だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
第六節・舞踏会編 後編
429.残虐に、丁寧に。
長いようで短い国際交流舞踏会も残すところあと四日。
最終日にはなんと朝から晩まで水晶宮で豪勢なパーティーが繰り広げられるとかで、運営側はそれはもうてんやわんや。
だと言うのに、どこかの国の代表者の考え無しの提案で急遽大規模なティーパーティーを行う事となり、フォーロイト帝国唯一の王女だからと私は責任者の座を押し付けられた。
それでも頑張って準備して、沢山の貴族令嬢や招待客の女性達を出迎えた。それでも私はこの国の王女として疲れた様子など見せてはならず、毅然と振る舞わねばならない。
何を思ったのか、ただ暇なだけなのか。
そのどちらなのかは分からないものの、今日はシルフと師匠とシュヴァルツ、更にはクロノまで手伝ってくれているので少しは私も休めるように。
勿論、イリオーデとアルベルトも手伝ってくれている。
しかも上記の全員がお揃いの執事服に身を包んでいるので会場の盛り上がりっぷりと言ったら。アルベルトの執事スタイルは見慣れてるけど、皆の執事スタイルはかなり新鮮だ。
特に師匠なんて、中華系の服じゃないから違和感が凄い。だがそれでも全然似合っているので、やはり美形は凄いなとしみじみ思う。
わざわざ彼等を呼び出しては、きゃあきゃあと黄色い声を上げるご令嬢達を見て私は微笑む。相変わらず人気だなぁ、と。
それにしても想像以上に皆が真面目にやっていて驚いた。クロノなんてすごく嫌がってたし、何なら今でも絶対ご令嬢達の方にはいかず、片手で会場の掃除をしているけれども。
驚くべきはシルフとシュヴァルツだ。片や今までお世話されてばかりだったらしい精霊さん、片や世話されて当然の魔王。
なんであの二体が給仕の真似事を大人しくしているのか、私には未だに分からない。
おとぎ話のプリンセスかのように大きな三つ編み作るシルフと、ポニーテールを後頭部で揺らすシュヴァルツ。
どんな髪型でも様になる絶世の美形達が歩くだけで、誰もが目を奪われて熱い息を漏らす。彼等の態度の悪さは、どう考えてもその顔面で許されてしまっている。
敬語なんて一切使わない偉そうな給仕なのに、彼等の顔の良さが事を有耶無耶にしてしまうのだ。
手伝ってくれるのは本当にありがたいんだけど、少しは真面目に働いている師匠とイリオーデとアルベルトを見習って欲しい。
一応、特にこれと言った問題もなくティーパーティーは進行していたのだが……やはり、何事にもトラブルはつきもの。
ここに来て、事件が起きてしまった。
「──ッこの毒婦め! 絶対、絶対に許さない……!!」
会場の扉が開け放たれ、見知らぬ少女が血走った目をこちらに向けて来た。
突然の修羅場にザワつくティーパーティー会場。
見知らぬ少女は時にご令嬢達にぶつかりながら、肩で風を切って接近してくる。臨戦態勢に入っていたイリオーデ達に「大丈夫よ」と告げて、私は謎の少女を静かに待ち受けた。
「あなたのせいでっ! あなたのせいで……っ、私の婚約者は!!!!」
顔を真っ赤にして、少女は金切り声で喚き散らす。
「……ああ。貴女、ベイルラム子爵家の。以前何かのパーティーで見かけた気がするわ」
「っ、分かっててあなたは私の婚約者を誘惑したの?!」
誘惑? 何を言ってるんだろうこの人。
「身に覚えがないのだけど」
「〜〜っ、あなたのせいで私の婚約者は死んだ!! あなたに誘惑されて、籠絡されて、気持ちを弄ばれて心を病んで自ら首を刺したの!! 十年近く婚約してた私の事も散々罵倒して、無視して、蔑ろにした挙句! 婚約者は自死した!!」
本当になんの話をしてるんだろうか。
「それのどこに私の過失があるのか、理論立てて説明しなさいな」
「過失……? あなたが私の婚約者の心を奪った! それが全てじゃない!!」
「あら、随分と幼いお耳ですこと。私は理論立てて説明しろと言った筈なのだけど」
「だからッ───!!」
バンッ! ガチャンッ! と大きな音が会場に響く。彼女が私のテーブルを強く叩いた事により、ティーカップが倒れて紅茶も少し零れてしまった。
「そもそも、私は貴女の婚約者とやらを存じ上げないわ」
「でもっ、彼はあなたに心を奪われたって!!」
「……はあ」
よく言えば純粋。悪く言えば世間知らず。
彼女は、とても愚かなようだ。
「──知るか、そんな事。何故私が見知らぬ男の心を一々奪わないといけないんだ? そんなもの不要だ。邪魔で、気色悪く、傍迷惑でしかない。私は他人の事など欠片も興味無いし、お前達他人に抱かれる全ての感情が煩わしい」
「な、っえ……?」
「お前の婚約者は勝手に私に惚れて、勝手に病んで勝手に死んだ。それに、私がわざわざ他人を誘惑する必要なんてどこにも無い。お前達愚かな臣民如きに割いてやる時間など、本来私には無いのだから」
怒りで体をプルプルと震えさせる少女を見上げ、更に続ける。
「そもそも、既に心から愛する者がいるのなら、どれ程美しい者を見ようが目移りなどしない。お前が婚約者に捨てられたのは、お前が婚約者に愛されてなかっただけだ。それを私の責任にして、被害者面で悲劇のヒロインぶるつもりなのかどうか知らないが……無様ね。責任転嫁する事でしか、己を守れないだなんて」
浮気者の婚約者を刺し違えてでも殺して復讐してやる! ぐらいの気概があれば、こんな愚行に走らずに済んだんだろうに。
中途半端なこの少女には、こんな馬鹿な選択肢しかなかったのだろう。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
その瞬間。激昂したベイルラム嬢は髪に刺してた髪纏を抜いて、勢いのまま振り上げた。
空から垂らされた銀の雨かのように、その先端はシャンデリアの光を受けて鋭利に煌めく。
『キャァ──────────ッ!!』
耳を劈く金切り虫の大合唱。
会場の女性達が揃って悲鳴を上げたからか、耳がいい人外さん達は揃って顔を顰めていた。
その悲鳴に紛れて、「ッぎゃああああっ!!」という叫び声と机やティーカップの壊れる音が響く。
「そういう所が無様で愚かなのよ、ベイルラム嬢。何故、よりによって──氷の血筋に手を出そうと思ったのかしら」
「ぅ、っあ……!」
「どうして自ら口実を作ってしまったの? 皇族の命を脅かすなんて、自殺行為じゃない」
「いた、いたぃ……いだいよぉおお……っ!!」
髪纏を私目掛けて振り下ろした彼女は、こう言ってはなんだが隙だらけだった。
だから普通に回し蹴りして、ふらついた彼女の頭をそのまま机に叩きつけてやった。
それにより少女はそこそこの怪我を負ったらしく、温室育ちのご令嬢は泣きながら痛みを訴えている。
誤算だったのは、この一撃でテーブルが壊れてしまった事。これ、シャンパー商会に借りた物なんだけどなあ……弁償しなきゃなあ。と、後悔から小さく息を吐き出した。
「痛いの? でも、先に手を出して来たのはそっちだし……私、ただ身を守る為に正当防衛に出ただけよ」
「ぅ、うううっ!!」
「……本当に痛そうね、可哀想に。婚約者も貴女も愚かだったあまりに、こんな無様な結末を辿る事になるなんて」
「はなじで……っ、めが、めがあついの……!」
私も鬼じゃない。彼女を解放し、様子を窺ってみる。
すると彼女の目に割れた机の木片が刺さってしまったらしく、どくどくと血が流れ出ている。
本当に痛そうだわ。
「立てる?」
「っ、がら、だ……! うごっ、がな……ぃ!!」
どうやら、先程の回し蹴りがクリティカルヒットしてしまったらしい。体が思うように動かないようだ。
しょうがない、立たせてあげよう。
「よいしょ……っと」
ベイルラム嬢の手を掴んで引っ張り上げ、力の入らない体を受け止める。
目には木片が刺さり、歯と鼻は折れ、顔のいたる所に傷がついている。パッと見でもかなり痛々しいその様相に、会場のご令嬢達は「ひぃっ?!」と悲鳴混じりに息を吸った。
最終日にはなんと朝から晩まで水晶宮で豪勢なパーティーが繰り広げられるとかで、運営側はそれはもうてんやわんや。
だと言うのに、どこかの国の代表者の考え無しの提案で急遽大規模なティーパーティーを行う事となり、フォーロイト帝国唯一の王女だからと私は責任者の座を押し付けられた。
それでも頑張って準備して、沢山の貴族令嬢や招待客の女性達を出迎えた。それでも私はこの国の王女として疲れた様子など見せてはならず、毅然と振る舞わねばならない。
何を思ったのか、ただ暇なだけなのか。
そのどちらなのかは分からないものの、今日はシルフと師匠とシュヴァルツ、更にはクロノまで手伝ってくれているので少しは私も休めるように。
勿論、イリオーデとアルベルトも手伝ってくれている。
しかも上記の全員がお揃いの執事服に身を包んでいるので会場の盛り上がりっぷりと言ったら。アルベルトの執事スタイルは見慣れてるけど、皆の執事スタイルはかなり新鮮だ。
特に師匠なんて、中華系の服じゃないから違和感が凄い。だがそれでも全然似合っているので、やはり美形は凄いなとしみじみ思う。
わざわざ彼等を呼び出しては、きゃあきゃあと黄色い声を上げるご令嬢達を見て私は微笑む。相変わらず人気だなぁ、と。
それにしても想像以上に皆が真面目にやっていて驚いた。クロノなんてすごく嫌がってたし、何なら今でも絶対ご令嬢達の方にはいかず、片手で会場の掃除をしているけれども。
驚くべきはシルフとシュヴァルツだ。片や今までお世話されてばかりだったらしい精霊さん、片や世話されて当然の魔王。
なんであの二体が給仕の真似事を大人しくしているのか、私には未だに分からない。
おとぎ話のプリンセスかのように大きな三つ編み作るシルフと、ポニーテールを後頭部で揺らすシュヴァルツ。
どんな髪型でも様になる絶世の美形達が歩くだけで、誰もが目を奪われて熱い息を漏らす。彼等の態度の悪さは、どう考えてもその顔面で許されてしまっている。
敬語なんて一切使わない偉そうな給仕なのに、彼等の顔の良さが事を有耶無耶にしてしまうのだ。
手伝ってくれるのは本当にありがたいんだけど、少しは真面目に働いている師匠とイリオーデとアルベルトを見習って欲しい。
一応、特にこれと言った問題もなくティーパーティーは進行していたのだが……やはり、何事にもトラブルはつきもの。
ここに来て、事件が起きてしまった。
「──ッこの毒婦め! 絶対、絶対に許さない……!!」
会場の扉が開け放たれ、見知らぬ少女が血走った目をこちらに向けて来た。
突然の修羅場にザワつくティーパーティー会場。
見知らぬ少女は時にご令嬢達にぶつかりながら、肩で風を切って接近してくる。臨戦態勢に入っていたイリオーデ達に「大丈夫よ」と告げて、私は謎の少女を静かに待ち受けた。
「あなたのせいでっ! あなたのせいで……っ、私の婚約者は!!!!」
顔を真っ赤にして、少女は金切り声で喚き散らす。
「……ああ。貴女、ベイルラム子爵家の。以前何かのパーティーで見かけた気がするわ」
「っ、分かっててあなたは私の婚約者を誘惑したの?!」
誘惑? 何を言ってるんだろうこの人。
「身に覚えがないのだけど」
「〜〜っ、あなたのせいで私の婚約者は死んだ!! あなたに誘惑されて、籠絡されて、気持ちを弄ばれて心を病んで自ら首を刺したの!! 十年近く婚約してた私の事も散々罵倒して、無視して、蔑ろにした挙句! 婚約者は自死した!!」
本当になんの話をしてるんだろうか。
「それのどこに私の過失があるのか、理論立てて説明しなさいな」
「過失……? あなたが私の婚約者の心を奪った! それが全てじゃない!!」
「あら、随分と幼いお耳ですこと。私は理論立てて説明しろと言った筈なのだけど」
「だからッ───!!」
バンッ! ガチャンッ! と大きな音が会場に響く。彼女が私のテーブルを強く叩いた事により、ティーカップが倒れて紅茶も少し零れてしまった。
「そもそも、私は貴女の婚約者とやらを存じ上げないわ」
「でもっ、彼はあなたに心を奪われたって!!」
「……はあ」
よく言えば純粋。悪く言えば世間知らず。
彼女は、とても愚かなようだ。
「──知るか、そんな事。何故私が見知らぬ男の心を一々奪わないといけないんだ? そんなもの不要だ。邪魔で、気色悪く、傍迷惑でしかない。私は他人の事など欠片も興味無いし、お前達他人に抱かれる全ての感情が煩わしい」
「な、っえ……?」
「お前の婚約者は勝手に私に惚れて、勝手に病んで勝手に死んだ。それに、私がわざわざ他人を誘惑する必要なんてどこにも無い。お前達愚かな臣民如きに割いてやる時間など、本来私には無いのだから」
怒りで体をプルプルと震えさせる少女を見上げ、更に続ける。
「そもそも、既に心から愛する者がいるのなら、どれ程美しい者を見ようが目移りなどしない。お前が婚約者に捨てられたのは、お前が婚約者に愛されてなかっただけだ。それを私の責任にして、被害者面で悲劇のヒロインぶるつもりなのかどうか知らないが……無様ね。責任転嫁する事でしか、己を守れないだなんて」
浮気者の婚約者を刺し違えてでも殺して復讐してやる! ぐらいの気概があれば、こんな愚行に走らずに済んだんだろうに。
中途半端なこの少女には、こんな馬鹿な選択肢しかなかったのだろう。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
その瞬間。激昂したベイルラム嬢は髪に刺してた髪纏を抜いて、勢いのまま振り上げた。
空から垂らされた銀の雨かのように、その先端はシャンデリアの光を受けて鋭利に煌めく。
『キャァ──────────ッ!!』
耳を劈く金切り虫の大合唱。
会場の女性達が揃って悲鳴を上げたからか、耳がいい人外さん達は揃って顔を顰めていた。
その悲鳴に紛れて、「ッぎゃああああっ!!」という叫び声と机やティーカップの壊れる音が響く。
「そういう所が無様で愚かなのよ、ベイルラム嬢。何故、よりによって──氷の血筋に手を出そうと思ったのかしら」
「ぅ、っあ……!」
「どうして自ら口実を作ってしまったの? 皇族の命を脅かすなんて、自殺行為じゃない」
「いた、いたぃ……いだいよぉおお……っ!!」
髪纏を私目掛けて振り下ろした彼女は、こう言ってはなんだが隙だらけだった。
だから普通に回し蹴りして、ふらついた彼女の頭をそのまま机に叩きつけてやった。
それにより少女はそこそこの怪我を負ったらしく、温室育ちのご令嬢は泣きながら痛みを訴えている。
誤算だったのは、この一撃でテーブルが壊れてしまった事。これ、シャンパー商会に借りた物なんだけどなあ……弁償しなきゃなあ。と、後悔から小さく息を吐き出した。
「痛いの? でも、先に手を出して来たのはそっちだし……私、ただ身を守る為に正当防衛に出ただけよ」
「ぅ、うううっ!!」
「……本当に痛そうね、可哀想に。婚約者も貴女も愚かだったあまりに、こんな無様な結末を辿る事になるなんて」
「はなじで……っ、めが、めがあついの……!」
私も鬼じゃない。彼女を解放し、様子を窺ってみる。
すると彼女の目に割れた机の木片が刺さってしまったらしく、どくどくと血が流れ出ている。
本当に痛そうだわ。
「立てる?」
「っ、がら、だ……! うごっ、がな……ぃ!!」
どうやら、先程の回し蹴りがクリティカルヒットしてしまったらしい。体が思うように動かないようだ。
しょうがない、立たせてあげよう。
「よいしょ……っと」
ベイルラム嬢の手を掴んで引っ張り上げ、力の入らない体を受け止める。
目には木片が刺さり、歯と鼻は折れ、顔のいたる所に傷がついている。パッと見でもかなり痛々しいその様相に、会場のご令嬢達は「ひぃっ?!」と悲鳴混じりに息を吸った。