だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
「何やってるんだ魔王は…………どれだけ周りに迷惑をかければ気が済むんだろう」

 シルフがボソリと呟いたそれは、かなりの毒を纏っていた。……やっぱり精霊さんは魔族と仲悪いのね。
 猫シルフの背中を宥めるように優しく撫で、私は尋ねた。

「……シルフは魔王の事、何か知ってたりする? ほら、精霊さん的には魔王ってどんな感じなの?」
「知ってる……と言うか、一応会った事もあるよ。本っ当に面倒な男だったかな、魔王は。執拗いし鬱陶しいし面倒くさいし気色悪かったし五月蝿かったよ」

 刺々しく毒を吐き続けるシルフに、私は、おぉう……と少し気圧されてしまった。これはあれだ、私が思ってる以上に精霊さんは魔族が嫌いなんだ。
 あのゆるふわシルフがこんなに毒吐くぐらいなんだからそれはもう相当。
 まぁまぁ落ち着いてと猫シルフを一生懸命なでなでしていると、シュヴァルツがシルフの頭をツンツン、とつつきながら笑い、

「精霊って本当に魔族が嫌いなんだねー、そんなんだから魔族にも嫌われるんじゃないのぉ?」

 と首を傾げた。それにシルフはすげなく返す。

「別に魔族に好かれたいとか微塵も思ってないから構わないよ」
「あはは、そっかー。まぁそうだよねぇ」

 シルフの冷たい返事を、シュヴァルツはいつも通りの可愛い笑顔で受け止めた。それにしてもめちゃくちゃメンタル強いわよこの子。
 私だったら、ただ質問しただけでこんなに冷たく返されたりしたら心折れそうだもん。
 そうやってシュヴァルツの心の強さに感心していると、そのシュヴァルツが今度は私に質問があるようで……。

「おねぇちゃんは、魔王の事、どう思うのぉ?」

 と、つい目を細めたくなるような眩しい笑顔で聞いてきた。
 ……しっかし、なんなんだこの質問は。魔王が好きかって事かしら? 元オタクの私としてはそりゃあ勿論魔王と言う存在はとてもカッコイイと思うけれど、でも本当に、関わりたくはないわね。
 シュヴァルツがどう言う意図でそれを聞いてきたのかは分からないけど、とりあえずそのまま答えようか。

「……魔王って言う存在はかっこよくて好きよ。でも実際には関わりたくないわね、心の底からそう思う」

 うーん、と唸っていた私は、そうやって簡単な意見を述べる。
 すると猫シルフの耳としっぽがビクッと反応する。更に、シュヴァルツがむすーっと怒ったような表情となった。

「……むぅ、好きなのに会いたくないの?」

 シュヴァルツが思い切り抱きついて来ては、拗ねたように言う。……これはもしや、もしかして、シュヴァルツは魔王ファンだったりするのかしら。
 絵本とか物語で魔王を描いた作品は多くあるものね、そういう物を見て育っていたのならファンになっててもおかしくは無いわ。
 どうしよう、シュヴァルツの好きなもの貶しちゃったような感じなのかもしれない。とりあえず謝ろう。

「ごめんねシュヴァルツ、別に魔王の事をわざと貶そうとか、嫌いだとかそう言う訳ではないのよ? ただ本当に……私はどちらかと言えば平和主義な人間だから……」

 だから争いの権化(と言うイメージ)の魔王とは本当に心の底から関わりたくないと私は思うのです。しかし、この発言により口論が勃発してしまう。

「魔王の事なんて思い切り嫌ってしまえばいいよ、アミィ。君が思ってるようなかっこいい存在じゃないから、魔王って」
「魔王かっこいいから! 魔族が嫌いだからってそうやってすぐ批難するとか、精霊はやる事が本当に姑息だよね!」
「君に精霊の何が分かるんだ。知ったような口を聞くなよ、ろくに魔力も持たない人間が」
「はぁー? そっちこそ魔王の事なぁんにも知らない癖に偉そうに語らないでくれなーい?」

 私を挟んで、精霊側の猫シルフと魔王ファンのシュヴァルツが代理戦争を始めたらしい。
 二人の勢いがあまりにも凄く、私にはそれを止める事は不可能だった。その為、間に挟まれたまま代理戦争の行く末を見守る羽目になったのだ。
 途中まではマクベスタもその代理戦争をオロオロとしながら見ていたのだが、途中でもう色々と諦めたようで、もう一度新聞に目を落としたっきり、目的地に着くまで顔を上げてくれなかった。
 くそぅ、マクベスタめ……一人だけ逃げやがって……!
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