だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 自然と触れ合う為に幼い頃に何度もサバイバルをしていたからか、かなりの生活能力を身につけたマクベスタ。
 前世でろくでもない身内に家事炊事を全て押し付けられた事もあり、料理まで出来る万能ハイスペック男子となったカイル。
 地方の砦での日々や執事業での研鑽によって今や料理人並の腕前を誇り、主君(アミレス)のお菓子や夜食作りすらも我が役目とするアルベルト。
 西部地区での生活では基本的な料理技術を身につけた程度だったが、刃物を扱う作業を任せれば右に出る者はいないイリオーデ。

 そんな四人の器用な男達は、作業を分担して効率的に料理に取り掛かった。
 材料は───フォーロイト産の高級牛肉を小さく切り分けたもの、いい感じの量(イリオーデ作)。甘みの強いブルーオニオンを一玉。じゃがいもに似た作物、土恵物(ホーリーグレイス)をいっぱい。冬人参を一本ぐらい。味付け用の調味料もたくさん。
 何かと分量が曖昧な理由は、大は小を兼ねる理論でカイルが大雑把に用意したからである。

「カイル、次はどうすればいいんだ?」
「マクベスタはそのまま肉から順に適当に炒めて、いい具合に炒めたら水とかワインとかぶち込んでくれ。そのまま暫く煮て、味付け段階になったら呼んで」
「分かった」
(──もう少し普通に説明出来ないのか、こいつは)

 適当な説明に不満を覚えつつ、マクベスタは大人しく作業に取り掛かる。
 そして、残りの三人は別の作業に移った。カイルが一度どこかに転移して大きな箱を手に戻って来たかと思えば、その中には大量の氷と新鮮な魚が何種類も入っていて、そもそも魚に馴染みの無い面々は感心から息を漏らした。

「カイル君、これで何を作るの?」
「ふっふっふ……よくぞ聞いてくれたな、ルティ。これからな、刺身(・・)を作ろうと思うんだ!」
「「──サシミ?」」

 アルベルトとイリオーデの声が重なる。

「そう、刺身。生魚を切って醤油とかに付けて食べるんだよ。酒飲みながら食うのがマジで美味くてなぁ……」
(カイル君って、酒が飲める年齢なのか)
(生魚をショーユというものに付けて食べる……なんなんだ、ショーユとは)

 カイルはこれまで己の立場とチートを活かして好き勝手世界中を飛び回り、和食を再現する為に暗躍していた。ハミルディーヒ王国はフォーロイト帝国程食文化や料理技術が発展しておらず、料理は可もなく不可もなく──……どころか薄味過ぎて不味いと感じる程。

 そんな日々を送っていたカイルは、和食が恋しくなっていたらしい。自分で料理をするにも食材の多くは日本のそれとは違っていて、料理の勝手も違う事が多い。そして、香辛料等の調味料は一般的に高級品に分類される。
 多少高いが、それでもお手軽価格で調味料を購入出来るフォーロイト帝国がおかしいぐらいだ。フォーロイト帝国は一度シャンパージュ伯爵家に感謝すべきだろう。

 圧倒的に調味料が足りないこの世界で、元日本人が料理にあたってまず最初にした事が──世界中の食材や調味料を試す事だった。
 試すと言っても、自分の記憶にある食材や調味料と合致するものを探すだけだが。
 だが、当然類似品すら見つからない調味料も多々ある。
 そう──……醤油だ。

「醤油の味を再現したものは俺が既に用意しておいたので、二人には魚をいい感じに切って欲しいんだ。頼めるか?」

 まるで某クッキングのような手際の良さである。

「ああ、任された。しかし……生食とは。魚にも毒があると聞くが、焼かなくて大丈夫なのか?」
「毒や寄生虫の事なら安心してくれ。毒の魔力と腐の魔力で検知したやつは片っ端から変の魔力でただの(・・・)美味しい(・・・・)()に変えておいたから。その上、智の魔力で安全性もバッチし証明済みだぜ」

 刺身を食べる為だけにこれだけの魔力属性を駆使するな。──この場にアミレスがいたならば、そうツッコまれていただろう。

「……話を聞くだけでもかなり物珍しい料理だし、主君も喜んでくれそうだ」
「王女殿下に喜んでいただく為にも、美しく切り分けるか」

 港町や川沿いの町村でしか採取出来ない魚など、領地の屋敷か帝都の邸(タウンハウス)か西部地区でしか生活した事のないイリオーデは、まず目にした事もないであろう。それなのに彼は何の躊躇いもなく魚を一尾掴み、暫く観察しては鋭く包丁(シェフナイフ)をその身に入れた。
 流石は帝国の剣(ランディグランジュ)の天才だろうか。刃物自体の扱いは勿論、刃物を使用する物事であれば、初見でもある程度こなせてしまう。ゲーム風のステータスをつけるならば、刃物使役EXとかだろうか。
 アルベルトもまた、見よう見まねで魚を捌こうと奮闘する。
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