だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

37.商談といきましょう。2

「では何をお買い求めでしょうか?」

 伯爵がそう問うてくる。私は前もってハイラさんと相談して纏めておいた必要物資リストを伯爵に「そちらに記されている物全てです」と言って手渡す。
 それを受け取った伯爵は何度も瞬きをしながらリストをまじまじと見つめる。その伯爵の横から、メイシアもそのリストを覗き込んでいた。
 それにしてもあの親子、表情がとてもそっくりだわ……と伯爵とメイシアを眺めていた所、伯爵が顔を上げて、おずおずと尋ねてきた。

「…………王女殿下は何か大規模な事業でもなされるおつもりなのでしょうか? あまりにも建材の量が多いような……」

 おお、流石は大商会の頭目だ。まさか欲しいものリストを見ただけでそれを察するとは。
 心の中で彼の能力に拍手を送りながら、私は伯爵の疑問に答える。

「貧民街の一角に孤児院や集合住宅や大衆浴場の建設を予定しております」
「貧民街に……!?」

 伯爵の顔に緊張が走る。それもその筈だ……今まで西部地区──貧民街の一件は誰もが手を打とうとして結局諦めた事。
 その問題に突然、世間知らずの王女が手を出そうとしているのだから……伯爵の反応も無理はない。

「余裕があれば安く診察して貰えるような診療所等も作りたいですね。人材をどうするかの問題が残っているので、簡単には行かないでしょうか」

 何せこの世界の医者と言うものは光の魔力を持たず、知識と技術だけで人々を治す職業を指す。当然、そんな人材は滅多にいないのだ。
 光の魔力を持つ司祭等に治癒を依頼するならば高額の費用がかかるそうで、平民にはまず選べない手段だ。
 なので平民は病気にかかった際には薬師の元に行って薬を処方してもらうのだそう。しかしその薬師もまた珍しい存在で、一つの国に四〜五人いれば運がいい……ぐらいの確率らしい。
 大抵の街にいるのは薬師程ではない、薬草等を取り扱う薬屋で……その道のプロたる薬師程の人材は本当にいない。探すとなると膨大な時間と手間がかかるのだ。
 だから私は少しでも病や怪我で命を落とす可能性を減らそうと、その希少な専門家達を一箇所に留まらせたい。
 医者に症状を見てもらい、薬師にそれにあった薬を処方してもらう……日本では当たり前だったそれが、この世界でも出来れば良いと思った。
 手術なんて概念はこの世界に無いみたいだし、重度の病に関してはもう司祭を頼ってくれとしか言えないが……軽度の病気や怪我であれば誰もが心置き無く利用できるような、そんな診療所があればいいんじゃないかなって。

「……診療所、ですか。では大衆浴場と言うのは? 初めて聞く言葉ですが」

 伯爵の疑問が落とされる。
 完全に忘れてたけど、そう言えばこの世界……少なくともこの国には温泉とか大浴場とかそう言う物が無いのよね……誰かと一緒に風呂に入る文化がそもそも無いし。
 水に関してはモーマンタイ。先々代の皇帝が潔癖症だったとかで、帝都全域で、魔法と魔導具を活用した上下水道が時代錯誤な程に整っている。
 大衆浴場を作りたいと思った際に、上下水道に勝手に配管を増やしてそこから水を拝借してもいいかと詳細は伏せたままケイリオルさんから許可を取った(何でケイリオルさんがそこまで権力を持っているのかは分からない)ので、そもそもの水については問題無いのだ。
 加えて、その下水道はずっと北上して行けばフォーロイト帝国北部の海に出る。海の近くに天然物の長い洞窟があるらしく、そこと繋がる長距離に及ぶ地下水道が帝都まで伸びているそうだ。潔癖症だからって普通そこまでやらないよね、フォーロイト帝国の歴史面白いなー。
 まぁ、とどのつまり、実質帝都の水は無限なのである。
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