だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜
──どうか、無事でいて。スミレちゃん。
……その願いは、天には届かなかった。長い廊下を走り抜け、突き当たりの部屋に辿り着いた時。
スミレちゃんは地面に倒れようとしていて、その頭上には大きな斧が振り下ろされていた。それを視認した瞬間、わたしは咄嗟に魔眼の力を発動させた。
燃えて!! ……そう心の中で叫んだ途端、スミレちゃんの目前にて斧を持つ男が炎に巻かれたのだ。斧はスミレちゃんに当たる事無く地に落ちた。
この眼が役に立つ日が来るなんて、と思いつつ、わたしはスミレちゃんの名を口にしながら彼女に駆け寄った。
スミレちゃんはわたしがここにいる事に酷く困惑しているようだった。心配だったから…と告げると、スミレちゃんは、その綺麗な寒色の瞳から涙をぽろりと零した。
「……ごめ、んね……っ、わた……しの、せいで……っ」
……どうして、スミレちゃんが謝っているの? どうして、そんな風に傷ついた表情をするの?
目を見開き混乱するわたしの義手にそっと触れ、彼女は続けた。
「わたっ、しの……せいで……ぅぐっ……あなた、に……人を、傷つけ……させ、て……ごめん、ね……っ」
スミレちゃんは大粒の涙と嗚咽と共に、そう謝ってきた。
化け物で、ニセモノで、魔女のわたしに……人を傷つけさせてごめんねって言ってるの? 悪い子で化け物のわたしに?
どうしてあなたはそこまでわたしを普通の女の子のように扱ってくれるの……?
どうして、どうしてどうして……そう際限なく疑問が湧いてくる。疑問を絶え間なく生み出す事によって、なんとか、感情を抑え込んでいる。
もし疑問という堰が無くなれば……きっと、わたしは今すぐにでも大声で泣き喚いてしまう事だろう。だからこそ、自分にいくつもの疑問を課していた。
しかしそれも束の間、その疑問のうちの一つにスミレちゃんが鼻をすすりながら答えてしまったのだ。
「あな、たみたいな……普通の女の子に、こんな事、させたくなかった……っ、人を傷つけ……た後悔や、苦しみを、味わって欲しく、なかった」
わたしの思い上がりではなかった。スミレちゃんは本当に……全てを知った上で、わたしを──メイシア・シャンパージュを、普通の女の子として扱ってくれていたんだ。
家族でもなんでもない赤の他人のわたしに、こんなにも優しくしてくれたのはスミレちゃんが初めてだった。
じんわりと瞳が熱くなり、いつの間にか視界が涙に揺らいでいた。そんなわたしを見てか、スミレちゃんが慌てて涙を拭いて、
「……泣かないで、メイシア。先に泣いてしまった私がこう言うのも変な話だけれど……私、貴女の笑った顔が見たいわ。泣いてる姿も可愛いのだけれど、きっと、笑った顔の方がもっとずっと可愛いわ」
優しく抱き締めてくれた。耳元に聞こえてきた言葉で、またわたしは泣いてしまった。もっともっと泣きじゃくってしまった。
お父さん以外にこんな事を言ってくれる人がいるなんて、思ってもみなかったから。
スミレちゃんの肩を涙で濡らしてしまい、申し訳の無い気持ちのまま、わたしはボソリと呟いた。
「……この顔が、怖く……ないの?」
わたしの眼を見た人の半分以上が、気味が悪いと言って目を逸らすのに。あなたはこれが怖くないの?
「ん? すっごく綺麗で可愛い顔だと思うよ?」
スミレちゃんから帰ってきた言葉は、わたしが思っていたようなものでは無かったが、すごく……すごく嬉しい言葉だった。
……その願いは、天には届かなかった。長い廊下を走り抜け、突き当たりの部屋に辿り着いた時。
スミレちゃんは地面に倒れようとしていて、その頭上には大きな斧が振り下ろされていた。それを視認した瞬間、わたしは咄嗟に魔眼の力を発動させた。
燃えて!! ……そう心の中で叫んだ途端、スミレちゃんの目前にて斧を持つ男が炎に巻かれたのだ。斧はスミレちゃんに当たる事無く地に落ちた。
この眼が役に立つ日が来るなんて、と思いつつ、わたしはスミレちゃんの名を口にしながら彼女に駆け寄った。
スミレちゃんはわたしがここにいる事に酷く困惑しているようだった。心配だったから…と告げると、スミレちゃんは、その綺麗な寒色の瞳から涙をぽろりと零した。
「……ごめ、んね……っ、わた……しの、せいで……っ」
……どうして、スミレちゃんが謝っているの? どうして、そんな風に傷ついた表情をするの?
目を見開き混乱するわたしの義手にそっと触れ、彼女は続けた。
「わたっ、しの……せいで……ぅぐっ……あなた、に……人を、傷つけ……させ、て……ごめん、ね……っ」
スミレちゃんは大粒の涙と嗚咽と共に、そう謝ってきた。
化け物で、ニセモノで、魔女のわたしに……人を傷つけさせてごめんねって言ってるの? 悪い子で化け物のわたしに?
どうしてあなたはそこまでわたしを普通の女の子のように扱ってくれるの……?
どうして、どうしてどうして……そう際限なく疑問が湧いてくる。疑問を絶え間なく生み出す事によって、なんとか、感情を抑え込んでいる。
もし疑問という堰が無くなれば……きっと、わたしは今すぐにでも大声で泣き喚いてしまう事だろう。だからこそ、自分にいくつもの疑問を課していた。
しかしそれも束の間、その疑問のうちの一つにスミレちゃんが鼻をすすりながら答えてしまったのだ。
「あな、たみたいな……普通の女の子に、こんな事、させたくなかった……っ、人を傷つけ……た後悔や、苦しみを、味わって欲しく、なかった」
わたしの思い上がりではなかった。スミレちゃんは本当に……全てを知った上で、わたしを──メイシア・シャンパージュを、普通の女の子として扱ってくれていたんだ。
家族でもなんでもない赤の他人のわたしに、こんなにも優しくしてくれたのはスミレちゃんが初めてだった。
じんわりと瞳が熱くなり、いつの間にか視界が涙に揺らいでいた。そんなわたしを見てか、スミレちゃんが慌てて涙を拭いて、
「……泣かないで、メイシア。先に泣いてしまった私がこう言うのも変な話だけれど……私、貴女の笑った顔が見たいわ。泣いてる姿も可愛いのだけれど、きっと、笑った顔の方がもっとずっと可愛いわ」
優しく抱き締めてくれた。耳元に聞こえてきた言葉で、またわたしは泣いてしまった。もっともっと泣きじゃくってしまった。
お父さん以外にこんな事を言ってくれる人がいるなんて、思ってもみなかったから。
スミレちゃんの肩を涙で濡らしてしまい、申し訳の無い気持ちのまま、わたしはボソリと呟いた。
「……この顔が、怖く……ないの?」
わたしの眼を見た人の半分以上が、気味が悪いと言って目を逸らすのに。あなたはこれが怖くないの?
「ん? すっごく綺麗で可愛い顔だと思うよ?」
スミレちゃんから帰ってきた言葉は、わたしが思っていたようなものでは無かったが、すごく……すごく嬉しい言葉だった。