だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

472.春はテロと誘拐の季節3

「氷結の聖女様は困ってる人間を放っておけない偽善者だとは聞いてたが……まさか本当に引っかかるなんてな。っと、怖い怖い。何回見ても氷の血筋(フォーロイト)の眼光は背筋が凍るぜ」

 男はニヤニヤと笑いながらこちらを見下してくる。

「おいオマエ等、武器もぶん盗れ! 見てくれはただのガキだが知っての通りコイツはあの化け物の娘だ、用心するに越した事はない」
「「「「イエッサー!」」」」

 抜け目ないリーダーによって、鎖の隙間から白夜とアマテラスを抜き盗られてしまう。
 二本の剣と刀剣を見た男達は、「高く売れそうだな、これ」「馬鹿お前っ、足がつくに決まってんだろ?!」「なんだこの剣見た事ねぇ」と騒ぎ、「大人しく武器回収してさっさと戻れ!」とリーダーに怒られ一斉に走り出した。
 その場には拘束された私と、先程の少女と、リーダーだけが残る。すると男によってもう一つの手枷を着けられ、例によって何重にも鎖が体に巻き付く。
 それにより、身動きが取れなくなってしまった。

「おいガキ、アレ出せ」
「……はい」

 リーダーが顎で少女を使う。すると少女は、近くの茂みから大きなボロ布を引っ張り出し、震える手でリーダーに手渡した。

「大人しく被っとけ。氷の血筋(フォーロイト)だからって下手な抵抗はするなよ」

 吐き捨てるように言って、布を被せてくる。どうやら、誰にもバレないように私をどこかへと移送したいらしい。
 俵担ぎで運ばれる事、約十分。
 私は光も届かない地下室でボロ布を剥がれ、おまけとばかりにやたらと重い鎖を巻かれ放置される事となったのだった。

 あれから既に一時間近く経っただろうか。特に助けなどが来る様子もなく、私は二十分程前に地下室に入ってきた犯人グループの雑談を聞いて暇を紛らわしていた。

 とはいえ、別にこれと言って焦っている訳ではない。
 奪われた白夜とアマテラスに関しては、喚べばいつでも我が手元に戻ってくる。師匠お手製の魔剣と聖剣だからね。
 魔力を吸う鎖は確かに厄介だが、生憎と私は常人より魔力量が多い。なのでまだ半分も吸われておらず、大抵の魔法を使える状態にある。
 ここまで氷の血筋(フォーロイト)を警戒して対策するなら、魔法を使えなくする鎖──カイルの絶対捕縛魔法みたいなものを用意しないと。まだまだ詰めが甘いわね。

 身体能力低下デバフは、魔法が使える以上どうとでもなるので気にしてない。
 一番面倒なのはやたらと重い鎖。
 これ本当に重い。もう既に肩凝ってる。横たわっているものの、巻かれた鎖の重さで潰されちゃいそうなぐらいだ。
 魔法で敵を制圧したとしても、この鎖があっては身動きが取れない。この状況からの脱却を難しくする一番の要因がこれである。
 はてさて、これからどうしようかなあとのんびり考えていると、

「……つぅか、話には聞いてたが」
「ああ、そうだよな……」

 犯人グループが鬱陶しいぐらいチラチラとこちらを見てきた。

「「「すげぇ美人……!」」」

 アミレスが美少女なのは事実だが、曲がりなりにも誘拐犯が監禁中の子供相手に何を馬鹿げた事を吐かしてるのやら。

「どうせ後で殺すんだ、その前に少し堪能してもいいんじゃないか?」
「だよなァ。このままただ殺すのは流石に勿体無いぞ」
「このレベルの女、そうそうお目にかかれねぇしな……」
「ぶっちゃけタイプなんだが……結婚してくれ……」

 先程までは氷の血筋(フォーロイト)への恐怖と不安でいっぱいだった顔が、途端に醜穢で下卑たものへと移り変わる。
 じっと私の顔を見つめたかと思えば、男達の息は早くなっていった。中にはニタニタと笑いながら局部を押さえる者までいて、貞操の危機というものを過去一感じていた。

 魔法は使えるし、自己防衛の為に殺すのは簡単だ。
 だがまだ、犯人グループの目的が定かではない。彼等の話す計画とやらの全容を掴めていない今、簡単に殺しては後に響く恐れがある。
 殺すなら──情報を引き出してからにしないと。

「聞きたい事があるのだけど」

 これまで文句も愚痴も泣き言も一切吐かなかった私が突然口を開いたものだから、男達は目を点にして固まった。

「あんた達は何を企んでいるのかしら。巻き込まれたんだから、私にだって知る権利ぐらいはあると思うわ」
「──フン、流石は氷の血筋(フォーロイト)の女だな。肝が据わってやがる。でもそれを教えてやる義理はねェ。どうせ、この後死ぬんだからよ」
「あら、だからこそ聞いてるんだけど。どうせこの後死ぬんだから、死ぬ前に少しぐらいい……いいでしょう?」

 まあ、死ぬのはお前達だけどね。
 持ち前の演技力で誘うように笑い、挑戦的に問いかける。すると男達はごくりと生唾を呑み、この挑発に乗った。

「……冥土の土産に聞かせてやってもいいか、なァ?」
「だな。どうせ死ぬ女だ。口封じすれば問題ねぇだろ」
「──つーわけで、特別に聞かせてやるよ。オレ達の大義をな」

 そう前置きしてから、平たい顔の男は語り出した。

「一年と半年ぐらい前、あの怪物はオレ達の国に現れた。たった一人で城壁を破壊し、兵も戦士も魔導師も魔法工学者も研究者も皆殺しにした。オレ達の愛する美しい水の都を血の海へと変え、王族に至っては晒し首にされた」

 ……一年半前、一人の怪物、皆殺し──おかしいな。なんか妙に心当たりがあるぞぅ。

「大帝国の皇帝だかなんだか知らねぇが、あの怪物は突然オレ達の日常を奪い、国を乗っ取りやがった! だからオレ達は決めたんだよ」

 そう言いながら、男は目と鼻の先まで接近し、屈んだかと思えば私の顎を持ち上げ顔を近づけてきた。

「テメェの父親──……戦場の怪物(エリドル・ヘル・フォーロイト)への復讐をな」
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