だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「おねぇちゃん、何がそんなに面白いのー?」

 シュヴァルツの純粋な瞳が私を貫く。リードさんがちょっと不憫というか面白くて、それで笑っていると言えば悪く思われてしまいそう……と私は答えを詰まらせた。
 答えに迷った私は──逃げ出す事にした。

「……えーっと、内緒! それよりシュヴァルツっ、王城まで競走しましょう!」

 肝を冷やしつつ提案する。私が指さした先に見えるは帝都の中で最も大きく壮麗な建造物、氷の城(別に氷で出来ている訳では無い)。
 城を目指して進めば、相当な方向音痴で無い限り、誰でも城に辿り着く事が出来ると言われているある種の目印のようなもの。
 ここは広い通りだし、このままほとんど直進で王城まで行く事が出来る。なので、その道を競走しようと私は提案したのだ。

「いいよぉ!」

 と言って、シュヴァルツが先に走り出してしまう。「まだスタートって言ってないけど!」とシュヴァルツに向けて叫びながら、私はリードさんの方を振り向いた。

「ほら、リードさんも行きますよ! 子供相手だからって手加減とかしないでくださいね!」
「え……!?」

 未だ少しポカンとしているリードさんを置いて、私も走り出す。
 どうしても私を家まで送り届けたいらしいリードさんならきっとこの競走にも参戦してくれる事だろう。だって参戦しないとだいぶ距離が出来てしまうもの。
 ……今は何時頃だろうか。夜空には月が浮かび、春だからかまだ少し肌寒く感じる。
 真夜中なこの世界で、私をただの女の子に変えてくれた魔法はもう解けちゃったけれど、それでも私は王女とかそう言った立場を気にする事なく目一杯その僅かな時間を楽しんだ。
 たった少し、真っ直ぐ家へと続く道を進む間だけ……お城に戻ったら、もう普通の女の子にはなれないから。
 だからこの間だけは普通の女の子のようにはしゃぎたいの、楽しみたいの。
 そんなささやかな願いを抱いて、私は月明かりの中、広く長い道を走り抜けた。

「…………勝負はリードさんの勝ちです。大人気ないですね」
「いやいや、君が手加減無しでと言ったんじゃないか……」

 王城の外壁近くにて。先程の競走の結果に私達は異議を申し立てていた。
 途中まで、無尽蔵の体力と化け物じみた身体能力を発揮したシュヴァルツが独走していたのだが、最後に走り出したリードさんが凄まじい勢いで追い上げ、最終的に勝利したのだ。
 どうやら身体強化の付与魔法(エンチャント)を自身に施したらしい。めちゃくちゃ不正だと思う。
 ……そもそも付与魔法(エンチャント)は治癒魔法と同等かそれ以上に習得するのが難しい光の魔力専用魔法だ。
 治癒魔法に限らず付与魔法(エンチャント)まで使えるとかこの人何者……?

「大人気なーい。負けず嫌ーい」
「うっ……勝負だと言うから……」

 シュヴァルツの言葉がリードさんの胸を貫く。……そういえば、リードさんからあのよそよそしさが無くなった気がする。シュヴァルツの言葉が効いたのかしら?
 リードさんともここでもうお別れだし、最後にと私は一つ尋ねてみた。
< 128 / 1,374 >

この作品をシェア

pagetop