だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
401.国際交流舞踏会3
「美しい宵月のもと、花のように可憐な方に出会えて運命を感じるばかりでございます。私はマクベスタ・オセロマイト……我が無二の親友たるアミレス王女殿下にご挨拶申し上げます」
「あら。ロマンチックなご挨拶、ありがとうございますわ。今宵もいい夜にしましょうね、マクベスタ王子」
胸に手を当てて深くお辞儀するマクベスタに、アミレスも笑顔で返事する。
「マクベスタ、今日はなんだか雰囲気が違うね。その髪型もすごく似合ってるよ」
(──何だったかしら、そう……二作目発売時の店舗別予約特典あたりのミニキャラマクベスタの髪型がこんな感じだった気がする。等身だとこうなるのか……カイルが見たら飛んで喜びそう)
挨拶もそこそこに、いつもの調子でマクベスタを褒める身内大好きなアミレス。読唇術で内容を解読されても困るので、手を口元に当てた状態で褒めちぎっていた。
「そうか……慣れない髪型で気もそぞろだったんだが、お前にそう言ってもらえたのなら少し安心したよ」
頬をほんのり赤くして、金髪の王子様は花のように微笑む。
「正直、これだけ世界各国の要人が集まる場所で一人……っていうのは心細かったから、貴方がいてくれて本当に良かったわ」
「こちらこそ。兄上が風邪を引いたから急遽代打を任され、それなりに緊張していたんだが……お前と合流出来て緊張も解れたよ」
フォーロイト帝国の王女と、その隣国であるオセロマイト王国の王子は談笑する。それを見て、誰かが「お似合いだな」と呟いたその時だった。
「──美しきアミレス姫殿下。国教会を代表して、この僕ミカリア・ディア・ラ・セイレーンが貴女に祝福を贈ります。どうか、貴女に神々のご加護があらん事を」
人集りをするすると通り抜け、純白の法衣を身に纏う美青年は黒く笑う。国教会の信徒らしい所作がその黒い笑顔を上手く隠しているではないか。
唐突なミカリアの登場にアミレスとマクベスタが目を丸くしていると、ミカリアの後ろからアンヘル・デリアルドまでもが顔を見せた。
「どうも、お久しぶりでございます、王女様。アンヘル・デリアルドが挨拶申し上げます」
この手の社交活動を嫌う彼が何故この場にいるのか。いや、本当になんで? ──そう、アミレスは戸惑っていた。
それはアンヘルが、日頃から世話になってる礼という名目でフォーロイト家の私的な客人としてこの舞踏会に招待されているからであり、同時に彼がこの交流会期間中に開催される魔導研究学会で魔導具開発の巨匠としての講演を依頼されているからである。
社交活動は面倒なのだが、魔導具研究の発展への寄与と、帝国内でも指折りのパティシエ達に作らせたスイーツの数々が食べられると聞き、アンヘルも重たい腰を上げたのだ。
ちなみに。立食コーナーでスイーツを頬張っていたところをミカリアに捕獲され、好都合だと思い大人しく連れて来られたらしい。
「……はっ。ええと、ミカリア・ディア・ラ・セイレーン様にアンヘル・デリアルド伯爵。本日はお足元も悪い中、よくぞお越し下さいました。帝国の冬を楽しんでいただければ幸いです」
慌てて笑顔を取り繕い、アミレスはドレスを摘んで一礼した。それに気づき、マクベスタもかつて世話になった聖人にと頭を下げる。
その時、当の聖人はと言うと……。
(何が『お似合いだな』だ。姫君とお似合いなのは僕なんだから、邪魔者には早く姫君の傍から離れてもらわないと。滅多に会えない姫君と合法的に何度も会えるこの機会……必ずや、僕は有効活用してみせる!)
それはもう、しっかりと壊れたままだった。
これが恋に溺れた人類最強の聖人である。なんともまあポンコツなことか。
「マクベスタ王子もお久しぶりです。その後、王妃様の体調はいかがでしたか?」
「……え? あぁ、その節についてはたいへんお世話になりました。聖人様の御加護のお陰で母は快復し、趣味の園げ──……花の鑑賞に日々勤しんでいると聞いております」
「そうですか、お役に立てたようで良かったです。また何かございましたら、遠慮なく僕に仰って下さいね」
ミカリアがにこやかにオセロマイトでの一件を話題に上げると、マクベスタは適当な笑顔を貼り付けて応対した。
だが、マクベスタの態度などミカリアにとっては取るに足らない事。何故なら彼にとって大事なのは『数年前に助けた人を気にかける心優しき聖人』であるとアピールする事だからだ。
(姫君は優しい少女だから、僕も同じように心優しい人間を演じることで姫君に好印象を抱いてもらえる筈。相手によく思われるような行動をするべきだと恋愛小説にも書いてあったからね)
なんと健気な事か。ミカリアは、地道に好感度を稼ごうとしてた。
「姫ぎ──」
「ああそうだ、王女様。あんたに聞きたい事があるんだが……今聞いてもいいか?」
「辺境伯様が私に聞きたい事……ですか? 勿論構いませんよ」
ミカリアの言葉を遮って、アンヘルがずいっとアミレスに一歩近づいた。それに、ミカリアはあんぐりとする。
(な……っ、アンヘル君に邪魔された!?)
別に邪魔をしたという訳ではない。ただ、アンヘルもまたアミレスに用があったというだけの事。
だが、そんなものは今の初恋に壊れたミカリアに関係無い。
ミカリアにとって、アンヘルに邪魔をされたという事は紛れもない事実であり……長く続いた彼等の友情に初めて影響を及ぼす程の出来事だった。
まあ、要するに。
ミカリアの心が異様に狭いだけである。
「あら。ロマンチックなご挨拶、ありがとうございますわ。今宵もいい夜にしましょうね、マクベスタ王子」
胸に手を当てて深くお辞儀するマクベスタに、アミレスも笑顔で返事する。
「マクベスタ、今日はなんだか雰囲気が違うね。その髪型もすごく似合ってるよ」
(──何だったかしら、そう……二作目発売時の店舗別予約特典あたりのミニキャラマクベスタの髪型がこんな感じだった気がする。等身だとこうなるのか……カイルが見たら飛んで喜びそう)
挨拶もそこそこに、いつもの調子でマクベスタを褒める身内大好きなアミレス。読唇術で内容を解読されても困るので、手を口元に当てた状態で褒めちぎっていた。
「そうか……慣れない髪型で気もそぞろだったんだが、お前にそう言ってもらえたのなら少し安心したよ」
頬をほんのり赤くして、金髪の王子様は花のように微笑む。
「正直、これだけ世界各国の要人が集まる場所で一人……っていうのは心細かったから、貴方がいてくれて本当に良かったわ」
「こちらこそ。兄上が風邪を引いたから急遽代打を任され、それなりに緊張していたんだが……お前と合流出来て緊張も解れたよ」
フォーロイト帝国の王女と、その隣国であるオセロマイト王国の王子は談笑する。それを見て、誰かが「お似合いだな」と呟いたその時だった。
「──美しきアミレス姫殿下。国教会を代表して、この僕ミカリア・ディア・ラ・セイレーンが貴女に祝福を贈ります。どうか、貴女に神々のご加護があらん事を」
人集りをするすると通り抜け、純白の法衣を身に纏う美青年は黒く笑う。国教会の信徒らしい所作がその黒い笑顔を上手く隠しているではないか。
唐突なミカリアの登場にアミレスとマクベスタが目を丸くしていると、ミカリアの後ろからアンヘル・デリアルドまでもが顔を見せた。
「どうも、お久しぶりでございます、王女様。アンヘル・デリアルドが挨拶申し上げます」
この手の社交活動を嫌う彼が何故この場にいるのか。いや、本当になんで? ──そう、アミレスは戸惑っていた。
それはアンヘルが、日頃から世話になってる礼という名目でフォーロイト家の私的な客人としてこの舞踏会に招待されているからであり、同時に彼がこの交流会期間中に開催される魔導研究学会で魔導具開発の巨匠としての講演を依頼されているからである。
社交活動は面倒なのだが、魔導具研究の発展への寄与と、帝国内でも指折りのパティシエ達に作らせたスイーツの数々が食べられると聞き、アンヘルも重たい腰を上げたのだ。
ちなみに。立食コーナーでスイーツを頬張っていたところをミカリアに捕獲され、好都合だと思い大人しく連れて来られたらしい。
「……はっ。ええと、ミカリア・ディア・ラ・セイレーン様にアンヘル・デリアルド伯爵。本日はお足元も悪い中、よくぞお越し下さいました。帝国の冬を楽しんでいただければ幸いです」
慌てて笑顔を取り繕い、アミレスはドレスを摘んで一礼した。それに気づき、マクベスタもかつて世話になった聖人にと頭を下げる。
その時、当の聖人はと言うと……。
(何が『お似合いだな』だ。姫君とお似合いなのは僕なんだから、邪魔者には早く姫君の傍から離れてもらわないと。滅多に会えない姫君と合法的に何度も会えるこの機会……必ずや、僕は有効活用してみせる!)
それはもう、しっかりと壊れたままだった。
これが恋に溺れた人類最強の聖人である。なんともまあポンコツなことか。
「マクベスタ王子もお久しぶりです。その後、王妃様の体調はいかがでしたか?」
「……え? あぁ、その節についてはたいへんお世話になりました。聖人様の御加護のお陰で母は快復し、趣味の園げ──……花の鑑賞に日々勤しんでいると聞いております」
「そうですか、お役に立てたようで良かったです。また何かございましたら、遠慮なく僕に仰って下さいね」
ミカリアがにこやかにオセロマイトでの一件を話題に上げると、マクベスタは適当な笑顔を貼り付けて応対した。
だが、マクベスタの態度などミカリアにとっては取るに足らない事。何故なら彼にとって大事なのは『数年前に助けた人を気にかける心優しき聖人』であるとアピールする事だからだ。
(姫君は優しい少女だから、僕も同じように心優しい人間を演じることで姫君に好印象を抱いてもらえる筈。相手によく思われるような行動をするべきだと恋愛小説にも書いてあったからね)
なんと健気な事か。ミカリアは、地道に好感度を稼ごうとしてた。
「姫ぎ──」
「ああそうだ、王女様。あんたに聞きたい事があるんだが……今聞いてもいいか?」
「辺境伯様が私に聞きたい事……ですか? 勿論構いませんよ」
ミカリアの言葉を遮って、アンヘルがずいっとアミレスに一歩近づいた。それに、ミカリアはあんぐりとする。
(な……っ、アンヘル君に邪魔された!?)
別に邪魔をしたという訳ではない。ただ、アンヘルもまたアミレスに用があったというだけの事。
だが、そんなものは今の初恋に壊れたミカリアに関係無い。
ミカリアにとって、アンヘルに邪魔をされたという事は紛れもない事実であり……長く続いた彼等の友情に初めて影響を及ぼす程の出来事だった。
まあ、要するに。
ミカリアの心が異様に狭いだけである。