だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
438.終幕 興国の王女
フリードルはどうやら気が触れたらしい。
いや、まあ……ミシェルちゃんに出会ってない今、婚約者がどうのと周りから散々せっつかれた結果、なんか丁度使えそうなのが身内に居たわ。って考えてもおかしくはない。
だって、あいつは妹ですらゴミのように棄てるやばい男だったから。
そういう事なのかって私も思ってた。だけどどうやら──あの男は私を愛しているらしい。
本当の本当に、フリードルは変わったのだ。……正直、何で変わったのかまったく心当たりがなくてただ怖くて仕方無いのだけど。
というか……愛してるから我慢出来ないとか、僕の子供孕めってやばすぎるでしょ。頭ぶっ飛んでんじゃないの?
そんな事を考えつつ、私は猛ダッシュで会場に戻っていた。
その途中で鏡を見て額のどデカいたんこぶと、その他ビフォーアフターに気がついた私は、このまま戻れば絶対何かあったと皆にバレると思ったのだ。
泣いた所為で化粧は崩れ、髪も服もぐちゃぐちゃに。そしてやはり極めつけはこの額。どう考えても何かあったと匂わせる状態だ。
こんな姿で皆の元に戻って、果たして上手く誤魔化せるのだろうか。
実の兄妹でそのような一悶着があったなど、醜聞でしかない。だから絶対に隠し通さねばならないと鏡の前でウロウロしながら熟考した末、私は白夜を呼び出した。
近くの空き部屋にて、慣れた動作で準備を行いお決まりの呪文を唱える。
「星を燃やして命を輝かせよ」
すると、もう見慣れたものだが魔法陣がぶわっと燃えて光の柱を作り出し、頼れる師匠を召喚──……。
「よりにもよって今か…………はぁ、タオル取んの間に合ってよかったァ……」
光が散って現れたのは、水も滴る半裸のイケメン。
いつもと違い下ろされた赤い長髪は水に濡れており、その鍛え上げられた肉体にしがみついているかのよう。
ほんのり蒸気を纏う全身と、赤らんだ肌。師匠からふわりと漂ってくる薔薇系統の香りが、鼻をくすぐる。
唯一の衣類となっている、腰に巻かれた随分と心許ないタオル。その逞しい胸元にはタトゥーのような……星空のように煌めく淡い光による刻印らしきものがある。
これは、つまり。私は──入浴中の師匠を召喚してしまったのでは?
「っごめん師匠! まさか入浴中だとは思わず!!」
「仕方無いっすよ、俺が精霊界で何してるかなんて姫さんには分かりっこなかったんですから。寧ろ、こんなだらしない格好で姫さんの前に現れた事、申し訳なく思います」
「いやいやいやそんな事は! 私、自分に全然つかないぶん、人の筋肉見るの結構好きだし!?」
何を口走ってるのかしら。
「へぇー、そうなんですか。精霊の中には鍛えるのが趣味な奴も多いんで、姫さんにとって眼福だとは思いますよ、精霊界」
「わあ、そうなんだ!」
「勿論俺だっていますしね」
相変わらずいい男だ。そんな感想を抱きつつ師匠をぼけーっと眺めていたら、
「……やっぱちょっと恥ずかしいっすね。そう体をまじまじと見られると」
師匠は視線を逸らすやいなや、変身するかのように服を着てみせた。しかも、それと同時に髪の毛が乾きサラサラになっている。何だかいつもより赤い髪が綺麗に見えるが、湯上りだからなのだろう。
その直前に「ちょっとだけなら大丈夫でしょ」と呟いていたが、素人目に見た限り不味そうな点は見当たらない。
なんならいつも以上に神々しく見えるその姿に惚けてしまったぐらいだ。
「服は元々服着てねーと変換されねーのがこの召喚の難点なんだよなぁ……って、どうしました? そんなぼーっとしちゃって」
「はっ! その……師匠がいつもと違う雰囲気で、改めてかっこいいなと思って……」
普段の師匠が気のいいあんちゃんだとすると、今の師匠はどこかの王族かのような雰囲気さえ漂わせる。
こう言ってはなんだが……どこぞの変態皇帝よりも、うちの師匠の方が遥かに中華系文化の国の皇帝っぽい。
「──そうですか? まーこの格好は人間界じゃ滅多に出来ないんで、見たいなら是非とも精霊界に来てくださいな」
しゃがみ込んで、師匠は明るく笑う。その笑顔はいつもの師匠らしいものだった。
……それにしても、どうして師匠はなんでも精霊界の話題に繋げるんだろう。
まあ、死ぬまでに一度は行ってみたいけどね、精霊界。シルフも師匠も凄い綺麗な場所だって言ってたし。
「って、そうだ師匠。急に呼び出したのには訳がありまして!」
本題をすっかり忘れていた。
「そうでしょーね。姫さんが訳も無く俺を呼んでくれる筈がないので」
「……? それでね、師匠の口の固さを見込んでお願いしたいの。シルフ達の所に行って、ちょっと体調が悪くなって来たから私は先に東宮に戻ったって伝えて欲しいんだけど」
どうせもう国際交流舞踏会は終わる。
私達のパフォーマンスの後、皇帝による閉会宣言でこの一大イベントは幕を下ろすのだ。ならば既に閉会している可能性もある。
たとえ舞踏会が終わっても、私が戻るまでシルフ達は待っていてくれる事だろう。しかし今の私は皆の前に顔を出せない。なので、シルフ達への伝言を師匠に頼みたいと思ったのだ。
いや、まあ……ミシェルちゃんに出会ってない今、婚約者がどうのと周りから散々せっつかれた結果、なんか丁度使えそうなのが身内に居たわ。って考えてもおかしくはない。
だって、あいつは妹ですらゴミのように棄てるやばい男だったから。
そういう事なのかって私も思ってた。だけどどうやら──あの男は私を愛しているらしい。
本当の本当に、フリードルは変わったのだ。……正直、何で変わったのかまったく心当たりがなくてただ怖くて仕方無いのだけど。
というか……愛してるから我慢出来ないとか、僕の子供孕めってやばすぎるでしょ。頭ぶっ飛んでんじゃないの?
そんな事を考えつつ、私は猛ダッシュで会場に戻っていた。
その途中で鏡を見て額のどデカいたんこぶと、その他ビフォーアフターに気がついた私は、このまま戻れば絶対何かあったと皆にバレると思ったのだ。
泣いた所為で化粧は崩れ、髪も服もぐちゃぐちゃに。そしてやはり極めつけはこの額。どう考えても何かあったと匂わせる状態だ。
こんな姿で皆の元に戻って、果たして上手く誤魔化せるのだろうか。
実の兄妹でそのような一悶着があったなど、醜聞でしかない。だから絶対に隠し通さねばならないと鏡の前でウロウロしながら熟考した末、私は白夜を呼び出した。
近くの空き部屋にて、慣れた動作で準備を行いお決まりの呪文を唱える。
「星を燃やして命を輝かせよ」
すると、もう見慣れたものだが魔法陣がぶわっと燃えて光の柱を作り出し、頼れる師匠を召喚──……。
「よりにもよって今か…………はぁ、タオル取んの間に合ってよかったァ……」
光が散って現れたのは、水も滴る半裸のイケメン。
いつもと違い下ろされた赤い長髪は水に濡れており、その鍛え上げられた肉体にしがみついているかのよう。
ほんのり蒸気を纏う全身と、赤らんだ肌。師匠からふわりと漂ってくる薔薇系統の香りが、鼻をくすぐる。
唯一の衣類となっている、腰に巻かれた随分と心許ないタオル。その逞しい胸元にはタトゥーのような……星空のように煌めく淡い光による刻印らしきものがある。
これは、つまり。私は──入浴中の師匠を召喚してしまったのでは?
「っごめん師匠! まさか入浴中だとは思わず!!」
「仕方無いっすよ、俺が精霊界で何してるかなんて姫さんには分かりっこなかったんですから。寧ろ、こんなだらしない格好で姫さんの前に現れた事、申し訳なく思います」
「いやいやいやそんな事は! 私、自分に全然つかないぶん、人の筋肉見るの結構好きだし!?」
何を口走ってるのかしら。
「へぇー、そうなんですか。精霊の中には鍛えるのが趣味な奴も多いんで、姫さんにとって眼福だとは思いますよ、精霊界」
「わあ、そうなんだ!」
「勿論俺だっていますしね」
相変わらずいい男だ。そんな感想を抱きつつ師匠をぼけーっと眺めていたら、
「……やっぱちょっと恥ずかしいっすね。そう体をまじまじと見られると」
師匠は視線を逸らすやいなや、変身するかのように服を着てみせた。しかも、それと同時に髪の毛が乾きサラサラになっている。何だかいつもより赤い髪が綺麗に見えるが、湯上りだからなのだろう。
その直前に「ちょっとだけなら大丈夫でしょ」と呟いていたが、素人目に見た限り不味そうな点は見当たらない。
なんならいつも以上に神々しく見えるその姿に惚けてしまったぐらいだ。
「服は元々服着てねーと変換されねーのがこの召喚の難点なんだよなぁ……って、どうしました? そんなぼーっとしちゃって」
「はっ! その……師匠がいつもと違う雰囲気で、改めてかっこいいなと思って……」
普段の師匠が気のいいあんちゃんだとすると、今の師匠はどこかの王族かのような雰囲気さえ漂わせる。
こう言ってはなんだが……どこぞの変態皇帝よりも、うちの師匠の方が遥かに中華系文化の国の皇帝っぽい。
「──そうですか? まーこの格好は人間界じゃ滅多に出来ないんで、見たいなら是非とも精霊界に来てくださいな」
しゃがみ込んで、師匠は明るく笑う。その笑顔はいつもの師匠らしいものだった。
……それにしても、どうして師匠はなんでも精霊界の話題に繋げるんだろう。
まあ、死ぬまでに一度は行ってみたいけどね、精霊界。シルフも師匠も凄い綺麗な場所だって言ってたし。
「って、そうだ師匠。急に呼び出したのには訳がありまして!」
本題をすっかり忘れていた。
「そうでしょーね。姫さんが訳も無く俺を呼んでくれる筈がないので」
「……? それでね、師匠の口の固さを見込んでお願いしたいの。シルフ達の所に行って、ちょっと体調が悪くなって来たから私は先に東宮に戻ったって伝えて欲しいんだけど」
どうせもう国際交流舞踏会は終わる。
私達のパフォーマンスの後、皇帝による閉会宣言でこの一大イベントは幕を下ろすのだ。ならば既に閉会している可能性もある。
たとえ舞踏会が終わっても、私が戻るまでシルフ達は待っていてくれる事だろう。しかし今の私は皆の前に顔を出せない。なので、シルフ達への伝言を師匠に頼みたいと思ったのだ。