だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
451.バースデーパーティー3
ケイリオルさんがフリードルを連れて仕事の話とやらをしに行ったので、私は安心してパーティーを楽しめるようになった。
早速挨拶回りに向かおうとしたのだが、ここでシルフに「ちょっと待って」と引き止められる。言われた通りに待っていたら、シルフは師匠と内緒話をして何かを召喚した。
「はい、ボク達からの誕生日プレゼントだよ。ほぼ作ったのエンヴィーだけど」
「オレサマとシルフがやった事なんざ、素材集め程度だからなァ」
「……この通りとんでもないヒト達に無茶振りされてすっげー頑張ったんで、貰ってくれると嬉しいです」
シルフ達は毎年連名でプレゼントをくれるけど、まさかそこにシュヴァルツが加わるとは思わなかった。
しかも、そのプレゼントというのが予想だにしないもので。
……──日本刀!? と、私は自分の目を疑った。
何故ならそれは、この世界では珍しい片刃の武器。珍しいどころか、本来存在しえない物。
いくら師匠が鍛治を得意としているからって、これ程精巧に未知のものを再現出来る筈がない!
バッとカイルの方を振り向くと、奴はドヤ顔で腕を組んだ。十中八九、情報の出処はカイルだ。あのイケメン好きの事だ、多分前世では刀剣オタクもやってたんだろう。
そこで得た知識をこの世界でも遺憾無く発揮したと。
……分からない、分からないわ。この世界が私達の言葉や知識を弾く基準が分からない。最近は割と、ちょっとした単語程度ならすり抜けられる事が多いのだけど、一体どういう基準で、この世界は私達の知識を異物判定するのだろう。
日本刀とかスマホが有りなら、結構何でも有りな気がするけど。
「カイルのクソ野郎がそれ作ればお前が喜ぶって言うからさ、作る事にしたんだわ」
「星雲石、宙の涙、精霊獣の鱗、星銀、あとは……」
「龍骸族の血、妖魔騎士族の青炎、永劫の砂、深海の瞳。なんか使えそうな素材を片っ端から集めたんだよなァ」
「……で、ボク達が集めた素材を全部エンヴィーに渡して、その刀剣とやらを作らせたの。どう、嬉しい?」
聞けば聞く程やばさが増していくのだけど、この日本刀ってもしかして……。
「凄く嬉しいよ。ただ、師匠に聞きたい事があって……これ、まさかまた魔剣?」
メイドイン師匠の剣は今の所だいたい魔剣だ。白夜然り、懐刀として貰った短剣然り。なのできっと今回も魔剣なんだろうなあと思って師匠に尋ねたのだが、
「あー、いや。今回は違うんすよ。──それ、聖剣です。元は魔剣になる予定だったんですが……渡された素材全部使う為に権能使ったら、なんかややあって聖剣に変質しちゃったんですよね」
師匠の口から放たれたのは、聖剣という言葉。
……それは、あの、エクスカリバーとかそういう類の聖なる剣なのかしら? この日本刀が?
「えっ、聖剣?! 事実上のエクスカリバーって事でオーケイ?!」
あんたも知らんかったんかい。
オタク君と同じ思考回路だった事に少しショックを受けつつ、日本出身のオタクなら聖剣=エクスカリバーの考えに至ってもおかしくはない──……寧ろこれが正解なのでは? と自分を納得させる。
「何だよそのエクスカリバーって。知らんぞそんな聖剣」
「エクスカリバーつったらまさに王者の象徴! 勝利を約束する魔法の剣だろ!? ご存知でない?!」
「知らんのは事実だがクッソむかつくなコイツ……マジで殺してェ……」
厨二病の憧れでもある聖剣に興奮しているのか、カイルは随分と楽しげに力説する。その被害に遭うシュヴァルツが苦虫を噛み潰したような表情になった頃、二人の男性が凄まじい勢いで反応した。
「今っ、聖剣って聞こえたんだけど?!」
「聖剣……なのですか? その変わった剣が!!」
リンデア教の教皇たるリードさんと、国教会の聖人たるミカリア。
往々にして神聖なる力を持つと言われている伝説級の剣がここに誕生したと聞いて、宗教のトップである二人は目の色を変えて詰め寄って来たのだ。
「そ……そうらしいです。ね、師匠?」
「ん? そっすね。神々から与えられた権能を使って鉄を打った所為で、物の見事に聖剣になっちゃいました」
師匠はまるで、商店街で引いた福引で四等が当たったぐらいのテンションであっさりと言ってのけた。
しかし、聖剣と言えばこれまでの人類の歴史でたったの三本しか存在が認められなかった、まさに伝説の剣である。
一本は鍛治神の弟子の人間が鍛えた長剣。一本は神の子と呼ばれたある青年が、解脱の際に身体の一部を剣へと変えて生まれたとされる長剣。一本は長い月日をかけて禱を捧げられ変質した片手剣。
神の弟子が鍛えたとされる剣はいつかの大戦で失われたらしく、一本はリンデア教で保管され、また一本は国教会で保管されているという噂だ。
これで両宗教の聖剣の所持数は互角になっていたのだが、ここに来て聖剣が増えてしまった。だから彼等はこんなにも慌てているんだろう。
しかも──下手すれば一番価値があるかもしれない、メイドイン師匠の聖剣だ。素材の数々が希少素材な事から、多分とんでもない性能の聖剣なのだろう。この日本刀は。
「精霊様が直々に鍛えた聖剣……なんと神聖な……」
「その、もし良かったらなんだけど、ちょっとだけ見せて貰えたり……?」
二人の視線が日本刀に向けられる。ただでさえ摩訶不思議な剣だろうに、それが聖剣だと言うのだから特に興味惹かれるのだろう。
「いいですよ。でも師匠達から貰ったものなので、後でちゃんと返して下さいね」
「ああ! 勿論だ!」
「姫君の所有物ですから、少し見物させていただくだけに留めます」
そう言って日本刀を渡すと、二人は取り合うようにそれを見る。そして、
「うわ何この神聖っぷり。神性宿ってるでしょうもうこれ」
「聖剣ウォーディーンと比べてもかなりの神聖を溢れさせている……」
「ジスガランドにあるブラウマーよりも強い気がする……流石は精霊が作った剣……」
「異教徒が管理する聖剣など真に神聖なるものか。しかし、これでは噂に聞く聖剣ゼースと同等かそれ以上の──」
「は? ウォーディーンなんて紛い物を聖剣として奉っている節穴連中には言われたくないです〜〜!」
また口論を始めてしまった。
相変わらずの犬猿の仲だな……とそれを眺めていると、カイルがおもむろに「なあエンヴィー、あの剣って名前とかねぇの?」と師匠に尋ねた。すると師匠は大きな口で欠伸をして、
「特にねーよ。俺の名付けは微妙だってよく言われるし、こーゆーのは持ち主が付けるべきだからな」
気だるげに目元を擦る。最近無理してたらしいし、きっと疲れてるんだろう。
「それもそうか。アミレス! あの刀、なんて名前にするっ?」
なんでこの人の方が楽しそうなんだろう。
「うーん……」
「エンヴィーの鍛えた打刀なんだから、やっぱ火とか入れる感じ?」
「あり寄りのありね。でもさっきからちょっと気になってた事があるのよ」
「ほほう、気になる事とは?」
わくわくが止まらないカイルに急かされながら、私は続ける。
「三本の聖剣の名前ってさ、“ゼース”“ウォーディーン”“ブラウマー”でしょう? これってさ、どう考えても……」
「──あ。ギリシャ・北欧・インドの主神だな」
「やっぱそうだよね!?」
実はずっと気になってた。聖剣の名前、なんか全部聞き覚えがあるなと思ってたのだ。
早速挨拶回りに向かおうとしたのだが、ここでシルフに「ちょっと待って」と引き止められる。言われた通りに待っていたら、シルフは師匠と内緒話をして何かを召喚した。
「はい、ボク達からの誕生日プレゼントだよ。ほぼ作ったのエンヴィーだけど」
「オレサマとシルフがやった事なんざ、素材集め程度だからなァ」
「……この通りとんでもないヒト達に無茶振りされてすっげー頑張ったんで、貰ってくれると嬉しいです」
シルフ達は毎年連名でプレゼントをくれるけど、まさかそこにシュヴァルツが加わるとは思わなかった。
しかも、そのプレゼントというのが予想だにしないもので。
……──日本刀!? と、私は自分の目を疑った。
何故ならそれは、この世界では珍しい片刃の武器。珍しいどころか、本来存在しえない物。
いくら師匠が鍛治を得意としているからって、これ程精巧に未知のものを再現出来る筈がない!
バッとカイルの方を振り向くと、奴はドヤ顔で腕を組んだ。十中八九、情報の出処はカイルだ。あのイケメン好きの事だ、多分前世では刀剣オタクもやってたんだろう。
そこで得た知識をこの世界でも遺憾無く発揮したと。
……分からない、分からないわ。この世界が私達の言葉や知識を弾く基準が分からない。最近は割と、ちょっとした単語程度ならすり抜けられる事が多いのだけど、一体どういう基準で、この世界は私達の知識を異物判定するのだろう。
日本刀とかスマホが有りなら、結構何でも有りな気がするけど。
「カイルのクソ野郎がそれ作ればお前が喜ぶって言うからさ、作る事にしたんだわ」
「星雲石、宙の涙、精霊獣の鱗、星銀、あとは……」
「龍骸族の血、妖魔騎士族の青炎、永劫の砂、深海の瞳。なんか使えそうな素材を片っ端から集めたんだよなァ」
「……で、ボク達が集めた素材を全部エンヴィーに渡して、その刀剣とやらを作らせたの。どう、嬉しい?」
聞けば聞く程やばさが増していくのだけど、この日本刀ってもしかして……。
「凄く嬉しいよ。ただ、師匠に聞きたい事があって……これ、まさかまた魔剣?」
メイドイン師匠の剣は今の所だいたい魔剣だ。白夜然り、懐刀として貰った短剣然り。なのできっと今回も魔剣なんだろうなあと思って師匠に尋ねたのだが、
「あー、いや。今回は違うんすよ。──それ、聖剣です。元は魔剣になる予定だったんですが……渡された素材全部使う為に権能使ったら、なんかややあって聖剣に変質しちゃったんですよね」
師匠の口から放たれたのは、聖剣という言葉。
……それは、あの、エクスカリバーとかそういう類の聖なる剣なのかしら? この日本刀が?
「えっ、聖剣?! 事実上のエクスカリバーって事でオーケイ?!」
あんたも知らんかったんかい。
オタク君と同じ思考回路だった事に少しショックを受けつつ、日本出身のオタクなら聖剣=エクスカリバーの考えに至ってもおかしくはない──……寧ろこれが正解なのでは? と自分を納得させる。
「何だよそのエクスカリバーって。知らんぞそんな聖剣」
「エクスカリバーつったらまさに王者の象徴! 勝利を約束する魔法の剣だろ!? ご存知でない?!」
「知らんのは事実だがクッソむかつくなコイツ……マジで殺してェ……」
厨二病の憧れでもある聖剣に興奮しているのか、カイルは随分と楽しげに力説する。その被害に遭うシュヴァルツが苦虫を噛み潰したような表情になった頃、二人の男性が凄まじい勢いで反応した。
「今っ、聖剣って聞こえたんだけど?!」
「聖剣……なのですか? その変わった剣が!!」
リンデア教の教皇たるリードさんと、国教会の聖人たるミカリア。
往々にして神聖なる力を持つと言われている伝説級の剣がここに誕生したと聞いて、宗教のトップである二人は目の色を変えて詰め寄って来たのだ。
「そ……そうらしいです。ね、師匠?」
「ん? そっすね。神々から与えられた権能を使って鉄を打った所為で、物の見事に聖剣になっちゃいました」
師匠はまるで、商店街で引いた福引で四等が当たったぐらいのテンションであっさりと言ってのけた。
しかし、聖剣と言えばこれまでの人類の歴史でたったの三本しか存在が認められなかった、まさに伝説の剣である。
一本は鍛治神の弟子の人間が鍛えた長剣。一本は神の子と呼ばれたある青年が、解脱の際に身体の一部を剣へと変えて生まれたとされる長剣。一本は長い月日をかけて禱を捧げられ変質した片手剣。
神の弟子が鍛えたとされる剣はいつかの大戦で失われたらしく、一本はリンデア教で保管され、また一本は国教会で保管されているという噂だ。
これで両宗教の聖剣の所持数は互角になっていたのだが、ここに来て聖剣が増えてしまった。だから彼等はこんなにも慌てているんだろう。
しかも──下手すれば一番価値があるかもしれない、メイドイン師匠の聖剣だ。素材の数々が希少素材な事から、多分とんでもない性能の聖剣なのだろう。この日本刀は。
「精霊様が直々に鍛えた聖剣……なんと神聖な……」
「その、もし良かったらなんだけど、ちょっとだけ見せて貰えたり……?」
二人の視線が日本刀に向けられる。ただでさえ摩訶不思議な剣だろうに、それが聖剣だと言うのだから特に興味惹かれるのだろう。
「いいですよ。でも師匠達から貰ったものなので、後でちゃんと返して下さいね」
「ああ! 勿論だ!」
「姫君の所有物ですから、少し見物させていただくだけに留めます」
そう言って日本刀を渡すと、二人は取り合うようにそれを見る。そして、
「うわ何この神聖っぷり。神性宿ってるでしょうもうこれ」
「聖剣ウォーディーンと比べてもかなりの神聖を溢れさせている……」
「ジスガランドにあるブラウマーよりも強い気がする……流石は精霊が作った剣……」
「異教徒が管理する聖剣など真に神聖なるものか。しかし、これでは噂に聞く聖剣ゼースと同等かそれ以上の──」
「は? ウォーディーンなんて紛い物を聖剣として奉っている節穴連中には言われたくないです〜〜!」
また口論を始めてしまった。
相変わらずの犬猿の仲だな……とそれを眺めていると、カイルがおもむろに「なあエンヴィー、あの剣って名前とかねぇの?」と師匠に尋ねた。すると師匠は大きな口で欠伸をして、
「特にねーよ。俺の名付けは微妙だってよく言われるし、こーゆーのは持ち主が付けるべきだからな」
気だるげに目元を擦る。最近無理してたらしいし、きっと疲れてるんだろう。
「それもそうか。アミレス! あの刀、なんて名前にするっ?」
なんでこの人の方が楽しそうなんだろう。
「うーん……」
「エンヴィーの鍛えた打刀なんだから、やっぱ火とか入れる感じ?」
「あり寄りのありね。でもさっきからちょっと気になってた事があるのよ」
「ほほう、気になる事とは?」
わくわくが止まらないカイルに急かされながら、私は続ける。
「三本の聖剣の名前ってさ、“ゼース”“ウォーディーン”“ブラウマー”でしょう? これってさ、どう考えても……」
「──あ。ギリシャ・北欧・インドの主神だな」
「やっぱそうだよね!?」
実はずっと気になってた。聖剣の名前、なんか全部聞き覚えがあるなと思ってたのだ。