だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

418.ティータイムは修羅場の後で

「久しぶりだなァ、リード。オレサマの事覚えてるか? 覚えてるよなァ?」
「いやそんなまさかとは思ってたけど、君ってやっぱりシュヴァルツ君……? ほんとに魔族だったんだぁ……しかもやたらと大きい……」

 あまり驚く様子を見せず、リードさんはあのシュヴァルツの正体をあっさりと受け入れた。流石はリードさん……大人だ……!

「お前は全然変わんねェな。少しは強くなったみたいだが」
「まあね。私もそれなりに努力はしていたから──……っと、安心して。ちゃんと私の役割(・・)は覚えているよ」
「フ、そりゃ結構。そんな真面目なリードくんは結構好きだぜ、オレサマ」
「一応私って、教皇なんだけどな。魔族に好かれても全く喜べない立場なんだけどな」

 シュヴァルツのだる絡みに乾いた笑いを浮かべるリードさんに、とりあえずシルフの事も説明する。リードさん的にはこちらの方が予想外だったらしく、彼はかなり目を丸くしていた。
 その後も暫く皆でワイワイと騒いでいたら、

「アミレスちゃん! 遅れてごめんなさいっ」
「ま、まっ……ぜぇ、ローッ……はぁ……ズ! はぁ……!」

 鈍色の髪を揺らして、ローズが凄い勢いで駆けてくる。その遥か後ろからレオの声も聞こえてくるのだが、あまりにもか細すぎて雪を踏み締める音に掻き消されてしまいそうだ。

「全然遅れてないよ。それより、レオの事置いて来てもいいの? なんか、凄く頑張って走ってるみたいだけど」
「あっ──、えっとぉ……とにかく遅刻しないように! って思って一生懸命走ってたから……お兄様の体が弱い事を忘れてたみたい……」

 あはは、じゃない。

「……──ろーず、なん……っ、はぁ、おいっ……て……! ぜぇぇ……はあ、はぁ、おれっ、はし……れな……ッ!!」

 見てて心配になるぐらい激しく肩で息をするレオに、同情が集まる。膝に手をつき、汗を落としながら地面に向かって大きく息を吐き出すレオを見て、私はどうしたものかとオロオロしていた。
 そんな彼の肩に手を置いてリードさんが「治癒魔法使おうか?」と尋ねると、レオはゆっくりと首を縦に動かした。
 そして、数分後。

「ありがとうございます……このお礼は必ず。ええと、どちらさまで……?」
「私はロアクリード。ここにいるという事は王女殿下の友達なんだよね? ならば、私とももう知った仲のようなものだ。人々を癒すのは私の役目だし、そう気にしないでくれ」
「ありがとうございます、ロアクリードさん。俺はレオナードで……そちらの、ちょっとお転婆なのが俺の妹のローズニカです」
「はじめまして、ローズニカです」

 リードさんのお陰でレオが回復したよ!
 初対面の人達がそうやって自己紹介を重ねるなか、ローズがスススッと体をくっつけて来て。

「ねぇねぇアミレスちゃん。ロアクリードさんって、その……どういうお知り合いなの? 見た事ない祭服を着てらっしゃるけど……」

 うーむ、これまた説明が難しい。
 今日は他己紹介が難しい人ばかりだなあ。まあ、しょうがないか。

「昔、凄くお世話になった人なんだ。とっても優しくて面倒見のいいお兄さんだよ」
「そうなんだ。ただの、いいお兄さんなんだね」

 なんだろう、含みのある笑顔だ。

「王女殿下、実はこのお茶会の為にローズと一緒にクッキーを焼いてきたんです。見ていただければ分かると思うんですが…………」
「『赤バラのおうじさま』の登場人物を模したクッキーなの!」
「ローズ、それ俺が言いたかった」

 食い気味でローズがネタばらしをしたので、レオは悲しげな顔になる。
 そんな二人が作って来てくれたというクッキーに思い馳せていると、

「『赤バラのおうじさま』と言えば……ここ、たくさん赤い薔薇が咲いてて、御伽噺に迷い込んだような気分になるね。そうだ! 後で、薔薇を何輪かいただいてもいいかな? こんなにも綺麗な薔薇、滅多に見られないから……」
「ナトラがいいよって言ったら好きなだけ持って帰っていいわよ」
「やったあ!」

 とても楽しそうなローズを前に、そんな感じの流れ……既にやったんだよな──。なんて言える訳もなく。

「お兄様、これだけあれば『赤バラのおうじさま』第二十四話の薔薇風呂だって出来ちゃうかもしれませんよ!」
「二十四話の薔薇風呂って、浴槽を薔薇の花びらで埋め尽くすやつだよ? 流石にその量の薔薇を貰う訳にはいかないだろ」
「むぅ……じゃあ半分は普通のお風呂でいいです。半身浴半薔薇浴でどうですか」
「なんでムキになるのさ」

 楽しそうに話す兄妹。
 それを眺める私を温度差で殺すつもりなのか、さほど楽しく話せない兄妹がここに揃ってしまう。

「──随分と、招待客が多いんだな。てっきり、兄妹水入らずなのかと思っていたのだが」

 うちの兄が降臨した事により、帝国民は一様に固まった。
 カイルに至っては、『お前アイツまで招待したの!?』と目で訴えかけてくる。『仕方無いじゃん。初日の帰り際に圧かけられたんだもん!』と目で語り返す。

「……まあ、良いか。招待されただけマシというものだからな、贅沢は言うまい」
「意外と場に溶け込むつもりがおありなんですね、兄様」
「僕を馬鹿にしてるのか、お前は。人間、時には柔軟さを求められるものだ。僕とてこの程度の事は造作もない」
「そうですか。とりあえず、可能な限り楽しんでいってくださいね」

 ああ。と素っ気ない返事を残して、フリードルは我先にと端の方のテーブルに着席した。相変わらずの一匹狼っぷりである。
 そんなロンリーウルフの次は、孤高の御二人。
 蝙蝠のような翼と、天使のような翼。その背で翼を羽ばたかせ、彼等は空から現れた。

「お待たせ致しました、姫君。朝に弱いアンヘル君を叩き起していたら時間がかかってしまいまして」
「ふぁ……おはよー、おーじょさま」
「姫君の前で欠伸なんてみっともないよアンヘル君」

 対照的な二人が同時に着地する姿は壮観だった。まさに天使と悪魔──っと、この場には本物の悪魔がいるんだったわね。余計な事は口にしない方がいいか。

「ミカリア様、アンヘル、寒い中ようこそお越しくださいました。今日はもう無礼講なので、どうぞ心ゆくまで楽しんでいって下さいね」
「はい。お言葉に甘えさせていただきますね」
「ん。ところでテーブルの上にあるバスケットはもしやスイーツか?」

 挨拶もそこそこに、アンヘルは目敏くマクベスタの焼き菓子に視線を送る。

「あれは、マクベスタが作ってくれたスイーツだよ。私の方でも色々スイーツを用意したんだけど、そのスイーツの類は……」

 ちらりとアルベルトの方を見る。目が合うと、彼は一度頷いて影の中からいくつもの箱を取り出した。
 それはケーキ屋さんでケーキを買う時のあの箱であって、その中身達は想像に難くない。
 アンヘルを始めとした甘い物が好きな面々の関心を一手に集め、その箱は次々開封される。
 色とりどりのスイーツが、ケーキスタンドや大きなお皿に盛り付けられていく。アルベルトはこの為だけに分身を作り出し、効率的にスイーツの盛り付けを終えた。

「皆様方。お口直し用のサラダなどもございますので、主君がご用意してくださったスイーツの数々……どうぞ全てお召し上がりくださいませ」

 おお。流石はアルベルト、気が利くわね。

「圧が……」
「全て平らげないと承知しない。という顔だな」

 カイルとマクベスタが何やら顔を青くしているのだが、まあそれは一旦置いておいて。

「──ごほん。ええと、とりあえずはこれで招待した人は皆来てくれた……かな。それじゃあ改めまして。本日は急な招待にも関わらず参加してくださった親愛なる皆様に心より感謝を。どうかこの場が、皆様の思い出の片隅にでも残れたら幸いです」

 皆の視線を集め、それでは……と言葉を続ける。

(わたくし)、アミレス・ヘル・フォーロイト主催の秘密のお茶会(ティーパーティー)──……これより開始致します!」
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