だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

428.ガールズトークに花は咲く。

 シルフが突然、『今日は男子会をするんだ』と言ってイリオーデとアルベルトとクロノを拉致って行った。

 詳しくは聞いていないのだが、何やら参加人数が十人を超える規模の男子会を予定しているとかで、シュヴァルツも主催側として参加者を出迎えに行ったらしい。
 割と内容が気になるのだが、女の私が参加できるはずもなく。
 後でどうだったかシルフ達に聞くとして、せっかくなのでこちらはこちらで女子会を開く事にした。

 ナトラにベールさんの滞在場所を教えると、ナトラは喜んで迎えに行くと言ってくれた。
 空を飛んで向かうつもりらしく、ナトラは決して竜種であるとバレぬよう、竜翼ではなく枝が骨格となり葉や花が羽を形作る自然(みどり)の翼をその背に生やした。
 なんでも、妖精の中にはそういった羽を持つ者もいるとかで、誰かに見られても妖精だと誤魔化せるかもとの事らしい。
 その間、私はいくつかの場所を回る事にした。

 そうして初めに辿り着いたのはシャンパージュ伯爵家。
 ここには勿論メイシアを誘いに来た。
 忙しいのにそれでも行きたいと言ってくれて、結果的に仕事が終わり次第向かうという返事を貰えたので、メイシアとはここで一度別れる。

 続いて向かったのはララルス侯爵家。
 出てきたハイラに女子会の旨を告げると、彼女は逡巡する様子も見せず「参加させていただきます」と即答した。「丁度、休憩しようと思っていたところなのです」と付け加えて。
 ハイラと二人でプラチナに跨り、私は帝都を駆け抜ける。

 次に辿り着いたのはテンディジェル大公家のタウンハウス。
 ローズも誘ったところ、彼女も二つ返事で参加表明してくれた。
 実はまだ行きたい所があるの……と告げると、ローズが「じゃあ私走るね」とサラッと提案し、当たり前のように並走していた。
 いや、一応そんなにスピード出してないんだけどね? 流石はディジェル領の民というか……ふわふわのドレスにヒールで、息も切らさず馬と並走するなんて。これにはハイラも唖然としていた。

 最後に訪れたのは西部地区にあるディオの家。
 せっかくなので、クラリスとメアリーも誘いにきたのである。妊娠出産において最大限のバックアップをすると宣言している事もあって、クラリスの様子も気になってたしね。
 女子会なので二人共どうですかと誘う。私のドレスとか見たい? と聞いたらメアリーは目を輝かせて何度も頷き、バドールから「たまには息抜きもした方がいい。ストレスは妊婦の大敵だからな」と言われた事もありクラリスも首を縦に振ってくれた。
 そんなバドールに「クラリスの事は任せなさいな」と告げ、いよいよ東宮に戻る事に。

 これで誘いたい人は全員誘えた。
 そこで私は懐からおもむろに携帯擬きを取り出し操作した。世界地図(マップ)を起動してこの地点でピンを刺し、そして事前にピンを刺しておいた場所への瞬間転移・中範囲を発動する。
 白い光が私達を包み込む。視界が晴れるとそこは東宮の裏庭だった。

 お客様を全員連れて、東宮に入る。すると既にナトラがベールさんを連れて来ていた。
 ローズと私兵団の面々は魔物の行進(イースター)の時に顔を合わせていたので初対面ではないが、クラリス達とベールさんは初対面だ。
 彼女達の初対面を見守っていると、想像以上に早くメイシアが来てくれた。急いで仕事を片付けてきてくれたらしい。なんていい子なの。

 そしてついに、東宮の一室にて女子会が始まった。
 皆で丸いテーブルを囲み、紅茶を飲んでスイーツを食べて。それはもう、とても穏やかで落ち着く空間だ。突然私を挟んで大人達が火花を散らしたりしない、平和な空間……こういう心安らぐ時間も必要だと実感する。
 わざわざ四方八方に喧嘩を売るような人がいないので、どこまでも平和に時間は過ぎていく。
 皆がいい感じに打ち解けた頃。
 ローズがもじもじとしながら、小さく挙手した。

「あのぅ……私、いつか女子会とかに参加したらどうしてもやりたかった事があって……」
「あら、何でも言ってみなさいな」
「そのっ──、ここ、恋バナ……というものを! してみたくて!!」

 その瞬間。平穏な空気から一変して、緊張感が私達の間を駆け抜ける。
 ナトラの「コイバナってなんじゃ」という呟きが無ければ、私はここが戦場だと錯覚していたかもしれない。

「恋バナ……わたし達で、ですか?」
「は、はい。女子会と言えば恋バナだって、よく聞きますし……!」
「まあ、いいと思いますよ。わたしもマリエル様の恋バナはちょっぴり聞いてみたいですし」
「──私の恋バナ? 大した話など出来ませんよ」

 我が国の誇るご令嬢達が恋バナをする方向に話を進めているので、私はベールさんに話を振る事にした。

「ベールさんも、恋バナに是非参加して下さいね」
「あら、いいのかしら? お嬢さん達に楽しんで貰えるか不安だけれど、頑張りますわ」
「あねうえあねうえ。コイバナってなんじゃ? 我の知らん花か?」
「恋バナとは恋愛事にまつわるお話の事よ、ナトラ。あなたには縁遠いものだと思うけれど」
「れんあい? ああ、人間で言う番の事じゃな。我、全然興味ないんじゃが」
「ふふ、そうでしょうね」

 リスのようにカップケーキを頬張るナトラの頭を、ベールさんが優しく撫でる。
 ……(つがい)か。そう言えば、前世(むかし)誰かとバース性について語り合ったっけ。ベータ受けかオメガ受けかで言い争ったような。私はオメガ受け派だった気がする。
 あのひと、『平凡なベータが完璧なアルファに溺愛される方が美味しいでしょうが』って自論を展開してたな。未だにあのひとの顔も名前も思い出せないのに、何でこんなくだらない事ばかり思い出すんだろう。

「ねーねー姫、恋バナするならさ、こういうのはどう? ──順番に、一人ずつ好きなタイプを言っていくとか!」
「好きなタイプか……話題としては有りだと思うわよ。ふふ、メアリーも乗り気になってくれたようで何よりだわ」
「元々アタシは乗り気だけどー? あ、でもクラ姉はあんまり参加しても楽しくないかも……」
「確かにクラリスはね、好みとか分かり切ってるし」
「…………なんかヤだなその目!」

 メアリーと一緒に笑いかけてみたところ、クラリスはムスッとした顔でそっぽを向いてしまった。耳が少し赤くなってるから、多分恥ずかしがってるのだろう。
 この中で唯一の既婚者だからね、クラリスは。そりゃあこうもなるわ。

「とりあえず始めましょうか、恋バナ。女子会っぽくなってきたわね!」

 と、始めてみたはいいものの。私は何も話す事がないので、まずハイラに話題を振ってみた。

「ハイラの好きなタイプは何?」
「そうですね……努力家な人、でしょうか。他人の為に頑張れるような心優しい人も好きですね」
「なんか分かるかも」
「そうですか? 姫様にご理解いただけていたようで何よりです」

 ハイラの微笑みは相変わらず貴婦人のよう。
 美人で万能で敏腕侯爵の彼女はモテて当然なのに、男性達の熱烈なアプローチには一切答えず未だ独り身なのが、彼女を長らく私に縛り付けていた身としては少し心配なのだ。
 私にとって、ハイラは母のようで姉のようで友達のような侍女だから。
 ランディグランジュ侯爵とのアレコレも気になるんだけど、この様子だとランディグランジュ侯爵もちと厳しいんだろうな。
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