だいたい死ぬ悲運の王女は絶対に幸せになりたい!〜努力とチートでどんな運命だって変えてみせます〜

42.わたしは親愛を知った。

「…………よかった」

 ふと気がつけば、そんな言葉が口からこぼれていた。
 それに、今までどうしてもぎこちない作り笑いしか出来なかったのに、この時初めて、自然に笑えた気がした。
 胸がとっても温かくて、とても幸せな気持ちになったからかもしれない。
 その後、スミレちゃんは足に刺さった剣を『大丈夫だよ、これぐらい全然平気!』と笑いながら抜き、スカートの裾を破いて止血しようとそこに巻き付けていた。
 ふらふらしながら立ち上がった彼女を、わたしはただハラハラしながら見守る事しか出来なかった。
 そしてスミレちゃんはわたしが燃やした人に大量の水をかけ、生きているかどうか確認していた。男は一命を取り留めているらしい。
 それを聞いてわたしはほっと胸を撫で下ろした。
 あの時はスミレちゃんを助けないとと思い咄嗟に魔眼を発動させたけれど、今改めて考えれば、わたしはまたこの魔眼で人を殺しかけたのだ。
 お母さんと同じように……。
 お母さんはまだ生きているけれど、もしあの男が死んでしまっていたら……わたしはきっと罪悪感に押し潰されてしまっていただろう。
 スミレちゃんを助けようとした事に後悔は無いけれど、魔眼を使った事を後悔して一生引きずってしまうところだった。

 スミレちゃんはここのボスと思しき男を問い詰め、なんと宣言通り人身売買や奴隷取引の確たる証拠の帳簿を入手したのだ。
 その帳簿と一緒に出てきた別の帳簿をパラパラと捲っていると不審な点がいくつかあったので、わたしはそれについて言及した。
 最初はボスらしき男も焦りながら否定していたのだが、スミレちゃんがわたしの言葉を信じてくれたので、わたしは自信を持ってその不審な点を列挙する事が出来た。
 結果は重畳。不正な違法取引である事を最終的に(実家の権威を使ったけれど)認めさせる事に成功し、わたし達はこれらの帳簿を持ち、このボスらしき男を引きずってその部屋を後にした。
 その時、スミレちゃんが頬を少し赤くして突然言ったのだ。

「……ありがとう、メイシア」
「急に、どうしたの?」

 それに驚いたわたしは、たどたどしく返事する事となった。……ちょっぴり恥ずかしい。

「助けに来てくれてありがとう……って、さっき言い損ねたから」

 スミレちゃんの綺麗な笑顔が、わたしに向けられる。
 それだけじゃない、『ありがとう』という言葉がわたしに贈られた。
 他でもない……英雄みたいなスミレちゃんから、化け物のわたしに。

「っ、いいの……これぐらい……」

 顔が赤く熱くなるのがわかる。嬉しくて、とっても嬉しくて、初めて嬉しくて泣きそうになった。…初めてかな、二回目かもしれないけれど。
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