だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

395.氷の国への招待状2

 十二月も中盤に差し掛かり、フォーロイト帝国が帝都は大騒ぎ。
 つい最近まで魔物の行進(イースター)が発生していた事もあり、世界各国がその対応と後処理で慌ただしくしていた。

 そんな中、何故か予定通り開催される事となった国際交流舞踏会。
 今回の開催国たる我が帝国はそれはもうてんやわんや。雪花宮の移設及び簡単な改装は済んでいるものの、諸々の準備はまだ出来ておらず。
 なんとなく分かっていた事だが、舞踏会の実行に携わる者達はやはりシャンパー商会に泣きついた。これにシャンパージュ伯爵は満面の笑みを作ったという。
 私も舞踏会運営の関係で何度かメイシアと会う事があったのだけど、『なんでも、この一年で国家予算相当の売り上げが出たとかで……』と聞いて目が飛び出るかと思った。

 元々市場を支配している事から大金を儲けている事は知っていたが……魔物の行進(イースター)や国際交流舞踏会が重なった本年度に関してはもはやその比ではないらしい。
 いち家門が国家予算相当の収入を得るとかやばすぎる。どう考えても私よりメイシアの方がお金持ちじゃないの。
 そして恐ろしい事に、シャンパージュ伯爵はこの大金を使ってまた新たな事業を始めるつもりだとかで……この話を聞いて流石のケイリオルさんも頭を抱えていた。『あの家門を本当にこのまま野放しにしてていいのか……?』と報告書片手に呟いているのを見てしまったのだ。

 そんな感じでシャンパー商会の力を大いにお借りしてなんとか開催にこぎ着けた舞踏会。
 だが、肝心の招待客はそれぞれの国で忙しくしており、西北にあるフォーロイト帝国まで来るには膨大な時間を要する人が多い。
 その為、魔塔の魔導師やシャンパー商会の飛空船等が各国を回って招待客達を送迎しているとか。なので既に雪花宮には参加国の王族や代表者が続々と集まりつつある。
 それを完璧にもてなす為に、シャンパー商会が駆り出されたという訳だ。
 東の方は分からないけど……少なくとも大陸西側ではその名は有名で。『シャンパー商会の品ならば安心だ』と言って、雪花宮での時間をそれなりに満喫してくれている方々が多いと聞く。

 全九つの宮殿にそれぞれ五十人ずつ帝都で勤務経験のある使用人を配置しているものの、大半の招待客は自分の使用人を伴うので、常駐の使用人は念の為の存在だ。
 雪花宮周辺では王城より遥かに多く厳重な警備体制が敷かれているので、防犯面についても大丈夫……と信じている。
 そんな感じで色々と配置したので。各宮殿の侍従頭と警備隊長から毎日のように報告があがっており、ケイリオル卿はその報告書を見て都度シャンパー商会に新たな発注をしているそうな。
 本当に毎日忙しそうで、私もついつい毎日ケイリオルさんの仕事を手伝ってしまっている。

 ただでさえ忙しいというのに……普段は雪なんて滅多に降らない国にお住いの王族の方々が、大陸随一の積雪を誇る我が国の雪にテンション爆上げ。こんな寒さなのに一面銀世界の平原で国の垣根を越えて遊び倒し、体調を崩しかけたとかでその対応にも奔走する必要が出てきてしまった。
 普通に毎年雪が降る地域ですら、国全域が豪雪地帯とかいう氷の国には驚いているらしく、珍しい景色を楽しんでくれている。
 勿論雪花宮の辺りは急ピッチで街路整備も行ったし、雪が積もりすぎないようにする魔導具も等間隔で設置済。なので、豪雪地帯とは言いつつも客人達の集まる雪花宮周辺は子供の膝ぐらいまでしか雪は積もらない。
 いやあ、本当に助かった。舞踏会開幕まで客人を退屈させずに済みそうで良かった。とは思いつつも、流石に忙し過ぎるのではとため息をついてばかりだった。

 ──国際交流舞踏会前日。
 私は、前々からシャンパー商会に依頼していた舞踏会用のドレス数着を確認を終えて少し出かけていた。
 国際交流舞踏会は、約二週間にわたり移設された雪花宮にて行われる。昼は食事会や交流会、大陸議事会の臨時集会などを行い、夜は毎晩水晶宮で舞踏会。
 つまり、今から二週間──……長い人で一ヶ月近く、帝都には世界各国の要人が滞在し続ける事になる。
 その為だけの警備や巡回を帝都にも配置し、各国の要人達が可能な限り帝国を満喫してくれるようにと配慮の連続。
 なんやかんやでほぼ毎日顔を合わせている(彼の顔は見えないけど)ケイリオルさんと一緒に、国際交流舞踏会の間とにかく問題が起きませんようにと祈っていた。

 そんな流れで、私は私兵団の皆に西部地区の巡回を頼みに行っていた。
 いつも以上にしっかりと、揉め事が起きないよう目を光らせて巡回するように命令した。困った時は好きなだけ私の名前を出してもいいとね。
 勿論、身重のクラリスには家で大人しくしているように言ったとも。本人は嫌がっていたけど、そんなの無視無視。もしもの時の為に、常に私兵団から誰か一人は彼女の元に留まるようにも付け加えた。

 その帰り。ついでにと西部地区の通りを巡回がてら歩いていると、大衆浴場の辺りで何やら騒ぎが。
 早速問題か……と額に手を当て項垂れる。嫌々その人集りに近寄って、『退きなさい』と言うだけで市民達は海を割いたかのように道を開けてくれた。
 一直線に騒ぎの中心に向かうと、言い合う誰かの声が聞こえてきた。

「──何故、オレの言葉を聞けぬのだ。疾くオレの為に貸切にせよと申しただけではないか」
「し、しかし……現在もお客様が入浴しておられて……」
「人間! 貴様のような者の分際で陛下に楯突くとは何事か! 陛下がこうして興味を抱いてやっただけでも過分な幸福というのに……不敬であるぞ!!」
「も、申し訳ございません……っ!」

 そこにいたのは二人の男性。
 どちらも師匠のような中華系の衣裳を身に纏っていたので、出身国は簡単に予測出来た。彼等は恐らく、タランテシア帝国出身の方々で……あちらの高貴そうな雰囲気の彼がタランテシア帝国の皇帝で、横の方はその側近とかだろう。
 本当に面倒な事になった。まさかタランテシア帝国の皇帝が騒ぎを起こしているだなんて。
 軽く息を吐き出して、私は一歩踏み出した。

「失礼。騒ぎが聞こえたのですけれど……一体何事かしら?」
「っ、王女殿下ぁ……!!」

 皇族スマイルを貼り付けて騒ぎに首を突っ込むと、タランテシア帝国の方々に詰め寄られていた大衆浴場の管理者が涙目でこちらを見てきた。
 それと同時に、例の騒ぎの元凶も私に気づき鋭くこちらを睨んで来た。側近の方は鋭い角が一つ生えているが、皇帝と思しき方は見た目にそれらしい亜人の特徴は無い。
 だが、タランテシア帝国の皇族は代々龍族という龍の血を持つ亜人だとかつての授業で聞いたので、彼が何者なのかは分かる。
 濁った竜種の血を分け与えられ、独自に進化した一族の末裔が──タランテシア帝国現皇帝、ロンドゥーア・オズファルス・ロン・ドロテア。
 若くして広大なタランテシア帝国領土を統治する聡明な王。
 そして……噂に過ぎないが、我が父でありフォーロイト帝国皇帝であるエリドル・ヘル・フォーロイトと、そこそこ仲がいいとかなんとか。
 ぶっちゃけ、可能なら関わりたくなかった人のうちの一人である。
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