だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

457.誰が為の殺神計画4

「どうしたんだ、白の竜。話の続きがあるなら早くしてくれないか」
「分かりましたわ。結論から言いましょう──……この件の黒幕は、神々よ」

 深呼吸をして、ベールは簡潔に言い放った。
 それにシルフ達は息を呑む。同時に、彼等の顔を横断するかのような青筋が浮かんだ。

「神々は、【世界樹】が何も言わないのをいい事にこの世界をおもちゃにしているのだけど、あなた達はこの事を知っているのかしら」
「……ああ。昔からそうだよ。あの老害共はこの世界を遊戯盤程度にしか思っていない」
「なら話を進めますわね。恐らく、【世界樹】はお嬢さん達を拒んでいない(・・・・・・)。彼女達が健やかに生きている事が何よりの証明でしょう。では何故、お嬢さん達が世界の干渉を受ける羽目になったのか」

 エンヴィーがごくりと固唾を呑むと、その期待に応えるかのようにベールは続ける。

「お嬢さん達は神々に選ばれてしまった。異世界の知識を持つからこそ、神々の暇潰し(ゲーム)の駒として強制的に彼等の暇潰しに参加させられているのでしょう。神々に目をつけられなければ、普通に暮らせていたと思うけれど……そうはならなかった」

 語りながら、ベールはアミレスに視線を向けた。その時僅かに彼女の黄金の瞳が光を纏ったかのように見えたが、気の所為だったかと思える程の刹那の出来事だった。

(ああ、やっぱり)
「──神々は【世界樹】の許可なく一個人の運命にまで干渉した。その所為で【世界樹】が反応せざるを得なくなり、結果、お嬢さん達は世界による妨害──……いいえ。救援(・・)を受けた。それが何人たりとも彼女達の精神に干渉出来ない理由かと、私は考えましたの」

 ベールは先程、アミレスの精神に干渉しようとしていた。だが意識の表層を見る事すら叶わず早々に撤退したのだ。
 本来有り得ないその現象に、ベールは本当の世界の意思というものを感じざるを得なかった。

「救援……? どういう事だ。【世界樹】がアミィ達を守ってるって言うのか」
「だってそうでしょう? 私達にとって脅威にしかならないような知識や文明を知る彼女達は、極端に言えばこの世界の敵になりうる。彼女達の知識が流出すると、私達が築き上げてきた文明が容易に破壊されてしまうのは想像に難くないわ」
「だからこそ、世界から脅威認定されたんだろう」
「……どちらが先かなんて今は重要じゃない。もし仮に、お嬢さん達が私達の知らない世界を知ると世間に知られては──お嬢さん達の未来は無い。だから、【世界樹】はお嬢さん達を守る為に、お嬢さん達の知識が流出するのを止めている」

 その説明にハッとなり、シルフとエンヴィーは顔を見合わせた。

「……じゃあ、まさか」
「神々が黒幕ってのは、つまり」

 恐る恐るとばかりに唇を動かした二体(ふたり)は、

「この件は──……【世界樹】すらも利用した神々の独断専行よ。そして、現在進行形で行われている神々の暇潰し(ゲーム)に、お嬢さん達が巻き込まれている事の証明と言っても過言ではないわ」

 やるせない表情で頷くベールを見て、更に憤慨する。体側に置かれていた握り拳をプルプルと震えさせて、奥歯を噛み締めた。
 ただでさえ心底憎い存在が、あまつさえ彼等の愛し子を暇潰しに巻き込んでいたと知って。シルフはかつてなく怒りを覚えたのだ。

「私の権能は、兄妹の中でも特に精神系や運命系に関するものなのだけれど……だからか、神々の過ぎたおいたを感知出来ましたの」
「……は、あの老害共がまたなんかやらかしやがったって事か?」
「そうね。今からだいたい一年と少し前、神々はどうやら【世界幹への干渉】を行ったようで。その所為で人間界の運命率に狂いが生じたみたいでして、人間の中にはその影響を強く受けた子達も何人か見受けられますの」

 ベールが知り得る情報が開示されていく度に、精霊達の地雷が次から次へと踏み抜かれていく。
 どうやら神々は、精霊を怒らせる天才のようだ。

「それによって運命が狂わされた子達が……この場には、何人もいる。いえ、正確には──元々狂っていた運命を無理やり元通りにしようとして、かえって捻れてしまったとでも言うべきかしら」

 頬に手を当て、困ったような顔ではぁ。とため息を零す。

「神々が【世界幹への干渉】を行い運命を狂わせた事で、お嬢さんが受けていた【世界樹】の救援に綻びが生じたみたいですの。もしこのまま、【世界樹】による介入がなくなってしまったら……その時は、お嬢さんはこの世界全ての脅威になってしまうわ」

 どうにかしてそれだけは避けないといけない。もしそうなったならば──……竜種が人類と敵対した時とは違い、たった一人の少女が全世界と敵対する事になる。

(万が一にもその時が来たとして、ナトラがお嬢さんの味方であり続けるのなら。私は──今度こそ、人類への愛を捨てましょう。私にとって何よりも大事なものは、兄さんとナトラだから)

 ベールの顔から生気が抜け落ちる。その瞳孔は鋭く、遥か彼方を睨んでいた。
 ナトラと同様に人類への愛を諦められずにいたベールだったが、もう二度と同じ轍は踏まない。もしもう一度人類と対立する日が来たならば、その時はもう迷わないと。

「神々の所為で姫さんが世界の脅威に──っ、駄目だ、そんなの絶対に駄目だろ……!!」

 燃え盛る怒りを乗せた舌打ちは火打石かのように高らかな音を奏でる。
 その時だった。暫く様子を見ていたイリオーデとアルベルトが困惑した様子で顔を見合わせ、おずおずと口を開いた。

「……あの。我々も話を聞かせてもらっていたのだが、少し、口を挟ませてもらっても構いませんか」
「俺達にも、ちょっとだけ心当たり……のようなものがあって」

 どこか釈然としない様子から何かを察したのか、シルフは「ああ。話せ」と告げる。

「一ヶ月程前に東宮に侵入者が現れて、その者が王女殿下の為に神を殺せと申して来た事は、既に話したかと思います。シルフ様達の話を聞いていて、あの時の事を思い出したのですが……」
「例の侵入者は、俺達の知らない衣服を身に纏っていました。エンヴィー様がお召になっているタランテシア帝国の民族衣装とも違う、全くの別物でした」

 その言葉に、エンヴィーが反応する。
 一瞬の迷いののちに、彼は一度精霊体に戻った。併せて衣装も変わったので、その服を指さして、

「その侵入者が着てた服ってのは、これとも違うのか?」

 念の為にと確認する。
 アルベルトは一度頷き、「はい。なんというか……とても不思議な服だったので」と答えた。返事を聞くやいなや、エンヴィーはすぐさま人間体に変身する。
 確認の為とはいえ、人間界でそう何度も精霊体になるのはあまりよろしくない事。横に立つ精霊王からの圧が凄まじいのだ。

「じゃあ、その侵入者も異世界関連って事かねぇ」
「それだけじゃありません」
「まだあんのかよ……」

 げんなりとした表情でエンヴィーが呟くと、イリオーデはその青い髪を揺らして口を切った。

「例の侵入者が話す時にも、王女殿下やカイル王子と同じ現象が起きていました」
「っそれは本当なのか!?」
「私とルティのどちらもが耳鳴りを聞いたなか、その場に居合わせたナトラだけは彼の者と会話出来ていたので間違いありません」
「……待て。今、ナトラが侵入者と会話出来ていたと言ったか?」

 そう言って、焦りからか妖艶な首筋に冷や汗を滲ませる。
 ここに来てナトラだけが何かを聞いたかもしれないと分かり、シルフも事を急いてしまったのだろう。
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