だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

445.公爵家の招待状2

「そのような事は! 王女殿下のような素敵な女性の心をいただける男性は世界一恵まれた方ですわ!」
「そんな事はないと思うけれど……」
「いいえ! もし仮にアミレス殿下のお心をいただけたらと妄想すると、女の私でも夢心地ですから!!」

 めっちゃフォローしてくれる。
 王女相手だもん、ヨイショするわよねー。

「──ちなみにオレサマはお前の心が欲しくて堪らないんだが?」

 今一番現れてはいけない人が現れてしまった。
 頭に感じる重みとその特徴的な口調。そしてご令嬢達が硝子を引き裂いたような黄色い悲鳴を上げた事から、その正体はすぐに推測出来た。

「シュヴァルツ……話をややこしくしないでくれる?」
「ややこしくも何も単純な話だろ。他の誰かじゃなくてオレサマにしとけよォ〜〜、いくらでも愛してやるぜ?」
「ご遠慮願います」
「うわ冷てェ」

 シュヴァルツは公衆の面前で平然と顎クイしてきた。
 ちっちゃい頃からそうだったが……今回の顎クイに限らず、シュヴァルツはスキンシップが激しいタイプらしい。
 おっきくなってからそのスキンシップが更に激しくなっていったものだから、最初こそ少し戸惑ったものの、もう慣れつつある。
 何せスキンシップが激しいのはシュヴァルツだけではなく、シルフや師匠も同じだからだ。多分、人外さん達の文化ではこれが普通なのだろう。

「アミレス、お前には聞こえねェのか? この耳を劈く喧しい歓声が」
「喧しいって言ってしまってるじゃない」
「実際悪魔(オレサマ)からすりゃァ喧しいんだから、仕方無いだろ」
「じゃあなんで出てきたのよ……最近よくシルフと二体(ふたり)で遊んでるんでしょう? 今日も遊んだらいいじゃない」

 そしてどうか、とりあえずこの場からいなくなってほしい。このままシュヴァルツが好き勝手に動きはじめたら、せっかくのティーパーティーが台無しになってしまう。
  心優しい公爵夫人の為にもそれは避けねば。

「はァ〜〜〜〜?! 誰があんな自己中お坊ちゃんなんかと遊ぶか! 業務上仕方無く関わってるだけだっつの!」

 なんの業務なのよ。もしかしてツンデレ?

「はあ……ごめんあそばせ、公爵夫人。話が長くなりそうなので(わたくし)は一度席を外させていただきますわ」
「分かりました。我が家の者に部屋を用意させますので、ごゆっくりなさってください」
「ご配慮痛み入ります」

 公爵夫人の迷惑にはなるまいと、イリオーデ達に引っ張ってもらってシュヴァルツを連れ出す。
 案内された部屋で私達はそれぞれ一人掛けソファに座り、話を進めた。

「──で、結局シュヴァルツはなんで急に現れたの? 貴方って意外と真面目だから、あんな風に空気を壊すような事はしないじゃない」
「オレサマってばえらく信頼されてんなァ、これでも魔王なんだが」

 軽妙な口調ではあるものの、その表情はどことなく嬉しそうだ。ちっちゃい頃あれだけ褒める事を強要してきた事といい、多分褒められると普通に嬉しいんだろうな。

「たとえ魔王でも虫でもどのような存在であっても、事情を汲んで接して下さる。──そんな、遍く生命に分け与えられる王女殿下のご慈悲に感謝しろ」
「おいおい。慈悲云々はともかく……魔王(オレサマ)について語るってのに引き合いが虫なのは流石にクソ不敬だぞ」
「私が敬意をはらうべき相手は王女殿下ただ御一人だけだからな」
「マジでコイツ何? オレサマですら引くって相当だぞ」

 シュヴァルツとイリオーデが特別仲良くしてる所なんかはあまり見た覚えがないんだけど、どうやら案外仲良くやってるらしい。
 生暖かい目で彼等のやり取りを眺めていると、シュヴァルツが目にも止まらぬ速さですぐ傍に来て、その美声を私の耳元で遊ばせた。

「なァ、アミレス。前から思ってたんだが、当たり前のようにああ宣うアイツ等って結構怖くねェか?」
「まあ……そう思わなくはないけど、イリオーデに関してはなるべくしてこうなったというか……」
「アイツがああなった原因に心当たりがあるんだな」
「原因とかじゃなくて、単なる事実だよ。イリオーデは昔からずっと私だけの騎士だから」
「……ヘェー、そうなのかァ」

 シュヴァルツが不満気な表情を作ると、共鳴したようにアルベルトまでもが不機嫌そうな顔になった。だが彼等とは対照的に、イリオーデだけは非常に満足気な表情をたたえている。
 うちの子達って、さては褒められるのが好きね? やっぱりうちは褒めて伸ばす教育方針でいきましょうか。

「というか、何回話を脱線させるのよ。シュヴァルツは突然現れて何がしたかったの?」
「あー……お前に会いたかったからだよ」
「はぐらかさないで」

 どうやら、彼がやたらと話の腰を折る理由が存在したらしい。
 いくらなんでも何回も話を逸らそうとするのは、流石に怪しいというもの。それについて問い詰めると、観念したのかシュヴァルツはため息混じりに答えた。

「……お前、来月誕生日だろ。今年はオレサマの誕生日もきちんと祝ったし、褒美として何か下賜(プレゼント)してやろーって思っただけだ。でも何も思いつかねェから、何が欲しいか聞きに来た」
「その気持ちは嬉しいけど、それを聞くのを躊躇う理由が分からないわ。すぐ聞けばいいじゃないの」

 褒美って言うけど、貴方毎年素敵なプレゼントくれるじゃない。ただただ律儀じゃない。
 それにしても。訳を聞いたが、結局彼が話を逸らし続けた理由が分からない。
 だからそれについて言及すると、シュヴァルツはそっぽを向いてか細い声で答えた。

「──だって、めっちゃカッコ悪ィだろ。何が欲しいか聞こうと思って会いに来たはいいが、いざ本人を前にするとクソカッコ悪ィなって考えが強くなって……相手を理解して、わざわざ聞かずとも欲しい物をプレゼント出来た方がカッコイイじゃん」

 なんともまあくだらない理由だなと思ってしまった。
 女としてしか生きた事がない私には分からないのだが、男の人はやっぱりカッコイイにこだわるのかな。

「そういうものなの?」
「そうだよ。あーもうッ、結局こうしてカッコ悪ィ姿晒す羽目になったし……マジで最悪……!」

 項垂れたそばから頭をガシガシ掻き、彼は美声を纏った大きなため息を吐き出していた。

「よく分からないけど、誰にだって失敗はあるものよ。その失敗から何かを学んで成長する事が大事なんだから」
「本当に何も分かってねェじゃん……お前の前でカッコ悪ィ姿晒した事が大問題なんだが……」

 今日のシュヴァルツは情緒不安定ねぇ。
 などと思っていると、ふと、アルベルトがこちらの様子を窺いつつ小さく挙手して、

「どうしたの、ルティ?」
「もし良ければ俺もお聞きしたいのですが、主君は何かご所望の物などございますか? 僭越ながら、我々が御用意致しますので」

 まさしく執事然とした仕草で聞いてきた。
 欲しい物かー、でもそれこそ欲しい物はこの王女という立場故かだいたい手に入るもんなー。
 あ、そうだ!

「自由、とか?」

 冗談のつもりで適当に言ってみたのだが、

「──畏まりました。それが貴女様のお望みとあらば。我が忠誠に懸けて必ずや、主君の望む自由を捧げてご覧にいれましょう」
「王女殿下の望みの為でしたら、私はどのような存在であろうともこの剣で殺し尽くしてみせます。たとえ……それが国であろうとも」
「とりあえず国家転覆するか? 革命だろうが世界征服だろうがなんだって良い。それが愉しい(・・・)のなら、やってやらんでもないぞ」

 何故か全員真に受けて、世にも恐ろしい事を口走りやがった。
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