だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「お待ち下さい、王城まで馬車でお送り致します!」
「お気遣いありがとうございます、ですが必要ありません」

 伯爵が馬車の手配をしようと執事さんに命令するのを見て、私はすかさずそれを止めた。
 何故……と困惑する伯爵に私は事情を話す。

「……馬車で戻ったりすれば、私が抜け出した事が知られてしまいます。本来私は皇宮より出るなと皇帝陛下より言いつけられている身です、こうして皇宮の外にいる事が異常事態なのです。なので誰にも見つからないよう戻る必要があるのですよ」
「そうだったのですか……差し出がましい真似を……」
「いいえ、そのような事は……伯爵の優しさは十分我が身に染み渡っております」

 私はちゃんと皇族らしく笑えているだろうか。今まで表舞台に出る事が無かったから、皇族らしい振る舞いにはいまいち自信が無い。
 そして私は、メイシアが持っていた帳簿を受け取り伯爵邸を後にする。その際門の外まで見送りに来てくれたメイシアを抱き締めて、私は笑顔で別れを告げた。

「また会いましょう、メイシア!」
「っ、うん!」

 メイシアは一生懸命手を振って見送ってくれた。私も、しばらくは後ろ歩きをしながらメイシアに向けて手を大きく振っていた。
 しかし途中で「危ないですよ」とリードさんに言われ、ちゃんと前を見て歩く事にした。

「……敬語は嫌だって先程言ったばかりだと思うのですが」

 誰に言うでもなく、私はそう呟いた。するとこれまた誰に言うでもない呟きが聞こえてくる。

「……しがない旅人の(わたくし)が、王女殿下相手に馴れ馴れしく接するなど不可能ですよ」

 ……これだから素性を明かしたくなかったのよ。せっかく友達になってくれたのに、せっかく良くしてくれたのに……私の身分一つで全部ボロボロになってしまうじゃない。
 せっかく仲良くなれたのに……。

「身分とか別に関係なくなーい?」

 気まずさからか、しんっ……と水を打ったように静かになっていた空気に、突然明るく無邪気な言葉が落とされる。
 その言葉に引かれるように私達はシュヴァルツの方を見た。

「身分とか関係なしに、話したい人と話して遊びたい人と遊んで仲良くなりたい人と仲良くなるものなんでしょ、人間って。そこに年齢とか性別とか身分とか関係ないじゃんー」

 シュヴァルツは、にこやかな笑みでやけに達観した物言いをした。
 それに唖然とする私達。ふとリードさんの方を見てみると、かなり困惑した様子で固まっていた。
 その様子を見て……私はつい、小さく吹き出してしまった。
 だって、あんまりにも不思議な絵面だったんだもの。大人が子供の発言に振り回されているようで……失礼だとは思うのだけれど、面白くてつい笑ってしまった。
 口元を腕で覆っているのに、ふふふっ、と笑い声が漏れ出てしまう。
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