だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

415.ティータイムは修羅場の後で2

 そうやってじっと携帯擬きを眺めていると、

「ねぇアミィ。アイツ殺していい? ボクの前で意味不明な話をしてアミィにお揃いの玩具を渡すとか、大罪人が断頭台にダンス踊りながら登ってるようなものだよ」
「これ、そのレベルの顰蹙を買う事なの?! ただプレゼント貰っただけなのに?!」
「魔界的には斬首からの首晒し、腐敗が開始したら杭を打ち込み鎖でぶん回して嫌いな奴の家に投げ込んでから、その辺で蟲の餌って感じかなァー」
「魔界怖っ……」
「「冗談だよ」」

 後ろから抱き着くシルフと、頭に肘を乗せてくるシュヴァルツ。
 すぐ私の身動きを封じようとする二体(ふたり)の、嘘か本当か分からない冗談に肝が冷えた。二人共、口は笑ってるけど目は笑ってない。
 それに僅かな恐怖を抱いていると、カイルがシュヴァルツを凝視しながらおずおずと口を開いた。

「……誰? この反転眼イケメンゎ」
「急にギャル化しないでよ。彼は……まあ、何て言ったらいいのかな。すごーく複雑な事情がありまして」
「はにゃ?」
「だからやめなさい、正直キツいわよ。で、彼の事だけど……簡潔に言うと、シュヴァルツです」
「よォカイル。お前の事前から気に食わなかったし、いっぺん死んでみるか?」
「俺やだよこんなイケメンに雑に地獄に送られるの!!」

 カイルはその後もぎゃあぎゃあと一頻り騒ぎ、気が済んだのか急に大人しくなった。

「──成程な、シュヴァルツがショタでイケメンで悪魔で魔王か……流石に属性盛りすぎでは? 四種の属性人外マシマシ丼大盛りじゃんもう」
「本当に……私の可愛い弟分が図体のデカいかまってちゃんになっちゃって……」
「渾身のボケをスルーしないでくれ親友。つーか、魔王相手にその扱い出来るお前の態度のがめちゃくちゃデカいと俺思うんだけど」

 うるせぇ。とカイルの脛を軽く一蹴りする。「あだっ」と涙目で唇を尖らせる男を一旦放置して、いつまでものしかかって来る人外さん達には退いてもらう。
 そして、雪遊びしていたセツを呼んでそのもふもふに癒されていた時だった。

「──会場はここか」

 上空から、バスケットを抱えたマクベスタが降って来た。

「すまない。城の出入口が人でごった返していてな、遅刻しないように窓からそのまま飛んできたからかこんな入場になってしまった」

 鮮やかに着地して、マクベスタは少し荒れた髪を軽く整えた。懐から招待状を出して、遅ればせながらそれをアルベルトに見せている様子。
 そして……なんとなく予想はついていたが、推しのダイナミック登場を目の当たりにしたオタクはというと──、

「お、おやっ……王女! 空から王子が!!」

 案の定、嬉々として定番ネタをやった。
 わざわざ王女とか王子とか言い換えてるし。本当に毎日が楽しそうね、この人。

「そうねー、空から王子様降ってきたねー」
「え……ちょっと今日マジで塩対応すぎない? 反抗期なの?」
「いてこますぞ」
「やだこの子関西人?!」

 もうそういう性分なのか、全然落ち着いてくれない。なんなら今のカイルの発言が微妙に皆にも聞き取れてしまったらしく、

「「「「「「「カーサイジィ……?」」」」」」」

 初めて聞く単語に、皆の疑問が声となり重なった。
 前の埼玉や北海道のように、もしかしたら日本の言葉の中にも弾かれる言葉と弾かれない言葉があるのかもしれない。
 それにしても埼玉とかはそのまま聞き取れたみたいなのに、関西人は若干訛ったような感じでのヒアリングなのね。もう訳が分からないわ。
 さてさて。どう説明したものか。もうこれも前の北海道みたく何かの暗号って事にしたらいいのかな。
 対応に困った私がうーんと唸っていたら、それに気づいたのかマクベスタが話題を変えてくれた。

「ああそうだ。アミレス、これを」

 マクベスタは大きなバスケットを差し出してきた。その中を見てみると、なんとそこには美味しそうなスイーツがいくつも入っていた。
 ……いや、というかこれ、どう見てもドーナツだよね。この世界にドーナツは無かった気がするんだけど。
 見た事の無いスイーツに興味津々のシュヴァルツやナトラがバスケットを覗き込むなか、マクベスタは少し照れ臭そうに語り出した。

「お前の為に作るのだからどうせなら珍しいものを、と思って……本当はもっと細長い完成形の予定だったんだが、油の中に入れたら丸くなってしまって。でもこの方が可愛い気がしたから……その方がお前が喜ぶと思ったんだ。試食した限り、一応食べられる味にはなってるから安心して欲しい」

 砂糖だったり、チョコだったり、カカオパウダーっぽいものだったり、飴を砕いたものだったり、なんかよく分からない粉だったり……色んなものがかけられているドーナツたちはどれも少し不格好だったけど、色とりどりでとても美味しそうだった。
 ──というか。

「これマクベスタが作ったの!?」
「これマクベスタが作ったのか!?」

 奇しくも私とカイルの声は重なった。全く同じリアクションである。
 流石に二人同時に来るとは思ってなかったのか、マクベスタは何度か瞬きしてからこくりと頷いた。

「あ、ああ。その丸い焼き菓子の下にうちの国の果物をふんだんに使ったパウンドケーキも二本程あるから、もし良かったら皆で食べてくれ」
「「パウンドケーキ!?」」
「こちらは作り慣れてるからそれなりに自信があるぞ。まあ、当然職人には遠く及ばないが……」

 私達は驚愕した。生活能力があるとは聞いていたが、ここまで料理が出来るとは聞いてない。なんならゲームでもそんな話は一度も出て来なかった気が──って、あれ? 一応それっぽい描写あったわ……二作目の特典ドラマCDでミシェルちゃんの看病の為にお粥とか作ってた気がするわ……。
 フリードルがミシェルちゃんの看病をしてる間にお粥作ってたわマクベスタ……完全に忘れてた。
 じゃあ本当に、元々料理出来る系男子だったのねマクベスタは。凄いわ流石は私の友達。

「俺の推し女子力高ぇ……すき……」

 あんたはどんな要素でも推しなら無条件で好きになるじゃないの。そんな、恋する乙女みたいに手で顔を隠すんじゃない。

「マクベスタ、お前……隅に置けねェな。急に好意(ポイント)稼ぐじゃねェか」
「なんの事やら。オレはただ、招待してくれた礼として、アミレスに喜んで貰おうとしただけだが」
「本音ダダ漏れなんだわ。ホントやだなァこのバーサーカー」

 バーサーカーという言葉が耳に引っかかったのだが、そこでナトラが私の服を軽く引っ張ったので、そちらに意識を向ける。

「アミレス! そこの、お前の瞳のような色をしておる丸い菓子を我にくれぬか? なんだかとても……とても懐かしい匂いがするのじゃ」
「私の瞳のような色の丸い菓子──ってこれ?」
「そう、それじゃ! アミレスが貰ったものじゃから、我は貰えぬかのぅ?」
「そんな事ないよ。はい、ナトラにあげる」
「感謝するぞ、アミレス」

 少し恥ずかしい例えでナトラが欲しいと言ったものは、何か分からない粉がかかったドーナツだった。
 確かに私の目と似た色ではあるのだが……ちょっとした気恥しさが込み上げてくる。
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