だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
453.バースデーパーティー5
「カイル、そろそろ刀返してちょうだい」
「ああ。悪ぃな、ずっと遊んでて」
「別にいいわよ。あと──私の事、よく見ておきなさいよ?」
「ん?」
刀を受け取り、人から少し離れた所で居合の構えを取る。叶うなら腰に差しておきたいのだけど、今はその準備が無いので仕方あるまい。このままやろう。
小さく息を吐く。そして、鯉口を切って抜刀する!
「っ!?」
横に風を裂く一閃。青く煌めくアマテラスには、カイルの間抜けな顔が映っていた。
「ふふっ、どう? びっくりした?」
抜刀アクションでかなりはしゃいでいたから、抜刀術でも見せてあげようと思ったのだ。
その結果、
「すっげぇええええ! お前こんな事まで出来るの?! マジですげぇじゃん! めちゃくちゃかっこよかったんだが?!」
案の定彼は大はしゃぎ。
褒められていい気がない訳もなく、「ありがとう」と短く返しながら納刀する。するとこの動作も彼のオタク魂に響いてしまったようで、
「すっげー! すっげーすっげーー!」
小学生のような語彙力でカイルは瞳を輝かせる。
サベイランスちゃんを作った貴方の方が凄いと思うけどね。
「いや、マジで……何でそんな殺陣みたいなの出来るんだよ……めっちゃかっけぇじゃん……」
「有事の際の護身用に教わったんだよね」
「殺陣を!?」
あまり思い出せないのだけど、誰かから教わってたのよね。『いいかい。大抵の生命体は、首を斬るか心臓を潰せば死ぬ。だから覚えるのは刀だけでじゅうぶんだ』ってあのひとが言ってた気がする。
「ちょっ……姫さんなんすか今の剣筋! あんたまだそんな隠し球持ってたんですか!?」
「えへへ。居合切りは結構得意だよ」
「居合切り──それが、さっきのやつですか? よし、姫さんちょっとあっちで模擬戦しましょう、模擬戦! その居合切りとか、さっきの抜刀……ってやつをもっと見たいです!」
なんと師匠まで興味津々になってしまったらしい。
そしてそれは師匠だけでなく、イリオーデやアルベルトまで。戦闘を得意とする人達がこぞってこれに興味を示している。
「いや馬鹿じゃろ。これ、アミレスの誕生パーティーぞ? 何がどうしてパーティーで主役が模擬戦をする事になるのじゃ」
「ナトラの言う通りだ。場違いな事するなよ精霊」
「うふふ、でも私はちょっと気になりますわ。お嬢さんは強いようだし、戦っている姿は見てみたいですわね」
「……ベールは本当に変わった趣味してるよね。昔から」
「あら、失礼な兄さんですこと」
いつの間にかこちらに来ていたベールさんを除き、竜の兄妹は模擬戦に否定的だった。
だが、それはここが私の為のパーティー会場である事を考えれば当然の結論だ。皆が一ヶ月もかけて用意してくれたパーティー……それを模擬戦で台無しにしてはならないものね。
危ない危ない。久々の日本刀で上がったテンションのまま、模擬戦を受けてしまうところだった。
ナトラとクロノには感謝しないとね。
「ごめんね師匠。今はパーティーを楽しみたいから、模擬戦はまた今度でいい?」
「勿論大丈夫ですとも。寧ろ、無理言ってすいませんね」
そう言って師匠は一歩下がる。シルフの横に立った瞬間、「アミィを困らせるなよ」と拳骨を落とされ、頭を摩りながら涙目になっていた。
なるほど、これがハラスメントか。
「──あっ、そうだ。言い忘れてた……シルフ、シュヴァルツ、師匠。刀、凄く嬉しい! ありがとう!!」
まだちゃんとお礼を言えてなかった。だから改めてお礼を言うと、三者三様の笑顔で「どういたしまして」と声を揃えた。
……本人達は、それがかなり不服なようでお互いを睨み合いはじめたけども。
♢♢
「……聖剣、か」
アミレスがシルフ達から渡された刀剣という珍しい武器。なんとあれは聖剣のようで、この世に四本目となる聖剣がここに誕生した。
それと同時に、オレはここで初めて二本の聖剣──聖剣ウォーディーンと聖剣ブラウマーが国教会とリンデア教で保管されている事を知った。
まあ、失われたと言い伝えられているのは聖剣ゼースだけだったからな。残りの聖剣はどこかしらにあるものだと思っていたが……この大陸の二大宗教でそれぞれ一本ずつ保管しているとは。
そのような大それた剣のうち、失われたとされる一本をオレが持っているのか。シュヴァルツも恐ろしい物をくれたものだ。
……見た目だけで言えば、こんなにも魔剣のようなのにな。
これが聖剣だとは信じられない。そう、ゼースを出して見てはしみじみ思う。どちらかと言えばアミレスの白夜の方が聖剣に見えるんだが……やはり、何事も見た目だけで判断してはいけないな。
「あの、マクベスタ王子。前から気になっていた事があって……お窺いしてもいいですか?」
レオナードがおずおずと話しかけてくる。その後ろには、彼の妹ローズニカ嬢もいた。
「構わないが」
「ありがとうございます。その、実は俺達……前からマクベスタ王子のその剣に既視感を抱いていたんです。どこかで見た事があるなって」
「でも……その既視感の正体が分からずじまいだったのです。だけど、先程のアミレスちゃん達の話を聞いていて、何となくその正体が分かった気がして」
そう語る二人の視線は、ゼースに向けられていた。
「その剣って、もしかして──……聖剣ゼースなんじゃないですか?」
やはり彼等はこの剣の正体に気づいたらしい。しかし、よく気がついたな。
「仮にそうだとして。どうしてそう思ったんだ?」
「えっと……昔読んだおとぎ話に、聖剣ゼースは雨雲みたいな黒と雷みたいな白金の剣──って書いてあって。それで、聖剣の話を聞いてもしかしてと思ったんです」
「おとぎ話か。意外と、文章だとか言い伝えよりも物語の方が詳細が伝わっている事もあるのだな」
思いもよらぬ方向から彼等は答えに辿り着いたようで、その記憶力と頭の回転に舌を巻く。
だがしかし、大人しくこれを話してもいいものか。
何せゼースは大昔に失われたとされる聖剣。この世界にはもう無いものなのだ。それを突然オレが持っていようものなら……大騒ぎになるやもしれん。
それ以前に、これが本物だと信じられないだろう。寧ろ聖剣ゼースを騙る剣を扱う者として、国教会等から目の敵にされるかもな。
「だがその予想ははずれだ。実はこの剣、シュヴァルツから貰った物でな。魔王がくれた剣が聖剣な訳がないだろう?」
嘘と真実を織り交ぜるとより真実味が増す。
その嘘は、聡明な彼等をも騙し抜いた。
「そっ、そもそも失われた聖剣が現代にある筈がありませんよね! しかもシュヴァルツさんから渡された剣なら尚更! 変な事を言ってしまい、申し訳ございません」
「うぅ……お兄様、もしかして私達また妄想が先走ってしまったのでは……?」
「やらかしたねぇ……」
羞恥から耳を赤くして、「失礼しました」と言い残し二人はとぼとぼと去っていった。
しかし、どうしてシュヴァルツが聖剣を持っていたのかは未だに謎だな。処分に困ってたとか言ってた気がするが、そもそも何故魔界に聖剣があったのだろうか。
「……まぁ、オレには関係の無い事か」
我ながら嘘をつくのが上手くなった。そんな事を考えつつゼースを魔力と同化させて収納し、ワインを飲む。
赤ではなく、白。
彼女の波打つ髪のような、透明な白。
グラスに注いだワインを味わいながら、楽しそうに刀剣を振るう彼女を、オレは見つめていた。
……──楽しそうで何よりだな、と。
「ああ。悪ぃな、ずっと遊んでて」
「別にいいわよ。あと──私の事、よく見ておきなさいよ?」
「ん?」
刀を受け取り、人から少し離れた所で居合の構えを取る。叶うなら腰に差しておきたいのだけど、今はその準備が無いので仕方あるまい。このままやろう。
小さく息を吐く。そして、鯉口を切って抜刀する!
「っ!?」
横に風を裂く一閃。青く煌めくアマテラスには、カイルの間抜けな顔が映っていた。
「ふふっ、どう? びっくりした?」
抜刀アクションでかなりはしゃいでいたから、抜刀術でも見せてあげようと思ったのだ。
その結果、
「すっげぇええええ! お前こんな事まで出来るの?! マジですげぇじゃん! めちゃくちゃかっこよかったんだが?!」
案の定彼は大はしゃぎ。
褒められていい気がない訳もなく、「ありがとう」と短く返しながら納刀する。するとこの動作も彼のオタク魂に響いてしまったようで、
「すっげー! すっげーすっげーー!」
小学生のような語彙力でカイルは瞳を輝かせる。
サベイランスちゃんを作った貴方の方が凄いと思うけどね。
「いや、マジで……何でそんな殺陣みたいなの出来るんだよ……めっちゃかっけぇじゃん……」
「有事の際の護身用に教わったんだよね」
「殺陣を!?」
あまり思い出せないのだけど、誰かから教わってたのよね。『いいかい。大抵の生命体は、首を斬るか心臓を潰せば死ぬ。だから覚えるのは刀だけでじゅうぶんだ』ってあのひとが言ってた気がする。
「ちょっ……姫さんなんすか今の剣筋! あんたまだそんな隠し球持ってたんですか!?」
「えへへ。居合切りは結構得意だよ」
「居合切り──それが、さっきのやつですか? よし、姫さんちょっとあっちで模擬戦しましょう、模擬戦! その居合切りとか、さっきの抜刀……ってやつをもっと見たいです!」
なんと師匠まで興味津々になってしまったらしい。
そしてそれは師匠だけでなく、イリオーデやアルベルトまで。戦闘を得意とする人達がこぞってこれに興味を示している。
「いや馬鹿じゃろ。これ、アミレスの誕生パーティーぞ? 何がどうしてパーティーで主役が模擬戦をする事になるのじゃ」
「ナトラの言う通りだ。場違いな事するなよ精霊」
「うふふ、でも私はちょっと気になりますわ。お嬢さんは強いようだし、戦っている姿は見てみたいですわね」
「……ベールは本当に変わった趣味してるよね。昔から」
「あら、失礼な兄さんですこと」
いつの間にかこちらに来ていたベールさんを除き、竜の兄妹は模擬戦に否定的だった。
だが、それはここが私の為のパーティー会場である事を考えれば当然の結論だ。皆が一ヶ月もかけて用意してくれたパーティー……それを模擬戦で台無しにしてはならないものね。
危ない危ない。久々の日本刀で上がったテンションのまま、模擬戦を受けてしまうところだった。
ナトラとクロノには感謝しないとね。
「ごめんね師匠。今はパーティーを楽しみたいから、模擬戦はまた今度でいい?」
「勿論大丈夫ですとも。寧ろ、無理言ってすいませんね」
そう言って師匠は一歩下がる。シルフの横に立った瞬間、「アミィを困らせるなよ」と拳骨を落とされ、頭を摩りながら涙目になっていた。
なるほど、これがハラスメントか。
「──あっ、そうだ。言い忘れてた……シルフ、シュヴァルツ、師匠。刀、凄く嬉しい! ありがとう!!」
まだちゃんとお礼を言えてなかった。だから改めてお礼を言うと、三者三様の笑顔で「どういたしまして」と声を揃えた。
……本人達は、それがかなり不服なようでお互いを睨み合いはじめたけども。
♢♢
「……聖剣、か」
アミレスがシルフ達から渡された刀剣という珍しい武器。なんとあれは聖剣のようで、この世に四本目となる聖剣がここに誕生した。
それと同時に、オレはここで初めて二本の聖剣──聖剣ウォーディーンと聖剣ブラウマーが国教会とリンデア教で保管されている事を知った。
まあ、失われたと言い伝えられているのは聖剣ゼースだけだったからな。残りの聖剣はどこかしらにあるものだと思っていたが……この大陸の二大宗教でそれぞれ一本ずつ保管しているとは。
そのような大それた剣のうち、失われたとされる一本をオレが持っているのか。シュヴァルツも恐ろしい物をくれたものだ。
……見た目だけで言えば、こんなにも魔剣のようなのにな。
これが聖剣だとは信じられない。そう、ゼースを出して見てはしみじみ思う。どちらかと言えばアミレスの白夜の方が聖剣に見えるんだが……やはり、何事も見た目だけで判断してはいけないな。
「あの、マクベスタ王子。前から気になっていた事があって……お窺いしてもいいですか?」
レオナードがおずおずと話しかけてくる。その後ろには、彼の妹ローズニカ嬢もいた。
「構わないが」
「ありがとうございます。その、実は俺達……前からマクベスタ王子のその剣に既視感を抱いていたんです。どこかで見た事があるなって」
「でも……その既視感の正体が分からずじまいだったのです。だけど、先程のアミレスちゃん達の話を聞いていて、何となくその正体が分かった気がして」
そう語る二人の視線は、ゼースに向けられていた。
「その剣って、もしかして──……聖剣ゼースなんじゃないですか?」
やはり彼等はこの剣の正体に気づいたらしい。しかし、よく気がついたな。
「仮にそうだとして。どうしてそう思ったんだ?」
「えっと……昔読んだおとぎ話に、聖剣ゼースは雨雲みたいな黒と雷みたいな白金の剣──って書いてあって。それで、聖剣の話を聞いてもしかしてと思ったんです」
「おとぎ話か。意外と、文章だとか言い伝えよりも物語の方が詳細が伝わっている事もあるのだな」
思いもよらぬ方向から彼等は答えに辿り着いたようで、その記憶力と頭の回転に舌を巻く。
だがしかし、大人しくこれを話してもいいものか。
何せゼースは大昔に失われたとされる聖剣。この世界にはもう無いものなのだ。それを突然オレが持っていようものなら……大騒ぎになるやもしれん。
それ以前に、これが本物だと信じられないだろう。寧ろ聖剣ゼースを騙る剣を扱う者として、国教会等から目の敵にされるかもな。
「だがその予想ははずれだ。実はこの剣、シュヴァルツから貰った物でな。魔王がくれた剣が聖剣な訳がないだろう?」
嘘と真実を織り交ぜるとより真実味が増す。
その嘘は、聡明な彼等をも騙し抜いた。
「そっ、そもそも失われた聖剣が現代にある筈がありませんよね! しかもシュヴァルツさんから渡された剣なら尚更! 変な事を言ってしまい、申し訳ございません」
「うぅ……お兄様、もしかして私達また妄想が先走ってしまったのでは……?」
「やらかしたねぇ……」
羞恥から耳を赤くして、「失礼しました」と言い残し二人はとぼとぼと去っていった。
しかし、どうしてシュヴァルツが聖剣を持っていたのかは未だに謎だな。処分に困ってたとか言ってた気がするが、そもそも何故魔界に聖剣があったのだろうか。
「……まぁ、オレには関係の無い事か」
我ながら嘘をつくのが上手くなった。そんな事を考えつつゼースを魔力と同化させて収納し、ワインを飲む。
赤ではなく、白。
彼女の波打つ髪のような、透明な白。
グラスに注いだワインを味わいながら、楽しそうに刀剣を振るう彼女を、オレは見つめていた。
……──楽しそうで何よりだな、と。