だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
425.酔った皇帝と困った側近
「くははは! エリドルよ、酔っても顔色一つ変えんとは相変わらずの仏頂面だな!」
「喧しいぞ、蜥蜴。黙って酒を飲む事すら出来ぬのか、貴様は」
「いつも通りの冷たい態度……っ、やはり良いな」
「気色悪い言動を繰り返すようであれば追い出すぞ」
それは、国際交流舞踏会が始まってから五日目とかの夜の事。仕事終わりの陛下は、半ば押し掛ける形で現れた旧知の王達と城の一室で酒を飲み交わす事となった。
土産にと持って来たタランテシア帝国特産の酒を飲み、酔ったロンドゥーア皇帝は早速陛下相手にくだをまく。
「まあまあ……多目に見てやって下さいよ、フォーロイト皇帝。彼、この機会をとても楽しみにしていたそうですから……」
「そうだぞお、エリドル! オレがどれ程この国に来たかった事か!!」
クサキヌア王国の国王、アビリオ王がロンドゥーア皇帝を庇うも、当のロンドゥーア皇帝は偉そうな態度を崩さずあまつさえ陛下を指さした。
……やはり、あの男はあの時殺しておくべきだったか。
「我が国の絶景をいくら見ようとも『期待外れだな』とか吐かしおったオマエ自慢の国をな、舐め回すように見てやろうと思っていたのに……くそッ、なんでちゃんといい国なのだ! 寒い事以外に何も文句をつけられぬ!!」
「当たり前だ、私の国だぞ。現在この世で最も栄えし泰平の世……美しく、眩く、幸福と平穏に満ちた国でなければならないのだ。この国は」
これまたロンドゥーア皇帝の土産である浅めの盃に注がれたタランテシア産の酒に、陛下は静かに喉を鳴らす。そうして空になった陛下の盃に、すかさず僕は酒をついだ。
「ぐぬぬ…………エリドルの口からは絶対飛び出さなさそうな言葉が次々と……!!」
「フォーロイト皇帝は相変わらず民思いの英明な王ですな。歴代で最も安定した治世であると頻繁に耳にしますが──実際にこの国を訪れ噂に違わぬ平穏な営みを見ては、是非我が国もこのように……と景気づけられます」
民思いの英明な王。その言葉を聞いた陛下は目を伏せ、白い肌に睫毛の影を落とした。
(──他国の王からは未だにそう思われているのか。私のような愚かな男が)
最愛の人との約束一つの為に、国を発展させているだけに過ぎない。彼は、民思いの英明な王などと呼ばれるような人間ではないと自負している。
事実、そうだった。
皇帝の座についたのは、あの女性が平和に過ごせる国にする為。
保守派ばかりの元老院を解体し、人身売買等を一際厳しく取り締まり、帝国法を次々に改定していったのは、あの女性の望む平和な国にする為。
どれだけ目障りでも今まで王女殿下の好きにさせていたのは、あの女性との約束を──この国を発展させるという約束を果たす為。
彼の功績の多くはたった一人の女性の為の行動であり、決して国や民を思っての事ではない。だがそれを知らぬ者達は、エリドルを『無情の皇帝』と呼ぶ傍らで『賢王』とも呼ぶ。
彼はその事実すらもどうでもいいようで、これまで放置してきたが……久々に面と向かって言われたからか、感傷に浸っているらしい。
本人に訂正するつもりがないようなので僕も特に訂正するつもりはない。そもそも、無情の皇帝が一人の女性の為に皇帝として君臨し続けているなんて……誰も信じないだろう。
「そう言えば……なあ、ケイリオルよ。オマエはまだ顔を見せてくれぬのか? オレ達は友達だろう?」
陛下のお酌を任されていたのだが、ついに僕もロンドゥーア皇帝に絡まれてしまった。
「貴方と友達だった覚えなど特にありませんが……」
「くっ……相変わらずエリドル以上の塩対応だな、オマエは。良いぞ、とても良い」
本当に追い出したいんですけど、この酔っ払い。
「オレの見立てではオマエもエリドル並の美形かつ、死んだ魚のような目だと思うのだ。それを確認し、あわよくば一度睨まれてみたいとオレは主張する」
蜥蜴とか蛇って確か寒さに弱かったような……水をかけてから外に放り出せば死んでくれますかね。
「おい、ケイリオルに絡むな変態。生肌を剥がれたいのか」
「かなり魅力的ではあるが、流石のオレも殺されては頂に達する事も叶わん。故に、ありがたい提案ではあるが断ろう」
「チッ……もう酔いが覚めよったか」
「くははっ! 龍族は酒豪が多いのでな」
ロンドゥーア皇帝は膝を叩きながら豪快に、されど優雅に笑う。
「一つよろしいでしょうか、ロンドゥーア皇帝」
「む、何だ?」
「もし、僕の顔を見たならば貴方を始末しなければならなくなります。なのでその上でお聞きしますね。僕の顔、見ますか?」
「暗にオレに死ぬかと問うているのか、オマエは」
「はい。陛下の命でもありますので、見なくてもいいものを見た者は……残念ながら死んでいただく事にしているのです」
抑揚の無い声で威圧すると、彼は肩を竦めて足を組み直した。
「仕方あるまい、ケイリオルの素顔御開帳はまたの機会に残しておこう」
「フン、貴様なぞにケイリオルの顔を見せてやる価値など一欠片も無いわ。二度とそのような戯言を吐くでないぞ、ロンドゥーア」
「オマエはケイリオルの事となると面白いぐらい当たりが強くなるな……こちらとしてはありがたい限りだが」
などとふざけた事を宣うロンドゥーア皇帝に、陛下はついに痺れを切らした。
「おいケイリオル、この蜥蜴を吹雪の中に捨てて来い」
「仰せのままに」
「ちょっと待て、冗談だぞエリドル。流石のオレでもこの吹雪の中に身一つはキツい。クるとか言ってる場合じゃなくなるんだが! オマエのような美形に無理やり何かをされるのは好きだが、流石にこれは洒落にならぬぞエリドル!!」
陛下ならこう言うだろうと予想して、ロンドゥーア皇帝の背後に回ってすぐの命令だった。僕は瞬時に彼の両肩に手を置いて命令通り外に捨てて来ようとしたのだが、ロンドゥーア皇帝がそれはもう暴れる暴れる。
やはり龍族らしく、身体能力は異様に良い。彼に本気で暴れられては、さしもの僕でも一筋縄ではいかない。
もういっその事窓から放り投げる方が楽かもしれない。そんな僕の思惑に気がついたのか、アビリオ王が「ま、まぁ……一旦落ち着いて下され」「国際問題待ったナシですぞ」と僕と陛下に交互に訴えかける。
「喧しいぞ、蜥蜴。黙って酒を飲む事すら出来ぬのか、貴様は」
「いつも通りの冷たい態度……っ、やはり良いな」
「気色悪い言動を繰り返すようであれば追い出すぞ」
それは、国際交流舞踏会が始まってから五日目とかの夜の事。仕事終わりの陛下は、半ば押し掛ける形で現れた旧知の王達と城の一室で酒を飲み交わす事となった。
土産にと持って来たタランテシア帝国特産の酒を飲み、酔ったロンドゥーア皇帝は早速陛下相手にくだをまく。
「まあまあ……多目に見てやって下さいよ、フォーロイト皇帝。彼、この機会をとても楽しみにしていたそうですから……」
「そうだぞお、エリドル! オレがどれ程この国に来たかった事か!!」
クサキヌア王国の国王、アビリオ王がロンドゥーア皇帝を庇うも、当のロンドゥーア皇帝は偉そうな態度を崩さずあまつさえ陛下を指さした。
……やはり、あの男はあの時殺しておくべきだったか。
「我が国の絶景をいくら見ようとも『期待外れだな』とか吐かしおったオマエ自慢の国をな、舐め回すように見てやろうと思っていたのに……くそッ、なんでちゃんといい国なのだ! 寒い事以外に何も文句をつけられぬ!!」
「当たり前だ、私の国だぞ。現在この世で最も栄えし泰平の世……美しく、眩く、幸福と平穏に満ちた国でなければならないのだ。この国は」
これまたロンドゥーア皇帝の土産である浅めの盃に注がれたタランテシア産の酒に、陛下は静かに喉を鳴らす。そうして空になった陛下の盃に、すかさず僕は酒をついだ。
「ぐぬぬ…………エリドルの口からは絶対飛び出さなさそうな言葉が次々と……!!」
「フォーロイト皇帝は相変わらず民思いの英明な王ですな。歴代で最も安定した治世であると頻繁に耳にしますが──実際にこの国を訪れ噂に違わぬ平穏な営みを見ては、是非我が国もこのように……と景気づけられます」
民思いの英明な王。その言葉を聞いた陛下は目を伏せ、白い肌に睫毛の影を落とした。
(──他国の王からは未だにそう思われているのか。私のような愚かな男が)
最愛の人との約束一つの為に、国を発展させているだけに過ぎない。彼は、民思いの英明な王などと呼ばれるような人間ではないと自負している。
事実、そうだった。
皇帝の座についたのは、あの女性が平和に過ごせる国にする為。
保守派ばかりの元老院を解体し、人身売買等を一際厳しく取り締まり、帝国法を次々に改定していったのは、あの女性の望む平和な国にする為。
どれだけ目障りでも今まで王女殿下の好きにさせていたのは、あの女性との約束を──この国を発展させるという約束を果たす為。
彼の功績の多くはたった一人の女性の為の行動であり、決して国や民を思っての事ではない。だがそれを知らぬ者達は、エリドルを『無情の皇帝』と呼ぶ傍らで『賢王』とも呼ぶ。
彼はその事実すらもどうでもいいようで、これまで放置してきたが……久々に面と向かって言われたからか、感傷に浸っているらしい。
本人に訂正するつもりがないようなので僕も特に訂正するつもりはない。そもそも、無情の皇帝が一人の女性の為に皇帝として君臨し続けているなんて……誰も信じないだろう。
「そう言えば……なあ、ケイリオルよ。オマエはまだ顔を見せてくれぬのか? オレ達は友達だろう?」
陛下のお酌を任されていたのだが、ついに僕もロンドゥーア皇帝に絡まれてしまった。
「貴方と友達だった覚えなど特にありませんが……」
「くっ……相変わらずエリドル以上の塩対応だな、オマエは。良いぞ、とても良い」
本当に追い出したいんですけど、この酔っ払い。
「オレの見立てではオマエもエリドル並の美形かつ、死んだ魚のような目だと思うのだ。それを確認し、あわよくば一度睨まれてみたいとオレは主張する」
蜥蜴とか蛇って確か寒さに弱かったような……水をかけてから外に放り出せば死んでくれますかね。
「おい、ケイリオルに絡むな変態。生肌を剥がれたいのか」
「かなり魅力的ではあるが、流石のオレも殺されては頂に達する事も叶わん。故に、ありがたい提案ではあるが断ろう」
「チッ……もう酔いが覚めよったか」
「くははっ! 龍族は酒豪が多いのでな」
ロンドゥーア皇帝は膝を叩きながら豪快に、されど優雅に笑う。
「一つよろしいでしょうか、ロンドゥーア皇帝」
「む、何だ?」
「もし、僕の顔を見たならば貴方を始末しなければならなくなります。なのでその上でお聞きしますね。僕の顔、見ますか?」
「暗にオレに死ぬかと問うているのか、オマエは」
「はい。陛下の命でもありますので、見なくてもいいものを見た者は……残念ながら死んでいただく事にしているのです」
抑揚の無い声で威圧すると、彼は肩を竦めて足を組み直した。
「仕方あるまい、ケイリオルの素顔御開帳はまたの機会に残しておこう」
「フン、貴様なぞにケイリオルの顔を見せてやる価値など一欠片も無いわ。二度とそのような戯言を吐くでないぞ、ロンドゥーア」
「オマエはケイリオルの事となると面白いぐらい当たりが強くなるな……こちらとしてはありがたい限りだが」
などとふざけた事を宣うロンドゥーア皇帝に、陛下はついに痺れを切らした。
「おいケイリオル、この蜥蜴を吹雪の中に捨てて来い」
「仰せのままに」
「ちょっと待て、冗談だぞエリドル。流石のオレでもこの吹雪の中に身一つはキツい。クるとか言ってる場合じゃなくなるんだが! オマエのような美形に無理やり何かをされるのは好きだが、流石にこれは洒落にならぬぞエリドル!!」
陛下ならこう言うだろうと予想して、ロンドゥーア皇帝の背後に回ってすぐの命令だった。僕は瞬時に彼の両肩に手を置いて命令通り外に捨てて来ようとしたのだが、ロンドゥーア皇帝がそれはもう暴れる暴れる。
やはり龍族らしく、身体能力は異様に良い。彼に本気で暴れられては、さしもの僕でも一筋縄ではいかない。
もういっその事窓から放り投げる方が楽かもしれない。そんな僕の思惑に気がついたのか、アビリオ王が「ま、まぁ……一旦落ち着いて下され」「国際問題待ったナシですぞ」と僕と陛下に交互に訴えかける。