ雨を凍らせて落とすのではなく魔法陣から直接射出した無数の水圧砲(ウォーターアロウ)を凍らせる事により、氷の弾丸を雨のように降らせる事に成功した。
 名付けて──……氷雨(ひさめ)よ!
 氷雨(ひさめ)は次々と魔物達の体を抉り貫き、広範囲の敵に瀕死の重症を与え、更には弱い魔物達を一度に殲滅する事も出来た。
 だがこれで満足してはいけない。何故なら、まだ生きている魔物達が多くいる。
 敵が生きている以上確実に息の根を止めるまで安心してはならないと、師匠から教わった。
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