だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「さっきから聞いてりゃァ、人間の分際でごちゃごちゃ五月蝿ェぞ。コイツはオレサマの女だ、手ェ出すって事は魔界を敵に回すって事になるが……構わねェな?」
いや、貴方の女でもないです。
「お前のものじゃないから。悪魔如きがボク達の愛し子に唾つけるとかマジで有り得ない。身の程を弁えろよクソ悪魔、クソ泥虫。とっとと死に晒せ」
口悪いなぁ。シルフったら最近どうしたの、思春期?
「はァ〜〜、これだから精霊は。相変わらずの自己中心っぷりに流石の悪魔も引くぜ。執着が十八番の精霊サマはどうぞ、未練がましく地に這い蹲って負け犬らしくキャンキャン泣いとけよ」
「自己中心的だなんてよく言えたな。その廃棄物以下の頭で一度よく考えてから発言してみたらどうだ? ああ……そもそもまともに思考する頭すら無いのか、魔族には。憐れで仕方無いな」
ロンドゥーア皇帝を無視して、シュヴァルツとシルフが火花を散らしはじめた。
隠す必要が無くなったからか、二体揃って相手の正体について言及している。それを聞いた諸外国の人達が、え? マジ? みたいな顔を作っては顔を見合わせたりしてるんだけど……これ、また説明を求められるやつかしら。
果てしない面倒臭さを感じて、私は肩を落とした。
「──無視か! まあ良い、オレは放置すらも愉しめる粋な男。してアミレス・ヘル・フォーロイトよ、オレとの婚姻はいつ頃がいい?」
「そうですね、死後がいいです」
「死後か。ふむ……とんちの効いた事を言うな、オマエは」
「とんちも何も、直喩ですが。伝わりませんでしたか? 死んでも嫌です」
無視するのが最適解と分かってはいるが、ここが国際交流舞踏会の会場である以上、招待客を無下に扱えない。
口と態度が悪いのは氷の血筋では基本中の基本なので、その点についてはモーマンタイ。
「ツレないな。だがそこがまた良い──っと?!」
「我が国唯一の王女殿下相手に何ふざけた事吐かしてるんですか、悪趣味鬼畜変態蜥蜴様」
「ケイリオル……圧が凄いぞ、圧が」
音も無く現れたケイリオルさんに背後を取られ、ロンドゥーア皇帝は唾を飲み込む。彼の圧が凄まじいのか、その顔には脂汗が滲んでいた。
「貴方なぞに陛下の娘を渡す訳がないでしょう。寝言は寝てから言って下さいまし」
「オマエ達は主従揃って本当に失礼だな、このオレでなければ許してなかったぞ。オマエ達の氷柱のごとき言葉はオレを昂らせてくれるから、許しているだけに過ぎぬ」
「勝手に僕の言葉で発情しないで下さい。気色悪い」
「クク、ハハハ! 良い、やはりオマエも良いなあケイリオル!! ──だがオレは真剣だ。邪魔立てするなよ、仮面の男」
変態はひとしきり大笑いしたと思えば突然真顔になった。その温度差に、背筋が凍る。
「……武力による制圧をお望みですか? 亜人の王だからと調子に乗るのも大概にしなさい。全力を賭したところで僕に勝てもしないのに」
「エリドルの強さは気持ち良いぐらい身に染みているが、オマエの強さはまだ知らぬ。確かに鍛えられた肢体ではあるようだが……このオレを前に自称する程に強いのか? オマエは」
ロンドゥーア皇帝はその長身を活かし、なんとケイリオルさんの顎を持ち上げ挑発的に顔を近づけた。
遠い国の王様は、どうやらケイリオルさんの強さを知らないらしい。
我等が皇帝陛下の側近にして氷結の貴公子の剣の師匠──それが、ケイリオルさんだというのに。
「貴方では傷一つ付けられませんよ、僕には。僕に勝ちたければどうぞ、正気を捨て狂気に溺れてご覧なさい」
「クハッ! それがオマエの本性かケイリオル! 相変わらずどこまでもエリドルと似て──……いや、アイツよりも遥かに気が触れてやがる」
パッと手を放し、ロンドゥーア皇帝は恍惚とした熱を浮かべる。
くつくつと笑う彼の傍でケイリオルさんは、顎を念入りにハンカチーフで拭っていた。仮面の布が揺れた際に赤くなった顎が窺える事から、相当強く擦ったらしい。
「はぁー…………よし、今はケイリオルの顔を立てるべく花嫁の事は諦めよう。オレは少々この男と話し込んで来る。ではな、我が未来の花嫁よ。次の求愛では色良い返事が貰える事を期待していよう」
ケイリオルさんの犠牲のお陰で、ひとまず私への興味を失ってくれたようだ。ロンドゥーア皇帝は藪から棒に肩を組み、ケイリオルさんを引っ張って会場の方へと戻っていった。
どこからその自信が湧いてくるのか、ロンドゥーア皇帝はしたり顔のまま手を振る。その手を無視して、私はイリオーデとアルベルトの袖を掴んだ。
「あの人、本当に苦手……」
嵐のような人だった。何故かどっと降り注いだ疲れからか、らしくなく弱音を零してしまった。
「必要であれば、暗殺して参りますが」
「私共にお任せ下さい王女殿下。必ずや、貴女様の覇道を阻む障害は我々が排除してご覧に入れましょう」
「国際問題待ったナシだから流石にそれはやめてちょうだい。貴方達が危険を冒す必要は無いのよ」
やんわりと窘めると、二人は不服そうな表情で小さく頷く。
相変わらずうちの子達は揃いも揃って物騒だ。
「お前ってほんと変なのに好かれやすいな。そういう特殊なフェロモンでも出てんのかね」
「好かれたくてああいうのに好かれてる訳じゃないんだけどね……なんでなのかな……」
「──いつも通りの自覚無しかぁ」
腰に手を当て、カイルは大袈裟に空気を押し出した。
いや、貴方の女でもないです。
「お前のものじゃないから。悪魔如きがボク達の愛し子に唾つけるとかマジで有り得ない。身の程を弁えろよクソ悪魔、クソ泥虫。とっとと死に晒せ」
口悪いなぁ。シルフったら最近どうしたの、思春期?
「はァ〜〜、これだから精霊は。相変わらずの自己中心っぷりに流石の悪魔も引くぜ。執着が十八番の精霊サマはどうぞ、未練がましく地に這い蹲って負け犬らしくキャンキャン泣いとけよ」
「自己中心的だなんてよく言えたな。その廃棄物以下の頭で一度よく考えてから発言してみたらどうだ? ああ……そもそもまともに思考する頭すら無いのか、魔族には。憐れで仕方無いな」
ロンドゥーア皇帝を無視して、シュヴァルツとシルフが火花を散らしはじめた。
隠す必要が無くなったからか、二体揃って相手の正体について言及している。それを聞いた諸外国の人達が、え? マジ? みたいな顔を作っては顔を見合わせたりしてるんだけど……これ、また説明を求められるやつかしら。
果てしない面倒臭さを感じて、私は肩を落とした。
「──無視か! まあ良い、オレは放置すらも愉しめる粋な男。してアミレス・ヘル・フォーロイトよ、オレとの婚姻はいつ頃がいい?」
「そうですね、死後がいいです」
「死後か。ふむ……とんちの効いた事を言うな、オマエは」
「とんちも何も、直喩ですが。伝わりませんでしたか? 死んでも嫌です」
無視するのが最適解と分かってはいるが、ここが国際交流舞踏会の会場である以上、招待客を無下に扱えない。
口と態度が悪いのは氷の血筋では基本中の基本なので、その点についてはモーマンタイ。
「ツレないな。だがそこがまた良い──っと?!」
「我が国唯一の王女殿下相手に何ふざけた事吐かしてるんですか、悪趣味鬼畜変態蜥蜴様」
「ケイリオル……圧が凄いぞ、圧が」
音も無く現れたケイリオルさんに背後を取られ、ロンドゥーア皇帝は唾を飲み込む。彼の圧が凄まじいのか、その顔には脂汗が滲んでいた。
「貴方なぞに陛下の娘を渡す訳がないでしょう。寝言は寝てから言って下さいまし」
「オマエ達は主従揃って本当に失礼だな、このオレでなければ許してなかったぞ。オマエ達の氷柱のごとき言葉はオレを昂らせてくれるから、許しているだけに過ぎぬ」
「勝手に僕の言葉で発情しないで下さい。気色悪い」
「クク、ハハハ! 良い、やはりオマエも良いなあケイリオル!! ──だがオレは真剣だ。邪魔立てするなよ、仮面の男」
変態はひとしきり大笑いしたと思えば突然真顔になった。その温度差に、背筋が凍る。
「……武力による制圧をお望みですか? 亜人の王だからと調子に乗るのも大概にしなさい。全力を賭したところで僕に勝てもしないのに」
「エリドルの強さは気持ち良いぐらい身に染みているが、オマエの強さはまだ知らぬ。確かに鍛えられた肢体ではあるようだが……このオレを前に自称する程に強いのか? オマエは」
ロンドゥーア皇帝はその長身を活かし、なんとケイリオルさんの顎を持ち上げ挑発的に顔を近づけた。
遠い国の王様は、どうやらケイリオルさんの強さを知らないらしい。
我等が皇帝陛下の側近にして氷結の貴公子の剣の師匠──それが、ケイリオルさんだというのに。
「貴方では傷一つ付けられませんよ、僕には。僕に勝ちたければどうぞ、正気を捨て狂気に溺れてご覧なさい」
「クハッ! それがオマエの本性かケイリオル! 相変わらずどこまでもエリドルと似て──……いや、アイツよりも遥かに気が触れてやがる」
パッと手を放し、ロンドゥーア皇帝は恍惚とした熱を浮かべる。
くつくつと笑う彼の傍でケイリオルさんは、顎を念入りにハンカチーフで拭っていた。仮面の布が揺れた際に赤くなった顎が窺える事から、相当強く擦ったらしい。
「はぁー…………よし、今はケイリオルの顔を立てるべく花嫁の事は諦めよう。オレは少々この男と話し込んで来る。ではな、我が未来の花嫁よ。次の求愛では色良い返事が貰える事を期待していよう」
ケイリオルさんの犠牲のお陰で、ひとまず私への興味を失ってくれたようだ。ロンドゥーア皇帝は藪から棒に肩を組み、ケイリオルさんを引っ張って会場の方へと戻っていった。
どこからその自信が湧いてくるのか、ロンドゥーア皇帝はしたり顔のまま手を振る。その手を無視して、私はイリオーデとアルベルトの袖を掴んだ。
「あの人、本当に苦手……」
嵐のような人だった。何故かどっと降り注いだ疲れからか、らしくなく弱音を零してしまった。
「必要であれば、暗殺して参りますが」
「私共にお任せ下さい王女殿下。必ずや、貴女様の覇道を阻む障害は我々が排除してご覧に入れましょう」
「国際問題待ったナシだから流石にそれはやめてちょうだい。貴方達が危険を冒す必要は無いのよ」
やんわりと窘めると、二人は不服そうな表情で小さく頷く。
相変わらずうちの子達は揃いも揃って物騒だ。
「お前ってほんと変なのに好かれやすいな。そういう特殊なフェロモンでも出てんのかね」
「好かれたくてああいうのに好かれてる訳じゃないんだけどね……なんでなのかな……」
「──いつも通りの自覚無しかぁ」
腰に手を当て、カイルは大袈裟に空気を押し出した。