だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
409.国際交流舞踏会6
(……──はぁ。アンヘル君が僕に興味無いのは昔からか。それでも、まあ、別にいいんだけど)
ミカリアは床に息を吹きかけるように小さく微笑んだ。百年経っても全然変わらないたった一人の知人に、彼は安堵したのだ。
(そろそろアンヘル君の話終わったよね? もう姫君に話しかけてもいいよね?)
律儀にアンヘルの話が終わるのを待っていたミカリアは、ようやく彼の話がひと段落ついたと判断してアミレスの方へ一歩踏み出す。
「姫ぎ……」
「──ご歓談中に失礼致します。親愛なる王女殿下にお目通り願いたいのですが」
だがしかし、先に彼女へと声をかける者が現れた。
悠然と歩み寄るその人物を見て、アミレスとマクベスタは目を丸くする。
(うそ……何でここに──)
(彼は、まさか……)
そして、二人は固唾を呑み同時に口を開いた。
「「リードさん!?」」
「ふふ、覚えていてくれたようで嬉しいよ。お久しぶりです、アミレス王女殿下、マクベスタ王子殿下」
懐かしい名を呼ばれた青年は、深緑の長髪を揺らして優雅に一礼した。
(……ようやく、君の前で名乗れるようになったよ)
「──私は、ロアクリード=ラソル=リューテーシー。リンデア教の新たなる指導者……ジスガランド教皇として、此度の国際交流舞踏会にお招きいただきました。以後、お見知り置きを」
黒を基調とした、どう見ても地位の高い人が着る祭服。
彼の優しくも凛々しいオールドブルーの瞳が、本人の美しさを助長する。長く伸びた睫毛は白い肌に影を作っており、柔らかく波打つ長髪が儚さを醸し出していた。
そんなロアクリードを見て、アミレスは。
(教……皇? リードさんが、リンデア教の? え、ど……どういう事……??)
もはや見た目の情報など頭に入って来ない程、混乱していた。
それもその筈。何故ならアミレスは今の今までロアクリードの事を『優しい司祭のお兄さん』と認識していたのだ。
なのに突然、数年振りに再会したそばから指導者だとか教皇だとか言われて……混乱しない筈がない。
「おや、リンデア教の指導者が代わったと聞いていたけど……やはり君だったんだね。──ところで。僕達の西に何の用だい、異教徒さん」
「相変わらず聖人殿はお優しい。私のような異教徒にまでわざわざお声がけ下さるなんて! 分かりきった事をわざわざ聞くのは国教会の教えですか? いやぁ、なんとも思慮深い教えですね。異教徒の私には到底理解も及びませんよ」
混乱するアミレスを挟んで、ミカリアとロアクリードはにこやかに言い争いを始めた。
リンデア教と国教会は異なる神を信仰している。人でありながら神と成った唯一神を信仰するリンデア教と、多くの神が御座す天空教を信仰する国教会。
当然と言ってはなんだが、互いを異教徒と認識して敵対する為……両者の間には奈落のごとき溝があり、何百年もの間冷戦状態にあった。
故に、顔を合わせる度にこうして火花を散らす事になる。
もっとも──こと彼等に関しては、超個人的な理由で相手を心底嫌っているのだが。
「国教会の聖人の事は置いておいて。王女殿下、再会したばかりで申し訳ないのだけど……君に紹介したいヒトがいるのですが、宜しいでしょうか?」
聖人と火花を散らした所で彼女と話せる時間が減るだけ──と冷静に考えたロアクリードは、くるっとアミレスの方を向き、強引に話題を変えた。
「え? ああ、はい……大丈夫ですよ」
「ありがとう。そういう訳だから──もう挨拶していいよ、ベール」
ロアクリードがそう言って一歩横にずれると、いつの間にかそこには豊満な体の女性が立っていて。
それを見てミカリアは一瞬表情を強ばらせ、アミレスはぽかんとした。
(リードさんから女性を紹介されるとは……もしかしてそういう関係? でもなんで私に紹介するの──って、あれ? あの目……ナトラやクロノとそっくり……)
花嫁が被るヴェールのような内巻きの白髪。柔らかな雰囲気の中にある鋭い黄金の瞳が彼女の神秘的な印象を底上げする。
雲間に見える太陽のような眩しさの美女。
一歩、また一歩と近づいてくるベールに、アミレスはふとしたデジャブを抱いていた。
(……ふふっ、本当に緑に気に入られているのね、このお嬢さんは。あの緑がこんなにも、露骨に匂いを纏わせるなんて)
嗅覚に優れた種族でなければ分からないようなマーキング。これは、緑の竜が『この人間は我のものだ』と他の生き物達に牽制する為に、わざわざ他の臭いを上書きしたものだった。
ちなみに。アンヘルは五感が優れている為か、アミレスから肌が粟立つような匂いがしている事に気づいていたが、それが竜種の匂いだとは流石に気づかなかった事だろう。
だがここで白の竜が現れた事により、
(この白い女……王女様と似たような匂いがする。なんだこの匂い、最近はこんな趣味悪いのが流行ってんのか?)
似た匂いを纏う事に気づいたものの、何故か明後日の方向に失礼な勘違いをしていた。
いくらスイーツと魔導具以外に興味が無いとはいえど、失礼すぎる。
「──はじめまして、可愛いお嬢さん。私の名前はベールといいます。いつも、妹がお世話になってます」
ベールがお辞儀と共にニコリと微笑むと、
「いもうと……」
(──私の知り合いのお姉さんって、もしかして……)
アミレスも何かに気づいたのかハッと息を呑んだ。
「白の竜……?!」
「正解です、緑の恩人さん。かねてより、ロアクリードからあなたの話は聞いてます。でも……話に聞くよりもずっと可愛らしいお嬢さんでびっくりしてしまいましたわ」
「い、いえ……白のりゅ──ベールさんの方がずっとお綺麗ですよ」
「あら、お世辞でも嬉しいわ」
ベールへと丁寧に対応する一方で、アミレスは困惑していた。
(おかしい。白の竜は大陸のどこかに封印されてる筈で……どうして、そんな彼女がこうして自由になっているんだろう。リードさんと親しいみたいだし、もしかしてリードさんが封印を解いたの? でも、あの竜種を封印できる程の魔法をどうやって解除したんだろう……)
じぃっとロアクリードを見つめていたからか、彼はすぐにアミレスの視線に気づいた。その上で意味ありげに微笑んで、
「ベールの事は、また改めて話させて貰ってもいいかい? 出来れば……お茶でもしながら」
君に話したい事が沢山あるんだ。と微笑んで、ロアクリードは提案した。
すると、「なっ……!」とミカリアが虚をつかれた声を漏らす。それを見てロアクリードはふふんと鼻を鳴らし、してやったりとばかりに上機嫌になった。
そんなくだらない戦いなど全く知らないアミレスは、久々に会えたロアクリードからのお茶の誘いに喜んで応えてしまうのであった。
ミカリアは床に息を吹きかけるように小さく微笑んだ。百年経っても全然変わらないたった一人の知人に、彼は安堵したのだ。
(そろそろアンヘル君の話終わったよね? もう姫君に話しかけてもいいよね?)
律儀にアンヘルの話が終わるのを待っていたミカリアは、ようやく彼の話がひと段落ついたと判断してアミレスの方へ一歩踏み出す。
「姫ぎ……」
「──ご歓談中に失礼致します。親愛なる王女殿下にお目通り願いたいのですが」
だがしかし、先に彼女へと声をかける者が現れた。
悠然と歩み寄るその人物を見て、アミレスとマクベスタは目を丸くする。
(うそ……何でここに──)
(彼は、まさか……)
そして、二人は固唾を呑み同時に口を開いた。
「「リードさん!?」」
「ふふ、覚えていてくれたようで嬉しいよ。お久しぶりです、アミレス王女殿下、マクベスタ王子殿下」
懐かしい名を呼ばれた青年は、深緑の長髪を揺らして優雅に一礼した。
(……ようやく、君の前で名乗れるようになったよ)
「──私は、ロアクリード=ラソル=リューテーシー。リンデア教の新たなる指導者……ジスガランド教皇として、此度の国際交流舞踏会にお招きいただきました。以後、お見知り置きを」
黒を基調とした、どう見ても地位の高い人が着る祭服。
彼の優しくも凛々しいオールドブルーの瞳が、本人の美しさを助長する。長く伸びた睫毛は白い肌に影を作っており、柔らかく波打つ長髪が儚さを醸し出していた。
そんなロアクリードを見て、アミレスは。
(教……皇? リードさんが、リンデア教の? え、ど……どういう事……??)
もはや見た目の情報など頭に入って来ない程、混乱していた。
それもその筈。何故ならアミレスは今の今までロアクリードの事を『優しい司祭のお兄さん』と認識していたのだ。
なのに突然、数年振りに再会したそばから指導者だとか教皇だとか言われて……混乱しない筈がない。
「おや、リンデア教の指導者が代わったと聞いていたけど……やはり君だったんだね。──ところで。僕達の西に何の用だい、異教徒さん」
「相変わらず聖人殿はお優しい。私のような異教徒にまでわざわざお声がけ下さるなんて! 分かりきった事をわざわざ聞くのは国教会の教えですか? いやぁ、なんとも思慮深い教えですね。異教徒の私には到底理解も及びませんよ」
混乱するアミレスを挟んで、ミカリアとロアクリードはにこやかに言い争いを始めた。
リンデア教と国教会は異なる神を信仰している。人でありながら神と成った唯一神を信仰するリンデア教と、多くの神が御座す天空教を信仰する国教会。
当然と言ってはなんだが、互いを異教徒と認識して敵対する為……両者の間には奈落のごとき溝があり、何百年もの間冷戦状態にあった。
故に、顔を合わせる度にこうして火花を散らす事になる。
もっとも──こと彼等に関しては、超個人的な理由で相手を心底嫌っているのだが。
「国教会の聖人の事は置いておいて。王女殿下、再会したばかりで申し訳ないのだけど……君に紹介したいヒトがいるのですが、宜しいでしょうか?」
聖人と火花を散らした所で彼女と話せる時間が減るだけ──と冷静に考えたロアクリードは、くるっとアミレスの方を向き、強引に話題を変えた。
「え? ああ、はい……大丈夫ですよ」
「ありがとう。そういう訳だから──もう挨拶していいよ、ベール」
ロアクリードがそう言って一歩横にずれると、いつの間にかそこには豊満な体の女性が立っていて。
それを見てミカリアは一瞬表情を強ばらせ、アミレスはぽかんとした。
(リードさんから女性を紹介されるとは……もしかしてそういう関係? でもなんで私に紹介するの──って、あれ? あの目……ナトラやクロノとそっくり……)
花嫁が被るヴェールのような内巻きの白髪。柔らかな雰囲気の中にある鋭い黄金の瞳が彼女の神秘的な印象を底上げする。
雲間に見える太陽のような眩しさの美女。
一歩、また一歩と近づいてくるベールに、アミレスはふとしたデジャブを抱いていた。
(……ふふっ、本当に緑に気に入られているのね、このお嬢さんは。あの緑がこんなにも、露骨に匂いを纏わせるなんて)
嗅覚に優れた種族でなければ分からないようなマーキング。これは、緑の竜が『この人間は我のものだ』と他の生き物達に牽制する為に、わざわざ他の臭いを上書きしたものだった。
ちなみに。アンヘルは五感が優れている為か、アミレスから肌が粟立つような匂いがしている事に気づいていたが、それが竜種の匂いだとは流石に気づかなかった事だろう。
だがここで白の竜が現れた事により、
(この白い女……王女様と似たような匂いがする。なんだこの匂い、最近はこんな趣味悪いのが流行ってんのか?)
似た匂いを纏う事に気づいたものの、何故か明後日の方向に失礼な勘違いをしていた。
いくらスイーツと魔導具以外に興味が無いとはいえど、失礼すぎる。
「──はじめまして、可愛いお嬢さん。私の名前はベールといいます。いつも、妹がお世話になってます」
ベールがお辞儀と共にニコリと微笑むと、
「いもうと……」
(──私の知り合いのお姉さんって、もしかして……)
アミレスも何かに気づいたのかハッと息を呑んだ。
「白の竜……?!」
「正解です、緑の恩人さん。かねてより、ロアクリードからあなたの話は聞いてます。でも……話に聞くよりもずっと可愛らしいお嬢さんでびっくりしてしまいましたわ」
「い、いえ……白のりゅ──ベールさんの方がずっとお綺麗ですよ」
「あら、お世辞でも嬉しいわ」
ベールへと丁寧に対応する一方で、アミレスは困惑していた。
(おかしい。白の竜は大陸のどこかに封印されてる筈で……どうして、そんな彼女がこうして自由になっているんだろう。リードさんと親しいみたいだし、もしかしてリードさんが封印を解いたの? でも、あの竜種を封印できる程の魔法をどうやって解除したんだろう……)
じぃっとロアクリードを見つめていたからか、彼はすぐにアミレスの視線に気づいた。その上で意味ありげに微笑んで、
「ベールの事は、また改めて話させて貰ってもいいかい? 出来れば……お茶でもしながら」
君に話したい事が沢山あるんだ。と微笑んで、ロアクリードは提案した。
すると、「なっ……!」とミカリアが虚をつかれた声を漏らす。それを見てロアクリードはふふんと鼻を鳴らし、してやったりとばかりに上機嫌になった。
そんなくだらない戦いなど全く知らないアミレスは、久々に会えたロアクリードからのお茶の誘いに喜んで応えてしまうのであった。