だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
484.バイオレンスクイーン7
テントを出ると、まずはじめに意識が向いたのは足元で輝くダークグレーの魔法陣。
この魔法陣はなんなんだと幕舎が騒然とするなか、その中心点に立つ男──シルフは、顎に手を当て小首を傾げていた。
そんな彼に駆け寄り、私は何をしているのかと問う。
「シルフ、この魔法陣は何?」
「悪の魔力で例の爆弾を探してるんだ。悪意を感知出来ないかなーと思ったんだけど、大まかな場所しか分からなくて。高さとか正確な位置が分からない上に、あちこちに変な魔法が仕掛けられてるから下手に弄れなくて困ってるんだ」
うーん。と彼は小さく唸る。
悪の魔力……これまた珍しい魔力が出て来たなぁ。でも驚かないぞ。今日は既にもっと珍しい時の魔力を目の当たりにしたから。
「魔導兵器の詳細も分からない以上、いちいち掘り起こすのは危険が伴いますね。罪人集団の全容も把握しきれておりませんし」
謎の魔法陣により騒ぎになっている幕舎を見渡して、ケイリオルさんが呟く。
するとアルベルトがこくりと頷き、
「魔導兵器の起動方法は自動なのか、手動なのか。それも分からぬ現状では目立つ行動は極力控えた方が良いでしょう」
ケイリオルさんの言葉を補足した。
彼の言う通り、そこがネックなのだ。
一刻も早く爆弾を見つけなくてはならないのに、その爆弾についての情報があまりにも少なすぎる。
くそっ……こんな事ならもっと情報を吐かせておけばよかった! 個数とか構造とか機能とかも尋問しておけばよかった!!
「おいリード、あの神聖十字臨界とやらは使えねェのか? あれ使えば一発だろ」
ここでシュヴァルツが妙案を口にする。
確かに! 爆弾なんてどう考えても悪いものだもの、あの魔法の効果対象に違いないわ!!
髪を振って彼の方を振り向き、期待に満ちた目でリードさんを見つめる。しかし彼は弱りきった表情で躊躇いがちに口火を切った。
「……出来ないんだ。さっきちょっと無茶をした反動でね、今はまーったく魔法が使えない。簡単な治癒魔法でさえも使えなくて完全なお荷物になってしまったよ」
その反動というのは、もしかしなくても光の魔力を担保に時の魔力を使ったというあれだろう。
私が怪我なんてした所為で……リードさんを頼った所為で……一番の解決方法が失われてしまった。
ああ、私の馬鹿。どうして簡単には治せないような怪我を負ったの? もっと簡単に治せる程度の怪我に留めておくべきだったのに。
リードさんやローズがいるからと甘えてしまった。これは──私の怠慢だ。
「何したらそんな反動を食らうんだよ。はァ、リードも頼りにならんとなれば……シルフになんとかしてもらうしかねェか。なんとかしろよ」
「どうしてボクに丸投げするんだよ。お前も働け。どうせ、これまで散々色んな魔力を喰ってきたんだろ」
「多彩な魔力炉を喰ってはきたが……この状況をどうにか出来る魔力は喰ってねェよ。つーかお前は全属性使えるんだからなんとかしろよ、マジで」
「はぁ? だからこうして魔導兵器を探してるんだろうが。その目って節穴なの?」
喧嘩するほど仲がいい。──という事にしておこう。
「……とりあえず、もし爆発してもいいように私は避難誘導してきます。森にいる人達にも今すぐ森から出るよう伝えないと」
私は私に出来る事をしなければ。ある程度幕舎から離れた場所で結界を張っておけば、民の安全は守られるだろう。
「では、森に入った参加者への避難誘導は僕がしましょう。非常時用の発煙筒がありますので、そちらを使います」
「じゃあ私はそれを手伝おう。発煙筒も色んな場所で使った方が、森の中にいる人達に見えるだろうからね」
「ケイリオル卿……リードさん……っお願いします!」
善は急げと動き出したケイリオルさん達を見送り、私はまずシュヴァルツに頼み事をする。
「シュヴァルツにはこのままシルフと一緒に魔導兵器を探して欲しいの」
「……分かった。お前がそう言うなら、やるよ。爆弾と魔法をどうにかすればいいんだろ」
「うん。こんな無茶を聞いてくれてありがとう。シルフもシュヴァルツも頑張って」
そう告げると二体はそれぞれ柔らかく微笑み、
「任せて」
「任せろ」
同じ言葉を口にした。
それが彼等からすれば気に食わないようなのだが、揃って苦虫を噛み潰したような表情をするだけで、文句も言わずに作業に取り掛かっている。
「それじゃあ私達は避難誘導に向かうわよ、ルティ」
「仰せのままに」
アルベルトと共に、ある程度幕舎から離れた場所に向かい二人で結界展開の準備をする。
水の結界と闇の結界。──二重の結界であれば、どれ程高威力の爆発であっても防げるだろう。
早々に準備を終えたアルベルトが先行して避難誘導に向かい、早くも令嬢達が各々の使用人を伴って青い顔で避難してきた。
澄み切った青空に次々と色が付いた煙が立ち上る。
それがまた非常事態を実感させ、老若男女が入り乱れる避難の列が崩れ始めた時だった。
《……──皆さん落ち着いて!》
優しくも凛々しい声が、広い平原に響く。
《決して慌てず、ゆっくりと北西方向に避難して下さい》
幕舎の方から聞こえて来る拡声魔導具越しのその声は、間違いなくレオのものだった。
おそらく、アルベルトから避難誘導の件を聞いて協力してくれているのだろう。
その証拠とばかりに、ローズの歌声も聞こえる。聞いた人の心を穏やかにするような、安らぎの歌──。それを耳にした人達は自然と落ち着き、慌てることなく迅速に避難している。
これがテンディジェル兄妹の力……! こと避難誘導においてはチート級の能力だわ!
「──アミレス様っ!」
テンディジェル兄妹の力に感動していた時。息を切らして、メイシアが駆け寄ってきた。
「ルティさんから話は聞きました。避難誘導はローズニカ公女達が担ってますので、わたしはこちらで皆さんの護衛をします。相手が大人数の場合、わたしの眼が有効かと思いますので」
魔物の行進の際メイシアは魔眼の酷使でかなり疲弊し、魔物の行進終息後に数日間高熱で寝込んでいた。
だからあまり魔眼を頻繁に使って欲しくないのだが、メイシアもこれで頑固なところがある。きっと、言っても聞いてくれないだろう。
彼女の真剣な表情を見れば、そうとしか思えなくなる。
「メイシア──……お願いしてもいい?」
「はいっ! お任せください!」
「ありがとう。私は幕舎に戻るから、避難してきた人達をそこの円の中に集めておいてちょうだい」
結界の範囲として設定し、地面に描かれたかなり大きな円。それを指さして指示すると、
「分かりました。……お願いだから、無茶はしないでくださいね、アミレス様」
上目遣いで釘を刺されてしまった。
既に無茶はしたのだが、これ以上はしないで済むよう気をつけよう。
この魔法陣はなんなんだと幕舎が騒然とするなか、その中心点に立つ男──シルフは、顎に手を当て小首を傾げていた。
そんな彼に駆け寄り、私は何をしているのかと問う。
「シルフ、この魔法陣は何?」
「悪の魔力で例の爆弾を探してるんだ。悪意を感知出来ないかなーと思ったんだけど、大まかな場所しか分からなくて。高さとか正確な位置が分からない上に、あちこちに変な魔法が仕掛けられてるから下手に弄れなくて困ってるんだ」
うーん。と彼は小さく唸る。
悪の魔力……これまた珍しい魔力が出て来たなぁ。でも驚かないぞ。今日は既にもっと珍しい時の魔力を目の当たりにしたから。
「魔導兵器の詳細も分からない以上、いちいち掘り起こすのは危険が伴いますね。罪人集団の全容も把握しきれておりませんし」
謎の魔法陣により騒ぎになっている幕舎を見渡して、ケイリオルさんが呟く。
するとアルベルトがこくりと頷き、
「魔導兵器の起動方法は自動なのか、手動なのか。それも分からぬ現状では目立つ行動は極力控えた方が良いでしょう」
ケイリオルさんの言葉を補足した。
彼の言う通り、そこがネックなのだ。
一刻も早く爆弾を見つけなくてはならないのに、その爆弾についての情報があまりにも少なすぎる。
くそっ……こんな事ならもっと情報を吐かせておけばよかった! 個数とか構造とか機能とかも尋問しておけばよかった!!
「おいリード、あの神聖十字臨界とやらは使えねェのか? あれ使えば一発だろ」
ここでシュヴァルツが妙案を口にする。
確かに! 爆弾なんてどう考えても悪いものだもの、あの魔法の効果対象に違いないわ!!
髪を振って彼の方を振り向き、期待に満ちた目でリードさんを見つめる。しかし彼は弱りきった表情で躊躇いがちに口火を切った。
「……出来ないんだ。さっきちょっと無茶をした反動でね、今はまーったく魔法が使えない。簡単な治癒魔法でさえも使えなくて完全なお荷物になってしまったよ」
その反動というのは、もしかしなくても光の魔力を担保に時の魔力を使ったというあれだろう。
私が怪我なんてした所為で……リードさんを頼った所為で……一番の解決方法が失われてしまった。
ああ、私の馬鹿。どうして簡単には治せないような怪我を負ったの? もっと簡単に治せる程度の怪我に留めておくべきだったのに。
リードさんやローズがいるからと甘えてしまった。これは──私の怠慢だ。
「何したらそんな反動を食らうんだよ。はァ、リードも頼りにならんとなれば……シルフになんとかしてもらうしかねェか。なんとかしろよ」
「どうしてボクに丸投げするんだよ。お前も働け。どうせ、これまで散々色んな魔力を喰ってきたんだろ」
「多彩な魔力炉を喰ってはきたが……この状況をどうにか出来る魔力は喰ってねェよ。つーかお前は全属性使えるんだからなんとかしろよ、マジで」
「はぁ? だからこうして魔導兵器を探してるんだろうが。その目って節穴なの?」
喧嘩するほど仲がいい。──という事にしておこう。
「……とりあえず、もし爆発してもいいように私は避難誘導してきます。森にいる人達にも今すぐ森から出るよう伝えないと」
私は私に出来る事をしなければ。ある程度幕舎から離れた場所で結界を張っておけば、民の安全は守られるだろう。
「では、森に入った参加者への避難誘導は僕がしましょう。非常時用の発煙筒がありますので、そちらを使います」
「じゃあ私はそれを手伝おう。発煙筒も色んな場所で使った方が、森の中にいる人達に見えるだろうからね」
「ケイリオル卿……リードさん……っお願いします!」
善は急げと動き出したケイリオルさん達を見送り、私はまずシュヴァルツに頼み事をする。
「シュヴァルツにはこのままシルフと一緒に魔導兵器を探して欲しいの」
「……分かった。お前がそう言うなら、やるよ。爆弾と魔法をどうにかすればいいんだろ」
「うん。こんな無茶を聞いてくれてありがとう。シルフもシュヴァルツも頑張って」
そう告げると二体はそれぞれ柔らかく微笑み、
「任せて」
「任せろ」
同じ言葉を口にした。
それが彼等からすれば気に食わないようなのだが、揃って苦虫を噛み潰したような表情をするだけで、文句も言わずに作業に取り掛かっている。
「それじゃあ私達は避難誘導に向かうわよ、ルティ」
「仰せのままに」
アルベルトと共に、ある程度幕舎から離れた場所に向かい二人で結界展開の準備をする。
水の結界と闇の結界。──二重の結界であれば、どれ程高威力の爆発であっても防げるだろう。
早々に準備を終えたアルベルトが先行して避難誘導に向かい、早くも令嬢達が各々の使用人を伴って青い顔で避難してきた。
澄み切った青空に次々と色が付いた煙が立ち上る。
それがまた非常事態を実感させ、老若男女が入り乱れる避難の列が崩れ始めた時だった。
《……──皆さん落ち着いて!》
優しくも凛々しい声が、広い平原に響く。
《決して慌てず、ゆっくりと北西方向に避難して下さい》
幕舎の方から聞こえて来る拡声魔導具越しのその声は、間違いなくレオのものだった。
おそらく、アルベルトから避難誘導の件を聞いて協力してくれているのだろう。
その証拠とばかりに、ローズの歌声も聞こえる。聞いた人の心を穏やかにするような、安らぎの歌──。それを耳にした人達は自然と落ち着き、慌てることなく迅速に避難している。
これがテンディジェル兄妹の力……! こと避難誘導においてはチート級の能力だわ!
「──アミレス様っ!」
テンディジェル兄妹の力に感動していた時。息を切らして、メイシアが駆け寄ってきた。
「ルティさんから話は聞きました。避難誘導はローズニカ公女達が担ってますので、わたしはこちらで皆さんの護衛をします。相手が大人数の場合、わたしの眼が有効かと思いますので」
魔物の行進の際メイシアは魔眼の酷使でかなり疲弊し、魔物の行進終息後に数日間高熱で寝込んでいた。
だからあまり魔眼を頻繁に使って欲しくないのだが、メイシアもこれで頑固なところがある。きっと、言っても聞いてくれないだろう。
彼女の真剣な表情を見れば、そうとしか思えなくなる。
「メイシア──……お願いしてもいい?」
「はいっ! お任せください!」
「ありがとう。私は幕舎に戻るから、避難してきた人達をそこの円の中に集めておいてちょうだい」
結界の範囲として設定し、地面に描かれたかなり大きな円。それを指さして指示すると、
「分かりました。……お願いだから、無茶はしないでくださいね、アミレス様」
上目遣いで釘を刺されてしまった。
既に無茶はしたのだが、これ以上はしないで済むよう気をつけよう。