だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
 …………まさか誘拐されてしまうなんて思いもしなかった。
 わたしを知る人に出会って、酷い事を言われたわけではないけど、しかしこれが危機的状況な事には変わりなかった。
 突然知らない男の人に口元を塞がれどこかへ連れ込まれた。凄く、凄く怖かった。
 恐怖のあまり涙が溢れたし、体が異常なぐらい震えた。怖くて怖くて仕方なかった。
 知らない男の人達はわたしの顔を見て、背中がゾッとするような、気味の悪い笑みを作っていた。……今思えば、あんな人達、あの時燃やしておいた方が良かったのかもしれない。
 ──だってそうしたらあの子が傷を負う事も無かったんだから。
 でもね……あの時のわたしにはそんな勇気が無かった。ただ怯えて、震えて、歯をガタガタと鳴らして泣く事しか出来なかった。
 それに、誰かを傷つけるのが怖かった。お母さんがわたしのせいでずっと目を覚まさないように、わたしのせいでまた誰かが大怪我をして目を覚まさなくなってしまえば…………例え相手がどんな悪人でも、わたしは罪悪感に押し潰されてしまいそうだった。
 だから何も出来ずに檻に入れられ、目先の絶望をただ嘆く事しか出来なかった。

 それは他の子達も同じだった。わたしがこの檻に入れられた時、わたしの他に二人の女の子がいた。
 二人……ナナラちゃんとユリエアちゃんはわたしより少し前にこの檻に入れられたらしく、相当泣き続けていたのか、声もガラガラで目元も真っ赤に腫れていた。
 わたし達はただ毎日すすり泣いていた。もうそれしかできる事がないから。
 わたしが檻に入れられたほんの少し後に、もう一人男の子がやって来た。その男の子はこんな状況なのにまったく動じていない様子で、むしろこんな状況を楽しんでいるようだった。

「あはっ、そんなに怒らなくてもいーのに。ぼくのね〜、予言……うーん、占い? は結構当たるんだぜ? ──きっと、もうそろそろ……面白い事が起きる気がするよぉ」

 ある日、ナナラちゃんが男の子の様子に腹を立てて怒鳴った事があった。その時、男の子はこの場所に似つかわしくない程明るい笑顔で、そう言った。
 もちろんわたし達はそれを頭のおかしい男の子の妄言だと聞き流した。
 ……何故かずっと余裕のある振る舞いをする男の子が、そんな期待させるような事を言ったから、ナナラちゃんとユリエアちゃんは泣きそうな瞳で顔を真っ赤にして怒った。
 この時にはわたしはもう買い手がついていて、数日後には人身売買の果てに奴隷にされてしまうらしい。
 だから、そんな些細な妄言ですら、期待してしまうのだ。こんな世界に……こんなわたしが期待しちゃ駄目って分かっているのに。
 それなのに──馬鹿で愚かなわたしは、何度も期待してしまうのです。
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