だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
396.氷の国への招待状3
「なッ、何だ貴様は!」
「何だ……って、見れば分かるでしょう? お初にお目にかかります、私はアミレス・ヘル・フォーロイト──この国の王女ですわ。私の管理する地域で何やら馬鹿げた騒ぎが起きているようでしたので、この国の王女として解決しに来ましたの」
冷笑をたたえながらそう告げると、何か言い返そうとした側近の男がロンドゥーア皇帝に制止されてぐっ……と息を詰まらせていた。
そして、ロンドゥーア皇帝は悠然とこちらに歩み寄り、偉そうに私をじっと見下ろしてくる。こちらも仕返しとばかりに睨み返してみると、程なくして相手が口を開いた。
「エリドルの娘……オマエは、今誰に意見したか分かっているのか?」
「それを分からぬ程馬鹿ではございませんわ。分かった上で、私は首を突っ込みましたから」
「ふ、命知らずだな」
「ふふ、ならばそちらは恥知らずではありませんか」
ニコニコと話しているが、今現在、私にはこの男が放った龍族の皇帝らしい心臓が握り潰されそうな威圧が重くのしかかっている。
だが所詮、こんなの人間が放つ威圧に過ぎない。
実際に黒の竜の殺意を体感した身からすれば、この程度の威圧……蜥蜴の威嚇程度にしか感じないわ。
でもまあ、私以外はそうでもないらしい。周りの人達はロンドゥーア皇帝の威圧に負けて地に膝をつけていた。
しかし後ろに控えているイリオーデとアルベルトは、少し冷や汗を流しつつも姿勢を崩さず立っている事から、やはり黒の竜の殺意を受けたか否かで結果は変わるのだろう。
「ほぅ…………」
そんな私達を見て、ロンドゥーア皇帝は目の色を変えてニヤリと笑った。
その瞬間。
眼前に、突如として刃が迫り来る。それは真っ直ぐと私の首目掛けて空気を切っており……それを知覚すると同時に、私は白夜を呼び出して斬撃を受け止めた。
イリオーデとアルベルトもこれに気づいたらしく、刃がこちらに届かぬようにと構えていた。
それを楽しげに見下ろすロンドゥーア皇帝に向け、私は精一杯の皮肉を込めて嘲笑を送る。
「あら……偉大なるタランテシア帝国が皇帝ともあろう御方が、他国の王女如きに不意打ちで剣を抜くだなんて。お父様のご友人と聞いてましたが……飼い犬に手を噛まれるとはこの事を言うのかしら?」
たとえ貴方が自分の国では皇帝であろうとも、ここではただの客にすぎない。
それに、彼は何もしてないのに突然こちらに剣を向けて来るような危険な相手なのだ。そんな最低な人間相手に何を遠慮する必要があるの?
もはや笑う必要もない。こんな男に、営業スマイルを作ってあげる価値なんてなかろうよ。
「────この国で、私に剣を向けるとはどういう了見かしら? ここは氷の国フォーロイト帝国であって、タランテシア帝国のように貴殿が法ではない。ここでは、私のお父様が法なのです。火遊びしたい歳頃なのかどうか知らないが…………他国の皇帝だからとあまり調子に乗らないで貰えるか、ロンドゥーア・オズファルス・ロン・ドロテア皇帝」
そう言って、白夜を振って受け止めた剣を弾き飛ばす。
無礼千万なロンドゥーア皇帝を睨みながら、イリオーデとアルベルトに武器にかけた手を降ろすよう手で指示を出していると、
「く、ははっ、はははは! いやはや、ここまでエリドルと似ているとはな。しかし、うむ……あの妄執朴念仁よりも、オマエの目の方が幾倍にも我が情欲にクるではないか」
ロンドゥーア皇帝は身を捩って笑い出した。
暫しの間背を曲げて肩を震わせている彼に、側近の男が絶望したような表情で縋り付く。何度も首を左右に振っては、「駄目です!!」と叫んでいる模様。
一体何なんだ。情緒不安定か? と思いつつ行く末を見守っていると、ついにロンドゥーア皇帝がゆっくりと顔を上げた。
その顔、その目を見て思わず私はたじろいだ。
嫌な予感が瞬時に脳裏を駆け巡る。
今までになかったある種の恐怖が、ぞわりと背筋を撫でた。
「……──その目、とても良い。睨まれるだけで腹を突き上げるような興奮が沸き起こる」
熱く歪んだ瞳。
私は、あの目を知っている。
稀に見たあの目は──特殊嗜好の持ち主のそれだ。
「アミレス・ヘル・フォーロイト、と言ったな。エリドルの娘だからと、いつもアイツにするようにちょっかいを出してしまった。我が友人の娘だからこそ、ここに謝罪しよう」
本能が警鐘を鳴らす。
この男にこの先の言葉を言わせてはならないと。この男の相手をしてはならないと。
ロンドゥーア皇帝が一歩こちらに踏み出して来たので、反射的に私も少しばかり後退りすると、イリオーデ達に体がぶつかってしまった。
「詫びと言ってはなんだが──オレを一発殴ってくれたまえ。いや、一発と言わず何発でも、オマエの気が済むまでオレを嬲るがいい!」
へっ────、変態だぁあああああああああああああっ!?
やっぱりね?! あのヤバい目とやけにキラキラとした笑顔を見て絶対そうだと思ったよ!
いやしかし、殴れって……もしかしなくてもこの人被虐趣味なのかしら? 何にせよ変態である事に変わりはないか!
彼の側近が、「おやめ下さいまし陛下! ここは他国ですよ陛下!!」と必死に叫んではロンドゥーア皇帝を止めようとしている事から、割と重度の変態らしい。
「どうやらオマエにも迷惑をかけたらしい。その分も思い切り殴ってくれて構わんぞ。ほら、顔でも腹でも股間でも好きな所を殴るといい。さあ!」
ふざけた事を演者のように高らかに宣い、バッと両手を広げるロンドゥーア皇帝を見て、私は思わずドン引きした。
ドン引きしたのは私だけでなく、イリオーデやアルベルト、周りの市民達ものようで。見た目はいいその変態にどう反応すればいいのか分からないとばかりに、誰もが困惑の息をもらしていた。
「良いッ……その目、興奮するな。そのまま罵倒してくれてもいいのだぞ?」
駄目だこの男、無敵の人だ!!
何してもこいつを喜ばせるだけになってしまう! 若き聡明な王とやらはどこ行ったのよ! 目の前にいる男はただの変態暴君じゃないの!!
「王女殿下に不埒な目を向けないで下さい、タランテシア帝国の皇帝」
「それ以上、我が君に近づかないでください」
ここで、イリオーデとアルベルトが果敢に私の前に出てくれた。
だがこの展開はロンドゥーア皇帝にとって不服なものだったらしく、彼は眉根を寄せて二人をひと睨みする。
「邪魔だ。オマエ達のようにつまらない人間に対しては興が乗らん……疾く、オレの前から失せるがいい。エリドルの娘の顔に免じて、一度の無礼は許してやる。死にたくなければそこを退け」
先程の変態発言が嘘のような、一国の王らしい圧。だが二人はそれに平然と耐えている。下手をすれば殺されてしまうかもしれないのに。
本当に……私の従者達は、無茶ばっかりするんだから。
「何だ……って、見れば分かるでしょう? お初にお目にかかります、私はアミレス・ヘル・フォーロイト──この国の王女ですわ。私の管理する地域で何やら馬鹿げた騒ぎが起きているようでしたので、この国の王女として解決しに来ましたの」
冷笑をたたえながらそう告げると、何か言い返そうとした側近の男がロンドゥーア皇帝に制止されてぐっ……と息を詰まらせていた。
そして、ロンドゥーア皇帝は悠然とこちらに歩み寄り、偉そうに私をじっと見下ろしてくる。こちらも仕返しとばかりに睨み返してみると、程なくして相手が口を開いた。
「エリドルの娘……オマエは、今誰に意見したか分かっているのか?」
「それを分からぬ程馬鹿ではございませんわ。分かった上で、私は首を突っ込みましたから」
「ふ、命知らずだな」
「ふふ、ならばそちらは恥知らずではありませんか」
ニコニコと話しているが、今現在、私にはこの男が放った龍族の皇帝らしい心臓が握り潰されそうな威圧が重くのしかかっている。
だが所詮、こんなの人間が放つ威圧に過ぎない。
実際に黒の竜の殺意を体感した身からすれば、この程度の威圧……蜥蜴の威嚇程度にしか感じないわ。
でもまあ、私以外はそうでもないらしい。周りの人達はロンドゥーア皇帝の威圧に負けて地に膝をつけていた。
しかし後ろに控えているイリオーデとアルベルトは、少し冷や汗を流しつつも姿勢を崩さず立っている事から、やはり黒の竜の殺意を受けたか否かで結果は変わるのだろう。
「ほぅ…………」
そんな私達を見て、ロンドゥーア皇帝は目の色を変えてニヤリと笑った。
その瞬間。
眼前に、突如として刃が迫り来る。それは真っ直ぐと私の首目掛けて空気を切っており……それを知覚すると同時に、私は白夜を呼び出して斬撃を受け止めた。
イリオーデとアルベルトもこれに気づいたらしく、刃がこちらに届かぬようにと構えていた。
それを楽しげに見下ろすロンドゥーア皇帝に向け、私は精一杯の皮肉を込めて嘲笑を送る。
「あら……偉大なるタランテシア帝国が皇帝ともあろう御方が、他国の王女如きに不意打ちで剣を抜くだなんて。お父様のご友人と聞いてましたが……飼い犬に手を噛まれるとはこの事を言うのかしら?」
たとえ貴方が自分の国では皇帝であろうとも、ここではただの客にすぎない。
それに、彼は何もしてないのに突然こちらに剣を向けて来るような危険な相手なのだ。そんな最低な人間相手に何を遠慮する必要があるの?
もはや笑う必要もない。こんな男に、営業スマイルを作ってあげる価値なんてなかろうよ。
「────この国で、私に剣を向けるとはどういう了見かしら? ここは氷の国フォーロイト帝国であって、タランテシア帝国のように貴殿が法ではない。ここでは、私のお父様が法なのです。火遊びしたい歳頃なのかどうか知らないが…………他国の皇帝だからとあまり調子に乗らないで貰えるか、ロンドゥーア・オズファルス・ロン・ドロテア皇帝」
そう言って、白夜を振って受け止めた剣を弾き飛ばす。
無礼千万なロンドゥーア皇帝を睨みながら、イリオーデとアルベルトに武器にかけた手を降ろすよう手で指示を出していると、
「く、ははっ、はははは! いやはや、ここまでエリドルと似ているとはな。しかし、うむ……あの妄執朴念仁よりも、オマエの目の方が幾倍にも我が情欲にクるではないか」
ロンドゥーア皇帝は身を捩って笑い出した。
暫しの間背を曲げて肩を震わせている彼に、側近の男が絶望したような表情で縋り付く。何度も首を左右に振っては、「駄目です!!」と叫んでいる模様。
一体何なんだ。情緒不安定か? と思いつつ行く末を見守っていると、ついにロンドゥーア皇帝がゆっくりと顔を上げた。
その顔、その目を見て思わず私はたじろいだ。
嫌な予感が瞬時に脳裏を駆け巡る。
今までになかったある種の恐怖が、ぞわりと背筋を撫でた。
「……──その目、とても良い。睨まれるだけで腹を突き上げるような興奮が沸き起こる」
熱く歪んだ瞳。
私は、あの目を知っている。
稀に見たあの目は──特殊嗜好の持ち主のそれだ。
「アミレス・ヘル・フォーロイト、と言ったな。エリドルの娘だからと、いつもアイツにするようにちょっかいを出してしまった。我が友人の娘だからこそ、ここに謝罪しよう」
本能が警鐘を鳴らす。
この男にこの先の言葉を言わせてはならないと。この男の相手をしてはならないと。
ロンドゥーア皇帝が一歩こちらに踏み出して来たので、反射的に私も少しばかり後退りすると、イリオーデ達に体がぶつかってしまった。
「詫びと言ってはなんだが──オレを一発殴ってくれたまえ。いや、一発と言わず何発でも、オマエの気が済むまでオレを嬲るがいい!」
へっ────、変態だぁあああああああああああああっ!?
やっぱりね?! あのヤバい目とやけにキラキラとした笑顔を見て絶対そうだと思ったよ!
いやしかし、殴れって……もしかしなくてもこの人被虐趣味なのかしら? 何にせよ変態である事に変わりはないか!
彼の側近が、「おやめ下さいまし陛下! ここは他国ですよ陛下!!」と必死に叫んではロンドゥーア皇帝を止めようとしている事から、割と重度の変態らしい。
「どうやらオマエにも迷惑をかけたらしい。その分も思い切り殴ってくれて構わんぞ。ほら、顔でも腹でも股間でも好きな所を殴るといい。さあ!」
ふざけた事を演者のように高らかに宣い、バッと両手を広げるロンドゥーア皇帝を見て、私は思わずドン引きした。
ドン引きしたのは私だけでなく、イリオーデやアルベルト、周りの市民達ものようで。見た目はいいその変態にどう反応すればいいのか分からないとばかりに、誰もが困惑の息をもらしていた。
「良いッ……その目、興奮するな。そのまま罵倒してくれてもいいのだぞ?」
駄目だこの男、無敵の人だ!!
何してもこいつを喜ばせるだけになってしまう! 若き聡明な王とやらはどこ行ったのよ! 目の前にいる男はただの変態暴君じゃないの!!
「王女殿下に不埒な目を向けないで下さい、タランテシア帝国の皇帝」
「それ以上、我が君に近づかないでください」
ここで、イリオーデとアルベルトが果敢に私の前に出てくれた。
だがこの展開はロンドゥーア皇帝にとって不服なものだったらしく、彼は眉根を寄せて二人をひと睨みする。
「邪魔だ。オマエ達のようにつまらない人間に対しては興が乗らん……疾く、オレの前から失せるがいい。エリドルの娘の顔に免じて、一度の無礼は許してやる。死にたくなければそこを退け」
先程の変態発言が嘘のような、一国の王らしい圧。だが二人はそれに平然と耐えている。下手をすれば殺されてしまうかもしれないのに。
本当に……私の従者達は、無茶ばっかりするんだから。