だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
444.公爵家の招待状
「私はやっぱり、マクベスタ王子だと思いますわ! とても仲がよろしいと聞きますし、何よりお似合いですもの!」
「お似合いという話でしたら、わたくしは護衛騎士のランディグランジュ卿こそお似合いだと思いましてよ」
「まあ、どうして?」
「兄がランディグランジュ侯爵と親しいとかで、少しだけ小耳に挟みましたけど……ランディグランジュ卿は幼い頃から王女殿下の騎士になる為に生きていらっしゃったとか。そして今現在のあの忠誠……これは運命と呼ぶに相応しいのではなくって?」
「きゃー! なんてロマンチックなの!」
可愛いらしい乙女達が、黄色い声音で恋バナに花を咲かせる。──自分ではなく、他人の話題で。
「それならあの麗しい精霊様も非常にお似合いだと思います! 王女殿下にだけお見せになるあの甘く優しいお顔……御二方が並び立つとまるで神殿の絵画のようですし!」
「あたしは鈍色の軍師様との間柄を推します……! あのテンディジェル大公家の誇る若き天才であり、先の魔物の行進ではその辣腕を振るった影の立役者! 社交界においては妹さんと共に、王女殿下の後見を得て華々しくデビューを終えられたとか!!」
「確かに王女殿下をお支えするには相応しい御方ですけれど……彼は次期大公閣下ですよ?」
「大公が婿入りしてはならない決まりなんてありませんわ!」
場所は帝都にあるアルブロイト公爵家の邸。そのサロンにて、国際交流舞踏会の関係で帝都に集まっていたご令嬢達が集結する程の大規模なティーパーティーが開かれている。
フォーロイト王国時代に降嫁した姫とその夫に与えられた公爵位は脈々と現代まで受け継がれ、ついにはフォーロイト帝国唯一の公爵家となった。
かつては五つ程あった公爵家だが……王家の逆鱗に触れて取り潰されたり、領地で反乱が起きて自滅したり、何者かによって一族郎党虐殺されたり、皇位簒奪を計画して粛清されたりで今や一つに。
最後の公爵位を持つ家門となったアルブロイト公爵家は、政治においても社交界においても絶大な影響力を有する。
現アルブロイト公爵夫人がかなりの人格者なので、我が国の社交界は割と平和らしい。
そんな社交界の支配者と言っても過言ではない公爵夫人から、なんと私の所にもティーパーティーの招待状が届いてしまった。
近頃は皆が何やらコソコソと企んでいてあまり相手にしてくれないので、私はここぞとばかりに交友関係を広めてみる事にしたのである。
……というのはあくまでも建前で。
せっかく沢山の顧客が集まるのだからと、現在の流行やら好みやらの市場調査に来たのだ。
もうすぐゲームが始まるとは言え、私がヴァイオレットのデザイナーである事に変わりなし。新作のアイデアにと気分転換がてら潜入調査に躍り出た訳だ。
それでいざ来てみれば、これである。
父兄同様、(仕事が忙しくて)滅多に社交界に出ない私がティーパーティーに来たからと、ご令嬢達はここぞとばかりに質問の嵐を巻き起こした。
シルフとシュヴァルツの事とか、隣国の王子達との関係とか、兄妹仲が良いという噂は本当なのかとか、国際交流舞踏会最終日のパフォーマンスの事とか。
本当に、休む暇がないくらいの質問攻めに遭った。公爵夫人が『そろそろパーティーを始めましょうか』と助け舟を出してくれたお陰でなんとか私は一息つけたのである。
その後、席に着いて紅茶とお菓子を手に和気藹々と談笑──するかに思えたが、開幕早々何故か私のお相手論争が始まってしまった。
私は公爵夫人と共に一番大きなテーブルの上座に座っているのだが、同じテーブルのご令嬢達は勿論、会場中のあちこちから似たような議題が聞こえて来る始末。
なんなら私の後方にイリオーデとアルベルトはいるんだけどな……と、予想外の議題で繰り広げられる論争に呆気に取られていたところ、
「様々な男性との浮名を妄想されてあまりいい気ではありませんよね、アミレス王女殿下。わたくしどもの配慮が足らず、たいへん申し訳ございません」
暗い表情で、公爵夫人がぺこりと頭を下げてきた。公爵夫人は何も悪くないのに……と慌てた私は、人の良さそうな彼女が大人しく謝罪を止めてくれそうな一手を必死に考えた。
「私は気にしてませんわ。それよりも……公爵夫人、どうかお美しい瞳を私に見せてくださらない?」
「瞳、ですか──……海のように深く寛大な御心に感謝申し上げます」
私の変な言い回しから、公爵夫人はこちらの意図を察してくれたらしい。
頭を上げるよう普通に伝えたら彼女が過ちを冒したと認める事になってしまう。だからこそ、別に怒ってないよ。と伝える意味も兼ねてこんな回りくどい言い方をしたのだ。
これならば、私目線では怒るような事はされてない。という風に話を持っていけるから。
そんな私の意図を汲み取り、公爵夫人は頭を上げて微笑んでくれた。
「聞いている分には愉快なので、私は大丈夫だけれど……あまり他国の王族の方々の名前を出すのはやめた方がいいと思いますわ。国際問題になりかねないもの」
「それもそうですね。その点については再三注意させていただきます。言い訳がましくなってしまいますが、近頃の令嬢の間ではアミレス王女殿下のお相手予想が流行っていて……まさか御本人の前でも話題に挙げるとは思わず」
「嫌われているよりかは幾分もまだ良いので、私は気にしませんよ。このようなつまらない議題で皆さんが仲良く言葉を交わせているのならば、有名人冥利に尽きるというものです」
帝国の社交界どうなっとんねん。と思うと同時に、まあでも仕方無い事か。と納得する。
皇太子であるフリードルが一向に婚約者を決めようとしないこの異常事態で、皇家の血を存続させられるかどうかは私にかかっているのだ。
帝国貴族達からすれば、これはおこぼれを狙える絶好の機会でもある。何故なら娘を皇太子妃にするよりも、息子を王女の婿として皇家に名を連ねさせるか王女に嫁入りさせるかの二択の方が、まだ可能性を見出せているだろうから。
フォーロイトの血を己の家系に組み込めるまたとないチャンス。それを逃すまいと、各家門はこうして社交界等で情報収集に躍起になっているのだろう。
どれだけ情報を集めたところで、明日があるかも分からない私は、誰とも結婚するつもりはないんだけどね。
こういう考えの私が実際婚約者も定めず、縁談とかものらりくらりと躱せているのは全てケイリオルさんのお陰だ。
あの人が私に関する色んな決定権を皇帝から委任された上で、昔から私の意見を汲み取ってくれた優しい人だから、こうして私は誰かの人生を私に縛りつける事無く生きられる。
本当、ケイリオルさんには足を向けて寝られないな。
「私っ、噂で聞いたんですけれど……アミレス姫には既にお心を向ける殿方がいらっしゃって、それで婚約者をお決めにならないとか……!!」
「それは確かですの?!」
「なんという純情なのでしょう……」
誰かが恍惚とした声でそう言ったのを皮切りに、同じテーブルのご令嬢達の視線が私に集中する。
これは……事実確認をしたいのかな?
「──私の知らぬ間に、そのような根も葉もない噂が流れていたとは。残念ながらこの歳で初恋もまだなもので、私には意中の方などいませんわ。もっとも……私のような人間に心を押し付けられても、相手からすれば迷惑極まりないでしょうけど」
私が相手の立場だったら、私なんかに好かれても困るだろう。こんな歩く時限爆弾みたいな人間と恋人になるなんて嫌だからね。
「お似合いという話でしたら、わたくしは護衛騎士のランディグランジュ卿こそお似合いだと思いましてよ」
「まあ、どうして?」
「兄がランディグランジュ侯爵と親しいとかで、少しだけ小耳に挟みましたけど……ランディグランジュ卿は幼い頃から王女殿下の騎士になる為に生きていらっしゃったとか。そして今現在のあの忠誠……これは運命と呼ぶに相応しいのではなくって?」
「きゃー! なんてロマンチックなの!」
可愛いらしい乙女達が、黄色い声音で恋バナに花を咲かせる。──自分ではなく、他人の話題で。
「それならあの麗しい精霊様も非常にお似合いだと思います! 王女殿下にだけお見せになるあの甘く優しいお顔……御二方が並び立つとまるで神殿の絵画のようですし!」
「あたしは鈍色の軍師様との間柄を推します……! あのテンディジェル大公家の誇る若き天才であり、先の魔物の行進ではその辣腕を振るった影の立役者! 社交界においては妹さんと共に、王女殿下の後見を得て華々しくデビューを終えられたとか!!」
「確かに王女殿下をお支えするには相応しい御方ですけれど……彼は次期大公閣下ですよ?」
「大公が婿入りしてはならない決まりなんてありませんわ!」
場所は帝都にあるアルブロイト公爵家の邸。そのサロンにて、国際交流舞踏会の関係で帝都に集まっていたご令嬢達が集結する程の大規模なティーパーティーが開かれている。
フォーロイト王国時代に降嫁した姫とその夫に与えられた公爵位は脈々と現代まで受け継がれ、ついにはフォーロイト帝国唯一の公爵家となった。
かつては五つ程あった公爵家だが……王家の逆鱗に触れて取り潰されたり、領地で反乱が起きて自滅したり、何者かによって一族郎党虐殺されたり、皇位簒奪を計画して粛清されたりで今や一つに。
最後の公爵位を持つ家門となったアルブロイト公爵家は、政治においても社交界においても絶大な影響力を有する。
現アルブロイト公爵夫人がかなりの人格者なので、我が国の社交界は割と平和らしい。
そんな社交界の支配者と言っても過言ではない公爵夫人から、なんと私の所にもティーパーティーの招待状が届いてしまった。
近頃は皆が何やらコソコソと企んでいてあまり相手にしてくれないので、私はここぞとばかりに交友関係を広めてみる事にしたのである。
……というのはあくまでも建前で。
せっかく沢山の顧客が集まるのだからと、現在の流行やら好みやらの市場調査に来たのだ。
もうすぐゲームが始まるとは言え、私がヴァイオレットのデザイナーである事に変わりなし。新作のアイデアにと気分転換がてら潜入調査に躍り出た訳だ。
それでいざ来てみれば、これである。
父兄同様、(仕事が忙しくて)滅多に社交界に出ない私がティーパーティーに来たからと、ご令嬢達はここぞとばかりに質問の嵐を巻き起こした。
シルフとシュヴァルツの事とか、隣国の王子達との関係とか、兄妹仲が良いという噂は本当なのかとか、国際交流舞踏会最終日のパフォーマンスの事とか。
本当に、休む暇がないくらいの質問攻めに遭った。公爵夫人が『そろそろパーティーを始めましょうか』と助け舟を出してくれたお陰でなんとか私は一息つけたのである。
その後、席に着いて紅茶とお菓子を手に和気藹々と談笑──するかに思えたが、開幕早々何故か私のお相手論争が始まってしまった。
私は公爵夫人と共に一番大きなテーブルの上座に座っているのだが、同じテーブルのご令嬢達は勿論、会場中のあちこちから似たような議題が聞こえて来る始末。
なんなら私の後方にイリオーデとアルベルトはいるんだけどな……と、予想外の議題で繰り広げられる論争に呆気に取られていたところ、
「様々な男性との浮名を妄想されてあまりいい気ではありませんよね、アミレス王女殿下。わたくしどもの配慮が足らず、たいへん申し訳ございません」
暗い表情で、公爵夫人がぺこりと頭を下げてきた。公爵夫人は何も悪くないのに……と慌てた私は、人の良さそうな彼女が大人しく謝罪を止めてくれそうな一手を必死に考えた。
「私は気にしてませんわ。それよりも……公爵夫人、どうかお美しい瞳を私に見せてくださらない?」
「瞳、ですか──……海のように深く寛大な御心に感謝申し上げます」
私の変な言い回しから、公爵夫人はこちらの意図を察してくれたらしい。
頭を上げるよう普通に伝えたら彼女が過ちを冒したと認める事になってしまう。だからこそ、別に怒ってないよ。と伝える意味も兼ねてこんな回りくどい言い方をしたのだ。
これならば、私目線では怒るような事はされてない。という風に話を持っていけるから。
そんな私の意図を汲み取り、公爵夫人は頭を上げて微笑んでくれた。
「聞いている分には愉快なので、私は大丈夫だけれど……あまり他国の王族の方々の名前を出すのはやめた方がいいと思いますわ。国際問題になりかねないもの」
「それもそうですね。その点については再三注意させていただきます。言い訳がましくなってしまいますが、近頃の令嬢の間ではアミレス王女殿下のお相手予想が流行っていて……まさか御本人の前でも話題に挙げるとは思わず」
「嫌われているよりかは幾分もまだ良いので、私は気にしませんよ。このようなつまらない議題で皆さんが仲良く言葉を交わせているのならば、有名人冥利に尽きるというものです」
帝国の社交界どうなっとんねん。と思うと同時に、まあでも仕方無い事か。と納得する。
皇太子であるフリードルが一向に婚約者を決めようとしないこの異常事態で、皇家の血を存続させられるかどうかは私にかかっているのだ。
帝国貴族達からすれば、これはおこぼれを狙える絶好の機会でもある。何故なら娘を皇太子妃にするよりも、息子を王女の婿として皇家に名を連ねさせるか王女に嫁入りさせるかの二択の方が、まだ可能性を見出せているだろうから。
フォーロイトの血を己の家系に組み込めるまたとないチャンス。それを逃すまいと、各家門はこうして社交界等で情報収集に躍起になっているのだろう。
どれだけ情報を集めたところで、明日があるかも分からない私は、誰とも結婚するつもりはないんだけどね。
こういう考えの私が実際婚約者も定めず、縁談とかものらりくらりと躱せているのは全てケイリオルさんのお陰だ。
あの人が私に関する色んな決定権を皇帝から委任された上で、昔から私の意見を汲み取ってくれた優しい人だから、こうして私は誰かの人生を私に縛りつける事無く生きられる。
本当、ケイリオルさんには足を向けて寝られないな。
「私っ、噂で聞いたんですけれど……アミレス姫には既にお心を向ける殿方がいらっしゃって、それで婚約者をお決めにならないとか……!!」
「それは確かですの?!」
「なんという純情なのでしょう……」
誰かが恍惚とした声でそう言ったのを皮切りに、同じテーブルのご令嬢達の視線が私に集中する。
これは……事実確認をしたいのかな?
「──私の知らぬ間に、そのような根も葉もない噂が流れていたとは。残念ながらこの歳で初恋もまだなもので、私には意中の方などいませんわ。もっとも……私のような人間に心を押し付けられても、相手からすれば迷惑極まりないでしょうけど」
私が相手の立場だったら、私なんかに好かれても困るだろう。こんな歩く時限爆弾みたいな人間と恋人になるなんて嫌だからね。