だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

469.十四歳最後の日3

「うーんこの女ラノベ主人公ばりの鈍感だなマジで」

 それにしてもさっきからカイルは何を騒いでるの?
 しかもなんかサラッと貶されてない? よろしい、ならば戦争だ!!

「ほら、カイルも何か用意しているんだろう。早く渡したらどうだ?」
「え、もういいの? 俺のなんて全然後でいいからさ、もっとアミレスと二人でいちゃっ──仲良く話してくれてもいいんだぜ?」

 カイルのよく分からない遠慮を受け、マクベスタはまた含みのある笑みを浮かべた。カイルの前に一歩踏み込み肩を掴んで、

「……誰が人前でそんな事をするか。どうせなら二人きりのがいいだろう」

 耳元で何かを小声で囁いたらしい。
 パーティー会場である為かマクベスタの声はよく聞こえなかったのだが、その後のカイルの反応がオットセイのようだったので、多分かっこいい台詞でも吐かれたのだろう。
 よかったね、カイル。ところで戦争はいつしようか?

 何度もガッツポーズを天に突き上げ、声にならない声で騒ぐカイルが落ち着くのを待つ事五分。
 突然落ち着きを取り戻したカイルは腰から提げていた鞄を漁り、梱包された物をいくらか手渡してきた。
 その中身はとても見覚えのあるもので、目が点になってしまう。

「アクスタだ……」

 我が手に握られしは、アクリルフィギュア、アクリルスタンド、アクリルキーホルダー等々の名を冠するオタク御用達のあのグッズ──アクスタだった。
 しかも絵柄ががっつり私達である。マクベスタ、カイル、(アミレス)の三種類。やったねアミレス、ついにグッズデビューよ……!
 敵側のサブキャラに過ぎないアミレスはまったくと言っていい程グッズ展開がされなかった。それを思い出し、ついつい感慨深くなってしまう。

「マジで作るの大変だったんだかんなー、それ。お前から急に『アクスタとか作れない?』って言われて超頑張って作ったんだぞぉ。写真とかの用意は簡単だったけどアクリル樹脂を用意すんのが……マジで面倒だった……」

 あんな世間話にも真剣に向き合ってくれるのね、貴方は。不真面目なのか真面目なのか……。
 でも本当に嬉しいわ。皆のグッズが着実に増えていってて。

「本当にありがとう、部屋に飾るわ。でもなんでこの三種類なの?」
「そりゃあ依頼主(おまえ)と、製作者(おれ)と、推し(マクベスタ)は作るだろ。人物の指定は無かったし」
「当たり前のように推しが入ってくるのね」
「あったりめーよ。ちな俺の部屋にも飾ってるぜ、推しアクスタは」

 思いもよらぬオソロじゃん……と相変わらず抜け目のないオタクくんの行動力に感心していると、マクベスタが私の手元をひょこっと覗き込んできた。

「なんだ、この硝子のような薄い板は。オレの絵……写真? が貼り付けられているようだが」
「ええっと、これはアクスタ──アクリルスタンドといいまして。推し活グッズです」
「オシカツ……?」

 ああっ! マクベスタが宇宙を漂う猫のように!!

「好き、尊い、幸せになってくれ、とにかく好き、愛してる。みたいな感情を抱く相手が“推し”で、その推しを好き勝手推す活動が推し活──って俺は解釈してるぜ。ちなみに派生して推し事(おしごと)なんて単語もある」
「なる……ほど? それでその推し活とやらの道具に、お前達だけでなく何故オレの顔もあるんだ? これではまるで、アミレスがオレの事を……その……」
「さっきあんな意味深にハンカチ寄越せとか大胆不敵かましてたのにここで照れるのかよ俺の推しやっぱ可愛いなぁオイ!!」

 食い気味に放たれたオタク特有の高速詠唱。
 それにマクベスタが気圧されているようなので、私達の絵柄である理由を私から簡単に説明する。

「さっきカイルも言ってたけど、私がこれを作って欲しいって頼んだの。でも誰のとは伝えてなかったから、カイルの自己判断で私達三人のものになったらしいわ」
「そ、そうなのか。それは……うん。少し残念だな……」

 何が残念なのだろう。

「なあ、カイル。このアクスタ……とやらは、もう無いのか?」
「んー? ああ、まだ材料は余ってるし、追加で写真撮れば作れるぞ」

 もしやマクベスタも推し活に興味を持っていらっしゃる?! カモン推し活沼へ! 推しは推せる時に全力で推そうぜ!!

「もし可能なら、その、オレにも…………作ってくれないだろうか」

 カイルの言葉に顔を明るくして、マクベスタは口ごもりながら控えめに申し出た。
 自分のアクスタが欲しいけど、恥ずかしくて大きな声では言えないのね。大丈夫よ、こんな物珍しいもの誰だって欲しがるわ! 恥ずかしがらなくていいのよマクベスタ!
 まるで母親にでもなったかのよう。ゲームよろしく恥ずかしがり屋のマクベスタを心から応援していると、空気読みの奇才カイルが最大出力でその才を発揮した。

「オーケイ任せろ! しっかりマクアミ──ごほんっ、お前等二人セットで作るぜ!!」

 カイルは鮮やかにウインクをして、歯みがき粉の広告のように笑い親指を立てた。
 私のアクスタがおまけでついてくるのは、一つだとマクベスタのアクスタが寂しそうだからとかかな?

「ありがとう……謝礼はいくら包めばいいだろうか。金塊でも渡すべきか?」
「いやそんな要らんし。お礼は恋バナって事で、供給待ってるぜ!」
「……恋バナ、か。至極嫌だが製作者がそう言うなら仕方あるまい。お前の与太話にも付き……合おう……っ」
「どんだけ俺と恋バナするの嫌なんだよ。俺の硝子のハートが傷ついちゃったじゃん」

 そうは言いつつも、特に傷ついた様子はない。オタクだからすぐ誇張するのねと彼の生態観察を行っていると、カイルは咳払いをしてもう一度鞄をゴソゴソと漁った。

「あとこれ、グッズと言えば缶バッジも不可欠と思って缶バッジも作ったぞ。痛バ作れる程はねぇけど」
「缶バッジも作ったの……?」

 カイルの手にはハート型ホログラム缶バッジが。何故こんな無駄な加工まで施されているのか。
 そして例によって私達三名の絵柄の缶バッジである。だがこちらはどうやら二つずつ作ってくれたらしく、興味深そうに缶バッジに視線を落とすマクベスタにとりあえずワンセットお譲りした。

「カイルは相変わらず無駄に多才だな……こんな装飾をよく一人で作れる。メイシア嬢に話せば『商売の香りがします!』と言って目を輝かせて飛びつきそうだ」
「まあ確かになぁ。今のメイシアちゃんならビジネスチャンスを逃さまいとしそうだ。俺ビジネスには興味無いし、アクスタも缶バッジもあんまりあの子に見せるなよ?」

 もうすぐゲーム本編が始まるからか、二人共ゲームで幾度となく見た姿に成長した。そんな彼等が仲良くメイシアについて話す様子なんて、前世の私ではまったく想像出来なかった事だろう。
 それだけじゃない。本来ゲームが始まってから出会う事になる人達が既に出会ったり、ゲームとはかけ離れた性格になっていたり、ゲームにはまずいなかった人達もいたり──……私やカイルといった転生者(イレギュラー)がいたり。

 このまま、この世界がゲームのシナリオ通りに進むとは思えない。きっとどこかで何か、バタフライエフェクトのように……深刻な皺寄せを食らう気がしてならないのだ。
 だが、たとえそうなったとしても、私のやる事は変わらない。
 死なないように出来る限りの事をしてきた。これから始まるのはその総決算だ。

「……お願い、神様。どうか──私に勇気をください」

 届きもしない祈りを言葉にして、私は自分を奮い立たせた。
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