だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「こいつ案外失礼な奴だな……まぁ、精霊共に愛されるような人間だから偏屈でもなんら可笑しかねぇな」
このヒト、シルフ達の事を知っているのかしら。
でも、確か魔族と精霊と妖精の三竦みは結構仲が悪いって何処かで聞いたような……。
「そうだな、オレサマ達は普段相互不干渉って事で互いの世界は勿論、中間にある人間界でも関わらないようにしようぜってなってんだ。何せ魔族も精霊も妖精もロクでもねぇ奴等ばっかりだからな」
自嘲気味に男は笑った。……シルフ達の事を馬鹿にされたようで私は少し、腹が立った。
男を睨んでみる。しかし男は私の視線に気づいても愉しげに笑うだけだった。
「別に馬鹿にはしてねぇよ? だってこれは事実だからな。オレサマ達魔族は他種族全てを見下し殺戮を繰り返す。精霊共は何かと理由をつけて人間達に過ぎた力を与えてはその結末を見物している。妖精共は気に入ったものを奇跡の均衡を崩してまで手に入れようとする。な、ロクでもねぇ奴等だろ?」
男がそう確認してくるが、私は縦にも横にも首を振る事が出来なかった。
私には、彼の言葉を否定する事も肯定する事も出来ない。魔族と会ったのはこれが初めてで、妖精とは会った事も無い。そして精霊は……少なくとも、私の知る精霊さんはとても優しいヒト達だから。
「……なんかすっげー気に食わん。精霊だけ良い感じに言われてんのはマジで癪だわ。超気に食わん。オレサマ達の事も褒めろよ」
何言ってんだこの悪魔。初対面の悪魔をどう褒めろって言うのよ……そもそも魔族は基本的に人間の敵じゃない。
人の夢の中に勝手に不法侵入しておいて随分と横暴な奴ね。
「お前マジで辛辣だな。これがお前の本性かー、いいモン見れたわー……それはそうと。ほら、褒めてみろ。このオレサマを賛辞する事を特に許してやる」
……えぇ……めんどくさいなこの悪魔……これ本当に褒めなきゃ終わらない流れなのかしら。
めんどくせぇ、でもやらなきゃよね……ふむ、じゃああれで。いい意味で偉そう!
「褒めてんのかそれ」
褒めてる褒めてる。いい意味で偉そうとかすっごい褒め言葉。
「……ふーん、まぁ、賛辞なら受け取ってやらん事も無い。ほれ、次」
はっ? まだあるの? どれだけ欲しがりさんなんだよこの悪魔は。
……そうやって私はその後も暫くこのよく分からない悪魔を褒め続けた。
暫く、ある程度、褒め続けていると……悪魔はようやく満足してくれたようで、「ハハ、十分だ。良きにはからえ」と偉そうに肩を何度も叩いて来た。痛い。
「フハハハハハハ! いやぁ、毒々しい褒め言葉ってのも新鮮でいいな!」
悪魔は楽しそうに高笑いをあげた。しかし急に笑い声とその動きがピタリと止まる。電池の切れたおもちゃのように、悪魔は突如として黙り込んだのだ。
……何なんだ急に? とペンでぐちゃぐちゃに塗り潰されたような顔を見上げていると。
「……チッ、もう時間か。つまらんな……」
どこかの虚空を見つめながら悪魔は呟いた。
もしかして、もうすぐ目覚めるのかしら。ようやくこの変な悪魔をヨイショする謎時間も終わりね、と私は少しほっとした。
しかしこの目敏い悪魔はそれに気づいたようで…。
「…………よぅし決めたぞ、絶対にまた会いに来てやるからな」
なっ!? また来るのこの悪魔、やめてよもう来ないでよ不法侵入しないでよ!
「ハハハッ、そもそも会おうと思えば何時でも会えるんだぜ? オレサマが会いに来てやれるのはひとまずは夢の中だけだがな」
いやだから来んなって言ってんでしょ。別に私は貴方に会いたいなんて欠片も思ってな──。
「じゃあな、オヒメサマ。また会う夢を楽しみにしておけ」
人の話聞けよ! おい! 言い逃げするな!!
私の怒りも虚しく、妙に腹が立つ高笑いと共に悪魔の体が徐々に消えてゆく。その際、一瞬、悪魔の顔が見えた気がした。
黒く染まった瞳に、アメジストのような妖しく光る紫色の虹彩。それはほんの一瞬しか見えなかった筈なのに、強く私の記憶の中に残るのだった。
暗闇に一人取り残された私は、のんびりと夢から覚める時を待ち続けた──……。
このヒト、シルフ達の事を知っているのかしら。
でも、確か魔族と精霊と妖精の三竦みは結構仲が悪いって何処かで聞いたような……。
「そうだな、オレサマ達は普段相互不干渉って事で互いの世界は勿論、中間にある人間界でも関わらないようにしようぜってなってんだ。何せ魔族も精霊も妖精もロクでもねぇ奴等ばっかりだからな」
自嘲気味に男は笑った。……シルフ達の事を馬鹿にされたようで私は少し、腹が立った。
男を睨んでみる。しかし男は私の視線に気づいても愉しげに笑うだけだった。
「別に馬鹿にはしてねぇよ? だってこれは事実だからな。オレサマ達魔族は他種族全てを見下し殺戮を繰り返す。精霊共は何かと理由をつけて人間達に過ぎた力を与えてはその結末を見物している。妖精共は気に入ったものを奇跡の均衡を崩してまで手に入れようとする。な、ロクでもねぇ奴等だろ?」
男がそう確認してくるが、私は縦にも横にも首を振る事が出来なかった。
私には、彼の言葉を否定する事も肯定する事も出来ない。魔族と会ったのはこれが初めてで、妖精とは会った事も無い。そして精霊は……少なくとも、私の知る精霊さんはとても優しいヒト達だから。
「……なんかすっげー気に食わん。精霊だけ良い感じに言われてんのはマジで癪だわ。超気に食わん。オレサマ達の事も褒めろよ」
何言ってんだこの悪魔。初対面の悪魔をどう褒めろって言うのよ……そもそも魔族は基本的に人間の敵じゃない。
人の夢の中に勝手に不法侵入しておいて随分と横暴な奴ね。
「お前マジで辛辣だな。これがお前の本性かー、いいモン見れたわー……それはそうと。ほら、褒めてみろ。このオレサマを賛辞する事を特に許してやる」
……えぇ……めんどくさいなこの悪魔……これ本当に褒めなきゃ終わらない流れなのかしら。
めんどくせぇ、でもやらなきゃよね……ふむ、じゃああれで。いい意味で偉そう!
「褒めてんのかそれ」
褒めてる褒めてる。いい意味で偉そうとかすっごい褒め言葉。
「……ふーん、まぁ、賛辞なら受け取ってやらん事も無い。ほれ、次」
はっ? まだあるの? どれだけ欲しがりさんなんだよこの悪魔は。
……そうやって私はその後も暫くこのよく分からない悪魔を褒め続けた。
暫く、ある程度、褒め続けていると……悪魔はようやく満足してくれたようで、「ハハ、十分だ。良きにはからえ」と偉そうに肩を何度も叩いて来た。痛い。
「フハハハハハハ! いやぁ、毒々しい褒め言葉ってのも新鮮でいいな!」
悪魔は楽しそうに高笑いをあげた。しかし急に笑い声とその動きがピタリと止まる。電池の切れたおもちゃのように、悪魔は突如として黙り込んだのだ。
……何なんだ急に? とペンでぐちゃぐちゃに塗り潰されたような顔を見上げていると。
「……チッ、もう時間か。つまらんな……」
どこかの虚空を見つめながら悪魔は呟いた。
もしかして、もうすぐ目覚めるのかしら。ようやくこの変な悪魔をヨイショする謎時間も終わりね、と私は少しほっとした。
しかしこの目敏い悪魔はそれに気づいたようで…。
「…………よぅし決めたぞ、絶対にまた会いに来てやるからな」
なっ!? また来るのこの悪魔、やめてよもう来ないでよ不法侵入しないでよ!
「ハハハッ、そもそも会おうと思えば何時でも会えるんだぜ? オレサマが会いに来てやれるのはひとまずは夢の中だけだがな」
いやだから来んなって言ってんでしょ。別に私は貴方に会いたいなんて欠片も思ってな──。
「じゃあな、オヒメサマ。また会う夢を楽しみにしておけ」
人の話聞けよ! おい! 言い逃げするな!!
私の怒りも虚しく、妙に腹が立つ高笑いと共に悪魔の体が徐々に消えてゆく。その際、一瞬、悪魔の顔が見えた気がした。
黒く染まった瞳に、アメジストのような妖しく光る紫色の虹彩。それはほんの一瞬しか見えなかった筈なのに、強く私の記憶の中に残るのだった。
暗闇に一人取り残された私は、のんびりと夢から覚める時を待ち続けた──……。