だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

482.バイオレンスクイーン5

「──ったく、お前の好き嫌いのポイントって相変わらず意味不明だよなァ。わーったよ、クソ野郎共の魂には何もしねェ。だがまだ生きてるそのクソ共の仲間にその分きちんと報復してやる。それはいいだろ?」
「それは別にいいよ。主犯格さえ生きていれば尋問も出来るだろうから、他は全部死んじゃってもいいと思う。犯罪者はきちんと罪を償うべきだからね」

 どうせなら生きて償い続けるべきだとは思いつつも、贖罪以外の存在価値が無い罪人をわざわざ生かしてやる手間暇って割と無駄なんじゃないかな? とも思う訳で。
 尋問だとか監視だとか食事だとか……時間も手間も物資も、罪人の為に使うぐらいなら全部善良な国民の為に使いたい。
 だからもし私が投獄されたなら、その時は下手に終身刑に処したりせず迷わず極刑にして欲しい。死にたくはないけれど、かと言って民の金を使ってまで生きたいとは思わないわ。
 無駄の極みだし。

「それじゃあ早速、クソ共を見つけ出してお礼参りといこうじゃねェか」

 鋭く頬を釣り上げ邪悪に笑うシュヴァルツによって、ブランシュはもう帰れと手で追い払われる。しかし、そんな酷い態度にも文句一つ言わずに彼は姿を消した。
 お兄ちゃんだからか、シュヴァルツのああいう態度にも慣れているのかもしれない。

「あんな悪魔に頼らなくてもボクひとりでじゅうぶん……って言いたいところだけど、ついさっき少しだけ暴走未遂(やらかし)ちゃって。力は出ないし、頑張る為にもアミィにちょーっと力を貸して欲しいなぁ、なんて」
「私に出来る事ならなんでもするよ」

 だってシルフ達には魔導兵器(アーティファクト)を見つける途方も無い作業を任せるのだから、私に出来る事はなんだってするつもりだ。
 その意思を伝えたところ、にんまりと星空の瞳を細めて満足気に笑い、

「やった! それじゃあ──……ほんの少しだけ、返して(・・・)もらう(・・・)ね」

 シルフは、その淡い唇を私のそれに重ねてきた。
 魔力が流れ出る感覚。いや、正確に言えば……私の中にある何か(・・)が吸い出されるかのよう。
 心臓が熱い。視界がチカチカと点滅する。
 なに、なにが起きてるの?
 どうして私は──……シルフにキスされてるの?

「ッ何してやがる精霊の!! テメェ……ッ、オレサマの前でアミレスに手を出すなど到底許し難い蛮行だぞ!」
「……なんでボクがボクの愛し子と触れ合うのにお前の許可が要るんだよ。そも許す許さないはこちらの台詞だぞ、魔王。先に我が愛し子を毒したのはそちらであり、ボクがそれを渋々見逃してやった事……まさか忘れたとは言うまいな」

 後ろ髪を引かれるようにゆっくりと離れ、シルフはシュヴァルツを鋭く睨んだ。その無機質な横顔を一目見て、心の中で渦巻いていた混乱や幸甚は一瞬で消え失せる。
 今、私の目の前に立つ彼の表情は────。
 一言で周囲を平伏させるこの声は────。
 どこかの皇帝のようなその口調は────。
 すべて、私の知らないものだった。

「……チッ、これだから精霊は嫌なんだよ。永久にオレサマ達を見下しやがる。所詮は同じ穴の狢だってのによ」
「ボクだってお前等の事は大嫌いだよ。可能なら今すぐにでも殲滅したいぐらいにな」

 シルフとシュヴァルツが火花を散らす。そのあまりにも重苦しい空気に、私はただ黙る事しか出来なかった。

「──ごめんね、アミィ。急に口付けたりして。君に貸してる魔力を少しだけ返してほしかったんだ。何も言わずにするべきではなかったよ……驚かせちゃったかな」

 何事も無かったかのように、シルフは彼らしい柔らかな笑みを纏いこちらを見つめる。
 その変貌っぷりに、私は──友達でありながら、彼に少なからず恐怖を抱いていた。
 私の知らないシルフがいるという事実に、どうしてか、焦燥を覚えたのだ。

「……平気だよ。ただ、びっくりするからこれから魔力が欲しい時は先に言ってね」

 少し雰囲気が変わったからと、私まで態度を変えてしまったらきっとシルフは傷ついてしまう。
 だからつとめていつも通りに振舞った。

「そうするよ。ボクはそこの悪魔とは違うからね」
「オレサマがなんだって?」
「なんでもねぇーーよ。というかいちいち反応するなよ煩わしい」
「は?」
「あ?」

 何故この二体(ふたり)はすぐ喧嘩をするのだろう。
 今まで仲良く出来てたじゃん。これからも仲良くしようよ。

「……王女殿下、彼等は貴女にとって本当に害悪ではないのですか?」

 喧嘩ばかりの人外さん達に、ついにケイリオルさんが疑念を抱いてしまった。
 そりゃそうだよね、精霊と悪魔だもん。国の平穏が脅かされる可能性だってある訳で。彼はその可能性を示唆しているのだろう。

「大丈夫ですよ。シルフもシュヴァルツも理由無しに暴れたりしませんので!」

 魔王(シュヴァルツ)に至っては拘束の契約もあるから問題無し。シルフは……人間が好きみたいだから多分大丈夫だろう。

「そういうつもりで申した訳ではないのですが……」

 しかしケイリオルさんは納得がいかない様子。
 それこそ納得がいかない私はムッとした顔で彼を見上げていたのだが、それに気づいたリードさんがおもむろに私の肩に手を置き、

「本当に、頼むから、君だけは健やかに生きてくれ。さもなくばこの世界は終わる」
「何の話ですか?!」

 真剣な表情で釘を刺すように言った。
 一気にスケールが大きくなり、当惑を隠せない。そんな私を見て更に彼は遠い目になる。

「寧ろここまで鈍感になれるのは才能だよ……どうなってるんだい氷の血筋(フォーロイト)は……」
「いやぁ……ここまで鈍いケースはかなり珍しいですよ。氷の血筋(フォーロイト)程、愛に生きる一族もおりませんし……ありとあらゆる点において彼女が特異なのだとしか言えませんね」

 二人の残念なものを見るような、生暖かい視線が痛い。ケイリオルさんの方は顔が見えないから想像でしかないのだけど、チクチクと視線が刺さる。
 そう、こんなにも背中に刺々しい視線を感じ──……

「背中? ──どうしたの、ルティ?」

 二人からのチクチク視線にしては一つ、方向がおかしい。そう思いつつ振り向くと、そこには仏頂面のアルベルトがいた。
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