だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

474.春はテロと誘拐の季節5

「アァッ?! テメェみたいなガキに何が分かる! 森の中に火力の高い魔導兵器(アーティファクト)を十五個、テメェ等狩猟大会参加者がうじゃうじゃいやがる平地の地中には爆発力の高い魔導兵器(アーティファクト)とその効果を底上げする魔法を使用してある!! これのどこがお粗末だって言ってんだテメェッ?!」

 うわチョロぇ〜〜〜〜〜〜! と思わず笑いそうになるが、なんとか顔に出ないよう頬を律する。
 ベラベラと爆破テロの内容を話す平たい顔の男。だが他の男達も冷静さを失っているようで、誰もその事については言及しない。リベロリア王国と言えばそこそこの研究国家だったと思うんだけど、彼等は頭が回る訳ではないようね。
 まあ……今回ばかりはその直情的な一面に救われたのだけど。
 よし、とりあえず情報は引き出せた。──これでもう、こいつ等に用は無い。

 今日はリードさんとローズがいる訳だし、ミカリアにも連絡が取れるから……片腕ぐらいぶっ飛ばしても大丈夫か。
 寝返りを打つように体を動かし仰向けになると、「無視するなッ!」と男は怒鳴った。その叫びを無視していざ行動に出る。

「穿て──水鉄砲(ウォーターガン)!」

 私の腕諸共、この鎖を断ち切れ!
 左腕の辺り目掛けて放たれた超高水圧の弾丸の雨は、いとも容易く鎖を貫き、私の腕と共にそれを断ち切ってみせた。
 ぐるぐると何重にも鎖を巻いていたのが仇となったわね。こうすれば、簡単に全部解けちゃうじゃないの。

「この女、何して……?!」
「な────ッ!?」
「不味いッ! 拘束が──!!」

 いくら氷の血筋(フォーロイト)でも、片腕を犠牲に鎖を断ち切るとは思ってなかったのだろう。男達は思わず後退りしてしまう程驚き、こちらを凝視していた。

「おいで。白夜、アマテラス」

 音を立てて落ちる鎖の上で体勢を変え、愛剣と愛刀を召喚する。

「おいッ、なんでガキの武器がここに……?! どうなってやがる?!」
「さっさとこの女を拘束しろッッッ!!」

 片手が無いので剣を抜くのが面倒だが、それは脇に挟めばなんとかなった。
 男達の手が、武器が、魔法が、一気にこちらへと伸びてくる。こんないたいけな子供相手に多勢に無勢だと思うわ。
 ────でも。
 ────私の方が強い。

潮の絶壁(ウォーターウォール)! からの……落とせッ、白夜!!」

 攻撃を全て渦潮の壁で防ぎ、重量操作を発動した状態で白夜を投擲する。
 一人、この地下室らしき場所から逃げ出そうとしている男がいた。下手に逃げられ、犯人グループの仲間に計画を早めるように言われては大変だ。テロが起こる前に魔導兵器(アーティファクト)を全て見つけなくてはならない以上──……不安要素は全て潰さないと。
 逃げ出す男の肩を抉り、巻き込み、白夜は壁に突き刺さる。魔剣の能力で白夜は凄まじい重量を伴っていた。その為、白夜は壁すらも抉り鈍い音を立てて下へ下へと落ちていく。
 それに合わせて壁よりも柔らかい肉体などあっという間に裂かれてゆき、「ぐぅおあああああああああッ!!」と男は悶絶する。

 まさに地獄といったその光景に男達が愕然としているので、この隙に始末しようと、アマテラスを手に取りこちらも無理やり抜刀した。
 それに気づいた男の一人が「ひぃっ!?」と情けない叫びを上げつつ腰を抜かし、床を這うように逃げようとする。

「逃げられると思うなよ」

 誰が聞いても悪人の台詞だ。
 そういえば……アマテラスの能力、太陽顕現は私が悪だと認識したものを消滅させるらしいのだが、それはどの程度消滅させるのだろうか。
 そんな好奇心から、ものの試しに目前の脱兎を斬った。するとジュワッと鉄板で肉を焼いたような音を立て、傷口から烈火のごとき勢いで業火が拡がっていく。
 あまりの痛みから一瞬で気を失ったらしく、男は静かに燃え尽きて灰すら残さず消えた。

 ……──思ってたんと違う! もっとこう、神隠し的なアレで消えるものだとばかり!! まさかこんな物理的にじわじわと消滅するだなんて!!
 消滅までのプロセスからして、多分この太陽顕現という能力は“相手が悪である場合”に限り“刀身に太陽を顕現させる”能力なのだろう。
 相手が悪人だったら先程のように太陽のごとき熱量で傷口から燃やされ、あっという間に消滅する。そうでなければただの裂傷で済む、と……。
 もうこれ聖剣というより魔剣でしょ。性能が穏やかじゃないわ。

「あ、お待たせしてごめんね? あんた達も今すぐ殺してあげるから」
「う──ッ、うわぁあああああああああああああああ!!」
「化け物だ……化け物の娘は化け物だったんだ……ッ!」

 せっかくニコリと笑いかけてあげたのに、男達は死神でも見たかのような必死の形相で泣き叫ぶ。
 何よ、失礼しちゃうわね。アミレスはこんなにも綺麗な美少女なのに!

「恨むなら、氷の血筋(フォーロイト)に楯突いた全てを恨みなさいな」

 その後はただの流れ作業だった。
 アマテラスがどんな些細なかすり傷であろうと致命傷にする激ヤバ武器なので、短期決戦型の私の戦闘スタイルとは上手く噛み合い、かなり効率的に敵を全て屠る事が出来たのだ。
 片腕がない為少し戦いづらかったが、こればかりは致し方ない。これからは、このような不測の事態に備えて片腕でも難なく刀を振り回せるように鍛えよう。

 アマテラスと白夜をソードベルトに装着して、砕けた鎖の下敷きになっていた私の左手を回収する。
 一応、腕が分離した瞬間に水を凍らせて止血はしておいたので、後はリードさん辺りに頼んで治してもらえば多分なんとかなるだろう。

 無いものを新たに作り出して治すのはさしもの治癒魔法といえども難しいそうだが、その場にあるものを元通りに治す事は比較的簡単と聞く。
 ならば、多少──いやかなりぐちゃぐちゃな断面ではあるが、こうして分離した腕がきちんと残っていれば治癒も簡単な筈だ。
 それでももし難しいなら、その時はミカリアに頼むとしよう。人類最強の聖人様ならきっとなんとかしてくれるだろうから。

「っ今はこんな事してる場合じゃない! とりあえず幕舎に戻って皆にこの事を伝えないと……!!」

 鎖は解けたがそれでもなお手枷は着いたまま。邪魔だが、これも後で誰かに外してもらえばいいだけの事。
 とにかく手遅れになる前に早く行動を起こさねば。
 手の甲で鼻血を拭い、分離した自分の手を持って、私は地下室を脱出した。
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