だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

番外編 a liar's bouquet.

エイプリルフールになろう様で公開した番外編SSになります。


    ♢


「どうして、彼はあんなに素直じゃないんでしょうか」

 庭の落ち葉を掃きながら、私は白いため息混じりに呟いた。

「仕方無いよ。あいつ、本当に天邪鬼だから。素直になれないんだ、君の前では特にね」
「……私の前だけじゃなくて、皆の前でそうだと思いますよ?」
「ははは。それもそうか。でも君の前ではかなり態度が柔らかくなってるんだよ、あれでも。元がかなり酷いから、一般的に見ればまだ酷い部類ではあるんだけどね」

 腹違いの弟についてあけすけに語りつつ、紫紺の瞳を細めて彼は軽く笑った。

「もうちょっと皆と仲良くなってくれないかなあ……彼の尻拭いを誰がすると思ってるんだろう」
「あっははは! 流石はあいつのお目付け役なだけはある。そんな事言えるのは君達ぐらいさ」
「すっごく無愛想だし、すぐ嘘をつくから、私いつも彼の誤解を解いて回ってるんですよぅ……それなのに全然改善してくれなくて……」
「あいつは君に甘え過ぎだ。そして君も甘やかし過ぎ。そろそろ独り立ちさせないと悪化するばかりだぞ?」

 痛い所を突かれる。
 確かに私が彼を甘やかしていたかどうかと問われれば、答えは甘やかしていた。いや、なんなら現在進行形で甘やかしていると思う。
 だってしょうがないじゃない……ルーデニシア様のお体が弱いぶん、私達がたくさん甘えさせてあげようって決めたんだもん。
 ……でもやっぱり甘やかし過ぎなのかな。彼のやりたい事はなんでもやらせてあげてるの、教育方針間違えてたのかな?

「うーん……一度、彼に厳しくするべきでしょうか?」
「あいつを思うのならそうすべきだと推奨したいところなんだが──いかんせん、君に冷たくされたあいつが何をしでかすか分からなくて。それが恐怖でしかないんだ」
「あっ…………」

 彼は直情的なところがあるから、ミハエル様の言う通り何をするか分かったものじゃない。
 下手をすれば、また柱の一つや二つや八つ……へし折られてしまうかもしれない。
 そうなったら──……また、私達が始末書を作って平謝りする事になるんだろうな。

「──この話やめようか」
「……そうですね! やめましょう!!」

 これからも私は彼を甘やかすと。そうじゃないとすぐ拗ねちゃうから、彼は。

「嘘つきで我儘で面倒臭い独占欲の塊だからなあ、あいつは。君という抑止力が無ければ怪物のようになって暴れ散らしていただろ、あの性格だと」
「そ、そんな事ないですよ。根は真面目で優しいので……!」
「君の前では、ね? 実の兄を『変態野郎』とか『性悪堕天使』とか揶揄う弟のどこが優しいんだか」
「素直じゃないので……ええと、口の悪さは愛情表現の裏返しですよ、きっと!」

 慌ててフォローするけれど、彼等をよく知るミハエル様相手では無意味に等しい。
 ミハエル様──ミハエライト殿下は、その容姿の儚さと美しさから神話に描かれる天使のようと有名だった。彼もそれを知っているから、天使だなんだと揶揄っているのだろう。
 でも天使っぽさならあの子だって負けてない。彼は天使って性格じゃないけど、あの子はとっても優しくて笑顔がとっても可愛い気配り上手だもの。
 きっと、ミハエル様との天使っぽさ対決にだって勝てるわ!

「愛情表現……なのかねぇ。そうだといいな。俺はこれでも弟達を可愛がってるつもりだし」

 ミハエル様はどこか寂しげな笑みを象り、空を仰いだ。

「大丈夫です、あの二人はミハエル様が大好きですから!」

 彼の横顔を見上げて自信満々に言ったところ、

「……大好きか。はは、だったら俺にももう少し優しくしてくれてもいいと思うけどなぁ」

 冗談のように受け取られてしまった。
 私が言うのもなんだけど、あの二人は本当に猫のようで……一度懐くととことん仲良くしてくれるけれど、懐くまでが本当に難しい。
 だから、そんな彼等と会えば普通に話して冗談も言い合える仲というのは、本当に凄い事なのだ。

「ミハエライト王子殿下、そろそろクサキヌア王国との合同研究会のお時間です」
「ああ、もうそんな時間か。悪いね、仕事中だっただろうに邪魔してしまって」

 突然ミハエル様の侍従らしき人が現れて、彼に予定を告げる。
 ミハエル様は帝国の至宝とすら呼ばれる程の天才的頭脳を持つ。純粋な戦闘能力では彼等に強く劣るものの、ひとたび頭脳戦となれば帝国に右に出る者はいないともっぱら噂だ。

「いえ、大丈夫です。お仕事頑張って下さい、ミハエル様」
「ありがとう。寒いからあまり外に長居しないようにしなよ、未来の義妹(いもうと)さん」
「はい──……っふぇ!? いっ、いも……っ、ごほ、けふっ!」

 衝撃発言に、思わず噎せてしまう。

「何をそんなに驚くんだ? 俺からすれば、あいつまだ婚約してねぇのかよってぐらいだが……」
「そそそ、そんな! 私、ただの侍女ですよ!?」
「でもあいつ等の乳兄妹で、幼馴染で、お目付け役だ。この世界で一番あの二人と仲良いだろう、君が」
「それはそうですけど……それと、その……婚約者とやらになんの関係が?」

 箒をギュッと握り締め、ミハエル様を見つめる。
 すると彼は、目と口を丸くして固まってしまった。

「…………本当に馬鹿なんだな、うちの弟は」

 ようやく動いたかと思えば、ミハエル様はボソリと言い残して踵を返した。その足で侍従の人に「研究会が終わったら可愛い弟の所に向かいたいんだか、余裕はあるか?」と聞いて、軽く手を振りながら立ち去った。
 どうやらあの二人に何か用があるらしい。
 その背を見送り、落ち葉を入れた袋を厩舎の辺りまで持って行こうとした時。横から手が伸びてきて、落ち葉の入った袋を取られてしまった。
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