だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

476.ビジネス・アライアンス・プリンス2

「……マクベスタ、緊急事態だ」

 カイルはいつになく真剣な面持ちでマクベスタを見つめ、

「俺の推測が正しかったら……これと同じ魔導兵器(アーティファクト)が他にも埋まってるかもしれない」

 ハッキリと言い切った。
 それにはマクベスタも思わず息を呑む。

「一体、これはどのような魔導兵器(アーティファクト)なんだ?」
「……爆弾だよ。それも、連動するタイプのやつ。一個爆発すれば連鎖的に他のも爆発するように、術式が刻まれてるっぽい」
「爆弾────、それはまた……厄介だな。オレ達で全て見つけ出せそうか?」
「そうだな、とにかく見つけ出すしかないっしょ。この森にこんな最新式の魔導兵器(アーティファクト)が埋まってるって事は、大会参加者の誰かが狙われてる線が濃厚だろうしな」

 起動しないように細心の注意をはらい、ぐるぐると動かしては魔導兵器(アーティファクト)を観察する。それと同時進行で、カイルは自身の見解を話した。

「だったら、益々急がねばならないな。もし万が一、アミレスに何かあれば……オレは、犯人を生かしておける自信がない」
「ハハ、それもそうだ。何か(・・)が起こる前に俺達でどうにかするか」

 地を這うような声でマクベスタはボソリと呟いた。
 それに対してカイルは茶化すでもなく、凛とした表情でサベイランスちゃんを取り出し、片手間で操作をはじめる。

「指揮は頼んだぞ、カイル。お前の方がこの手の事は向いているだろう?」
「オーケイ任せとけ。俺様の指揮に酔いしれな」
「何を言ってるんだお前は」
「ちくしょうこの場にアミレスがいてくれれば……ッ!」

 渾身のボケを真顔でスルーされ、カイルがツッコミ役(アミレス)の不在を嘆いた時だった。蹄音が徐々に彼等へと近づく。
 その音に気づき、振り返る。すると視線の先では、黒い毛並みの馬の上で眉間に皺を寄せる銀髪の男がいた。

「──このような所で何をしているんだカイル・ディ・ハミル。目障りだ、殺すぞ」
「えぇ……法もびっくりの大冤罪……」
「そしてマクベスタ・オセロマイト。貴様はそこの塵芥(ゴミ)と何を目論んでいた? 事と次第によっては貴様も殺す」
「殺意やばすぎるだろコイツ」

 カイルの呟きは無視され、馬から降りたフリードルはマクベスタへと目をやる。
 当のマクベスタは面倒だと言いたげな瞳でカイルを一瞥し、小さくため息を吐き出してからおもむろに口を開いた。

「……どうやら、何者かがこの狩猟大会参加者を狙った爆破計画を立てているようで。つい今しがたその計画に使われるのであろう魔導兵器(アーティファクト)を発見したので、これからどうにかして他の魔導兵器(アーティファクト)も見つけよう。──と、二人で話していた次第だ」
「爆破計画?」

 正直に事情を話したところ、意外にもフリードルは真面目にマクベスタの話を聞き入れた。そして、予想外の事態に顔を顰める。

「ああ。誰が狙われているのかも分からない以上、一刻も早く仕掛けられた魔導兵器(アーティファクト)を全て見つけ出す必要があるんだ」
「にわかに信じ難い話ではあるが、少なくともマクベスタ・オセロマイトはそのような戯言を吐く程愚かではない。──つまりは事実なのだろう。だとすれば、僕にこの話をしたのは……」
「流石はフリードル殿、察しが良くて助かります。貴殿にも、是非協力願いたい。このような正確な場所も数も分からない作業、人手が多いに越した事はないからな」

 マクベスタのまさかの申し出に、カイルが「えっ」と素っ頓狂な声を漏らす。

「やはりそういう魂胆か。だが……この狩猟大会には我が臣民が多く参加している。次期皇帝として、臣民の安全の為に動かざるを得ないだろう」
(──あの女の事だ、この事を知った日にはまた常識外れな無茶をしかねない。魔物の行進(イースター)で嫌という程知ったが、あの女は諦める事も逃げる事も知らん愚か者だからな)

 いくら負傷しようと、どうせ回復出来るからと全て無視して無茶を繰り返す。我慢に慣れすぎたアミレスは、諦める事も逃げ出す事もせず最後まで決して膝を折らない。
 そのおぞましさ(・・・・・)たるや。
 フリードルの記憶に深く刻まれる程のものであった。

「貴殿の協力が得られて心強い。共に、爆弾となる魔導兵器(アーティファクト)を見つけ出そう」
「……そうだな。目的が同じならば手を組んだ方が効率的だ。塵芥(ゴミ)と協力するのは些か癪に障るが、仕方あるまい」

 何を血迷ったのか、マクベスタは握手を求めるように手を差し出す。パチパチと白い睫毛を上下に揺らし一拍置いてから、フリードルは握手に応じた。
 その時、奇しくも彼等の心は一致する。

(──アミレスの安全の為に)
(──あの女が無茶する前に)

 何やら二人して意気込んでいるようで、握手をする手にギュッと力が入る。それにお互い気づいたものの、特に言及せず静かに二人は離れた。
 それをじっと見ていたカイルは、涙を堪えるように目を細め、眉間に皺を作り唇をキュッと閉じてプルプルと震えていた。

(……──俺もいるんすけど! 俺も! いるんですけど!!)

 小学生のような拗ね方である。

「さて、時にマクベスタ・オセロマイトよ。その魔導兵器(アーティファクト)は如何にして見つけるつもりなんだ? 僕に協力を申し出たのだ、当然算段の一つや二つは既にあるのだろう」
「カイル任せだが……」
「──は? 貴様、正気か?」

 フリードルはドン引きした。それはもう、露骨に引いていた。
 一刻を争うというのに何とも行き当たりばったりで、手を組んで早々その判断が誤りだったのではと、彼の脳裏を間違いの三文字が反復横跳びしている。

「…………で、件のカイル・ディ・ハミルは何か案があるのか? 無ければ許さないが」

 大きく息を吐き、フリードルはカイルを睨んだ。その眼光に肩を震わせながらカイルは後頭部を掻く。
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