だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「弁当をオレの為にとわざわざ用意させてすまない。東宮の人達も仕事があるだろうに、手間だっただろう」
「あ、えっと……実はこのお弁当、私が作ったものでして。侍女が作ったものじゃないから、クオリティの保証は出来ないんだけど……その分っ! 栄養バランスには凄く気をつけたから!」
──アミレスが作ったもの? この弁当が、アミレスの手料理だという事か?
「マクベスタ、固まってどうしちゃったの? もしかして凄く具合悪いとか……」
呆然と立ち尽くすオレを、アミレスは眉尻を下げて見つめてくる。
彼女に見つめられる事数分。ようやく、現状に理解が追いついたオレはついに演技が瓦解してしまった。
「〜〜っすごく、嬉しい。アミレスがオレの為に手料理を振舞ってくれたのだと思うと、心が天に連れ去られたような幸福に包まれてしまうよ」
自分でも分かるぐらい、オレの顔はだらしなく破顔する。
「お、大袈裟だなぁ……」
「これが大袈裟なものか。寧ろ控えめなぐらいだ。それ程に、心の底から喜びがせり上がってくる。オレはなんて果報者なのかと、これまでの自分に感謝しているぐらいだ」
「いや大袈裟よ?! ただのお弁当なのに!」
オレからすれば、世界中のどんな金銀財宝よりも価値のあるものなんだがな。
「……食べるのが惜しいな」
「体調不良なら食事も大変かなって思って、食べやすいものを作ったんだから、ちゃんと食べてよ」
「むぅ……だが、せっかくお前がオレの為にと忙しい合間を縫って作ってくれたんだ。簡単に食べてしまうなんて勿体ない」
どうにかして、永久保存出来ないだろうか。カイルに頼めばその手の魔導具を作ってくれそうだな……。
「じゃあまた何か作ってあげるから、とりあえずお弁当は食べてね。……言うつもりはなかったんだけど、実は前に仕事で城に来た時、侍女から相談されたのよ。マクベスタ王子が全然食事を取ってくださらない──って。それで、仲がいい私からも口添えして欲しいって頼まれてたの」
「それは……気を揉ませたようで弁解の余地がないな。これからはちゃんと食事は取るよ」
見知らぬ侍女達はともかく、アミレスに心配をかける訳にはいかないから、これからは頑張って食事も取るか。
「それじゃあ、この弁当はありがたくいただくよ。どうせならお茶でもどうだ? 父が土産にと持って来てくれたオセロマイトの茶葉があるんだ」
「体調があんまりよくないのに、お邪魔しても大丈夫なの?」
「お前が傍にいてくれた方が元気が出るんだ。まあ、かなり散らかった部屋だからそれでも大丈夫なら、だが」
「そういう事ならお邪魔しようかしら。セツも入っていいよね」
ああ。と頷きながら、オレは扉を開き彼女をエスコートする。
かれこれ数年間は滞在しているこの部屋。壁に剣を立て掛け、脱いだ服を椅子に掛けたまま放置したり、耳飾りやら香水やらアロマキャンドルやら……色んな小物を、机の上に乱雑に置いていたり。
白ワインのボトルやパンをはじめ、仕事の書類なんかもローテーブルの上にはあった。
随分と散らかってるな。と改めて思うと同時に、幻滅されてないよな……? とアミレスの反応が気になりその横顔を見つめてみる。
「あっ、あれってマクベスタの愛剣じゃない! でもあの黒い長剣は無いんだ。一回ちゃんと見てみたかったんだけどなあ」
全然大丈夫そうだ。相変わらずアミレスは剣が好きだな……きらきらと目を輝かせる姿が本当に愛くるしい。
「オレが食事をしている間、紅茶だけでは手持ち無沙汰だろう。あの剣、見るか?」
「見る!」
ずいっと顔を寄せて、アミレスは期待に満ちた笑みを向けてきた。それに胸の高鳴りを感じたオレは、一度咳払いしてから作業に移る。
雷の魔力と同化させていた聖剣ゼースを顕現させ、剣の中に込めていた魔力を全て回収する。「感電しないとも言いきれないから、気をつけてくれ」と伝えて、彼女にゼースを渡した。
彼女は受け取った瞬間に「おもっ!」と零し、ゼースを両手で抱えながらまじまじと観察しはじめた。
ローテーブルを軽く片付けて、部屋に備え付けられたキッチンで紅茶を入れる。それを二人分用意し、セツ用に牛乳を皿に注いだ。
それらを出して、オレも長椅子に座り、いざアミレスの手作り弁当を堪能する。
……──大国の姫君たる彼女がオレの為にと手ずから作ってくれたそれは、少しばかり不格好ではあったが、これまで食べて来た何よりも美味しかった。
一口食べるごとに幸せが全身を駆け巡る、世界一の美食と言っても過言ではない弁当。
彼女と二人で机を囲み、温かな陽射しに照らされる部屋で味わう紅茶。
まるで同棲している恋人みたいな……瞬きの間すら過ぎ去るのが惜しいと感じられる、夢のような一時。
これが、夢ではないというならば。
どうかこの幸福な時間が少しでも長く続いてくれと、そう……願ってしまう。
「あ、えっと……実はこのお弁当、私が作ったものでして。侍女が作ったものじゃないから、クオリティの保証は出来ないんだけど……その分っ! 栄養バランスには凄く気をつけたから!」
──アミレスが作ったもの? この弁当が、アミレスの手料理だという事か?
「マクベスタ、固まってどうしちゃったの? もしかして凄く具合悪いとか……」
呆然と立ち尽くすオレを、アミレスは眉尻を下げて見つめてくる。
彼女に見つめられる事数分。ようやく、現状に理解が追いついたオレはついに演技が瓦解してしまった。
「〜〜っすごく、嬉しい。アミレスがオレの為に手料理を振舞ってくれたのだと思うと、心が天に連れ去られたような幸福に包まれてしまうよ」
自分でも分かるぐらい、オレの顔はだらしなく破顔する。
「お、大袈裟だなぁ……」
「これが大袈裟なものか。寧ろ控えめなぐらいだ。それ程に、心の底から喜びがせり上がってくる。オレはなんて果報者なのかと、これまでの自分に感謝しているぐらいだ」
「いや大袈裟よ?! ただのお弁当なのに!」
オレからすれば、世界中のどんな金銀財宝よりも価値のあるものなんだがな。
「……食べるのが惜しいな」
「体調不良なら食事も大変かなって思って、食べやすいものを作ったんだから、ちゃんと食べてよ」
「むぅ……だが、せっかくお前がオレの為にと忙しい合間を縫って作ってくれたんだ。簡単に食べてしまうなんて勿体ない」
どうにかして、永久保存出来ないだろうか。カイルに頼めばその手の魔導具を作ってくれそうだな……。
「じゃあまた何か作ってあげるから、とりあえずお弁当は食べてね。……言うつもりはなかったんだけど、実は前に仕事で城に来た時、侍女から相談されたのよ。マクベスタ王子が全然食事を取ってくださらない──って。それで、仲がいい私からも口添えして欲しいって頼まれてたの」
「それは……気を揉ませたようで弁解の余地がないな。これからはちゃんと食事は取るよ」
見知らぬ侍女達はともかく、アミレスに心配をかける訳にはいかないから、これからは頑張って食事も取るか。
「それじゃあ、この弁当はありがたくいただくよ。どうせならお茶でもどうだ? 父が土産にと持って来てくれたオセロマイトの茶葉があるんだ」
「体調があんまりよくないのに、お邪魔しても大丈夫なの?」
「お前が傍にいてくれた方が元気が出るんだ。まあ、かなり散らかった部屋だからそれでも大丈夫なら、だが」
「そういう事ならお邪魔しようかしら。セツも入っていいよね」
ああ。と頷きながら、オレは扉を開き彼女をエスコートする。
かれこれ数年間は滞在しているこの部屋。壁に剣を立て掛け、脱いだ服を椅子に掛けたまま放置したり、耳飾りやら香水やらアロマキャンドルやら……色んな小物を、机の上に乱雑に置いていたり。
白ワインのボトルやパンをはじめ、仕事の書類なんかもローテーブルの上にはあった。
随分と散らかってるな。と改めて思うと同時に、幻滅されてないよな……? とアミレスの反応が気になりその横顔を見つめてみる。
「あっ、あれってマクベスタの愛剣じゃない! でもあの黒い長剣は無いんだ。一回ちゃんと見てみたかったんだけどなあ」
全然大丈夫そうだ。相変わらずアミレスは剣が好きだな……きらきらと目を輝かせる姿が本当に愛くるしい。
「オレが食事をしている間、紅茶だけでは手持ち無沙汰だろう。あの剣、見るか?」
「見る!」
ずいっと顔を寄せて、アミレスは期待に満ちた笑みを向けてきた。それに胸の高鳴りを感じたオレは、一度咳払いしてから作業に移る。
雷の魔力と同化させていた聖剣ゼースを顕現させ、剣の中に込めていた魔力を全て回収する。「感電しないとも言いきれないから、気をつけてくれ」と伝えて、彼女にゼースを渡した。
彼女は受け取った瞬間に「おもっ!」と零し、ゼースを両手で抱えながらまじまじと観察しはじめた。
ローテーブルを軽く片付けて、部屋に備え付けられたキッチンで紅茶を入れる。それを二人分用意し、セツ用に牛乳を皿に注いだ。
それらを出して、オレも長椅子に座り、いざアミレスの手作り弁当を堪能する。
……──大国の姫君たる彼女がオレの為にと手ずから作ってくれたそれは、少しばかり不格好ではあったが、これまで食べて来た何よりも美味しかった。
一口食べるごとに幸せが全身を駆け巡る、世界一の美食と言っても過言ではない弁当。
彼女と二人で机を囲み、温かな陽射しに照らされる部屋で味わう紅茶。
まるで同棲している恋人みたいな……瞬きの間すら過ぎ去るのが惜しいと感じられる、夢のような一時。
これが、夢ではないというならば。
どうかこの幸福な時間が少しでも長く続いてくれと、そう……願ってしまう。