だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
第五節・舞踏会編
385.冬染祭
十月を犠牲にした魔物の行進が終わってから、早くも二週間が経った。
徐々に近づく年の瀬と、国際交流舞踏会。それを目前に控えつつも、フォーロイト帝国はここ数年見なかった活気に溢れていた。
理由は簡単。現在帝都では異例の祭り、冬染祭が行われているからである。
本来予定されていたものは秋染祭という秋の中頃の祭りなのだが、国際交流舞踏会だの魔物の行進だのでうやむやになっていた。
密かに祭りを楽しみにしていた国民達には申し訳ないが、これは仕方無い……と思っていたところ、驚くべき事にフリードルが秋染祭ならぬ冬染祭の開催を皇帝に打診し、『魔物の行進で心労を積み重ねている国民の心を癒す為』という名目での祭りの開催を獲得。
十二月末に国際交流舞踏会が控えている為十一月の中頃に一週間程祭りを実施する──と、フリードルは国民の前で宣言した。
私への国民の支持が厚い事に焦りを覚えているのだろうか。近頃のフリードルは民草に寄り添う姿勢を見せつつある。あの絶対零度のフリードルが、だ。
これはきっといい変化なのだろう。私が変わった影響で、フリードルがゲームのような絶対零度の冷酷人間から、演技だとしても少しは人間味のある人間に変わってくれるのなら……私の生存に繋がるだろうから。
だからどうか、そのまま変わってくれ。あわよくば私の事など気にせずそのまま覇道を突き進んでくれ。
私は私で、生き残る為に貴方の邪魔にならない程度に好き勝手やるから。
…………とは、思っていたものの。
「妹よ、何が欲しい。欲しいものがあれば言え、いくらでも買ってやる」
──その変化は知らんて!!
隣を歩くフリードルが近くの屋台を一通り目で追い、何故か私に欲しいものはあるかと聞いてくる。
そう。驚くべき事に……私達は今、二人で冬染祭を見て回っているのである。
二人して魔法薬で髪の色を黒く染め、眼鏡をかけたり髪型を変えたりして変装した。名前呼びを封印した事もあり、完全に祭りの賑わいに溶け込めている。
どうしてこうなったのか。ことの始まりは数日前に遡る。
♢♢♢♢
魔物の行進より前に行う予定だった雪花宮の移動は、思ったよりも早く始まった魔物の行進の影響で延期されていた。
なので、色々と落ち着いた今改めて雪花宮の移動を敢行。
精霊&悪魔を召喚した(という事になっている)私は当然その作戦に参加。何故かシルフとシュヴァルツが張り合うように魔法を使ったので、我々の想像よりもあっさりと、簡単に、雪花宮エリアにある九つの宮殿全ての移動が完了してしまった。
勝手に高位悪魔を召喚していた事による貴族達からの私への白い目などは、この件で手のひら返しのように一転。
貴族達からは賞賛の声を向けられ、何故かシュヴァルツの存在も認められた。
だからか、シュヴァルツもシルフも近頃は平然と私と一緒に城の中を歩いていたりもする。ただでさえイリオーデとアルベルトが傍を歩いているので、私の周りはそれはもう顔面偏差値が高いことで。
あんまりにも顔のいい男達を引き連れて歩く私はいつの間にか、華のある人間を愛でる趣味のある王女…………と、社交界ではそう思われているらしい。
それはともかく。そうやっていがみ合うシュヴァルツやシルフを連れて、ケイリオルさんの手伝いで城に居た時だった。
何気に書類仕事がめちゃくちゃ得意なシュヴァルツとシルフの手伝いもあって、私とイリオーデとアルベルトだけで手伝っていた頃の比ではない勢いで、ケイリオルさんの部屋に積み重なった書類の山はどんどん処理されていく。
そんな時だった。フリードルがケイリオルさんを訪ねて来たのかと思えば、私の姿を見つけるやいなや、仁王立ちで問うて来たのだ。
「何か冬染祭の予定はあるのか」
「え? 普通に、友達と皆で回る予定でしたけど」
「その予定とはいつだ」
「いつ、って……初日と最終日は人が多いと分かってるので、中頃に三日程かけて屋台を制覇しようって皆で話していて…………あの、兄様に関係ありますか、これ?」
「関係あるから聞いたに決まってるだろう」
仏頂面のフリードルがこちらを見下ろしてくる。そんなフリードルを、私とケイリオルさん以外の四名は警戒しているようで。
いつでも手にかけられるとでも言いたげに、皆はフリードルを睨んでいた。
だがフリードルはそんな事を気にもとめず、爆弾発言を落とした。
「……──アミレス・ヘル・フォーロイト、冬染祭一日目は僕と共に祭りを回れ。これは仕事だ」
「…………は?」
耳を疑うような言葉が聞こえた。
共に祭りを回れ? あんたと私が? なにゆえ??
「は、はは……私の耳がおかしくなったのでしょうか。何か、天変地異のような言葉が聞こえたような」
「お前の耳も頭もおかしくなっていない。僕は確かに、共に祭りを回れと言ったんだ」
「何故そのような事に?」
フリードルの不可思議発言の連続にどよめく室内。
渦中の私には事の仔細を聞く権利がある筈だ。何故、どういう話の流れでそんな訳の分からない事になったのか……それを教えて貰わない事には、納得も出来ないというもの。
だから説明を求めたのだが。
「この祭りは僕が主催している事になっている。その為、無事に祭りが運営されているのか……それを主催として確認、視察する義務が生じた。だが、僕一人で視察をしても僕では視察の意味が無い──とケイリオル卿や部下に諭されたのでな。僕とは違った視点を持つお前にも協力を仰ぐ事にした。故に、これは仕事だ」
淡々と、まっすぐこちらを見下ろしてフリードルは経緯の説明を始める。
腑に落ちたような、腑に落ちないような。
そんな気分のままケイリオルさんの方を横目で見ると、「ああ!」といった声が。
さては今思い出したな?! と問い質したくなるような無責任な声を上げていらっしゃる。
お前の仕業か!!
と、ケイリオルさんを凝視したが、彼は明後日の方を向いて書類を整理していく。何でノールックで正確に書類整理が出来るのよ。
「……私である必要は?」
「誰も彼もが祭りの運営で忙しい中、僕と共に祭りを視察するような暇がある訳無いだろう。それに、万が一の時……相手がお前であった方が都合が良い」
私の都合はすこぶる悪いですけどね。
まあでも……拒否権なんて端から無いし、初日は残念ながら予定も無い。しょうがない、冬染祭成功の為にもこの男の仕事に付き合ってやるか。
「わかりました、良いですよ。仕事ですから大人しく従います」
ため息混じりに承諾すると、少しだけフリードルの表情が明るくなった気がした。
そんなに一人で視察したくなかったのか。
さしものフリードルと言えども、大賑わいが予想される祭りを一人で回る事には及び腰になってしまうのね。
「では祭り初日の朝十時頃、城の前に集合という事で。人が多くても目立つだけだからな、一人で来い」
「はい、わか──え? 一人?」
「ケイリオル卿、お忙しい中お邪魔しました」
「いえいえ〜」
あのっ、兄様!? 一人ってどういう事ですか!!
そう聞こうにも、それなりに予定が詰まってるらしいフリードルは、ケイリオルさんに挨拶するやいなやあっという間に退室してしまった。
徐々に近づく年の瀬と、国際交流舞踏会。それを目前に控えつつも、フォーロイト帝国はここ数年見なかった活気に溢れていた。
理由は簡単。現在帝都では異例の祭り、冬染祭が行われているからである。
本来予定されていたものは秋染祭という秋の中頃の祭りなのだが、国際交流舞踏会だの魔物の行進だのでうやむやになっていた。
密かに祭りを楽しみにしていた国民達には申し訳ないが、これは仕方無い……と思っていたところ、驚くべき事にフリードルが秋染祭ならぬ冬染祭の開催を皇帝に打診し、『魔物の行進で心労を積み重ねている国民の心を癒す為』という名目での祭りの開催を獲得。
十二月末に国際交流舞踏会が控えている為十一月の中頃に一週間程祭りを実施する──と、フリードルは国民の前で宣言した。
私への国民の支持が厚い事に焦りを覚えているのだろうか。近頃のフリードルは民草に寄り添う姿勢を見せつつある。あの絶対零度のフリードルが、だ。
これはきっといい変化なのだろう。私が変わった影響で、フリードルがゲームのような絶対零度の冷酷人間から、演技だとしても少しは人間味のある人間に変わってくれるのなら……私の生存に繋がるだろうから。
だからどうか、そのまま変わってくれ。あわよくば私の事など気にせずそのまま覇道を突き進んでくれ。
私は私で、生き残る為に貴方の邪魔にならない程度に好き勝手やるから。
…………とは、思っていたものの。
「妹よ、何が欲しい。欲しいものがあれば言え、いくらでも買ってやる」
──その変化は知らんて!!
隣を歩くフリードルが近くの屋台を一通り目で追い、何故か私に欲しいものはあるかと聞いてくる。
そう。驚くべき事に……私達は今、二人で冬染祭を見て回っているのである。
二人して魔法薬で髪の色を黒く染め、眼鏡をかけたり髪型を変えたりして変装した。名前呼びを封印した事もあり、完全に祭りの賑わいに溶け込めている。
どうしてこうなったのか。ことの始まりは数日前に遡る。
♢♢♢♢
魔物の行進より前に行う予定だった雪花宮の移動は、思ったよりも早く始まった魔物の行進の影響で延期されていた。
なので、色々と落ち着いた今改めて雪花宮の移動を敢行。
精霊&悪魔を召喚した(という事になっている)私は当然その作戦に参加。何故かシルフとシュヴァルツが張り合うように魔法を使ったので、我々の想像よりもあっさりと、簡単に、雪花宮エリアにある九つの宮殿全ての移動が完了してしまった。
勝手に高位悪魔を召喚していた事による貴族達からの私への白い目などは、この件で手のひら返しのように一転。
貴族達からは賞賛の声を向けられ、何故かシュヴァルツの存在も認められた。
だからか、シュヴァルツもシルフも近頃は平然と私と一緒に城の中を歩いていたりもする。ただでさえイリオーデとアルベルトが傍を歩いているので、私の周りはそれはもう顔面偏差値が高いことで。
あんまりにも顔のいい男達を引き連れて歩く私はいつの間にか、華のある人間を愛でる趣味のある王女…………と、社交界ではそう思われているらしい。
それはともかく。そうやっていがみ合うシュヴァルツやシルフを連れて、ケイリオルさんの手伝いで城に居た時だった。
何気に書類仕事がめちゃくちゃ得意なシュヴァルツとシルフの手伝いもあって、私とイリオーデとアルベルトだけで手伝っていた頃の比ではない勢いで、ケイリオルさんの部屋に積み重なった書類の山はどんどん処理されていく。
そんな時だった。フリードルがケイリオルさんを訪ねて来たのかと思えば、私の姿を見つけるやいなや、仁王立ちで問うて来たのだ。
「何か冬染祭の予定はあるのか」
「え? 普通に、友達と皆で回る予定でしたけど」
「その予定とはいつだ」
「いつ、って……初日と最終日は人が多いと分かってるので、中頃に三日程かけて屋台を制覇しようって皆で話していて…………あの、兄様に関係ありますか、これ?」
「関係あるから聞いたに決まってるだろう」
仏頂面のフリードルがこちらを見下ろしてくる。そんなフリードルを、私とケイリオルさん以外の四名は警戒しているようで。
いつでも手にかけられるとでも言いたげに、皆はフリードルを睨んでいた。
だがフリードルはそんな事を気にもとめず、爆弾発言を落とした。
「……──アミレス・ヘル・フォーロイト、冬染祭一日目は僕と共に祭りを回れ。これは仕事だ」
「…………は?」
耳を疑うような言葉が聞こえた。
共に祭りを回れ? あんたと私が? なにゆえ??
「は、はは……私の耳がおかしくなったのでしょうか。何か、天変地異のような言葉が聞こえたような」
「お前の耳も頭もおかしくなっていない。僕は確かに、共に祭りを回れと言ったんだ」
「何故そのような事に?」
フリードルの不可思議発言の連続にどよめく室内。
渦中の私には事の仔細を聞く権利がある筈だ。何故、どういう話の流れでそんな訳の分からない事になったのか……それを教えて貰わない事には、納得も出来ないというもの。
だから説明を求めたのだが。
「この祭りは僕が主催している事になっている。その為、無事に祭りが運営されているのか……それを主催として確認、視察する義務が生じた。だが、僕一人で視察をしても僕では視察の意味が無い──とケイリオル卿や部下に諭されたのでな。僕とは違った視点を持つお前にも協力を仰ぐ事にした。故に、これは仕事だ」
淡々と、まっすぐこちらを見下ろしてフリードルは経緯の説明を始める。
腑に落ちたような、腑に落ちないような。
そんな気分のままケイリオルさんの方を横目で見ると、「ああ!」といった声が。
さては今思い出したな?! と問い質したくなるような無責任な声を上げていらっしゃる。
お前の仕業か!!
と、ケイリオルさんを凝視したが、彼は明後日の方を向いて書類を整理していく。何でノールックで正確に書類整理が出来るのよ。
「……私である必要は?」
「誰も彼もが祭りの運営で忙しい中、僕と共に祭りを視察するような暇がある訳無いだろう。それに、万が一の時……相手がお前であった方が都合が良い」
私の都合はすこぶる悪いですけどね。
まあでも……拒否権なんて端から無いし、初日は残念ながら予定も無い。しょうがない、冬染祭成功の為にもこの男の仕事に付き合ってやるか。
「わかりました、良いですよ。仕事ですから大人しく従います」
ため息混じりに承諾すると、少しだけフリードルの表情が明るくなった気がした。
そんなに一人で視察したくなかったのか。
さしものフリードルと言えども、大賑わいが予想される祭りを一人で回る事には及び腰になってしまうのね。
「では祭り初日の朝十時頃、城の前に集合という事で。人が多くても目立つだけだからな、一人で来い」
「はい、わか──え? 一人?」
「ケイリオル卿、お忙しい中お邪魔しました」
「いえいえ〜」
あのっ、兄様!? 一人ってどういう事ですか!!
そう聞こうにも、それなりに予定が詰まってるらしいフリードルは、ケイリオルさんに挨拶するやいなやあっという間に退室してしまった。