だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
392.冬に染まる街で君と4
オレサマは非ッ常〜〜〜〜に悩んでいた。それはもう、本当に。
──どうすれば、アミレスにオレサマの事を意識させられるのかと。
言い寄っても効果無し。甘い言葉も色仕掛けも真顔で受け流されて効果無し。オレサマが真面目で案外デキる男だって事は、ここ暫くアイツの仕事を手伝ってやったから伝わってる筈。
欲しいものがあるなら何だって用意してやるし、願いだって叶えてやる。オレサマは偉大なる悪魔だからな、その程度の事は赤子の手をひねるような児戯に等しい。
なのに何故、アイツはオレサマに落ちねェんだ?
こんなにもかっこよくて完璧なオレサマに惚れないとか、アイツおかしくねェか?
いくら愛が分からない無欲な奴だからって、オレサマの魅力に気づかないワケねェし……何故だ。いつもならどいつもこいつも一目見てオレサマに落ちるってのに、アイツは何回見てもオレサマに惚れる様子が無い。
オレサマとて我慢強い方ではない。
アミレスへの感情に気づいてからというものの、本能で生きる悪魔はアイツを手に入れたくて仕方無くなった。
口付けしただけで泣きそうになったんだ。もし無理に抱いた日には……二度と口を聞いて貰えないかもしれない。それはさしものオレサマと言えどもちょっと、いやかなり困る。だから、オレサマらしくないが無理強いはしないでやっている。
そう。アイツがちゃんとオレサマを好きになるのを待っていた。
合意の上で快楽に溺れさせて、オレサマがいないと生きていられないぐらい……とことん堕としてやるんだ。
それなのに。アミレスは一向にオレサマを好きにならない。
こう見えてめちゃくちゃ我慢してる。以前のオレサマならとっくにアイツの処女奪ってるってのに、しょうがねェから我慢している。
叶うなら今すぐにでも……唇を塞いで、閨で組み敷いて、アイツの白い肌をこの手で蹂躙して、奥まで全て暴いてやりたい。
アミレスの全てが欲しくてたまらないのに。『嫌われたくないから』──って、二の足を踏むとはな。
これが惚れた弱みってヤツかァ〜〜。
そんなこんなで、オレサマは非常に悩んでいた。
悩む事なんて滅多に無いオレサマが悩みに悩んだ結果、
「フ、オレサマの手にかかれば、部屋への侵入程度容易い事さな」
夜這いを決行した。勿論最後までするつもりはない。これでオレサマを男として意識させようという算段だ。
ハハ、これまで夜這いなんてされる側だったからな、ちと新鮮さすら感じるぜ。
オレサマ達を部屋から追い出してパジャマパーティーとやらを実施したアミレスは、日付が変わり深夜になってようやく自分の寝室で眠りについた。
それから数時間が経ち、オレサマはこうしてアイツの寝室に侵入した。
寝てる間に顔や体に乗ってしまったら大変だ、という事で犬は別室で眠っている。よって部屋にはアイツだけ。
寝台の上で布団を羽織り、体を小さく丸めて寝息を立てるアミレスを見下ろす。
気配とか、殺気とか。そういうのに敏感な癖して、無防備な状況で魔王が側にいるってのに起きもしないとは。
それだけコイツに心を許されているのか、はたまたコイツからすればオレサマは警戒する価値も無いのか。
「何にせよ、気に食わない事に変わりはないか」
寝台に腰を下ろすと、それが軋む音がする。他に聞こえるのは、時計の針が時を刻む音。アミレスの小さな口から漏れ出る息の音。
アミレスの銀色の髪を一房掴む。何度も抱き着き、顔を埋めたこの柔らかな髪。久々に香りを堪能すると、この数年の記憶が蘇る。
悪魔の今よりも、人間の時の方がアイツと触れ合えていた。
……最近、頭を撫でてもらってないな。もう人間ではないのに、アイツに何度も撫でてもらっていたからか、その感触が頭にまだ残っている。
髪の次は手を掴んだ。これだけ好き勝手して何故起きないのか分からないが……アミレスは安らかな表情ですやすやと眠っている。
何だこれ、もしかしてオレサマ試されてる?
朝飯食わぬは男一生の恥。これを据え膳と捉えるべきか否か。
「……確かにアミレスの手で頭を撫でてんのに、何でいつもみたいに満たされねェんだ?」
自分の頭を下げ、アミレスの手をそこに置いては撫でるように動かす。だが、アイツに撫でられた時に感じる多幸感は今や欠片も感じられない。
頭に置いていた手を下ろし、アミレスの小さな手に頬を擦り寄せてみる。それでも、全然満たされない。
──やっぱり、コイツをオレサマのものにしないと駄目だな。
手を離し、横を向いて眠るアミレスを仰向けにする。小さく膨らんではしぼむ胸元がよく見えるようになった。
そして程よく発達したその胸に触れようとした時、
「わたし、ひとになれたよ……か……さま……へへ……」
アミレスは寝言を零した。
ついに起きてしまったかと体が一瞬固まったが、アミレスはまだ眠ったまま。とても嬉しそうな、喜びに満ちた笑顔でアミレスは眠っていたのだ。
そんなものを見てしまえば、手なんて出せなくなる。この笑顔を壊すなんて真似、今のオレサマには不可能だ。
「……──ホンットに、厄介な病だな。こりゃ」
ため息を吐き出しつつアミレスの横に倒れ込み、じっと横顔を眺めてみる。
仕方無いから今日は共寝で我慢してやるか。
物足りないが、これはこれで有りかもしれない。
「さっさとオレサマを好きになりやがれ、アミレス」
髪を耳にかけ、静かに眠るアミレスの額に口付けを落としてみる。
だが──我等がお姫様は、魔王からの口付けなんかでは目を覚ましてくれないらしい。
まったく……我慢してやってるっていうのに、酷い話だ。
♢♢
今日は久々にアミィと出かけられる。しかも、本体で。
その為に全力で仕事を終わらせてきた。フィンとケイとエンヴィーに『今日だけは絶対に呼び戻すな』って命令しておいたから、きっと邪魔される事はない。
だから今日はめいいっぱい、アミィとのお出かけを楽しむんだ!
そう浮かれながら、『お、これとかちょーいいんじゃないッスかねー?』と軽いノリのカラリアーノに完璧にコーディネートさせた服を着て、意気揚々と人間界まで来たのに。
「アミレス! アレはなんじゃ、果物が丸ごと串に刺さっておるぞ!!」
「あのお菓子は果物を丸ごと砂糖で覆った飴だね。ナトラが食べたいなら後で買ってあげるよ」
「娘、あっちのあの変な物は何? どうして浮いているんだ」
「ええと、あれは風船ね。中にヘリウムガス……よく浮かぶ気体が入ってるから浮かんでるのよ」
どうしてこうなった。
珍しく侍女服じゃない服を着ている竜の兄妹にあれこれと聞かれそれに答えながら、アミィは街を歩いていた。
ナトラとクロノがアミィを占領してる所為で、ボクは全然アミィと話せていないのだ。
せっかく久々にアミィとお出かけできるのに。せっかくアミレスによく思われたいと思ってお洒落してきたのに。
アミィは全然ボクを見てくれない。
ボクだけを見て欲しいのに、ボク以外ばかりを見ている。
あの子の意思なんて無視して精霊界に連れて行ったっていい。寧ろ、アミィを手に入れる為ならそうするのが最善だ。
……でも。もし、それでアミィがボクの事を嫌いになってしまったら。
アミィに拒絶されてしまったら、ボクはきっと耐えられない。想像するだけでも辛くて、苦しくて、ボクの心はいとも容易く壊れてしまいそう。
そしてボクの心が壊れたら──精霊界と人間界にどんな影響が出るかも分からない。
だから、何も出来ない。アミィが自分の意思でボクと一緒にいる事を選んでくれないと駄目なんだ。
アミィの事が好きで好きで大好きだからこそ、アミィが泣いたり苦しんだりするのが嫌だった。何よりも、アミィに嫌われ拒絶される事が怖かった。
でも、そんな事も言ってられない。
どんどんアミィを好きな人間が増えていく。どんどん、ボクからアミィとの時間を奪う存在が増えていく。
──もしも、アミィがボクじゃない誰かと添い遂げる事を選んでしまったら。
そんな事を考えると、空虚な自分に戻ったように心に穴が空く。そしてその穴を埋める為に彼女への愛情が増幅し、歪んだ形でボクの心を補強する。
そして、考えてしまうのだ。
アミィがボクじゃない誰かを選ぶのならば──……その時はもう、アミィの精神を壊してでも精霊界に連れて行けばいいと。
心が壊れても元に直せばいい。記憶が消えても作り直せばいい。
大丈夫、ボク達精霊はそういうのも得意だから。
たとえアミィが壊れてしまっても、きちんと元通り───いや、余分な感情を除去した状態に戻してあげる。
心っていうものはね、穴が空くとそれを埋める為に他の感情が無理やり形を変えるものなんだ。
だからね……アミィも余分な感情を捨てた分、その穴をボクへの愛情で埋めればいい。そしたら君にとっても、ボクが一番大事なものになるだろう?
勿論、アミィが普通にボクを好きになってくれたら、そんな手間をかける必要もないんだけど──もしもの時は仕方無いよね。
「おい、精霊の。そんな怖ァ〜〜い顔しちゃってさ、アミレスに見られたら嫌われるぜ?」
「は? そんな事でアミィがボクを嫌う訳無いだろ。知ったような口聞くな、寄生虫が」
何故か魔王なんかと並んで歩く羽目になり、やたらと突っかかって来る男にボクは大きくため息を吐き出した。
シュヴァルツを放置して、早足でアミィの所に行く。アミィを後ろから抱き締めて、驚いて顔を上げる彼女に笑いかける。
「どうしたの、シルフ」
「ナトラ達ばっかり構ってないで、もうちょっとボクにも構ってよ」
ムッとしながらそう伝えると、アミィは困ったように眉尻を下げて微笑んだ。
「えーっと……ごめんね? この通りクロノが街をゆっくり見て回るのは初めてだから、案内してあげないといけなくて」
「そうじゃぞ、アミレスは我等を案内するのに忙しいのじゃ。お前は引っ込んどれ」
「ナトラもこう言ってるし……どうせいつもこの娘に付き纏ってるんだから、たまには我慢しなよ。精霊も穀潰しも」
すると、二体の竜がアミィに続くようにごちゃごちゃ言い始めた。それを聞いたシュヴァルツが、「おい精霊なんかと一緒にするな」と噛み付く。
結局、アミィはナトラとクロノを案内するのをやめてくれなくて、一日中ボクは放置された。
……──はぁ。やっぱり、今すぐにでも精霊界に連れて行こうかな。
──どうすれば、アミレスにオレサマの事を意識させられるのかと。
言い寄っても効果無し。甘い言葉も色仕掛けも真顔で受け流されて効果無し。オレサマが真面目で案外デキる男だって事は、ここ暫くアイツの仕事を手伝ってやったから伝わってる筈。
欲しいものがあるなら何だって用意してやるし、願いだって叶えてやる。オレサマは偉大なる悪魔だからな、その程度の事は赤子の手をひねるような児戯に等しい。
なのに何故、アイツはオレサマに落ちねェんだ?
こんなにもかっこよくて完璧なオレサマに惚れないとか、アイツおかしくねェか?
いくら愛が分からない無欲な奴だからって、オレサマの魅力に気づかないワケねェし……何故だ。いつもならどいつもこいつも一目見てオレサマに落ちるってのに、アイツは何回見てもオレサマに惚れる様子が無い。
オレサマとて我慢強い方ではない。
アミレスへの感情に気づいてからというものの、本能で生きる悪魔はアイツを手に入れたくて仕方無くなった。
口付けしただけで泣きそうになったんだ。もし無理に抱いた日には……二度と口を聞いて貰えないかもしれない。それはさしものオレサマと言えどもちょっと、いやかなり困る。だから、オレサマらしくないが無理強いはしないでやっている。
そう。アイツがちゃんとオレサマを好きになるのを待っていた。
合意の上で快楽に溺れさせて、オレサマがいないと生きていられないぐらい……とことん堕としてやるんだ。
それなのに。アミレスは一向にオレサマを好きにならない。
こう見えてめちゃくちゃ我慢してる。以前のオレサマならとっくにアイツの処女奪ってるってのに、しょうがねェから我慢している。
叶うなら今すぐにでも……唇を塞いで、閨で組み敷いて、アイツの白い肌をこの手で蹂躙して、奥まで全て暴いてやりたい。
アミレスの全てが欲しくてたまらないのに。『嫌われたくないから』──って、二の足を踏むとはな。
これが惚れた弱みってヤツかァ〜〜。
そんなこんなで、オレサマは非常に悩んでいた。
悩む事なんて滅多に無いオレサマが悩みに悩んだ結果、
「フ、オレサマの手にかかれば、部屋への侵入程度容易い事さな」
夜這いを決行した。勿論最後までするつもりはない。これでオレサマを男として意識させようという算段だ。
ハハ、これまで夜這いなんてされる側だったからな、ちと新鮮さすら感じるぜ。
オレサマ達を部屋から追い出してパジャマパーティーとやらを実施したアミレスは、日付が変わり深夜になってようやく自分の寝室で眠りについた。
それから数時間が経ち、オレサマはこうしてアイツの寝室に侵入した。
寝てる間に顔や体に乗ってしまったら大変だ、という事で犬は別室で眠っている。よって部屋にはアイツだけ。
寝台の上で布団を羽織り、体を小さく丸めて寝息を立てるアミレスを見下ろす。
気配とか、殺気とか。そういうのに敏感な癖して、無防備な状況で魔王が側にいるってのに起きもしないとは。
それだけコイツに心を許されているのか、はたまたコイツからすればオレサマは警戒する価値も無いのか。
「何にせよ、気に食わない事に変わりはないか」
寝台に腰を下ろすと、それが軋む音がする。他に聞こえるのは、時計の針が時を刻む音。アミレスの小さな口から漏れ出る息の音。
アミレスの銀色の髪を一房掴む。何度も抱き着き、顔を埋めたこの柔らかな髪。久々に香りを堪能すると、この数年の記憶が蘇る。
悪魔の今よりも、人間の時の方がアイツと触れ合えていた。
……最近、頭を撫でてもらってないな。もう人間ではないのに、アイツに何度も撫でてもらっていたからか、その感触が頭にまだ残っている。
髪の次は手を掴んだ。これだけ好き勝手して何故起きないのか分からないが……アミレスは安らかな表情ですやすやと眠っている。
何だこれ、もしかしてオレサマ試されてる?
朝飯食わぬは男一生の恥。これを据え膳と捉えるべきか否か。
「……確かにアミレスの手で頭を撫でてんのに、何でいつもみたいに満たされねェんだ?」
自分の頭を下げ、アミレスの手をそこに置いては撫でるように動かす。だが、アイツに撫でられた時に感じる多幸感は今や欠片も感じられない。
頭に置いていた手を下ろし、アミレスの小さな手に頬を擦り寄せてみる。それでも、全然満たされない。
──やっぱり、コイツをオレサマのものにしないと駄目だな。
手を離し、横を向いて眠るアミレスを仰向けにする。小さく膨らんではしぼむ胸元がよく見えるようになった。
そして程よく発達したその胸に触れようとした時、
「わたし、ひとになれたよ……か……さま……へへ……」
アミレスは寝言を零した。
ついに起きてしまったかと体が一瞬固まったが、アミレスはまだ眠ったまま。とても嬉しそうな、喜びに満ちた笑顔でアミレスは眠っていたのだ。
そんなものを見てしまえば、手なんて出せなくなる。この笑顔を壊すなんて真似、今のオレサマには不可能だ。
「……──ホンットに、厄介な病だな。こりゃ」
ため息を吐き出しつつアミレスの横に倒れ込み、じっと横顔を眺めてみる。
仕方無いから今日は共寝で我慢してやるか。
物足りないが、これはこれで有りかもしれない。
「さっさとオレサマを好きになりやがれ、アミレス」
髪を耳にかけ、静かに眠るアミレスの額に口付けを落としてみる。
だが──我等がお姫様は、魔王からの口付けなんかでは目を覚ましてくれないらしい。
まったく……我慢してやってるっていうのに、酷い話だ。
♢♢
今日は久々にアミィと出かけられる。しかも、本体で。
その為に全力で仕事を終わらせてきた。フィンとケイとエンヴィーに『今日だけは絶対に呼び戻すな』って命令しておいたから、きっと邪魔される事はない。
だから今日はめいいっぱい、アミィとのお出かけを楽しむんだ!
そう浮かれながら、『お、これとかちょーいいんじゃないッスかねー?』と軽いノリのカラリアーノに完璧にコーディネートさせた服を着て、意気揚々と人間界まで来たのに。
「アミレス! アレはなんじゃ、果物が丸ごと串に刺さっておるぞ!!」
「あのお菓子は果物を丸ごと砂糖で覆った飴だね。ナトラが食べたいなら後で買ってあげるよ」
「娘、あっちのあの変な物は何? どうして浮いているんだ」
「ええと、あれは風船ね。中にヘリウムガス……よく浮かぶ気体が入ってるから浮かんでるのよ」
どうしてこうなった。
珍しく侍女服じゃない服を着ている竜の兄妹にあれこれと聞かれそれに答えながら、アミィは街を歩いていた。
ナトラとクロノがアミィを占領してる所為で、ボクは全然アミィと話せていないのだ。
せっかく久々にアミィとお出かけできるのに。せっかくアミレスによく思われたいと思ってお洒落してきたのに。
アミィは全然ボクを見てくれない。
ボクだけを見て欲しいのに、ボク以外ばかりを見ている。
あの子の意思なんて無視して精霊界に連れて行ったっていい。寧ろ、アミィを手に入れる為ならそうするのが最善だ。
……でも。もし、それでアミィがボクの事を嫌いになってしまったら。
アミィに拒絶されてしまったら、ボクはきっと耐えられない。想像するだけでも辛くて、苦しくて、ボクの心はいとも容易く壊れてしまいそう。
そしてボクの心が壊れたら──精霊界と人間界にどんな影響が出るかも分からない。
だから、何も出来ない。アミィが自分の意思でボクと一緒にいる事を選んでくれないと駄目なんだ。
アミィの事が好きで好きで大好きだからこそ、アミィが泣いたり苦しんだりするのが嫌だった。何よりも、アミィに嫌われ拒絶される事が怖かった。
でも、そんな事も言ってられない。
どんどんアミィを好きな人間が増えていく。どんどん、ボクからアミィとの時間を奪う存在が増えていく。
──もしも、アミィがボクじゃない誰かと添い遂げる事を選んでしまったら。
そんな事を考えると、空虚な自分に戻ったように心に穴が空く。そしてその穴を埋める為に彼女への愛情が増幅し、歪んだ形でボクの心を補強する。
そして、考えてしまうのだ。
アミィがボクじゃない誰かを選ぶのならば──……その時はもう、アミィの精神を壊してでも精霊界に連れて行けばいいと。
心が壊れても元に直せばいい。記憶が消えても作り直せばいい。
大丈夫、ボク達精霊はそういうのも得意だから。
たとえアミィが壊れてしまっても、きちんと元通り───いや、余分な感情を除去した状態に戻してあげる。
心っていうものはね、穴が空くとそれを埋める為に他の感情が無理やり形を変えるものなんだ。
だからね……アミィも余分な感情を捨てた分、その穴をボクへの愛情で埋めればいい。そしたら君にとっても、ボクが一番大事なものになるだろう?
勿論、アミィが普通にボクを好きになってくれたら、そんな手間をかける必要もないんだけど──もしもの時は仕方無いよね。
「おい、精霊の。そんな怖ァ〜〜い顔しちゃってさ、アミレスに見られたら嫌われるぜ?」
「は? そんな事でアミィがボクを嫌う訳無いだろ。知ったような口聞くな、寄生虫が」
何故か魔王なんかと並んで歩く羽目になり、やたらと突っかかって来る男にボクは大きくため息を吐き出した。
シュヴァルツを放置して、早足でアミィの所に行く。アミィを後ろから抱き締めて、驚いて顔を上げる彼女に笑いかける。
「どうしたの、シルフ」
「ナトラ達ばっかり構ってないで、もうちょっとボクにも構ってよ」
ムッとしながらそう伝えると、アミィは困ったように眉尻を下げて微笑んだ。
「えーっと……ごめんね? この通りクロノが街をゆっくり見て回るのは初めてだから、案内してあげないといけなくて」
「そうじゃぞ、アミレスは我等を案内するのに忙しいのじゃ。お前は引っ込んどれ」
「ナトラもこう言ってるし……どうせいつもこの娘に付き纏ってるんだから、たまには我慢しなよ。精霊も穀潰しも」
すると、二体の竜がアミィに続くようにごちゃごちゃ言い始めた。それを聞いたシュヴァルツが、「おい精霊なんかと一緒にするな」と噛み付く。
結局、アミィはナトラとクロノを案内するのをやめてくれなくて、一日中ボクは放置された。
……──はぁ。やっぱり、今すぐにでも精霊界に連れて行こうかな。